ショウジョウバエのゲノムワイド肥満遺伝子スクリーニングによってヘッジホッグシグナルが褐色脂肪細胞と白色脂肪細胞の運命を決定づけることを解明
要約
一億人以上もの人々が肥満状態であり、糖尿病や心血管病や癌発症の危険をはらんでいる。我々はゲノムワイドのRNAiスクリーニングをショウジョウバエで行い、肥満原因遺伝子を探索した。~500もの肥満候補遺伝子が筋肉、肝臓、脂肪、神経特異的なin vivoノックダウンより同定された。そしてヘッジホッグシグナルが脂肪特異的な経路でトップスコアに挙げられた。この意味を哺乳類で推測するために、脂肪細胞特異的にヘッジホッグシグナルを活性化させたマウスを作成した。興味深いことにこのマウスはほとんど白色脂肪細胞(WAT)が消失しており(near total loss)、しかし、褐色脂肪細胞(BAT)は正常だった。機序としては、ヘッジホッグシグナルの活性化は脂肪細胞分化の初期の因子の発現を変化させることで分化を抑制していた。これらの発見はヘッジホッグシグナルが白色あるいは褐色脂肪細胞分化の運命をけっていづける役割を果たしていることを示した。そしてRNAiベースのショウジョウバエのゲノムスキャニングが哺乳動物での脂肪細胞の分化調節にリンクしていることを示した。
図1 transgenic RNAi screen
Heat shock inducible HSP70 Gal system
• 11,594 different UASRNAi transgenic lines corresponding to 10,812 transgene constructs and 10,489 distinct open reading frames (ORFs) in the adult fly (Table S1).
• 319 of 516 (62%) have human orthologs according to InParanoid, OrthoMCL, and Ensembl databases (Table S2).
• Of particular interest, the candidate gene list included a number of potential regulators of feeding control.
(B) (C)このシステムは成長や性差の違いと脂質貯蔵のパターンを分けられる精度をもつ。(D)ダブルブラインドテストによる予想されるフェノタイプ解析。LSD (lipid storage droplet) and LPD (lipid depleted) genes as well as the Drosophila insulin-like peptides (Ilp's), the glucagon homolog akh and its receptor akhr, as well as adipose (adp), bubblegum (bbg), and the Drosophila SREBP homolog, HLH106 (G) GO
図2 臓器特異的ノックダウン Tissue-Specific Mapping of Candidate Obesity Genes
W1118はコントロール
(A) RNAi lines of the 462 primary screen candidate genes were crossed to four independent GAL4 drivers with pan-neuronal (nsyb-GAL4), muscle (C57-GAL4), oenocyte (肝臓) (oe-GAL4), and fat-body (ppl-GAL4) specificity, and their respective triglyceride levels determined (Figure 2A; Table S4). (B-E) 左: 組織特異的ノックダウン後のTG変化。赤線は脂肪蓄積増加、青線は減少させるトップスコアの遺伝子を示す。右 GO 赤の強度はGO termのincreased significanceに対応する。
図3 ヘッジホッグは脂肪組織特異的なTG蓄積制御遺伝子。
候補遺伝子ノックダウンにともなうTG変化。A pan neuronal, B, muscle, C, 肝臓, D 脂肪組織
E) Notchシグナルノックダウンではどの臓器特異的に落としても、TGの変化をもたらさなかった。(+)(-)はシグナルのpositive or negative effectorあるいはligand processingとreleaseに関する因子。赤はTGの増加、青は低下を示す。
F) ヘッジホッグの活性化分子をノックダウンするとTG上昇し、ヘッジホッグの抑制因子をノックダウンすると中性脂肪の減少が見られた。
• Hedgehog activator: hedgehog ligand (hh), the binding protein iHog, the coreceptor smoothened (smo), the nejire coactivator (nej), the downstream transcription factors cubits interuptus (ci) and mirror (mirr), as well as toutvelu (ttv) and the hedgehog target Sxl all
• Hedgehog inhibitor: trithorax-related (trr), CG3075, and Suppressor of Fused (Sufu)
図4 aP2-Sufu Mice Display White Adipose Tissue-Specific Lipoatrophy
(A) aP2-Sufu Miceは健康でメンデルの法則にしたがって生まれる。(B)NMR解析。グローバルな脂肪組織の萎縮が見られた。(C) 肩甲骨レベルでのクロスセクション。褐色脂肪組織の量は変わらない。(D) BATとWATともにSufuはWAT BATでロバストに欠損している。E)上段、WAT(点線で囲まれた部分)、下段 BAT。(FG)顕微鏡所見。(H,I) KOマウスではヘッジホッグの標的遺伝子の発現上昇が見られる。SufuはWAT分化を抑制しBATには関与しないシグナル分子。
