2010年1月13日

Jumonji Modulates Polycomb Activity and Self-Renewal versus Differentiation of Stem Cells

担当 砂河
Jumonji Modulates Polycomb Activity and Self-Renewal versus Differentiation of Stem Cells

Xiaohua Shen,1 Woojin Kim,1 Yuko Fujiwara,1  Matthew D. Simon,5 Yingchun Liu,4  Matthew R. Mysliwiec,6
Guo-Cheng Yuan,4 Youngsook Lee,6  and Stuart H. Orkin1,2,3,*
1Department of Pediatric Oncology, Dana-Farber Cancer Institute, Children's Hospital, and Harvard Medical School
2Howard Hughes Medical Institute
3Harvard Stem Cell Institute
4Department of Biostatistics & Computational Biology, Dana-Farber Cancer Institute, and Harvard School of Public Health

Boston, MA 02115, USA
5Department of Molecular Biology, Massachusetts General Hospital, Boston, MA 02114, USA
6Department of Anatomy, School of Medicine and Public Health, University of Wisconsin, Madison, WI 53706, USA
【要旨】
Polycomb repressive complex 2 (PRC2)によるH3K27me3は、ES細胞における自己増殖と分化間のバランスを制御している。PRC2の活性と標的へのリクルートを制御するメカニズムはよく分かっていない。今回、我々は、JMJ (Jumonji or Jarid2)がPRC2と相互作用し、その活性を制御する因子であることを証明する。In vitroにおいてJMJは、JMJ -/- ES細胞におけるPRC2標的遺伝子のH3K27me3の増加と一致するようにPRC2のH3K27メチル化活性を阻害する。この結果とは矛盾するが、JMJは、PRC2の効率的な結合に必須である。このことは、JMJとPRC2の相互作用がH3K27me3の蓄積を微調整していることを示唆する。分化においてH3K27me3標的遺伝子の活性化と分化系列決定(lineage commitment)は、JMJ -/- ES細胞に於いて遅延する。JMJによるPolycomb complex活性の動的制御は、自己増殖と分化のバランスをとっている。このことは、細胞運命の遷移におけるクロマチン動態の関与を示すものである。

Fig 1. JMJは、PRC2と相互作用する。
A) 相互作用因子同定のスキーム
B) PRC2の相互作用概念図.。bfJMJによるproteomicsでMTF2由来ペプチドは、ほとんど見られない。同様に、bfMTFではJMJ由来ペプチドは全く見られなかった。→MTF2-PRC2及びJMJ-PRC2は独立した複合体?
C-E) 293T内における相互作用の確認。V5-MTF2、HA-JMJ、bfEed、bfEZH2を共発現。
F) 核抽出物のゲル濾過解析。3908kDa及び395DaのところにEZH2と共存。→JMJは、ES細胞内でPRC2分画内に存在している可能性がある。
G) ES細胞におけるPRC2と内在性JMJとの相互作用。JMJは、EZH2のSET domainを介してPRC2と相互作用する。bfEZH2 dSET : SET domain欠失変異体
H) ES細胞における内在性PRC2と内在性JMJまたは内在性RBP2 (Jarid1a)との相互作用。→RBP2ではなくJMJがPRC2との内在性の相互作用因子?
I-J) JMJは、ES細胞 (I)およびその他の細胞 (J)においてPRC2と相互作用する。

Fig 2. JMJは、H3K27me3と共局在する。
A) JMJ、EZH2、SUZ12、H3K27me3のChIP-qPCR。JMJのChIP-chip解析。JMJは、PRC2標的遺伝子のプロモーターに存在。JMJ : DNA結合能のあるARID/BRIGHT domainを持つ。
B-C) JMJ、bfJMJ及びH3K27me3標的遺伝子遺伝子(ChIP-chip/Affymetrix promoter array)のベン図。JMJの標的の98% (632/644)がH3K27me3標的遺伝子に一致。81-98%の遺伝子がEZH2、SUZ12、bfEEDの標的と一致 (C)。RBP2とH3K27me3の一致率は32%(195/606)。BioChIP-chip (bfJMJ)では、内在性JMJの97%と一致 ((B)、bfJMJ : 3695 genes)。H3K27me3、bfEZH1およびbfEZH2の標的遺伝子の80%以上と一致。
D) ChIP-qPCRによるChIP-chipの確認。
E) JMJの結合は、標的遺伝子のTSS近傍に分布する。
F) H3K27me3同様JMJの標的遺伝子は、発生分化制御にかかわる遺伝子が濃縮している。

