2009年3月アーカイブ

--- Wnt蛋白が脂肪細胞分化を抑制機構の転写シグナルとエピゲノム解析---

Wnt/β-cateninシグナルによる脂肪細胞分化制御の動作原理の一端を明らかにし、3月23日版のProc Natl Acad Sci U S Aのオンライン版に掲載されました。

脂肪細胞は、栄養摂取と栄養消費などの代謝変動に対応し、過剰な栄養分を脂肪としてエネルギーを貯蔵する重要な組織です。エネルギーバランスが崩れ、脂肪組織への過度な脂肪蓄積は肥満や生活習慣病を引き起こします。
脂肪細胞分化の過程においてWntシグナルは強力な分化抑制シグナルであることが知られています。Wntは細胞外分泌蛋白で脂肪分化を抑制する一方、骨分化促進には促進的な役割を担います。実際Wnt受容体であるLRP5の遺伝子異常による機能低下は個体レベルで骨密度の低下を引き起こします。しかし、Wntが脂肪細胞分化を抑制する分子メカニズムはこれまで明らかではありませんでした。
私たちは、細胞外分泌蛋白であるWntが脂肪細胞分化を抑制するメカニズムをトランスクリプトーム解析とChIP on Chipを融合させたシステム生物学的な方法で解析を試みました。脂肪細胞分化のモデル細胞である3T3L1細胞でのトランスクリプトーム解析からWntは核内受容体の一つであるCOUP-TFIIを強く誘導すること、そしてこの細胞でのβカテニンのChIP on ChipからCOUP-TFIIがWnt/βカテニンの直接の標的遺伝子であることをまず明らかに致しました。βカテニンはWntがLRP5に結合すると細胞質にある核蛋白TCF7L2と核内で複合体を形成して転写活性化能を示す蛋白です。COUP-TFIIの3T3L1への強制発現は脂肪細胞の分化を抑制し、逆にRNA干渉によるCOUP-TFIIの発現を低下させると脂肪細胞に分化しやすくなりました。
さらにCOUP-TFIIが脂肪細胞分化を制御するメカニズムを解析するためにCOUP-TFII 抗体を用いてChIP on Chipを行いました。その結果、COUP-TFII は脂肪細胞分化のマスターレギュレータであるPPARγ遺伝子の開始コドンを含むエキソンのすぐあとのイントロンに結合することを見いだしました。さらに、COUP-TFIIによる脂肪細胞分化の抑制がヒストン脱アセチル化酵素の複合体の1つであるSMRTをRNAi干渉で発現低下を抑制することを見いだし、COUP-TFII がヒストン脱アセチル化酵素複合体とPPARγ遺伝子上で複合体を形成し、PPARγ遺伝子を脱アセチル化することで発現をサイレンシングし、脂肪細胞分化を制御する一連のメカニズムを明らかにしました。

COUP-TFII acts downstream of Wnt/β-catenin signal to silence PPARγ gene expression and repress adipogenesis.
Okamura M, Kudo H, Wakabayashi K, Tanaka T, Nonaka A, Uchida A, Tsutsumi S, Sakakibara I, Naito M, Osborne TF, Hamakubo T, Ito S, Aburatani H, Yanagisawa M, Kodama T, Sakai J.
Proc Natl Acad Sci U S A. in press (2009).
PubMed

Nature genetics 40 856 2008

Integrating large-scale functional genomic data to dissect the complexity of yeast regulatory networks

Jun Zhu 1, Bin Zhang 1, Erin N Smith 2,3, Becky Drees 4, Rachel B Brem 5, Leonid Kruglyak 2, Roger E Bumgarner 4 & Eric E Schadt 1



タイトル:
大規模機能ゲノミクスデータを融合して酵母遺伝子調節ネットワークの複雑性を解析する

要約:
生物学の大きな目的は、複雑な系のふるまいを予測するようなネットワークを構築することにある。
今までになされた、多くの酵母の実験により得られた遺伝子型、遺伝子発現、転写因子結合部位(TFBS)、タンパク質間相互作用など、複数のタイプの分子データを組み合わせ、生命現象の原因となる遺伝子ネットワークを再構築した。さまざまなタイプのデータにもとづくネットワークに対して、それらの予測能力を評価できるような指標を考案し比較を行った。遺伝子型や転写因子結合部位および
タンパク質間相互作用のデータを融合させて再構築したネットワークが最も予測能力が高いことを示す。このネットワークを用いて、独立した酵母の集団において、遺伝子発現活性のホットスポットに関与する原因制御因子を予測した。また、原因制御因子が遺伝子発現活性のより大規模な変化を引き起こすメカニズムについても、このネットワークが有効であることを示す。適切な型のデータを複数組
み合わせ予測ネットワークが構築されうることをあらかじめ実験的な証拠から予測が正当であることを確認する。

(井原)


要旨(2)APCと局在RNA

Genome-wide screen reveals APC-associated RNAs enriched in cell protrusions

Stavroula Mili1, Konstadinos Moissoglu2 & Ian G. Macara1

1Department of Microbiology, Center for Cell Signaling, 2Cardiovascular Research Center, University of Virginia, HSC, Charlottesville, Virginia 22908-0577, USA.

 

要旨 高次生命体を形成する上で"極性"は重要な要素である。細胞における極性の形成についてRNAの局在も重要な役割を果たしている。本論文では哺乳類の細胞を用いて偽足に局在するRNAを網羅的に同定し、局在メカニズムについて解析した。その結果局在RNAの3'UTRが局在に必要かつ十分なこと、またAPC(adenomatous polyposis coli)やFMRP(fragile X mental retardation protein)蛋白が局在RNAと一致して認められ、特にAPCはRNAの偽足への局在に関与していることがわかった。

 

Fig.1 a. NIH3T3をLPA(chemotactic)あるいはFibronectin(haptotactic)によって刺激し偽足を伸長させた後物理的に分離して解析に使用した。b. 細胞体と偽足に分離できている。c. RT-PCRで偽足に蓄積するmRNAを確認。