補足図4
図5A B, ヘッジホッグシグナルの活性化はWAT 由来のstromal vascular cell (SVC)を抑制したが、BAT由来のSVCの分化は全く抑制しなかった。(CD) WAT由来前駆細胞はヘッジホッグシグナルが亢進し、WATの分化マーカーが減少していた。
図5E, F Sufu flox/floxから単離したWAT 由来のstromal vascular cell (SVC)、BAT由来のSVCにCre-recombinaseのアデノウィルスを感染させての分化実験。SufuはHedgehog 抑制。
図6A, B 3T3-L1細胞 ヘッジホッグ活性化はproadipogenic factorの抑制を引き起こした。逆にanti-adipogenic因子(COUP-TFII、NCor2, Hes1, Pewf1, Jag1)はup-regulateした。
(C,D) マスターレギュレータの発現はC/EBPαを除いてヘッジホッグ活性化によって抑制される方向。Ddit3= CHOP
E,F ルシフェラーゼアッセイ、ChIP PCRアッセイからそれらのプロモータにGli-結合サイトが認められ、機能的であることが示された。
図7 aP2 Sufu-KOは耐糖能やインスリン感受性に異常を認めない。
A, B glucose tolerance test, B glucose infusion rate (GI). C、グルコース取り込み試験ではKOマウスが脂肪細胞でより取り込んでいた。(D) レプチン値は75% KOマウスで減弱していたもののアディポネクチンはむしろ上昇していた。(E)初代培養系でも同様の結果。(F) indirect calorimetryの実験では酸素消費量と呼吸商に変化はなかった。しかし、行動量は減少していた(上から三段)。(G) 有意さはないが、低体温傾向→行動量が減って、この分体温や基礎代謝にエネルギー消費が向けられた。(H) UCP1遺伝子発現はKOで上昇。補足図7I) 30℃で飼育すると2群ともに摂餌量は減少し、体温も全く同等となった。
脂肪負荷試験でも差が認められず(補足図7H)。
補足説明
3T3-L1前駆脂肪細胞の分化系でhedgehog activator Smoothened AGonist (SAG) は分化を完全に抑制した。
D. melanogaster, 黄色ショウジョウバエ
WATは中性脂肪の主たる貯蔵組織、BATはミトコンドリアでの酸化的リン酸化を脱共役(uncouple)することで脂肪を熱に燃やす組織。
人にもBATが存在することが近年明らかとなった。BMIに相関。
BATはそのままで、WATのみが萎縮したことから、この2つは異なる前駆体から由来することが示唆される。
aP2-SufuKo miceはWAT萎縮でかつBATは正常である初めてのマウス。インスリン感受性と糖代謝は正常。
注)脂肪細胞萎縮症lipodystrophyは高度のインスリン抵抗性、糖代謝異常、高中性脂肪血症などメタボリックシンドロームと同様の症状を呈する。これはレプチン注によって改善される。
A Region of the Human HOXD Cluster that Confers Polycomb-Group Responsiveness
Woo CJ, Kharchenko PV, Daheron L, Park PJ, Kingston RE (2010) Cell vol. 140, p99-110
(Fig 1A) 今回使用した分化誘導の実験系。hESC→MSC→adipocyte、osteoblastの系。
(Fig S1) ESCはOCT4、SOX2、NONOG、TERTを発現。
(Fig 1B) Adipocyteでは脂肪の蓄積が、Osteoblastでは細長い形状でカルシウムの蓄積やアルカリホスファターゼ活性が見られる。
(Table S1) HOX遺伝子群に着目すると、ESCに比べてMSCではHOXA13、B1、D10、D12、D13の発現が抑制され、A4は発現が誘導される。
MSCがadipocyteに分化すると、HOXC10が誘導され、A9、A10、D1が抑制される。
OsteoblastではHOXA10、B2、B3が誘導され、A1が抑制される。
(Fig S2) BMI1、SUZ12、H3K27me3に対してChIPをし、4つのHOXクラスターに設計したタイリングアレイを用いて、分化に伴うクロマチンの変化を観察した。同じアレイを用いて、モノヌクレオソームのDNAをハイブリさせることで、MNase感受性サイトを検出した。
ショウジョウバエPREの例にならって、ヌクレオソームの占有率が低く、PcGタンパク質やH3K27me3の濃縮している領域を探索した結果、HOXD11とD12のintergenic領域に着目することにした。
(Fig 2A) MSCとadipocyteにおける、H3K27me3とBMI1、SUZ12を見た結果。
MSCではHOXD11とD12の境界領域にそれぞれのピークが見られた。これらのピークはadipocyteには見られない。
(Fig 2B) MNaseによるマッピングのデータ。この領域全体にわたって、統計的に有意に差が検出された。
HOXD11とD12の間は、PcGやH3K27meが濃縮しているだけでなく、分化に伴って、ヌクレオソームの占有に変化が生じる。
MSCでは低ヌクレオソーム、高H3K27me、PcG
(Fig S3) MNaseに対する感受性を調査した。
もしDNAがcompactedな構造であればMNaseに耐性であり、モノヌクレオソームのフラグメントは形成されない。結果として、MNaseに感受性があると評価されてしまう。
MNase処理後にサザンブロッティングを行った結果、MNase処理後にバンドが消失した。
(Fig 6) ChIPでも、hESC、adipocyte、osteoblastに比べて、H3の蓄積が少なかった。
これらの結果から、MSCのD11.12はH3の欠乏した、nucleaseに対してhypersensitiveな領域であると言える。
