2009年3月11日

ユビキチンを介したシグナル伝達について

Molecular Cell 33, 275-286

Nonproteolytic Functions of Ubiquitin in Cell Signaling

ユビキチンを介したシグナル伝達について

 

Ubは26Sプロテアソームを介したタンパク分解系としてよく知られているが、Ub化がUbコードとして、membrance trafficking、protein kinaseの活性化、DNA修復、クロマチン修飾などのシグナル伝達に関わっていることが明らかになってきた。このReviewでは、IkBリン酸化およびDNA修復でのポリユビキチン化によるシグナル伝達について紹介する。

 

Ub : 76個のアミノ酸からなる球形のタンパク質。基質のLys残基にG76を介して結合する。自身も7個のLysine K6, K11, K27, K29, K33, K48, K63を持ち、いずれもさらにユビキチンが結合したポリユビキチン鎖を形成することができる。K48を介したポリユビキチン化はタンパク分解に働く。K63のポリユビキチン化がシグナル伝達で重要である。

Ub化反応 : E1(活性化酵素2個)、E2(結合酵素~40個)、E3(連結酵素~600個)によりなる。E3 : HECT型、RING型。HECT domainはE2からUbを受け取り基質に受け渡す。RING型はE2と基質に結合しUbの受け渡しを促進する。RING型は単量体で働くものと、E3コンプレックスとして基質認識サブユニットを別にもつものがある。例)SCF複合体(Skp1, Cul1, Roc1/Rbx1, F-box protein Slimb/βTrCP)

DUB : 脱ユビキチン化酵素

UBDs : Ubiquitin-Binding Domainsユビキチン化タンパクはUBDを持つタンパクによって認識され、多くのシグナル伝達タンパクに見られる。(Table 1)ユビキチンレセプター。

 

NFkBパスウェイ

NFkBは通常阻害タンパクIkBと結合して細胞質に隔離されているが、サイトカイン、感染性物質、DNA傷害などの刺激でIKKが活性化しIkBをリン酸化すると、IkBはSCF(E3)によるユビキチン化を受け分解されるので、NFkBは核内移行し標的遺伝子の発現を誘導する。IKK活性化にはK63ポリユビキチン化が重要である。

IL1 or TLR pathways (Fig.1 A)

MyD88(adaptor protein )、IRAK(基質)、TRAF6(E3,自身も基質)、Ubc13/Uev1A(E2)、TAK1 complex : IKKの上流(TAK1 : protein kinase、TAB2・TAB3 : adaptor protein, zinc finger型UBD = NZFを持つ)、IKK complex (IKKα, IKKβ, NEMO : UBDを持つ)

IL1 or TLR ligand → MyD88、IRAKをrecruit →IRAKがTRAF6をrecruit → TRAF6活性化 → Ubc13/Uev1AとTRAF6がIRAK1, TRAF6、NEMOをポリユビキチン化 → K63ポリユビキチン鎖にTAB2,TAB3が結合してTAK1を活性化、IRAK1, TRAF6のK63ポリユビキチン鎖にNEMOを介してIKK complexをrecruit → TAK1がIKKβを活性化

TNFα receptor pathway (Fig.1B)

TRADD(apaptor protein complex)、TRAF2/TRAF5/cIAP1/cIAP2(E3)、RIP(protein kinase・基質)、TAK1 complex、IKK complex

TNFα → TRADD、TRAF2/TRAF5/cIAP1/cIAP2 、RIPをrecruit → RIPがポリユビキチン化 → K63ポリユビキチン鎖にTAB2/3を介してTAK1が、NEMOを介してIKKがrecruitされる → TAK1がIKKを活性化
T Cell Receptor Pathways (Fig.1B)

PKCθ、CBM complex(CARMA1, BCL10:基質, MALT1:E3?・基質・TRAF2/6と結合)、TRAF6(E3、基質)、Ubc13/Uev1A(E2)

Antigen peptide → TCR活性化 → PKCθ活性化 → PKCθがCBM complexをrecruit → MALT1とTRAF6が結合し、TRAF6が活性化 → Ubc13/Uev1AとTRAF6によりTRAF6、NEMO、MALT1、Bcl10をポリユビキチン化

NOD-like Receptor Pathways (Fig.1B)

Bacterial ligand → NOD1/NOD2がRIP2をrecruit → RIP2がTRAF2/5/6をrecruit → TRAFsがRIP2,TRAF6, NEMOをポリユビキチン化 → TAK1をrecruit → IKKを活性化

RIG-I-like Receptor Pathways (Fig. 1B)