Fig.2 a,b. mRNAが偽足に蓄積するメカニズムを調べるためにRab13, β-globinの3'UTRを組み替えた。Rab13の3'UTRをRhoAの3'UTRと組みかえると偽足への濃縮が見られなくなった。一方でβ-globinにRab13の3'UTRを組み替えるとこのトランスクリプトの偽足への濃縮が見られた。このためRab13の3'UTRが偽足集積に必要かつ十分と考えられた。c,d,e. RNAの細胞内局在を可視化するためにMS2システムを使用した。RNAに組み込んだMS2-binding siteにGFP融合MS2タンパク質が結合し標的RNAの細胞内局在が調べられる。この系でも特定の3'UTRがmRNAの偽足集積に必要であることがわかった。

Fig.3 a. RNAのターンオーバーを見るためにFRAP(fluorescence recovery after photobleaching)を行った。局在RNAはstableな状態であることが示された。b. 局在RNAはtubulinのplus endに一致して集積していた。 c. 局在RNAはtubulinの中でもacetylated microtubulesではなく、比較的変動の少ないdetyrosinated microtubulesのplus endに集積していた。 d, e. Nocodazoleによってmicrotubuleを脱重合させると局在RNAは有意に減少した。

Fig.4 a. 90%以上の局在RNAが APCと共局在する。b. 抗APC抗体を使った免疫沈降によりFMRPタンパク, PABP1(cytoplasmic poly(A) binding protein)タンパク, Rab13 mRNA, Pkp4 mRNAの濃縮を認めた。c. RNase存在下ではAPCとPABP1は共沈せずmRNAの介在が示唆された。d, e. FMRPも局在RNAと共局在する。f. shRNAを使用してAPCをknockdownしたところ偽足形成には変化はなかったが、局在RNAが減少した。g. β-globin/Pkp4-3'UTRの局在も同様にshRNAで減少した。

(佐藤輝)

要旨(3)G9A阻害薬の解析

Structural basis for G9a-like protein lysine methyltransferase inhibition by BIX-01294.
Chang Y, Zhang X, Horton JR, Upadhyay AK, Spannhoff A, Liu J, Snyder JP, Bedford MT, Cheng X.
Nat Struct Mol Biol. 2009 Mar;16(3):312-7. Epub 2009 Feb 15.

ヒストンのリジンのメチレーションは、遺伝子発現およびクロマチン機構を制御する重要なエピジェネッティックマークである。
G9aとG9a-like protein (GLP) はユークロマチンにかかわるメチル化酵素であり、ヒストン3
リジン9をメチル化することにより転写の抑制を行っている。
BIX-01294は低分子化合物スクリーニングにおいて当初、G9a阻害剤として同定された化合物である。また、以前から人工多能性幹細胞(iPS細胞)を産生する際に使用されている薬剤でもある(Oct3/4の代わり)。

ここでは、BIX-01294とS-adenosyl-L-homocysteineとが結合したGLPのSETドメインの結晶構造解析を報告する。
1.阻害剤は基質ペプチドが入るGLP SET domainの溝に結合する。
2.その場所はヒストンH3K9よりものN末側の部分が入り込む部分である。
3.阻害剤の結合はヒストンH3K4からA8の結合時と似た形になっている。
4.また阻害剤は特異的相互作用によりG9aとGLPに対し特異的な残基近くに位置することになる。(BIXのG9aとGLPへの特異性)

(杉山)

ゲノムワイド・エピゲノム解析

今回のエピゲノム勉強会は、ゲノムワイドな解析とエピゲノムの解析です。
昨年度にでた重要論文2編を総括的に読むのと、今年の最新論文2編紹介します。



1.Integrating large-scale functional genomic data to dissect the complexity of yeast regulatory networks.
Zhu J, Zhang B, Smith EN, Drees B, Brem RB, Kruglyak L, Bumgarner RE, Schadt EE.
Nat Genet. 2008 Jul;40(7):854-61. Epub 2008 Jun 15.

Zhuらは、遺伝子型データ、転写因子結合部位データおよびタンパク質間の相互作用データを組み合わせたベイジアンネットワークが最も予測能が高いこと、そして遺伝子発現の「ホットスポット」の調節因子を同定するために用いることができることを報告している。(井原研)



2.Genome-wide screen reveals APC-associated RNAs enriched in cell protrusions.
Mili S, Moissoglu K, Macara IG.
Nature. 2008 May 1;453(7191):115-9.
 参考レビューRNA localization and polarity: from A(PC) to Z(BP).
Mili S, Macara IG.
Trends Cell Biol. 2009 Feb 27. [Epub ahead of print]
Millらは移動しつつある繊維芽細胞を偽足と細胞質にわけ、ゲノムワイドのRNAスクリーニングにかけたとき、偽足部分に50を超えるmRNAが濃縮されることを確認し、これらの偽足内mRNAの固定におけるAPC(家族性大腸腺腫症)遺伝子というがん抑制遺伝子の予測外の役割を発見した。それから1年後のレビューも含めて、mRNA局在における議論を再検討してみたい。(ゲノムサイエンス)



3. Structural basis for G9a-like protein lysine methyltransferase inhibition by BIX-01294.
Chang Y, Zhang X, Horton JR, Upadhyay AK, Spannhoff A, Liu J, Snyder JP, Bedford MT, Cheng X.
Nat Struct Mol Biol. 2009 Mar;16(3):312-7. Epub 2009 Feb 15.

G9A阻害薬の解析。我々のエピゲノム創薬の勉強に役立てたい(エピゲノム創薬担当)

4. Regulation of Set9-mediated H4K20 methylation by a PWWP domain protein.
Wang Y, Reddy B, Thompson J, Wang H, Noma K, Yates JR 3rd, Jia S.
Mol Cell. 2009 Feb 27;33(4):428-37.