D11.12がヒトの培養細胞で抑制機能を持つか検討するために、ルシフェラーゼアッセイを開発した。
(Fig 3A) 使用したコンストラクトは、バックグラウンドレベルの最低限の発現を示すためのthymidine kinaseプロモーターにlucをつないだpLuc、activatorとして機能するYY1結合サイトを含んだYY1pLuc、さらに上流にD11.12をつないだD11.12。
(Fig 3B) YY1pLucではluc活性が上がるのに対し、D11.12ではその活性が抑制された。
(Fig3C) HOXD11とD12の間にある、他の領域(PcGの蓄積が無く、MNaseにhypersensitiveでない領域)を挿入しても、抑制効果はなかった。
(Fig3D) D11.12領域には2つの特徴があり、一つはYY1結合サイトのクラスターがあること、もう一つは種間で高度に保存されているということである。
YY1結合配列に変異を入れると、抑制効果は一部失われたが、YY1pLucまでは活性の回復は見られなかった。
D11.12の保存領域237bpを欠失させると、発現の回復がフルに見られた。
(Fig 3E) D11.12ではプロモーターにBMI1、SUZ12、H3K27me3が蓄積していた。pLucやYY1pLucでは蓄積無し。Lucのgene内では変化は無い。
mutD11.12ではBMI1の蓄積が見られなかった。K27me3も低かった。
conserved regionを欠失させると、BMI1、SUZ12、K27me3は検出できなくなった。
conserved regionはPRC1とPRC2の両方のリクルート、安定化に必要だと考えられる。
(Fig4A) BMI1とEEDに対するsiRNA-lentivirusの系を用いて、遺伝子の抑制を行った。発現抑制の確認をウエスタンで行った。
(TableS2) BMI1、EEDを抑制した時のHOX遺伝子群の発現量変化を調べたところ、HOXD11、12、13の発現が上昇し、HOXD1、4、10の発現は変化しなかった。
(Fig4B) よく知られているp16領域の発現も上昇していた。
(Fig4C) 遺伝子抑制した細胞でのLuc活性を見ると、YY1pLucに比べて2桁程度発現が上昇した。D11.12にはPcGによって抑制される配列が他に存在すると考えられる。
YY1の関与を見るために、YY1の結合分子、RYBPをノックダウンした。
Vimentinの発現が上昇したのに対し、p16は変化しなかった。HOXD11,12,13の発現が上昇した。Lucの発現はYY1pLuc以上にまで上昇した。
これらのことから、D11.12による発現抑制はPcGに依存していると結論づけた。
D11.12がゲノムに挿入されたあとでも機能するかを検討した。
(Fig5A) このコンストラクトには、インシュレーターとFRTサイトを導入してある。
(Fig5D) ゲノムに組み込んだ後も、BMI1、SUZ12、K27me3の濃縮が見られた。FRTを利用して、D11.12を抜いた細胞では、これらの濃縮は見られなかった。
(Fig5C)lucの発現量も、D11.12を除去すると上昇した。安定的にゲノムに挿入された場合にも、D11.12は抑制に必要であることがわかった。
D11.12の抑制機能が分化後も維持されるかについて見るために、MSC(+)、(-)をそれぞれ分化させて、Adi(+)、(-)とした。
(Fig5C) adipocyte特異的な遺伝子をRT-PCRで確認。(Fig5B)D11.12が存在する場合にLucの抑制が確認された。
Adi(+)ではBMI1、SUZ12、K27me3が濃縮しているのに対し、Adi(-)ではそれらは濃縮しない。
これらより、D11.12は分化を通して、抑制機能を維持している。
(Fig5C) Adi(+)でBMI1,EED,RYBPを抑制するとlucの発現が回復した。
BMI1を抑制すると、プロモーターやluc遺伝子へのBMI1の濃縮が失われた。
EED1を落とすと、BMI1とSUZ12の濃縮が完全に失われた。
RYBPを抑制すると、BMI1、SUZ12、K27me3の濃縮が完全に失われた。もしRYBPがPRC1 and/or 2の安定性に関与しているならば、この領域にPRC2がリクルートされなくなり、K27me3が減少したと説明できる。
(Table S1) HOXD10,12,13はESCで低発現しているが、MSCで発現が無くなり、adipocyteやosteoblastで発現回復する。
HOXD11はESCからずっと抑制されたままである。
(Fig6) 未分化のESではPcGがD11.12に濃縮していた。しかし、Fig2Bでは、MNaseに対するhypersensitivityは見られていない。
MSCに分化すると、BMI1、SUZ12、MNase感受性が上昇し、H3の濃縮が減少した。H3K27me3は高レベルに濃縮しているわけではない。
さらに分化すると、BMI1やSUZ12存在量は低くなり、H3K27me3マークは減少した。
結論としては、内在性のD11.12はPcGに占有されており、その程度は分化に伴って変化する。
YY1のChIPより、YY1はD11.12に存在して、PcGによる発現抑制に加担している。
まとめ
・D11.12はヒト細胞で最初に発見されたPcG responsive elementであり、ヌクレオソームがdepletedな領域である。
・D11.12による転写抑制は分化を通じて維持されており、その抑制には保存領域とYY1結合領域が必要である。
Mol Cell. 2009 Dec 25;36(6):996-1006.
Genome-wide analysis of PTB-RNA interactions reveals a strategy used by the general splicing repressor to modulate exon inclusion or skipping.
Xue Y, Zhou Y, Wu T, Zhu T, Ji X, Kwon YS, Zhang C, Yeo G, Black DL, Sun H, Fu XD, Zhang Y.
