2009年3月11日
HIF1結合部位の統合的解析とヒストンメチル化維持のための転写活性化機構
エピゲノム勉強会 2009.3.11.
Integrative analysis of HIF binding and transactivation reveals its role in maintaining histone methylation homeostasis.
HIF1結合部位の統合的解析とヒストンメチル化維持のための転写活性化機構
Xia X, et al 2009.PNAS March 2 online
ChIP-ChIPを用いて全ゲノム上でのHIF1結合部位を同定した。その結果、jumonji-domainのあるヒストン脱メチル化酵素群を含む2-oxoglutarate dioxygenaseに高く結合することがわかった。これらのヒストン脱メチル化酵素群は低酸素下において恒常性を維持するために発現が上昇することを証明した。
背景
正常酸素下ではHIF1αとHIF2αはHIF prolyl hydroxylaseによって水酸化され、von Hipple-Lindau ubiquitin E3 ligase complexに結合し、Degradationを受ける。低酸素下ではProlyl Hydroxylaseが低下するため、HIF1αがHIF1β(ARNT)とともにヘテロダイマーを形成して蓄積する。さらにHIF1α、HIF1βのヘテロダイマーはtranscriptional coactivatorであるCBP/p300(アセチル基転移酵素)と複合体を形成し、HRE(hypoxia-response element)配列に結合し、転写活性化させる。
方法
HepG2を正常酸素分圧および低酸素0.5%下で12時間培養し、Polyclonal HIF1α(Novus)抗体がHIF2α抗体とcrosslinkがないことを確認した上で、IPを行った。ChIP-ChIPにはAffymetrix GeneChip Human Tiling 2.0R Array Setsを使用した。
Fig1A. 低酸素下において急激にEnrichされるENO1,INSIG2、正常酸素よりはEnrichされるJMJD1A,ZNF292,まったく変化しないADI1、PHF12(全体の7%)の3つに分けられた。
Fig1B. ChIP-PCRにより結合部位を確認した。Heat Mapの下段にはHIF1αをshでノックダウンしたときのfold enrichmentを記載。全部で130個の遺伝子についてChIP-PCRで実験したところ、63個の遺伝子でenrichmentを確認した。既にHIF1αのtargetとして知られている遺伝子を元に、ROC曲線を描き、ChIP-PCRでHIF1のtargetであることを確認できた40個の中で、感度75%特異度100%のThresholdを決め、全部で377個のHIF1結合部位を同定した。
Fig2A. HRE(5'-RCFTG-3')(RはAorG)を少なくとも1つ含むbinding sitesは377個中287個(75%)、特にTSSを中心にその周りに多く認められた。
Fig2B. Promotorにあるのは50%、Intragenicにあるのは22%であった。
Fig2C. HIF1が結合すると遺伝子の活性が上昇するかどうかについては、HRE(+)だとHIF1結合部位の50kb以内の遺伝子は有意にmRNAレベルで遺伝子発現が上昇しており、特にPromotor領域にHIF1αが結合すると顕著であった。Intragenicやenhancer regionにHIF1が結合した場合でも有意にmRNAレベルで遺伝子発現は上昇した。しかし、HRE(-)のHIF1結合では有意な遺伝子発現変化は認められなかった。このような場合はHIF1α が直接DNAに結合しているのではなく、p300/CBPなどのcoactivatorと複合体を形成して間接的に結合している可能性が考えられた。
Fig3A. HIF1 ChIPのClusteringによりCluster1はGlycolysis (19個)、うち既知に*
Fig3 B. Cluster2は2OG-oxygenase(11個)。
• Prolyl-hydroxylases
• Procollagen lysyl-hydroxylase
• DNA demethylase
• Jumonji-domain containing demethylase
Fig4. JmjC-containing proteinsのうち、promotor領域のHREに結合し遺伝子発現上昇している4つ(JARID1B,JMJD1A,JMJD2B,JMJD2C)に着目。
Fig4A. HepG2,U87で同様の傾向を確認。
Fig4B. Heat Map17(HePG2の22 JmjC familyの中で)遺伝子発現上昇
Fig4C. Glioblastomaの腫瘍内(=低酸素下)でこれらの遺伝子発現上昇 (N;normo,T;tumor)すなわちhypoxic cell lineだけでなくin vivoでも示された。
Fig4D. RT-PCRでHypoxiaが強いほどmRNA上昇率は高くなることを確認
Fig4E. HIF1α、HIF2αともにKnockDownかARNT(HIF1β)のKnockDownで発現低下する。
Fig5. 2-OG-dioxygenaseが触媒する水酸化および脱メチル化はともに酸素を必要とするので、これらの酵素発現が上昇するのは酸素分圧が低下したことへの代償機構なのではないかと仮説を立てた。
FigA. 低酸素が強いほどK9me2,K36me3は増加する
FigB. H3K4me2,K4me3も同様の傾向
FigC. JARID1BはH3K4me3の脱メチル化酵素である。JARID1BをshでKDすると低酸素をかけても蛋白増加しない。 しかし、ARNTをshでKDするとHIFの活性化が抑制されて低酸素をかけても誘導されづらくなる。
FigD. 低酸素でH3K4me3のメチル化は増加するが、ARNTのKDでHIFの活性化を抑制すると低酸素でH3K4me3のメチル化はもっと増加する。
このことからH3K4me3のメチル化を低酸素下においても保つためにJARID1Bがup-regulateする。
(三村)