酵母でH4K20のme1に選択的に結合するタンパクドメインがみつかった。これはset9のPWWPドメインで、set9はH4K20me3を作るメチル化酵素である。するとPr-SET7でH4K20me1が作られると、 set9などがめ2、め3を生み出す(エピゲノム創薬担当)

Origins and Mechanisms of miRNAs and siRNAs

Origins and Mechanisms of miRNAs and siRNAs

Richard W. Carthew and Erik J. Sontheimer            (Cell 136,642-655)

 

『役割』クロマチン構造、クロマチンの分離、RNAプロセッシング、RNA安定化および翻訳制御→主として遺伝子の発現抑制による制御。RNAiの機構と一致する。

 

『分類』役割、由来、複合体を形成するタンパクの種類によりsmall RNAは3つのグループに分類できる。

 Short interfering RNA                (siRNA)

  microRNA                                    (miRNA)

  Piwi-interacting RNA                  (piRNA)

これらのRNAは真核生物のみに存在する。一方、small RNAと結合するAgonauteタンパクはバクテリアや古細菌に存在することが知られている。

『識別』

siRNAとmiRNA:系統発生的、生理学的条件、先駆体の二重鎖の性質により分類

piRNA      :初期は動物種で発見。生殖細胞系列で最も機能を発揮。先駆体は明らかではないが、一本鎖由来と推測される。

『結合タンパク』

siRNA/miRNA  :Ago, Argonaute

piRNA           :Piwi

 

siRNAs and miRNAs : Themes in common

1993年:developmental Timeを制御する内在性の因子としてlin-4がC.elegansで発見

1999年:外来性dsRNAが特定の遺伝子発現を抑制することを報告 ~21-23nt RNAi

2001年:多くの植物、動物種でsmRNAが発見された。

     →miRNA:内在性遺伝子の発現制御

      siRNA :外来性ゲノムの侵入を防ぐ

     一本鎖miRNA、siRNAのRNAはRNA-induced silencintg complexes(RISC)           と相互作用する

初期の分類

1:miRNAは内因性遺伝子の発現制御

  siRNAは外来性(ウィルス トランスポゾン等)の遺伝子制御

2:miRNAはstem-loop先駆体RNAから生成

  siRNAはlong formから完全一致dsRNAが生成

(Fig1A)先駆体からDicerによってsmall RNAが形成され、Agoタンパクと結合する。

Dicer:A portal into RNA silencing

(Fig1 B)RNAaseⅢがmiRNA/siRNAを生成すると考えられており、これがDicerということがC.elegans、D.melanogasternoで示されている。特定のドメイン配列を持つ

『Dicerの数』

哺乳類 線虫           :1

ショウジョウバエ              :2(Dicer1→miRNA、Dicer2→siRNA)

シロイヌナズナ                  :4

複数のDicerを持つものは、それぞれ役割が限定

PAZドメインはdsRNAの3'overhang(~2nt)を認識.。PAZドメインとRNaseドメインの距離によりsmall RNAの長さが決まる。

 

Argonaute:At the Core of RNA Silencing

『分類』Argonatuteタンパクは3.つのサブグループに分類できる

Piwi       :piRNAに結合

Ago        :miRNA siRNAと結合

~           :線虫のみ

 

Dicerにより切断されたdsRNAは巻き戻され、一方の鎖のみRISC複合体に組み込まれる。残りは廃棄される。

Argonauteタンパクは複数存在する。ショウジョウバエ5 ヒト8。結合するRNAに若干の違いがあるが、ヒトではその専門性が明らかになっていない。

 

siRNAs Sources of siRNA Precursors

基本的なRNAiは長く、直鎖状、完全一致dsRNAで直接細胞質に取り込まれる。

初めsiRNAは植物で発見され、ウィルス等のから遺伝子を防御するものとして見つかった。

(Fig2)

 

RISC Assembly and siRNA Strand Strand Selection

dsRNAは直接Argonauteタンパクに結合できないため、RISC assembly pathwayを利用する(fig2)

この複合体はDicer TRBP Ago2タンパクを含む。最終的にdsRNAはsiRNAに形成されRISCにロードされる。

どちらの鎖が選択されるかは5'末端のベースペアの熱力学的安定性による。二つの鎖の安定性が同じ場合は、RISCに誘導される頻度は同じになる。機構はまだ明らかになっていない。

 

Posttranscriptional Silencing by siRNA

RNAiの機構ではsiRNAがRISCに取り込まれ、完全一致の標的遺伝子に結合後切断が起こる。(Fig3右)この切断は、厳密であり、siRNA複合体の10-11塩基の間が切断される。一度この切断が起きると、エンドヌクレアーゼがこの分子をターゲットとして働く。

不完全一致siRNAでも転写後抑制が見られる(fig3上)翻訳抑制はエクソ切断等のmiRNAの機構に近い。実験に使用するsiRNAで完全一致でない遺伝子の抑制が見られる(off-target)。

siRNAの翻訳抑制は細胞質内で起きていると考えられている。

線虫AgoタンパクNrde-3はsiRNAの結合により核から細胞質へ移行することが知られている。

 

Priming the Pump:siRNA Amplification

線虫等のある生物種は、ひとつのdsRNAがあらたなsiRNAを生み出す。(RNA-dependent RNA polymerase :RdRP fig3下)RdRPをコードする遺伝子は昆虫や脊椎動物を除く真核生物で見つかっている。

1        セカンドsiRNAはファーストsiRNAのアンチセンスと一致する。熱力学的に選択されるなら両方が混在するはずなので、これまでの推論と一致しない。

2        RdRPが生成できない5'末端がジ、トリリン酸でありDicer(モノリン酸)によって生成されるものと対照的

つまりsiRNAは必ずしもdsRNAから生成されるわけではない、siRNAはRISC assembly pathwayを迂回する可能性を示している。

 

siRNA Can Induce Heterochromatin Formation

siRNAはヘテロクロマチンを誘導する(Fig3左下)

RISCはクロモドメインを有するSwi6を誘導し、ヒストンメチル化酵素(HMTs)のH3K9のメチル化にも寄与している。(hig3左上)

これによりsiRNAの効果を強め遺伝子抑制につながっている。

 

MicroRNA Biogenesis

多くのmiRNAは2つ以上の転写産物ユニットから生成される。

転写物はmiRNAクラスターをエンコードしているか、miRNAとタンパクの両方を含んでいる。後者の場合はmiRNAはイントロン部位に位置している。

プロセッシングはmiRNA内でのステムループ構造に依存している(fig4)

miRNAとsiRNAの違いは末端の正確さである。MicroRNAは多少の違いがあるが、多くの遺伝子の末端のように明確なENDをもつ。一方siRNAの末端は統一されていはいない。

多くのmiRNAの発現は遺伝子に制御されている

 