Polypyrimidine tract-binding proteinであるPTBはスプライシングリプレッサーとしてよく知られているが、PTBのノックダウンによりexonのinclusion、skippingともに変わることが知られている。今回著者らはCLIP-seqによりPTB結合部位をゲノムワイドに調べた。その結果、競合するconstitutive splice site近傍に結合する場合はexon inclusionに、alternative exon近傍に結合する場合はexon skippingに働く傾向が明らかとなった。
Fig.1 (A)PTBはdimerとmonomerで存在する。UVでdimerが増える。RNAは介していない。DTTでmonomerになるのでジスフィド結合である。Fig.S1 CLIPするとdimer, monomerともにRNAが結合していることがわかった。両方をCLIP-seqへ。Fig.1(B)monomer, dimer結合RNAはoverlapし、monomer, dimerで結合するRNAに違いはないと考えられた。(C)PTB結合モチーフの同定。UUCUCU。Fig.S6A 83.56%のクラスターがtop20のモチーフを少なくともひとつ含む。Top 20から得られたコンセンサス配列はUYUYU。今回得られたPTB結合部位の90%は予測プログラムで同定できるが、予測される結合部位は500万箇所あるので、実際今回同定した結合部位はその1%程度であり、PTB結合部位の予測は難しいと考えられる。また、A/G-rich配列は圧倒的に少なく、PTBがsingle strandに結合していることがわかる。
Fig.2(A)PTB結合部位のゲノム上での分布は、イントロンが多く、pre-mRNAに多く結合していることがわかる。(B)結合部位間の距離は1k-10kが56.5%で43.5%が1k以内である。Table 1 PTB結合部位が既知のオルタナティブスプライシング部位とリンクしているか見ると、カセットエクソン(エクソンがskipするかinclusionするかのオルタナティブスプライシング)が一番多い。(C-E)nPTB(オルタナティブエクソンEx10の両サイドに結合), TPM2(mutually exclusive exonと、alternative poly(A)両方に結合, PKM2(前回の勉強会hnRNPとPKM2の論文参考。オルタナティブエクソンEx9上流のイントロンに結合)(F)オルタナティブスプライシングとPTB結合部位のパターン。オルタナティブエクソンの両側よりもどちらか片方に結合することが多い。5'または3'スプライス部位の調節に働くときはよりイントロン寄りに結合して阻害することで、遠位のスプライシングを促進する。
Table S1 新規および既知のオルタナティブスプライシングにPTBが関与するかRNAiにより調べた結果、PTBはexon skippingにもinclusionにも働くことがわかった。PPTBによるスプライシング抑制(exon skipping)はよく知られているので、exon inclusionに着目した。Fig.3 (A&C,lane1)CTTNのminigeneを作成して、PTBによるオルタナティブスプライシング制御を解析した。(C,lane1&5)PTB/nPTBをノックダウンするとexon inclusionが減少する。→PTB/nPTBによりexon inclusionが起こる。(lane2~4)PTB1, PTB4, nPTBでrescue実験すると、PTB4で完全に、nPTBでかなりrescueできる。一方さらに過剰に発現させてもexon inclusionが増えることはなく(data not shown)、他の因子も関与すると考えられる。PTB4とPTB1はスプライシングバリアントで、PTB4はexon9を含み、より活性が強いことが知られている。(lane6)PTB結合部位のdeletion reporterを使うと、lane5と同程度みexon inclusionが減少し、PTBによるrescueも見られない。
Fig.4 PTB結合パターンとexon skipping, exon inclusionの関係について。(A)exon skipping, (B)exon inclusion。Exon skippingでは、aternative exon近傍に結合する傾向があり、加えてイントロンに複数結合するパターンもある。Exon inclusionでは、alternative exonよりcompeting constitutive exon近傍に結合するパターンが見られる。そこでPTBのpositionとスプライシングの関係(skipping, inclusion)を統計的に見ると、Fig.5 PTBはpolypyrimidine tract binding proteinなので3'ssに結合することが多いと思われたが、実際には3'ssに同頻度に結合していることがわかった。また、exon skippingはオルタナティブエクソンの近傍に、exon inclusionはcompetitive constitutive splice siteの特に3'ssに多く結合することがわかった。
Fig.6 PTBによるexon inclusionのメカニズムについて、SIRT1 E6を含んだミニジーン(スプライシングレポーター。配列を加えてスプライシングの変化を見るのに用いる)に、PTB結合配列を加えてアッセイを行った。(B)PTB結合配列を加えることでexon inclusionが増える。(C) Bで見られたinclusionの増加は、shPTB/nPTBにより消える。(D)PTB/nPTB過剰発現によりexon inclusionが増大。
以上よりPTBによるexon inclusionはconstitutive 5' または3' の近位に結合しスプライシングを阻害することで制御されていると考えられた。