Fig 3. JMJを含む複合体はH3K27me3メチル化活性を有する。
A) コアヒストンに対するbfJMJ複合体のヒストンメチル化活性。
B) 内在性JMJ複合体のヒストンメチル化活性。
C) ヒストンメチル化活性の基質特異性の検討。H3K27におけるメチル基の増加に伴い活性が低下。既報と一致。H3K27me3での活性は、H3K9に対する非特異的な活性。
D) 内在性JMJ複合体のヒストンメチル化活性。bfEZH2と同様。

Fig 4. JMJは、PRC2のヒストンメチル化活性を阻害する。
A) バキュロウイルス発現系を用いたJMJ-PRC2複合体の再構成。Colloidal Blueによる染色(Coomassie染色より5倍以上の感度)EZH2の1/4程度がJMJと結合。
B) HeLa細胞由来Oligonucleosomeに対するヒストンメチル化活性。JMJは用量依存的に内在性ヒストンメチル化活性を阻害する。
C) JMJは、用量依存的にH3K27me1及びme2に対するメチル化活性を阻害する。Chicken core histoneに対しても同様。
D) C末のJumonji domain及びC5HC2 domainは、JMJのPRC2阻害活性に必要ない。
E-F) Histone octamer (E)及びNucleosome (F)を基質にしたPRC2阻害活性の検討。JMJは、H3K27me1、me2に対するPRC2活性だけでなくme0も阻害。

Fig 5. Jmj -/- ES細胞の特性解析
A-C) JMJのknockoutによりJMJのPRC2標的配列への結合が消失。Ezh2 -/-およびEed -/-でも同様。Jmj -/- ES細胞 (多能性マーカー遺伝子の発現 : 正常。増殖 : 野生型ES細胞と同レベル)
D) Jmj -/- ES細胞ではPRC2標的領域におけるH3K27me3の増加 (H3K27me3のChIP-qPCR)。Global Levelでは変化なし。
E) 野生型ES細胞と比較してJmj -/- ES細胞で発現が低下している遺伝子にH3K27me3標的遺伝子は濃縮している。GSEAによる解析。
F-H) Jmj -/- ES細胞では、EZH2、SUZ12およびEEDのPRC2標的遺伝子への結合が低下。
I) JMJは、PRC2のヒストンメチル化活性を阻害する一方でクロマチンへの結合を促進することでH3K27me3レベルの微調整因子として機能している。

Fig 6. JMJは、ES細胞の分化にとって必要である
A-B) LIFの除去による分化誘導時における遺伝子発現解析。H3K27me3標的遺伝子の活性化が野生型に比して遅延している。同様に、神経前駆細胞や中内胚葉で発現上昇する遺伝子も遅延。
C) Jmj -/- 、Ezh2 -/- 、Eed -/- ES細胞におけるRT-qPCRによる時系列な発現解析。野生型ES細胞と比較してOct4を含むES特異的遺伝子の維持がJmj -/- ES細胞で見られる。原始外胚葉のマーカー遺伝子の遺伝子であるFgf5の発現ピークの遅延 (原始外胚葉期の延長)。Ezh2 -/- 、Eed -/- ES細胞では、急激な発現上昇と消失を示す。原始外胚葉期の延長と相関するようにJmj -/- ES細胞において初期中内胚葉のマーカーであるTの発現ピーク遅延。中胚葉マーカーであるSp5、Bmp4、Hoxa1でも同様。EMTマーカーのCD44は、Jmj -/- ES細胞では活性化されない。Ezh2 -/- 、Eed -/- ES細胞では活性化されるが維持されない。3胚葉すべてで発現する細胞周期制御遺伝子Ccnd2およびCdkn2aは、Ezh2 -/- 、Eed -/- ES細胞において著しく活性化されたのち低下し細胞周期の停止を起こす。Jmj -/- ES細胞では、D8まで著しく低い。Jmj -/- ES細胞は、分化シグナルに対して抵抗性を示す。

【結論】
JMJのES細胞における役割は、PRC2の活性を正及び負の両方に制御することによってPRC2標的遺伝子の多能性の維持及びES細胞らしさの維持と分化能を平衡状態にする微調整因子として機能しているのかもしれない(Fig 7)。