Yan-| miR-7-| Yan(翻訳)ハエ

let-7-| Lin28-| let-7   C.elegans

 

MicroRNA Associatein

miRNAの鎖の選択性は熱力学的なもので、5'末端の安定性が弱いものが選ばれるが、必ずしも完全ではない。実際両方の鎖がAgoタンパクと複合体を形成し検出されている。一般的に、相互作用する鎖をmiRNA、残りの鎖をmiRNA*と呼んでいる。Fig4

 

Posttranscriptional Repression by miRNAs

例外を除いて、動物種のmiRNAの結合サイトはmRNAの3'UTRに複数存在する。ほとんどの領域で、ミスマッチやバルジ構造をとる。一方植物は完全一致配列で遺伝子のCDS領域に結合する。

シロイヌナズナでミスマッチのmiRNAが見つかっていることから、完全一致のmiRNAは後から獲得された機能で、翻訳阻害がデフォルトであると考えられている。

 

どのように翻訳阻害が起きているのか?3つのモデルが提唱されている

1        miRISCとeLF4EがmRNA5'キャップ構造への結合を阻害するモデル(fig5 左上)

2        miRISCがmRNA tail1の脱アデニル化を促進させるモデル(fig5 下)

3        miRISCが60sリボソームユニットの結合を阻害するモデル(fig5 左下)

 

Bind Men and the Elephant?

細胞の状態によりmiRNAの役割が異なる。

let-7:増殖中細胞の翻訳は阻害するが、G1アレストでは翻訳活性化因子となる。

細胞のステージに依存し、増殖中かアレストなのかには依存しない。

またリンパ球でのTNFαはマクロファージの熟成に必須であるが、グロースアレストの状態になるとmiR-369-3pはTNFα抑制から活性へと変化する。

またmiRNAが3'UTRか5'UTRに結合するかで、抑制なのか活性なのかが変化する。

(野中)
The Spliceosome: Design Principles of a Dynamic RNP Machine

スプライセオソームのダイナミクスについて

Cell 136, 701-7018

 

pre-mRNA スプライシングとsnRNPのremodeling (Fig.2)

Exon GURAGU          YNYURAY      Y10-12 YAG Exon

スプライシングはスプライセオソームとよばれる複合体で行われる。スプライセオソームはU1, U2, U4, U5, U6 snRNPと50-100個のnon-snRNPタンパクで構成される。SnRNPはsnRNAとそれに結合するタンパク質複合体である。スプライシングにおける主用なシスエレメントは、5' splice siteと3' splice siteおよびbranch pointであり、7-14ntの短いコンセンサス配列を持つが、高度に保存されている酵母とは対照的に高等動物ではこれらの配列は厳格なものではない。この他には高等動物では、exonic enhancer、intronic enhancerの調節エレメントが知られている。これらの調節エレメントが認識されると、配列特異的なRNA結合タンパクがスプライセオソームに構成する。

E complex : U1 snRNAと5'ssで塩基対を形成して U1 snRNPが5'ssを認識する。

A complex : U2 snRNPがイントロンのbranch pointに結合する。ATP依存的。

B complex : tri-snRNP ( U5, U4/U6)がリクルートされてくる。U4とU6 snRNAは相補的な配列なので結合している

B* complex : 活性化型スプライセオソーム。U6 snRNAのfoldingが変わって、U4/U6は解かれU6はU2 snRNAと結合する。一方U1 snRNPは5'ssから離れて、そこにU6 snRNAが入る。U4 snRNPはスプライセオソームから放出される。B → B* complexへの変換には大幅なrearrengement, comformational changeが必要。

C complex : 1st catalytic reactionで5'ssが切断されBranch pointに結合し、ラリアット構造ができる(C complex)。U5 snRNPは5'側のexonと3'側のexonに結合して両exonを連結しており、つづいて2nd catalytic reactionで3'ssが切断され両exonが結合し、mRNPとして放出される。一方intronは放出され分解される。U snRNPsは解離して次のスプライシング反応に再利用される。

 

E complexとA complexの構成分子(Fig.3)

E complexでは、U1 snRNAと5'ssとの結合はSRタンパクやsnRNPにより安定化されている。またBranch PointにはSF1/BBPが、polypyrimidine tractにはU2AF(U2 auxiliary factor)が結合している。これらの結合因子はイントロン5'ssおよび3'ss部位の認識に重要である。

A complexでは、SF1/BBPがU2 snRNPに置き換わり、U2-associated proteinであるp14がBrach pointとU2AF65にコンタクトしてU2 snRNPのSF3b155が結合できるようにする。U2 snRNAとBranch pointの結合はU2 snRNPとU2AF65のRS domainによって安定化する。

 

Spliceosomal RNA(タンパク)ネットワーク(Fig.4、Fig.6)

U1snRNAが5'ssに、U2snRNAがBranch pointに塩基対を形成すると(complex A)、U4/U6.U5のtri-snRNPがリクルートされてくる(complex B)。U5 snRNAは5'exon 、3'exon両方に結合し、U6は3'端で、U2の5'端と結合する。U6はその相補的な配列でU4と結合している。Complex B*へと活性化される過程でダイナミックな変化が起こる。U1は5'ssから解離し、U4/U6の塩基対の結合は解消される。U6のACAGAG配列が5'ssに結合し、またもう一方ではU2/U6の塩基対が形成される。RNAだけでなく、タンパクも同時にスプライセオソームのアッセンブリの過程でダイナミックなリモデリングが行われる。特にU4/U6.U5のtri-snRNPではComplex BからComplex B*へスプライセオソームが活性化される過程で、U4/U6-associated proteinsが全て解離し、freeになったU6 snRNAはpre-mRNA(5'ss)、U2 snRNAと新たにPrp19/CDC5複合体と結合することにより固定される。

 

スプライセオソームの構成タンパク質 (Fig.5)

affimity-purifyにより精製されたComplex A, B, Cを用いたMS解析により、それぞれの複合体の構成タンパク質が同定されてきている。その結果、各ステップでタンパクの劇的な入れ替えが見られた。A,B,CすべてのcomplexでU2-関連タンパクと、SRタンパク、hnRNPが見られる。A→Bではtri-snRNPとPrp19/CDC5が加わり、B→CではPPIaseとEJCが増えるが、U4/U6タンパクはなくなる。A→Cを比べるとAで見られたタンパクの多くがCではなくなっていることから複合体タンパクの大規模な入れ替えが裏付けられる。

