2010年1月28日

ショウジョウバエのゲノムワイド肥満遺伝子スクリーニングによってヘッジホッグシグナルが褐色脂肪細胞と白色脂肪細胞の運命を決定づけることを解明

ショウジョウバエのゲノムワイド肥満遺伝子スクリーニングによってヘッジホッグシグナルが褐色脂肪細胞と白色脂肪細胞の運命を決定づけることを解明

要約
一億人以上もの人々が肥満状態であり、糖尿病や心血管病や癌発症の危険をはらんでいる。我々はゲノムワイドのRNAiスクリーニングをショウジョウバエで行い、肥満原因遺伝子を探索した。~500もの肥満候補遺伝子が筋肉、肝臓、脂肪、神経特異的なin vivoノックダウンより同定された。そしてヘッジホッグシグナルが脂肪特異的な経路でトップスコアに挙げられた。この意味を哺乳類で推測するために、脂肪細胞特異的にヘッジホッグシグナルを活性化させたマウスを作成した。興味深いことにこのマウスはほとんど白色脂肪細胞(WAT)が消失しており(near total loss)、しかし、褐色脂肪細胞(BAT)は正常だった。機序としては、ヘッジホッグシグナルの活性化は脂肪細胞分化の初期の因子の発現を変化させることで分化を抑制していた。これらの発見はヘッジホッグシグナルが白色あるいは褐色脂肪細胞分化の運命をけっていづける役割を果たしていることを示した。そしてRNAiベースのショウジョウバエのゲノムスキャニングが哺乳動物での脂肪細胞の分化調節にリンクしていることを示した。


図1 transgenic RNAi screen
  Heat shock inducible HSP70 Gal system

•    11,594 different UASRNAi transgenic lines corresponding to 10,812 transgene constructs and 10,489 distinct open reading frames (ORFs) in the adult fly (Table S1).
•    319 of 516 (62%) have human orthologs according to InParanoid, OrthoMCL, and Ensembl databases (Table S2).
•    Of particular interest, the candidate gene list included a number of potential regulators of feeding control.
(B) (C)このシステムは成長や性差の違いと脂質貯蔵のパターンを分けられる精度をもつ。(D)ダブルブラインドテストによる予想されるフェノタイプ解析。LSD (lipid storage droplet) and LPD (lipid depleted) genes as well as the Drosophila insulin-like peptides (Ilp's), the glucagon homolog akh and its receptor akhr, as well as adipose (adp), bubblegum (bbg), and the Drosophila SREBP homolog, HLH106 (G) GO

