2010年1月13日

HnRNP proteins controlled by c-Myc deregulate pyruvate kinase mRNA splicing in cancer

Nature e-pub
HnRNP proteins controlled by c-Myc deregulate pyruvate kinase mRNA splicing in cancer
Charles J. David, Mo Chen, Marcela Assanah, Peter Canoll & James L. Manley

正常細胞では酸素下で、TCA回路と電子伝達系における酸化的リン酸化によってグルコースから効率的にエネルギー(ATP)を産生しており、酸素がない状態では、細胞質にある嫌気性解糖系(グルコースを嫌気的に分解して乳酸を生成する代謝系)によってエネルギー(ATP)を産生する。一方、多くの癌細胞では、正常細胞に比べて高速にグルコースを取り込むが、酸素下でも酸化的リン酸化は減少し、好気的解糖aerobic glycolysisを行う。この代謝形態の変化は発見者に因んでWarburg effectと呼ばれており、ピルビン酸キナーゼ(PKM)のアイソフォームの違いにより制御されている。
PKM pre-mRNA からは、mutually exclusive alternative splicingによりexon 9を含むPKM1とexon 10を含むPKM2のアイソフォームが作られる(Fig.1a)。adult isoformであるPKM1に対して、PKM2はembryonic isoformであり癌細胞で発現が見られる。癌細胞のPKM2をPKM1へ変換することにより顕著に増殖が抑制されることからも、癌細胞の増殖におけるPKM2の重要性が示されるが、PKM1からPKM2への変換のメカニズムはわかっていない。
著者らは、PKMのexon9近接配列に結合しexon10のinclusion(すなわちPKM2の生成)に働くRNA結合タンパク質としてPTB, hnRNPA1, hnRNPA2を同定した。c-MycによりPTB, hnRNPA1, hnRNPA2の発現量は増加し、PKM2/PKM1比も上昇した。ヒト神経膠腫の発現プロファイルを見ると、c-Myc, PTB, hnRNPA1, hnRNPA2の発現とPKM2の発現が相関していることがわかった。以上よりRNA結合タンパク質によるオルタナティブスプライシング調節が、腫瘍の増殖に重要であることが示された。

Fig. 1(b)exon 9の5'ss付近、exon 10の5'ss付近の配列のRNA(RI標識)を合成し、核抽出液(NE)と混ぜてUV-crosslinkした後にSDS-PAGE。RI標識されているタンパクが結合タンパク。EI9でのみ津用意結合がみられた。(c)EI9の結合配列(19nt)のビオチン化RNAを合成しstreptavidin agarose beadsと結合後、NEと混ぜIPした。EI9に結合するタンパクとしてhnRNPA1, hnRNPA2をMSにより同定した。(d)EI9にはhnRNPA1のconsensus配列であるTAGGGが含まれていた。この配列にmutation(TAGGG→TACGG)を入れると、結合タンパク量が著しく減少した。Supp. Fig.4&5 mutation(TAGGG→TACGG)によりexon9のスプライシングが増えることがin vitro splicing assayおよびin vivo splicingで明らかになった。すなわち、この配列を介してexon 9のスプライシングが抑制されていることがわかった。(e)exon 9, exon 10の上流のpolypyrimidine tractについても、結合タンパクがあるかどうか、RI標識RNAを用いたcrosslinkにより調べた。その結果、exon 9上流(I8)に強く結合する55kDaのタンパクがあることがわかった。I8にはPTBの結合配列UCUUCがあり、PTBはスプライシングリプレッサーとして働くことが知られている。I8 RNAと結合するタンパクを抗PTB抗体を用いてIPすると、それがPTBであることがわかった。(f)UCUUC→UGUUCのmutationでPTBの結合が顕著になくなることから、E9のpolypyrimidine tractにPTBが特異的に結合していることがわかる。

Fig.2 hnRNPA1, hnRNPA2(U1 snRNAとoverlap)およびPTB(polypyrimidine tract)の結合配列部位がE9 inclusionに必要なエレメントと重なることから、これらのタンパクの結合はE9 inclusionを阻害するものと考えられる。そこで、hnRNPA1, hnRNPA2, PTBをsiRNAにより発現抑制したときのPKM mRNAのisoformをRT-PCRにより調べた(HeLa細胞)。(c)hnRNPA1, hnRNPA2のRNAiにより、PKM1の割合が2%から9%に増え、PKM2の割合は減った。PTBのRNAiでは、PKM1の割合が2%から16%に増えた。さらに3種ともRNAiすると、PKM1の割合が2%から48%まで増えた。他にHEK, MCF-7, U87でも同様の傾向が見られた。またcancer-associated splicing factorであるSRタンパクのASF, SRp20は、ノックダウンすると細胞増殖の低下が見られるが、PKMのスプライシングにはあまり変化がなかった。このことから、hnRNPA1, hnRNPA2, PTBに特異的なスプライシング変化であると考えられる。

Fig.3 (a)次に、hnRNPA1, hnRNPA2, PTBの発現量がPKMのオルタナティブスプライシングと相関しているかどうか調べた。Mouse myoblastのcell lineであるC2C12は分化させると(増殖から休止モデル)PKM2からPKM1へのswitchingが見られる。(b)このときのタンパク発現を見ると、PTBはday 3で70%以上の発現減少が見られ、hnRNPA1は50%程度の減少が見られた。(c)ヒト神経膠腫サンプルでも、PKM isoformとhnRNPA1, hnRNPA2, PTBタンパク発現量の相関が見られた。

Fig.4 細胞増殖とPKM2発現が強く相関していることから、hnRNPA1, hnRNPA2, PTBの発現も、細胞増殖における調節機構の制御を受けていると考えられる。C-mycはhnRNPA1, hnRNPA2, PTBのプロモーターに結合することが報告されており、c-mycによるその発現機構を調べた。C-mycのshRNAを発現するstable cell line(NIH-3T3)を作成し、タンパク発現を調べると、c-mycを発現抑制すると、PTB, hnRNPA1, hnRNPA2の発現が顕著に減少することがわかった。また、c-myc shRNA発現cell lineでは、PKM1 mRNAの割合が7%から33%へ増加することがわかった。(Supp. Fig.13 )hnRNPA1のプロモーターアッセイを行うと(HeLa細胞)、c-mycのdose-dependent, binding site-dependentなluciferase活性が見られた。