 

スプライセオソームのリモデリングに関わる酵素(Fig.2B, Fig.4B&C)

DExE/H-type RNA-dependent ATPases/helicasesは酵母からヒトまで高度に保存された遺伝子であり、それぞれのスプライセオソーム会合の過程で特異的に働く('Prp'は'pre-mRNA processing'で酵母の温度感受性スプライシング変異株)。Sub2, UAP56, Prp5はE complex形成過程でのBranch pointでのSF1とU2 snRNPの入れ替えに関与する。Prp28, Brr2, Prp8はB* complexへスプライセオソームが活性化する過程に重要で、Prp28は5'ssにU1→U6への移行に関与し、それに引き続いてU4/U6の2本鎖がBrr2によりほどかれる。Prp28, Brr2はPrp8により調節されている。Prp8はC末端にRNase H-like domainとJab1/MPN domainを持つタンパクであるが、Prp28はPrp8のRNase H-like domainを介してhelicase活性を持つ。またBrr2はPrp8のRNase H-like domainとJab1/MPN domainに結合し活性化する。さらにPrp8はユビキチン化による調節を受けており、ユビキチン化されるとBrr2の活性化を抑制する。Brr2はSnu114 GTPaseにより調節を受け、GTP結合型のBrr2がhelicase活性を持つ。

 

まとめ

・pre-mRNAのスプライシングには数ステップのスプライセオソームの会合からなるRNA, タンパクのダイナミックなremodelingが起こる

・スプライセオソームのダイナミクスにはRNA・タンパクのcomformational, compositional change合が重要な役割を担っている。

・RNA-RNA interactionは弱い結合であり、安定して結合できるようにsnRNPsのタンパクにより結合が補強されている。

・会合の各ステップで、複数のタンパクに認識される仕組みにより、スプライシング部位認識の正確性とスプライセオソームとの強い結合が得られる。

(堀内)

エピゲノム勉強会RNA特集

Cell:2月20日号はRNA特集で非常に面白いレビューが並んでいる。
次の3つを選んで集中的に勉強する。
 
Pre-mRNA Processing Reaches Back toTranscription and Ahead to Translationp688
Melissa J. Moore, Nick J. Proudfoot
The Spliceosome: Design Principles of a Dynamic RNP Machine p701
Markus C. Wahl, Cindy L. Will, Reinhard Lührmann
Origins and Mechanisms of miRNAs and siRNAs p642
Richard W. Carthew, Erik J. Sontheimer
エピゲノム勉強会 2009.3.11.

Integrative analysis of HIF binding and transactivation reveals its role in maintaining histone methylation homeostasis.

HIF1結合部位の統合的解析とヒストンメチル化維持のための転写活性化機構

Xia X, et al 2009.PNAS March 2 online

 

ChIP-ChIPを用いて全ゲノム上でのHIF1結合部位を同定した。その結果、jumonji-domainのあるヒストン脱メチル化酵素群を含む2-oxoglutarate dioxygenaseに高く結合することがわかった。これらのヒストン脱メチル化酵素群は低酸素下において恒常性を維持するために発現が上昇することを証明した。

 

背景
正常酸素下ではHIF1αとHIF2αはHIF prolyl hydroxylaseによって水酸化され、von Hipple-Lindau ubiquitin E3 ligase complexに結合し、Degradationを受ける。低酸素下ではProlyl Hydroxylaseが低下するため、HIF1αがHIF1β(ARNT)とともにヘテロダイマーを形成して蓄積する。さらにHIF1α、HIF1βのヘテロダイマーはtranscriptional coactivatorであるCBP/p300(アセチル基転移酵素)と複合体を形成し、HRE(hypoxia-response element)配列に結合し、転写活性化させる。

 

方法
HepG2を正常酸素分圧および低酸素0.5%下で12時間培養し、Polyclonal HIF1α(Novus)抗体がHIF2α抗体とcrosslinkがないことを確認した上で、IPを行った。ChIP-ChIPにはAffymetrix GeneChip Human Tiling 2.0R Array Setsを使用した。

 

Fig1A.     低酸素下において急激にEnrichされるENO1,INSIG2、正常酸素よりはEnrichされるJMJD1A,ZNF292,まったく変化しないADI1、PHF12(全体の7%)の3つに分けられた。

Fig1B.     ChIP-PCRにより結合部位を確認した。Heat Mapの下段にはHIF1αをshでノックダウンしたときのfold enrichmentを記載。全部で130個の遺伝子についてChIP-PCRで実験したところ、63個の遺伝子でenrichmentを確認した。既にHIF1αのtargetとして知られている遺伝子を元に、ROC曲線を描き、ChIP-PCRでHIF1のtargetであることを確認できた40個の中で、感度75%特異度100%のThresholdを決め、全部で377個のHIF1結合部位を同定した。

 

Fig2A.     HRE(5'-RCFTG-3')(RはAorG)を少なくとも1つ含むbinding sitesは377個中287個(75%)、特にTSSを中心にその周りに多く認められた。

Fig2B.    Promotorにあるのは50%、Intragenicにあるのは22%であった。

Fig2C.     HIF1が結合すると遺伝子の活性が上昇するかどうかについては、HRE(+)だとHIF1結合部位の50kb以内の遺伝子は有意にmRNAレベルで遺伝子発現が上昇しており、特にPromotor領域にHIF1αが結合すると顕著であった。Intragenicやenhancer regionにHIF1が結合した場合でも有意にmRNAレベルで遺伝子発現は上昇した。しかし、HRE(-)のHIF1結合では有意な遺伝子発現変化は認められなかった。このような場合はHIF1α が直接DNAに結合しているのではなく、p300/CBPなどのcoactivatorと複合体を形成して間接的に結合している可能性が考えられた。

 

Fig3A.     HIF1 ChIPのClusteringによりCluster1はGlycolysis (19個)、うち既知に*

Fig3 B.    Cluster2は2OG-oxygenase(11個)。

•          Prolyl-hydroxylases

•          Procollagen lysyl-hydroxylase

•          DNA demethylase

•          Jumonji-domain containing demethylase

 