RNA virus → MAVS        → IKK活性化 (E3:TRIM25が必要)

→ TBK活性化 (E3:TRAF3が必要)

DUB(脱ユビキチン化酵素)によるNFkB活性化の抑制(Fig. 1B)

NFkBの持続的な活性化は過剰な免疫応答や癌化が引き起こす。NFkBをIKK活性化の上流で阻害するDUBとしてCYLD、A20がこれまで同定されている。tumor suppressor protein のCYLDは家族性円柱腫症の原因遺伝子であり、K63ポリユビキチン鎖を特異的に切断する。A20はN端にDUB活性を持ちRIPやTRAF6ののK63ポリユビキチン鎖を外す。またC端にはE3活性を持ち、RIPのK63ポリペプチド鎖を外したのちにK48ポリユビキチン化し分解することが知られている。

 

しかしながらIKK活性化におけるユビキチン化ターゲットで何が重要なのかは同定できていない。TRAF、IRAK、NEMOのK63ポリユビキチン化の重要性についても細胞種や刺激の種類によって結果が異なる。

 

DNA修復におけるユビキチンコード

DNA修復因子であるRAD6がE2であったことから、DNA修復においてユビキチン化が重要であることが明らかとなった。DNA修復反応におけるシグナルタンパク(DNA傷害のセンサー、トランスデューサー、エフェクター)の多くがE3やUBDを持つタンパクである。

Translesion Synthesis RepairにおけるPCNAのユビキチン化

TLSは複製中にDNA傷害が生じた場合でも、複製を停止せずにすますメカニズムであり、損傷部位はTLS polymeraseで適当に複製、バイパスされる。PCNAは3両体の環状構造を形成しDNAを囲んでDNA複製や修復の足場となる。DNA傷害が起こると、停止した複製フォーク部にRPA(1本鎖DNAに結合するタンパク)を介しRAD18(E3)がリクルートされ、RAD18(E3)およびRAD6(E2)によりPCNAがモノユビキチン化される。モノユビキチン化されたPCNAにより複製polymerase(Polδ、Polε)からTLS polymerase(Polη、Polι)への交換が起こり損傷部位がバイパスされる。その後複製polymeraseに入れ替わり複製が再開する。TLS polymeraseはUBDを持っておりこれを介してユビキチン化PCNAへリクルートされる。PCNAのモノユビキチン化からさらにUbc13/Mms2(E2)、RAD5(E3)によりK63ポリユビキチン化が起こると鋳型DNAのスウィッチによる修復が行われる。

ファンコニ貧血におけるユビキチン化

遺伝性ファンコニ貧血の原因遺伝子であるFANCD2, FANCIもユビキチン化による調節を受ける。架橋剤やUVでDNAが障害されると、10個のFAタンパクからなるE3によりFANCD2, FANCIはモノユビキチン化される。E3の触媒サブユニットはFANCLでありE2であるUBE2Tと機能する。ユビキチン化されたFANCD2, FANCIはBRCA1とRAD51をDNA障害部位にリクルートし相同組み換えにより修復する。

DNA2本鎖切断修復におけるユビキチン化

遺伝性乳癌原因遺伝子であるBRCA1/2は、DNA2本鎖切断の修復に必要なの相同組み換えに重要である。BRCA1がRING domainを持つことから相同組み換えにおけるユビキチン化の重要性が示唆されるが、BRCA1の基質はまだ同定されていない。

MRN complex(Mre11-Rad50-Nbs1)、ATM(protein kinase)、MDC1(adaptor protein、BRCT domainを持つ)、RNF8(E3)、RAP80(UBDを持つ)、BRCA1 effector complex (BRCA1:E3、Abraxas、Brcc36:DUB domainを持つ、BARD1:BRCA1の結合パートナー)

DNA2本鎖切断がMRNにより感知されるとATMにより損傷部位のヒストンγH2AXがリン酸化される。それにともないMDC1がリクルートされATMによるリン酸化を受ける。リン酸化MDC1はE3のRNF8により認識されE2のUbc13と損傷部位のH2AX、H2AをK63ポリユビキチン化する。K63ポリユビキチン鎖はUBDを持つRap80により認識され、BRCA1 complexがリクルートされる。

 

ユビキチンによるシグナル伝達でまだ明らかになっていない点

・     E3がポリユビキチン鎖合成をどのように促進するか

・     ポリユビキチン鎖のタイプによる機能の違い

・     IKK活性化に必要なユビキチン化される基質はどれか/BRCA1の気質は何か

・     基質とユビキチンレセプターとのinteractionについて(特異性)

 

(堀内)