Controlling Hematopoiesis through Sumoylation-Dependent Regulation of a GATA Factor
Hsiang-Ying Lee1, Kirby D. Johnson1, Tohru Fujiwara1, Meghan E. Boyer1, Shin-Il Kim1 and Emery H. Bresnick1,
Published: December 24, 2009. Molecular Cell
背景
血球系分化においてGATA-1はmaster regulatorとして様々な遺伝子の発現を誘導または抑制する。重要な遺伝子の発現制御にはFOG-1との相互作用が不可欠である。
現在までにGATA-1には様々な翻訳後修飾が報告されているが、それが機能とどう結びつくか詳細な報告がない。今回はSUMO化に着目して赤血球分化における役割を調べた。
実験ツール
細胞
・G1E cell
マウスESのGATA1 null cell line
Estrogen receptorとGATA1をつないだconstructをstableにtransfectionしてある。
Estradiol刺激によってGATA1が誘導されることで赤血球分化が誘導される系。
・FOG1-null cell
Construct
ER-GATA-1
ER-GATA-1 (K137R, K137A) :SUMO化サイトである137番目のKにmutation
ER-GATA-1 (E139A) :同じくSUMO化できない
ER-GATA-1 (V205G) :FOG-1と結合するサイトである205番目のVにmutation
ER-GATA-1 (C261P) :DNAと結合するC端zinc finger内にmutation
ER-GATA-1 (SUMO/K137R) :SUMO化できないGATA1にSUMO-1をfusionしたもの
ER-GATA-1 (SUMO/V205G) :FOG-1と結合できないGATA1にSUMO-1をfusionしたもの
ER-GATA-1 (SUMO/C261P) :DNAと結合できないGATA1にSUMO-1をfusionしたもの
結果
Fig.1
A: ER-GATA-1の模式図、137番目のKがSUMO化に重要
B: GATA1 null G1E cell lineにER-GATA1, K137A, K137Rの3種類のconstruct (数字がclone No.)をstableに発現させた際のGATA-1 Western Blotting。ER-GATA-1は75kD、SUMO-ER-GATA-1は105kD。137Kにmutationを加えるとSUMO化されていない。
C: β-estradiolを加えて48時間たつと、ER-GATA-1は赤血球に分化する。しかし、K137にmutationを加えると赤血球への分化が抑制される
D: G1E cellにstabeにWT, K137R, K137Aを発現させ、estradiolを添加して24時間後のGATA-1標的遺伝子のmRNA発現解析。本来なら誘導または抑制されるはずの標的遺伝子の中でGATA1がSUMO化されないとその効果がなくなるものがある。
Fig.2
A: estradiolで24時間刺激した後のG1E cellを用いたIP-WB。WBの抗体はGATA1。SUMO-1の抗体でIPしてGATA-1でWBすると105kD付近にband。
B: FOG-1 null cell lineにstableにER-GATA-1を発現させた際のGATA1のWB。
C: SUMO-ER-GATA-1の模式図。G1E cellにSUMO-ER-GATA1 (K137R)とER-GATA-1 (K137R)をstableに発現させた際のWestern。SUMOをつなぐと105kD、K137RのみではSUMO化されないために75kD
D: Cの細胞にestradiolを加えて24時間後のmRNA発現解析。先ほどFig1でK137Rによって発現が抑制された遺伝子はSUMOをつなぐことでrescueされる。
E: G1E cellにtransientにER-GATA-1, K137R, SUMO1-K137Rをtransfectionした際のWestern。
F: Eの細胞にestradiolを加えた際のmRNA発現解析。Staableと同様にK137Rで発現が減少し、SUMOをつなぐことでrescueされる
G: G1E cellにE139Aをtransientにtransfectionした際のWB。E139AでもSUMO化は起こらない。同じくその際の発現解析では、E139AもGATA1標的遺伝子の発現は減少する。
H: ER-GATA-1、K137Rが核にあるか細胞質にあるか調べたWB。両方に存在する。
I: G1E cellにtransientに各constructをtransfectionした際の免疫染色。ER-GATA-1は核内に均等に存在するが、K137にmutationを加えるとsubnuclearに存在するようになる。
Fig.3
A,B:β-globinのpromoter, enhancer領域のGATA-1のChIP-PCR。Eyはネガコン。HS3ではK137 mutationで変化がないが、HS2, βmajor, HS26, α-globin, AhspではK137にmutationを加えることでGATA1の結合が減少する。K137はGATA1の結合に必須ではないが、結合をより増強する役割を果たす。
C: 同時にpolIIのoccupancyも減少する。
Fig.4
A: β-globin領域におけるFOG-1, CBP, TRAP220のChIP-PCR。先ほどGATA1の結合が減少していた場所はCBP, TRAP220共に減少している。
B: α-globin, Ahspのlocusも同様。
ただし、両方ともFOG-1の結合には変化がない
Fig.5
A: 模式図。GATA-1がSUMO化されることで活性化される標的遺伝子はFOG-1依存的か、非依存的か?