Fig4.       JmjC-containing proteinsのうち、promotor領域のHREに結合し遺伝子発現上昇している4つ(JARID1B,JMJD1A,JMJD2B,JMJD2C)に着目。

Fig4A.     HepG2,U87で同様の傾向を確認。

Fig4B.     Heat Map17(HePG2の22 JmjC familyの中で)遺伝子発現上昇

Fig4C.     Glioblastomaの腫瘍内(=低酸素下)でこれらの遺伝子発現上昇 (N;normo,T;tumor)すなわちhypoxic cell lineだけでなくin vivoでも示された。

Fig4D.    RT-PCRでHypoxiaが強いほどmRNA上昇率は高くなることを確認

Fig4E.     HIF1α、HIF2αともにKnockDownかARNT(HIF1β)のKnockDownで発現低下する。

 

Fig5.       2-OG-dioxygenaseが触媒する水酸化および脱メチル化はともに酸素を必要とするので、これらの酵素発現が上昇するのは酸素分圧が低下したことへの代償機構なのではないかと仮説を立てた。

FigA.      低酸素が強いほどK9me2,K36me3は増加する

FigB.       H3K4me2,K4me3も同様の傾向

FigC.      JARID1BはH3K4me3の脱メチル化酵素である。JARID1BをshでKDすると低酸素をかけても蛋白増加しない。 しかし、ARNTをshでKDするとHIFの活性化が抑制されて低酸素をかけても誘導されづらくなる。

FigD.      低酸素でH3K4me3のメチル化は増加するが、ARNTのKDでHIFの活性化を抑制すると低酸素でH3K4me3のメチル化はもっと増加する。

このことからH3K4me3のメチル化を低酸素下においても保つためにJARID1Bがup-regulateする。

(三村)
Molecular Cell 33, 275-286

Nonproteolytic Functions of Ubiquitin in Cell Signaling

ユビキチンを介したシグナル伝達について

 

Ubは26Sプロテアソームを介したタンパク分解系としてよく知られているが、Ub化がUbコードとして、membrance trafficking、protein kinaseの活性化、DNA修復、クロマチン修飾などのシグナル伝達に関わっていることが明らかになってきた。このReviewでは、IkBリン酸化およびDNA修復でのポリユビキチン化によるシグナル伝達について紹介する。

 

Ub : 76個のアミノ酸からなる球形のタンパク質。基質のLys残基にG76を介して結合する。自身も7個のLysine K6, K11, K27, K29, K33, K48, K63を持ち、いずれもさらにユビキチンが結合したポリユビキチン鎖を形成することができる。K48を介したポリユビキチン化はタンパク分解に働く。K63のポリユビキチン化がシグナル伝達で重要である。

Ub化反応 : E1(活性化酵素2個)、E2(結合酵素~40個)、E3(連結酵素~600個)によりなる。E3 : HECT型、RING型。HECT domainはE2からUbを受け取り基質に受け渡す。RING型はE2と基質に結合しUbの受け渡しを促進する。RING型は単量体で働くものと、E3コンプレックスとして基質認識サブユニットを別にもつものがある。例)SCF複合体(Skp1, Cul1, Roc1/Rbx1, F-box protein Slimb/βTrCP)

DUB : 脱ユビキチン化酵素

UBDs : Ubiquitin-Binding Domainsユビキチン化タンパクはUBDを持つタンパクによって認識され、多くのシグナル伝達タンパクに見られる。(Table 1)ユビキチンレセプター。

 

NFkBパスウェイ

NFkBは通常阻害タンパクIkBと結合して細胞質に隔離されているが、サイトカイン、感染性物質、DNA傷害などの刺激でIKKが活性化しIkBをリン酸化すると、IkBはSCF(E3)によるユビキチン化を受け分解されるので、NFkBは核内移行し標的遺伝子の発現を誘導する。IKK活性化にはK63ポリユビキチン化が重要である。

IL1 or TLR pathways (Fig.1 A)

MyD88(adaptor protein )、IRAK(基質)、TRAF6(E3,自身も基質)、Ubc13/Uev1A(E2)、TAK1 complex : IKKの上流(TAK1 : protein kinase、TAB2・TAB3 : adaptor protein, zinc finger型UBD = NZFを持つ)、IKK complex (IKKα, IKKβ, NEMO : UBDを持つ)

IL1 or TLR ligand → MyD88、IRAKをrecruit →IRAKがTRAF6をrecruit → TRAF6活性化 → Ubc13/Uev1AとTRAF6がIRAK1, TRAF6、NEMOをポリユビキチン化 → K63ポリユビキチン鎖にTAB2,TAB3が結合してTAK1を活性化、IRAK1, TRAF6のK63ポリユビキチン鎖にNEMOを介してIKK complexをrecruit → TAK1がIKKβを活性化

TNFα receptor pathway (Fig.1B)

TRADD(apaptor protein complex)、TRAF2/TRAF5/cIAP1/cIAP2(E3)、RIP(protein kinase・基質)、TAK1 complex、IKK complex

TNFα → TRADD、TRAF2/TRAF5/cIAP1/cIAP2 、RIPをrecruit → RIPがポリユビキチン化 → K63ポリユビキチン鎖にTAB2/3を介してTAK1が、NEMOを介してIKKがrecruitされる → TAK1がIKKを活性化
T Cell Receptor Pathways (Fig.1B)

PKCθ、CBM complex(CARMA1, BCL10:基質, MALT1:E3?・基質・TRAF2/6と結合)、TRAF6(E3、基質)、Ubc13/Uev1A(E2)

Antigen peptide → TCR活性化 → PKCθ活性化 → PKCθがCBM complexをrecruit → MALT1とTRAF6が結合し、TRAF6が活性化 → Ubc13/Uev1AとTRAF6によりTRAF6、NEMO、MALT1、Bcl10をポリユビキチン化

NOD-like Receptor Pathways (Fig.1B)

Bacterial ligand → NOD1/NOD2がRIP2をrecruit → RIP2がTRAF2/5/6をrecruit → TRAFsがRIP2,TRAF6, NEMOをポリユビキチン化 → TAK1をrecruit → IKKを活性化