図2 臓器特異的ノックダウン  Tissue-Specific Mapping of Candidate Obesity Genes
    W1118はコントロール
(A) RNAi lines of the 462 primary screen candidate genes were crossed to four independent GAL4 drivers with pan-neuronal (nsyb-GAL4), muscle (C57-GAL4), oenocyte (肝臓) (oe-GAL4), and fat-body (ppl-GAL4) specificity, and their respective triglyceride levels determined (Figure 2A; Table S4).  (B-E) 左: 組織特異的ノックダウン後のTG変化。赤線は脂肪蓄積増加、青線は減少させるトップスコアの遺伝子を示す。右 GO 赤の強度はGO termのincreased significanceに対応する。
図3 ヘッジホッグは脂肪組織特異的なTG蓄積制御遺伝子。
候補遺伝子ノックダウンにともなうTG変化。A pan neuronal, B, muscle, C, 肝臓, D 脂肪組織
E) Notchシグナルノックダウンではどの臓器特異的に落としても、TGの変化をもたらさなかった。(+)(-)はシグナルのpositive or negative effectorあるいはligand processingとreleaseに関する因子。赤はTGの増加、青は低下を示す。
F) ヘッジホッグの活性化分子をノックダウンするとTG上昇し、ヘッジホッグの抑制因子をノックダウンすると中性脂肪の減少が見られた。
•    Hedgehog activator: hedgehog ligand (hh), the binding protein iHog, the coreceptor smoothened (smo), the nejire coactivator (nej), the downstream transcription factors cubits interuptus (ci) and mirror (mirr), as well as toutvelu (ttv) and the hedgehog target Sxl all 
•    Hedgehog inhibitor: trithorax-related (trr), CG3075, and Suppressor of Fused (Sufu)
図4 aP2-Sufu Mice Display White Adipose Tissue-Specific Lipoatrophy
(A) aP2-Sufu Miceは健康でメンデルの法則にしたがって生まれる。(B)NMR解析。グローバルな脂肪組織の萎縮が見られた。(C) 肩甲骨レベルでのクロスセクション。褐色脂肪組織の量は変わらない。(D) BATとWATともにSufuはWAT BATでロバストに欠損している。E)上段、WAT(点線で囲まれた部分)、下段 BAT。(FG)顕微鏡所見。(H,I) KOマウスではヘッジホッグの標的遺伝子の発現上昇が見られる。SufuはWAT分化を抑制しBATには関与しないシグナル分子。
補足図4 
図5A B, ヘッジホッグシグナルの活性化はWAT 由来のstromal vascular cell (SVC)を抑制したが、BAT由来のSVCの分化は全く抑制しなかった。(CD) WAT由来前駆細胞はヘッジホッグシグナルが亢進し、WATの分化マーカーが減少していた。
図5E, F  Sufu flox/floxから単離したWAT 由来のstromal vascular cell (SVC)、BAT由来のSVCにCre-recombinaseのアデノウィルスを感染させての分化実験。SufuはHedgehog 抑制。

図6A, B 3T3-L1細胞 ヘッジホッグ活性化はproadipogenic factorの抑制を引き起こした。逆にanti-adipogenic因子(COUP-TFII、NCor2, Hes1, Pewf1, Jag1)はup-regulateした。
(C,D) マスターレギュレータの発現はC/EBPαを除いてヘッジホッグ活性化によって抑制される方向。Ddit3= CHOP
E,F ルシフェラーゼアッセイ、ChIP PCRアッセイからそれらのプロモータにGli-結合サイトが認められ、機能的であることが示された。

図7 aP2 Sufu-KOは耐糖能やインスリン感受性に異常を認めない。
A, B glucose tolerance test,  B glucose infusion rate (GI). C、グルコース取り込み試験ではKOマウスが脂肪細胞でより取り込んでいた。(D) レプチン値は75% KOマウスで減弱していたもののアディポネクチンはむしろ上昇していた。(E)初代培養系でも同様の結果。(F) indirect calorimetryの実験では酸素消費量と呼吸商に変化はなかった。しかし、行動量は減少していた(上から三段)。(G) 有意さはないが、低体温傾向→行動量が減って、この分体温や基礎代謝にエネルギー消費が向けられた。(H) UCP1遺伝子発現はKOで上昇。補足図7I) 30℃で飼育すると2群ともに摂餌量は減少し、体温も全く同等となった。
   脂肪負荷試験でも差が認められず(補足図7H)。


補足説明
3T3-L1前駆脂肪細胞の分化系でhedgehog activator Smoothened AGonist (SAG) は分化を完全に抑制した。
D. melanogaster, 黄色ショウジョウバエ

WATは中性脂肪の主たる貯蔵組織、BATはミトコンドリアでの酸化的リン酸化を脱共役(uncouple)することで脂肪を熱に燃やす組織。
人にもBATが存在することが近年明らかとなった。BMIに相関。
BATはそのままで、WATのみが萎縮したことから、この2つは異なる前駆体から由来することが示唆される。
aP2-SufuKo miceはWAT萎縮でかつBATは正常である初めてのマウス。インスリン感受性と糖代謝は正常。
注)脂肪細胞萎縮症lipodystrophyは高度のインスリン抵抗性、糖代謝異常、高中性脂肪血症などメタボリックシンドロームと同様の症状を呈する。これはレプチン注によって改善される。