B: 模式図。V205G (GATA-1とFOG-1が結合できない)、SUMO-1/V205G (SUMO-1を更に結合させたもの)
C: G1Eに上記コンストラクトをtransientにtransfectionした際のWB。
D: FOG-1依存的なβmajorとαglobinはV205Gで発現が減少するが、SUMOをつけることで回復する
E: C261PとSUMO-1/C261PをG1Eにtransientにtransfectionした際のWB。
F: GATA1とDNAの結合を阻害すると、SUMOをつけてもrescueされない。
Fig.6
A: G1EにstableにV205G, SUMO-1/V205Gを発現させた際の免疫染色。V205GはK137Rと同様にsubnuclear localizationを示す。
B: V205GによってFOG-1とGATA-1の結合が阻害されたかどうかを確かめたIP-WB。FOG-1の抗体でIP、GATA-1の抗体でWB。
C: GATA-1が発現していることを確認したWB。
D: V205GでGATA-1標的遺伝子は確かに発現が落ち、SUMO-1をつなぐことでrescueされる。
E: GATA-1, FOG-1, PolIIのChIP-PCR。V205Gで結合量は減り、SUMOをつなぐことで回復する。発現と一致
F: 模式図。通常であればSUMO化されてかつFOG-1と結合することで標的遺伝子を活性化している。SUMO化が阻害またはFOG-1との結合が阻害されると発現誘導活性は著しく低下する。ただしこれらは独立して起こっている。
Fig.7
A: G1E cellにstableにER-GATA-1とK137Rを発現させ、estradiolで24時間刺激した際の3D immuno-FISH.青:nucleara lamine。K137Rで発現が減少する遺伝子群は、刺激を加えてもsubnuclearに存在したまま。WTは刺激を加えると中心部へ移動する。K137Rに応答しない遺伝子群は刺激前後で辺縁にあるまま。
B: Aをグラフ化
C: 模式図
結論
・ FOG-1依存的なGATA-1標的遺伝子はK137のSUMO化で発現が誘導される
・ V205GとK137Rのphenotypeは似ているが、互いに独立している
・ FOG-1依存的遺伝子へのGATA-1 recruitはV205GやK137Rで阻害されるが、SUMOをGATA-1にconjugateすることでrescueされる
・ FOG-1, SUMO-1依存的遺伝子は分化に従って核内でperipheryから離れるが、非依存的遺伝子は分化前後でperipheryのまま
・ 核内の位置情報で制御機構が分かれている
担当 砂河
Jumonji Modulates Polycomb Activity and Self-Renewal versus Differentiation of Stem Cells
Xiaohua Shen,1 Woojin Kim,1 Yuko Fujiwara,1 Matthew D. Simon,5 Yingchun Liu,4 Matthew R. Mysliwiec,6
Guo-Cheng Yuan,4 Youngsook Lee,6 and Stuart H. Orkin1,2,3,*
1Department of Pediatric Oncology, Dana-Farber Cancer Institute, Children's Hospital, and Harvard Medical School
2Howard Hughes Medical Institute
3Harvard Stem Cell Institute
4Department of Biostatistics & Computational Biology, Dana-Farber Cancer Institute, and Harvard School of Public Health
Boston, MA 02115, USA
5Department of Molecular Biology, Massachusetts General Hospital, Boston, MA 02114, USA
6Department of Anatomy, School of Medicine and Public Health, University of Wisconsin, Madison, WI 53706, USA
【要旨】
Polycomb repressive complex 2 (PRC2)によるH3K27me3は、ES細胞における自己増殖と分化間のバランスを制御している。PRC2の活性と標的へのリクルートを制御するメカニズムはよく分かっていない。今回、我々は、JMJ (Jumonji or Jarid2)がPRC2と相互作用し、その活性を制御する因子であることを証明する。In vitroにおいてJMJは、JMJ -/- ES細胞におけるPRC2標的遺伝子のH3K27me3の増加と一致するようにPRC2のH3K27メチル化活性を阻害する。この結果とは矛盾するが、JMJは、PRC2の効率的な結合に必須である。このことは、JMJとPRC2の相互作用がH3K27me3の蓄積を微調整していることを示唆する。分化においてH3K27me3標的遺伝子の活性化と分化系列決定(lineage commitment)は、JMJ -/- ES細胞に於いて遅延する。JMJによるPolycomb complex活性の動的制御は、自己増殖と分化のバランスをとっている。このことは、細胞運命の遷移におけるクロマチン動態の関与を示すものである。
Fig 1. JMJは、PRC2と相互作用する。
A) 相互作用因子同定のスキーム
B) PRC2の相互作用概念図.。bfJMJによるproteomicsでMTF2由来ペプチドは、ほとんど見られない。同様に、bfMTFではJMJ由来ペプチドは全く見られなかった。→MTF2-PRC2及びJMJ-PRC2は独立した複合体?
C-E) 293T内における相互作用の確認。V5-MTF2、HA-JMJ、bfEed、bfEZH2を共発現。
F) 核抽出物のゲル濾過解析。3908kDa及び395DaのところにEZH2と共存。→JMJは、ES細胞内でPRC2分画内に存在している可能性がある。
G) ES細胞におけるPRC2と内在性JMJとの相互作用。JMJは、EZH2のSET domainを介してPRC2と相互作用する。bfEZH2 dSET : SET domain欠失変異体
H) ES細胞における内在性PRC2と内在性JMJまたは内在性RBP2 (Jarid1a)との相互作用。→RBP2ではなくJMJがPRC2との内在性の相互作用因子?