RIG-I-like Receptor Pathways (Fig. 1B)

RNA virus → MAVS        → IKK活性化 (E3:TRIM25が必要)

→ TBK活性化 (E3:TRAF3が必要)

DUB(脱ユビキチン化酵素)によるNFkB活性化の抑制(Fig. 1B)

NFkBの持続的な活性化は過剰な免疫応答や癌化が引き起こす。NFkBをIKK活性化の上流で阻害するDUBとしてCYLD、A20がこれまで同定されている。tumor suppressor protein のCYLDは家族性円柱腫症の原因遺伝子であり、K63ポリユビキチン鎖を特異的に切断する。A20はN端にDUB活性を持ちRIPやTRAF6ののK63ポリユビキチン鎖を外す。またC端にはE3活性を持ち、RIPのK63ポリペプチド鎖を外したのちにK48ポリユビキチン化し分解することが知られている。

 

しかしながらIKK活性化におけるユビキチン化ターゲットで何が重要なのかは同定できていない。TRAF、IRAK、NEMOのK63ポリユビキチン化の重要性についても細胞種や刺激の種類によって結果が異なる。

 

DNA修復におけるユビキチンコード

DNA修復因子であるRAD6がE2であったことから、DNA修復においてユビキチン化が重要であることが明らかとなった。DNA修復反応におけるシグナルタンパク(DNA傷害のセンサー、トランスデューサー、エフェクター)の多くがE3やUBDを持つタンパクである。

Translesion Synthesis RepairにおけるPCNAのユビキチン化

TLSは複製中にDNA傷害が生じた場合でも、複製を停止せずにすますメカニズムであり、損傷部位はTLS polymeraseで適当に複製、バイパスされる。PCNAは3両体の環状構造を形成しDNAを囲んでDNA複製や修復の足場となる。DNA傷害が起こると、停止した複製フォーク部にRPA(1本鎖DNAに結合するタンパク)を介しRAD18(E3)がリクルートされ、RAD18(E3)およびRAD6(E2)によりPCNAがモノユビキチン化される。モノユビキチン化されたPCNAにより複製polymerase(Polδ、Polε)からTLS polymerase(Polη、Polι)への交換が起こり損傷部位がバイパスされる。その後複製polymeraseに入れ替わり複製が再開する。TLS polymeraseはUBDを持っておりこれを介してユビキチン化PCNAへリクルートされる。PCNAのモノユビキチン化からさらにUbc13/Mms2(E2)、RAD5(E3)によりK63ポリユビキチン化が起こると鋳型DNAのスウィッチによる修復が行われる。

ファンコニ貧血におけるユビキチン化

遺伝性ファンコニ貧血の原因遺伝子であるFANCD2, FANCIもユビキチン化による調節を受ける。架橋剤やUVでDNAが障害されると、10個のFAタンパクからなるE3によりFANCD2, FANCIはモノユビキチン化される。E3の触媒サブユニットはFANCLでありE2であるUBE2Tと機能する。ユビキチン化されたFANCD2, FANCIはBRCA1とRAD51をDNA障害部位にリクルートし相同組み換えにより修復する。

DNA2本鎖切断修復におけるユビキチン化

遺伝性乳癌原因遺伝子であるBRCA1/2は、DNA2本鎖切断の修復に必要なの相同組み換えに重要である。BRCA1がRING domainを持つことから相同組み換えにおけるユビキチン化の重要性が示唆されるが、BRCA1の基質はまだ同定されていない。

MRN complex(Mre11-Rad50-Nbs1)、ATM(protein kinase)、MDC1(adaptor protein、BRCT domainを持つ)、RNF8(E3)、RAP80(UBDを持つ)、BRCA1 effector complex (BRCA1:E3、Abraxas、Brcc36:DUB domainを持つ、BARD1:BRCA1の結合パートナー)

DNA2本鎖切断がMRNにより感知されるとATMにより損傷部位のヒストンγH2AXがリン酸化される。それにともないMDC1がリクルートされATMによるリン酸化を受ける。リン酸化MDC1はE3のRNF8により認識されE2のUbc13と損傷部位のH2AX、H2AをK63ポリユビキチン化する。K63ポリユビキチン鎖はUBDを持つRap80により認識され、BRCA1 complexがリクルートされる。

 

ユビキチンによるシグナル伝達でまだ明らかになっていない点

・     E3がポリユビキチン鎖合成をどのように促進するか

・     ポリユビキチン鎖のタイプによる機能の違い

・     IKK活性化に必要なユビキチン化される基質はどれか/BRCA1の気質は何か

・     基質とユビキチンレセプターとのinteractionについて(特異性)

 

(堀内)

エピゲノム勉強会

・Nature 2月19日号:yeast のCryptic Unstable Transcript (CUT) と bidirectional promoter の関係についての論文 2本
Bidirectional promoters generate pervasive transcription in yeast
Zhenyu Xu1*, Wu Wei1*, Julien Gagneur1, Fabiana Perocchi1, Sandra Clauder-Mu¨nster1, Jurgi Camblong2, Elisa Guffanti3, Franc,oise Stutz3, Wolfgang Huber4 & Lars M. teinmetz1

(Letters)
Widespread bidirectional promoters are the major source of cryptic transcripts in yeast
Helen Neil1, Christophe Malabat1, Yves d'Aubenton-Carafa2, Zhenyu Xu3, Lars M. Steinmetz3 & Alain Jacquier1

Nature GENE
Gene expression divergence in yeast is coupled to evolution of DNA-encoded nucleosome organization
Yair Field1,5, Yvonne Fondufe-Mittendorf2,5, Irene K Moore2, Piotr Mieczkowski3, Noam Kaplan1,Yaniv Lubling1, Jason D Lieb3, Jonathan Widom2 & Eran Segal1,4

 
・ユビキチンを介したシグナル伝達について
Molecular Cell 33, 275-286
Nonproteolytic Functions of Ubiquitin in Cell Signaling
 

