2010年1月13日

Reprogramming towards pluripotency requires AID-dependent DNA demethylation

Reprogramming towards pluripotency requires AID-dependent DNA demethylation
Nidhi Bhutani, Jennifer J. Brady, Mara Damian, Alessandra Sacco, Stéphane Y. Corbel  &  Helen M. Blau
Nature advance online publication 21 December 2009

iPS細胞誘導における体細胞核のリプログラミングによって、再生医療のための個人の幹細胞からの誘導が可能となる。しかしながら、iPS細胞作製は、タイミングがまちまちで、2~3週間と時間がかかるだけでなく、0.1%と確率が低く、また、DNA脱メチル化というボトルネックも存在する。そこで、リプログラミングに関わる制御メカニズムを明らかにするため、我々は、異種間のヘテロカリオン(異核共存体)すなはち、マウスES細胞とヒト線維芽細胞の融合体を作製し、リプログラミング誘導を同時的、高確率に、かつ迅速に行った。ヘテロカリオンにおける多能性へのリプログラミングは、細胞分裂やDNA複製なしに、1日の間に70%の高確率で開始されることを示している。さらに、siRNAによるノックダウンによって、AID(あるいはAICDAともいう)が、プロモーターの脱メチル化とOCT4(POU5F1ともいう)およびNANOG遺伝子の発現に必要であることが示された。線維芽細胞では、AIDタンパクはメチル化で抑制されたOCT4やNANOGのプロモーターに結合していたが、ES細胞ではプロモーターは脱メチル化され、活性化状態にあり、AIDは結合していなかった。この結果は、哺乳類のAIDは積極的なDNA脱メチル化と体細胞から多能性への核リプログラミングの開始に必要であるという新しいエビデンスを提供している。


  • 核リプログラミングの分子メカニズムは明らかでないが、これは核移植が技術的に難しいことと、iPS細胞作製の効率が低いことによる。
  • 近年の研究では、終末分化した状態というのは、そこで固定されているわけでなく、変化させることが可能であり、すでにサイレンシングされた遺伝子を再度発現させることも可能であることが示されている。
  • 我々は、ヘテロカリオンでのリプログラミングが、DNAメチル化状態や元の組織の種類、核内の制御因子のバランスの影響を受けることを示してきた。また、ヘテロカリオンは、転写産物を種間で区別できるだけでなく、細胞分裂やDNA複製を経ないでリプログラミングさせることが可能である。
  • DNA脱メチル化は、iPS細胞作製において、不完全なリプログラミングへ導く障害となりうるが、哺乳類では、まだDNA脱メチル化酵素は見出されていない。AIDは、Zebrafishにおいて受精数時間後のDNA脱メチル化の関与しているとされてきたが、哺乳類においては、B細胞の抗体多様性の創出での役割の他、近年、生殖細胞でも検出されることがわかってきた。
  • 本研究では、積極的なDNA脱メチル化および、哺乳類の多能性への体細胞リプログラミングに果たすAIDの新しい役割を示している。

ヘテロカリオンにおける、効率的な多能性リプログラミング
マウスES細胞(GFP)・ヒト線維芽細胞(DsRed)→PEGを用いた細胞融合→FACSで濃縮
(Fig.1.)    ヘテロカリオン(異核共存体)では、細胞分裂やDNA複製は起こっていない。
d, e) Ki67染色→融合3日後で、98%のヘテロカリオンに細胞分裂が起こっていない
f, g) BrdUラベル→94%がDNA複製も起こっていない

    
(Fig.2.)    ヘテロカリオン1細胞でのヒト線維芽細胞の多能性遺伝子の経時的発現変化
  • 融合1日後より、ヒトOCT4およびNANOGの発現誘導がみられる(融合前の5~10倍以上)
  • ESの自己複製能維持に重要で、OCT4やNANOGの標的遺伝子であるESRRBやTDGF1は、2.5~3倍程度の誘導。SOX2はヒト線維芽細胞で誘導前より発現。
  • FACSで濃縮したヘテロカリオンの70%が、OCT4やNANOGを発現。
 
(Fig.3.)     テロカリオンでの多能性遺伝子のプロモーターの経時的脱メチル化
  • OCT4およびNANOGのプロモーター領域で、3日間の間に脱メチル化が進行している。
  • この脱メチル化は、積極的脱メチル化であり、細胞分裂やDNA複製を経ないものである。

(Fig.4.)    ヘテロカリオンでの多能性リプログラミング開始にはAID依存的なDNA脱メチル化が必要である。
  • siRNAでヒトAIDをタンパクレベルで88%、mRNAレベルで81%までノックダウン
  • マウスES細胞のAIDも80%程度抑制
  • AIDのノックダウンによって、ヘテロカリオンにおけるOCT4とNANOGの発現誘導が抑制された
  • プロモーター領域のCpG脱メチル化も、AIDのノックダウンで抑制された。
  • マウスES細胞にヒトAIDを強制発現させた場合、脱メチル化は増強されないが、ノックダウンの効果はrescueされる。

(Fig.5.) 多能性遺伝子プロモーターへのAIDの結合(クロマチン免疫沈降)
  • ヒト線維芽細胞では、AIDは、OCT4やNANOGのプロモーターに結合している。
  • マウスES細胞では、Oct4やNanogのプロモーターにはAIDの結合していない。未分化ES細胞では発現のないCdx2には結合している。

(Discussion)
  • 5メチルシトシンのDNAグリコシラーゼによるDNA脱メチル化は植物において証明されているが、チミンDNAグリコシラーゼであるTDGやMBD4などの哺乳類ホモログには同様の機能はないとされてる。
  • 一方、AIDやAPOBECファミリーなどシトシン脱アミノ酵素は、生殖前駆細胞や卵子、初期卵などで発現しており、in vitroでも5メチルシトシンの脱アミノ活性をもっている。
  • この脱アミノ活性は、DNA除去修復系で修復されるTGミスマッチとなり、理論的にはDNA複製なしにDNA脱メチル化が可能である。
  • Zebrafishの胚では、AIDは、MBD4やGADD45Aと3量体を形成し、シトシン脱アミノ化とMBD4による塩基除去に関わるとされている。GADD45Aには酵素活性がなく、除去修復系を介したDNA脱メチル化と遺伝子再活性化に関しては議論の分かれるところである。
  • AIDは同種間の細胞融合を行った場合には、2つの核を区別できないため、この異種間のヘテロカリオンを用いた解析が有用である。近年の同様の報告ではOCT4の脱メチル化が観察されたのみで、経時的な増加がみられていないが、これは、使用した細胞腫とヘテロカリオンの濃縮の方法が異なるためと考えられる。