I-J) JMJは、ES細胞 (I)およびその他の細胞 (J)においてPRC2と相互作用する。
Fig 2. JMJは、H3K27me3と共局在する。
A) JMJ、EZH2、SUZ12、H3K27me3のChIP-qPCR。JMJのChIP-chip解析。JMJは、PRC2標的遺伝子のプロモーターに存在。JMJ : DNA結合能のあるARID/BRIGHT domainを持つ。
B-C) JMJ、bfJMJ及びH3K27me3標的遺伝子遺伝子(ChIP-chip/Affymetrix promoter array)のベン図。JMJの標的の98% (632/644)がH3K27me3標的遺伝子に一致。81-98%の遺伝子がEZH2、SUZ12、bfEEDの標的と一致 (C)。RBP2とH3K27me3の一致率は32%(195/606)。BioChIP-chip (bfJMJ)では、内在性JMJの97%と一致 ((B)、bfJMJ : 3695 genes)。H3K27me3、bfEZH1およびbfEZH2の標的遺伝子の80%以上と一致。
D) ChIP-qPCRによるChIP-chipの確認。
E) JMJの結合は、標的遺伝子のTSS近傍に分布する。
F) H3K27me3同様JMJの標的遺伝子は、発生分化制御にかかわる遺伝子が濃縮している。
Fig 3. JMJを含む複合体はH3K27me3メチル化活性を有する。
A) コアヒストンに対するbfJMJ複合体のヒストンメチル化活性。
B) 内在性JMJ複合体のヒストンメチル化活性。
C) ヒストンメチル化活性の基質特異性の検討。H3K27におけるメチル基の増加に伴い活性が低下。既報と一致。H3K27me3での活性は、H3K9に対する非特異的な活性。
D) 内在性JMJ複合体のヒストンメチル化活性。bfEZH2と同様。
Fig 4. JMJは、PRC2のヒストンメチル化活性を阻害する。
A) バキュロウイルス発現系を用いたJMJ-PRC2複合体の再構成。Colloidal Blueによる染色(Coomassie染色より5倍以上の感度)EZH2の1/4程度がJMJと結合。
B) HeLa細胞由来Oligonucleosomeに対するヒストンメチル化活性。JMJは用量依存的に内在性ヒストンメチル化活性を阻害する。
C) JMJは、用量依存的にH3K27me1及びme2に対するメチル化活性を阻害する。Chicken core histoneに対しても同様。
D) C末のJumonji domain及びC5HC2 domainは、JMJのPRC2阻害活性に必要ない。
E-F) Histone octamer (E)及びNucleosome (F)を基質にしたPRC2阻害活性の検討。JMJは、H3K27me1、me2に対するPRC2活性だけでなくme0も阻害。
Fig 5. Jmj -/- ES細胞の特性解析
A-C) JMJのknockoutによりJMJのPRC2標的配列への結合が消失。Ezh2 -/-およびEed -/-でも同様。Jmj -/- ES細胞 (多能性マーカー遺伝子の発現 : 正常。増殖 : 野生型ES細胞と同レベル)
D) Jmj -/- ES細胞ではPRC2標的領域におけるH3K27me3の増加 (H3K27me3のChIP-qPCR)。Global Levelでは変化なし。
E) 野生型ES細胞と比較してJmj -/- ES細胞で発現が低下している遺伝子にH3K27me3標的遺伝子は濃縮している。GSEAによる解析。
F-H) Jmj -/- ES細胞では、EZH2、SUZ12およびEEDのPRC2標的遺伝子への結合が低下。
I) JMJは、PRC2のヒストンメチル化活性を阻害する一方でクロマチンへの結合を促進することでH3K27me3レベルの微調整因子として機能している。
Fig 6. JMJは、ES細胞の分化にとって必要である
A-B) LIFの除去による分化誘導時における遺伝子発現解析。H3K27me3標的遺伝子の活性化が野生型に比して遅延している。同様に、神経前駆細胞や中内胚葉で発現上昇する遺伝子も遅延。
C) Jmj -/- 、Ezh2 -/- 、Eed -/- ES細胞におけるRT-qPCRによる時系列な発現解析。野生型ES細胞と比較してOct4を含むES特異的遺伝子の維持がJmj -/- ES細胞で見られる。原始外胚葉のマーカー遺伝子の遺伝子であるFgf5の発現ピークの遅延 (原始外胚葉期の延長)。Ezh2 -/- 、Eed -/- ES細胞では、急激な発現上昇と消失を示す。原始外胚葉期の延長と相関するようにJmj -/- ES細胞において初期中内胚葉のマーカーであるTの発現ピーク遅延。中胚葉マーカーであるSp5、Bmp4、Hoxa1でも同様。EMTマーカーのCD44は、Jmj -/- ES細胞では活性化されない。Ezh2 -/- 、Eed -/- ES細胞では活性化されるが維持されない。3胚葉すべてで発現する細胞周期制御遺伝子Ccnd2およびCdkn2aは、Ezh2 -/- 、Eed -/- ES細胞において著しく活性化されたのち低下し細胞周期の停止を起こす。Jmj -/- ES細胞では、D8まで著しく低い。Jmj -/- ES細胞は、分化シグナルに対して抵抗性を示す。
【結論】
JMJのES細胞における役割は、PRC2の活性を正及び負の両方に制御することによってPRC2標的遺伝子の多能性の維持及びES細胞らしさの維持と分化能を平衡状態にする微調整因子として機能しているのかもしれない(Fig 7)。
Nature e-pub
HnRNP proteins controlled by c-Myc deregulate pyruvate kinase mRNA splicing in cancer
Charles J. David, Mo Chen, Marcela Assanah, Peter Canoll & James L. Manley
正常細胞では酸素下で、TCA回路と電子伝達系における酸化的リン酸化によってグルコースから効率的にエネルギー(ATP)を産生しており、酸素がない状態では、細胞質にある嫌気性解糖系(グルコースを嫌気的に分解して乳酸を生成する代謝系)によってエネルギー(ATP)を産生する。一方、多くの癌細胞では、正常細胞に比べて高速にグルコースを取り込むが、酸素下でも酸化的リン酸化は減少し、好気的解糖aerobic glycolysisを行う。この代謝形態の変化は発見者に因んでWarburg effectと呼ばれており、ピルビン酸キナーゼ(PKM)のアイソフォームの違いにより制御されている。