・JBCのcellular inhibitor for SUV39H1論文
Inhibition of SUV39H1 methyltransferase activity by DBC1
Zhenyu Li, Lihong Chen, Neha Kabra, Chuangui Wang1, Jia Fang, and Jiandong Chen*
Molecular Oncology Department, H. Lee Moffitt Cancer Center and Research Institute, 12902
Magnolia Drive, Tampa, FL 33612, U.S.A. 1Institute of Biomedical Sciences, East China Normal University, Shanghai, China

 
・HIF1結合部位の統合的解析とヒストンメチル化維持のための転写活性化機構
Integrative analysis of HIF binding and transactivation reveals its role in main taining histone methylation homeostasis.
Xia X, Lemieux ME, Li W, Carroll JS, Brown M, Liu XS, Kung AL.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 Mar 2. [Epub ahead of print]

ヒストンメチル化

(1)H3K9me2について Nature Genetics 2月号 真貝/Feinberg

Large histone H3 lysine 9 dimethylated chromatin blocks distinguish differentiated from embryonic stem cells.
Wen B, Wu H, Shinkai Y, Irizarry RA, Feinberg AP.
Nat Genet. 2009 Feb;41(2):246-50.

(2)H3K36me3について

Differential chromatin marking of introns and expressed exons by H3K36me3.
Kolasinska-Zwierz P, Down T, Latorre I, Liu T, Liu XS, Ahringer J.
Nat Genet. 2009 Mar;41(3):376-81.

(3)H4K20me1について
Monomethylation of Histone H4-Lysine 20 is involved in Chromosome Structure and Stability and is essential for Mouse Development.
Oda H, Okamoto I, Murphy N, Chu J, Price SM, Shen MM, Torres-Padilla ME, Heard E, Reinberg D.
Mol Cell Biol. 2009 Feb 17. [Epub ahead of print]

 

(4)クロマチンの成熟をうながすH4K20のモノメチル化

Monomethylation of lysine 20 on histone H4 facilitates chromatin turation.
Scharf AN , Meier K , Seitz V , Kremmer E , Brehm A , Imhof A ,
Molecular and Cellular Biology. 2009 Jan;29(1):57-67.

概要 in vitroのショウジョウバエのクロマチンアセンブリー系を用いて、ヒストン修飾とそれにつづくヒストン沈殿をみた。ダイアセチル化(Ac2)されたヒストン4の脱アセチル化は、クロマチン会合に依存する。ヒストンをDNAの上にまきつけると、H4K20がモノメチル化されて、それがH4の脱アセチル化に必要である。H4K20me1がおこるとdl(3)MBT (maliganat brain tumorという名のクロマチン凝集因子のハエホモログの3番)が結合する。dl(3)MBTとdRPD3(ショウジョウバエのHDAC1:単独で転写抑制に働く脱アセチル化酵素)複合体が形成され、脱アセチル化はdl(3)MBT依存的におこっている可能性がある。これらの結果はヒストンモノメチル化が、クロマチンアセンブリーとともについたりはずれたりダイナミックに動いていることを示す。

イントロダクション
ヒストン凝集は、H3とH4沈着と、H2A/H2B沈着、続いてリンカーヒストンに結合するH1によりクロマチン繊維(30nm)が形成される。新規に合成されたH4はK5とK12がアセチル化される。HeLa細胞ではH3は主にK14とK23がアセチル化され、ショウジョウバエではK14とK23がアセチル化されている。これらのアセチル化はクロマチン凝集とともにすみやかにとりのぞかれる。今回の論文ではこの脱アセチル化が、H4K29me1化とそれにつづくMBT/RPD3=HDAC1動員によることを示す。

図1 ショウジョウバエのエンブリオのS150クロマチン凝集エクストラクト(DREX)を用いた。この抽出物をもちいると大きなDNA断片を秩序正しいクロマチン構造にまとめることができる。ウニの5S rRNAをリニアリズしてビオチン標識し、ストレプトアビジンビーズに結合させる(Fig1A)。約1時間でヒストンの集積がおこるが(Fig1b)、きちんとしたスペースをもったMNaseで切断して確認できるヌクレオソーム構造は数時間かかってできてくる。

図2 質量分析でみると、実験に使うH4のN端側のアミノ酸はジアセチル化しているものが多い(Fig2a). 質量分析でマップするとK5とK12がジアセチル化している(Fig2C)。組み替えで作成した酵母のHAT1酵素を用いて、K5とK12をアセチル化したH4を用いて脱アセチル化を見ることができる。比較的ゆっくりおこり、モノアセチル、修飾なしができてくる。DNAがないと脱アセチル化はおこらない。

図3 クロマチン化の最初の6時間でおこるのはH4K20me1修飾だけである。H4をプロテアーゼで切断してみると1時間からH4k20me1がある。ウェスタンでみると2時間くらいから急速に増えている。

図4 PR-SET7を大腸菌で組み替えで酵素を作る。ヒストンを組み替えで作ると、ヌクレオソームの形でだけH4メチル化がおこる。組み替え8量体でもメチル化はおこらない。(図4a,b)   DREXにはPR-SET7とdRdp3(dHDAC1)が多量にある。 H4K5またはK12をyHAT1でアセチル化しても、DREXによるメチル化はかわらない。

図5 メチレース活性の測定 SAH (a) s−アデノシルホモシステインでの抑制 (b) ウェスタンでの抑制の確認 (c) PR-SET7を抑制しても、ヌクレオソーム形成はかわらなく見える。
(d) ところがPR-SET7を抑制して4時間でみると、H4K20me1がへって、脱アセチルされたH4
も減っている。SAH(s-アデノシルホモシステイン=メチレース阻害)では、脱アセチル化活性は低下しない。しかしHDAC活性の増加も認めない。

これらの関係をみるため、BMTを検討した。ショウジョウバエには3種のBMTがあり、SCMとdSMBTと、dl(3)MBTがクロマチン凝集にかかわる因子と知られる。

図6 (a) クロマチン凝集とともに30分からdl(3)MBTがくっついてくる。 (b) H4K20のメチル化されたペプチドにMBTはよく結合する。 (c) バキュロウィルスの発現MBTがあるとHDAC活性が結合している。 そこにはdHDAC1(dRpd3) が共局在している。dHDAC3 は一緒でない。
(d) HDAC活性はMBTとそくくっついている。(e) dRpd3(dHDAC1)の結合はメチレース阻害剤(SAH)で抑制される。

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