PKM pre-mRNA からは、mutually exclusive alternative splicingによりexon 9を含むPKM1とexon 10を含むPKM2のアイソフォームが作られる(Fig.1a)。adult isoformであるPKM1に対して、PKM2はembryonic isoformであり癌細胞で発現が見られる。癌細胞のPKM2をPKM1へ変換することにより顕著に増殖が抑制されることからも、癌細胞の増殖におけるPKM2の重要性が示されるが、PKM1からPKM2への変換のメカニズムはわかっていない。
著者らは、PKMのexon9近接配列に結合しexon10のinclusion(すなわちPKM2の生成)に働くRNA結合タンパク質としてPTB, hnRNPA1, hnRNPA2を同定した。c-MycによりPTB, hnRNPA1, hnRNPA2の発現量は増加し、PKM2/PKM1比も上昇した。ヒト神経膠腫の発現プロファイルを見ると、c-Myc, PTB, hnRNPA1, hnRNPA2の発現とPKM2の発現が相関していることがわかった。以上よりRNA結合タンパク質によるオルタナティブスプライシング調節が、腫瘍の増殖に重要であることが示された。
Fig. 1(b)exon 9の5'ss付近、exon 10の5'ss付近の配列のRNA(RI標識)を合成し、核抽出液(NE)と混ぜてUV-crosslinkした後にSDS-PAGE。RI標識されているタンパクが結合タンパク。EI9でのみ津用意結合がみられた。(c)EI9の結合配列(19nt)のビオチン化RNAを合成しstreptavidin agarose beadsと結合後、NEと混ぜIPした。EI9に結合するタンパクとしてhnRNPA1, hnRNPA2をMSにより同定した。(d)EI9にはhnRNPA1のconsensus配列であるTAGGGが含まれていた。この配列にmutation(TAGGG→TACGG)を入れると、結合タンパク量が著しく減少した。Supp. Fig.4&5 mutation(TAGGG→TACGG)によりexon9のスプライシングが増えることがin vitro splicing assayおよびin vivo splicingで明らかになった。すなわち、この配列を介してexon 9のスプライシングが抑制されていることがわかった。(e)exon 9, exon 10の上流のpolypyrimidine tractについても、結合タンパクがあるかどうか、RI標識RNAを用いたcrosslinkにより調べた。その結果、exon 9上流(I8)に強く結合する55kDaのタンパクがあることがわかった。I8にはPTBの結合配列UCUUCがあり、PTBはスプライシングリプレッサーとして働くことが知られている。I8 RNAと結合するタンパクを抗PTB抗体を用いてIPすると、それがPTBであることがわかった。(f)UCUUC→UGUUCのmutationでPTBの結合が顕著になくなることから、E9のpolypyrimidine tractにPTBが特異的に結合していることがわかる。
Fig.2 hnRNPA1, hnRNPA2(U1 snRNAとoverlap)およびPTB(polypyrimidine tract)の結合配列部位がE9 inclusionに必要なエレメントと重なることから、これらのタンパクの結合はE9 inclusionを阻害するものと考えられる。そこで、hnRNPA1, hnRNPA2, PTBをsiRNAにより発現抑制したときのPKM mRNAのisoformをRT-PCRにより調べた(HeLa細胞)。(c)hnRNPA1, hnRNPA2のRNAiにより、PKM1の割合が2%から9%に増え、PKM2の割合は減った。PTBのRNAiでは、PKM1の割合が2%から16%に増えた。さらに3種ともRNAiすると、PKM1の割合が2%から48%まで増えた。他にHEK, MCF-7, U87でも同様の傾向が見られた。またcancer-associated splicing factorであるSRタンパクのASF, SRp20は、ノックダウンすると細胞増殖の低下が見られるが、PKMのスプライシングにはあまり変化がなかった。このことから、hnRNPA1, hnRNPA2, PTBに特異的なスプライシング変化であると考えられる。
Fig.3 (a)次に、hnRNPA1, hnRNPA2, PTBの発現量がPKMのオルタナティブスプライシングと相関しているかどうか調べた。Mouse myoblastのcell lineであるC2C12は分化させると(増殖から休止モデル)PKM2からPKM1へのswitchingが見られる。(b)このときのタンパク発現を見ると、PTBはday 3で70%以上の発現減少が見られ、hnRNPA1は50%程度の減少が見られた。(c)ヒト神経膠腫サンプルでも、PKM isoformとhnRNPA1, hnRNPA2, PTBタンパク発現量の相関が見られた。
Fig.4 細胞増殖とPKM2発現が強く相関していることから、hnRNPA1, hnRNPA2, PTBの発現も、細胞増殖における調節機構の制御を受けていると考えられる。C-mycはhnRNPA1, hnRNPA2, PTBのプロモーターに結合することが報告されており、c-mycによるその発現機構を調べた。C-mycのshRNAを発現するstable cell line(NIH-3T3)を作成し、タンパク発現を調べると、c-mycを発現抑制すると、PTB, hnRNPA1, hnRNPA2の発現が顕著に減少することがわかった。また、c-myc shRNA発現cell lineでは、PKM1 mRNAの割合が7%から33%へ増加することがわかった。(Supp. Fig.13 )hnRNPA1のプロモーターアッセイを行うと(HeLa細胞)、c-mycのdose-dependent, binding site-dependentなluciferase活性が見られた。