2010年1月28日

A Region of the Human HOXD Cluster that Confers Polycomb-Group Responsiveness

A Region of the Human HOXD Cluster that Confers Polycomb-Group Responsiveness
Woo CJ, Kharchenko PV, Daheron L, Park PJ, Kingston RE (2010) Cell vol. 140, p99-110

(Fig 1A) 今回使用した分化誘導の実験系。hESC→MSC→adipocyte、osteoblastの系。
(Fig S1) ESCはOCT4、SOX2、NONOG、TERTを発現。
(Fig 1B) Adipocyteでは脂肪の蓄積が、Osteoblastでは細長い形状でカルシウムの蓄積やアルカリホスファターゼ活性が見られる。

(Table S1) HOX遺伝子群に着目すると、ESCに比べてMSCではHOXA13、B1、D10、D12、D13の発現が抑制され、A4は発現が誘導される。
MSCがadipocyteに分化すると、HOXC10が誘導され、A9、A10、D1が抑制される。
OsteoblastではHOXA10、B2、B3が誘導され、A1が抑制される。

(Fig S2) BMI1、SUZ12、H3K27me3に対してChIPをし、4つのHOXクラスターに設計したタイリングアレイを用いて、分化に伴うクロマチンの変化を観察した。同じアレイを用いて、モノヌクレオソームのDNAをハイブリさせることで、MNase感受性サイトを検出した。
ショウジョウバエPREの例にならって、ヌクレオソームの占有率が低く、PcGタンパク質やH3K27me3の濃縮している領域を探索した結果、HOXD11とD12のintergenic領域に着目することにした。

(Fig 2A) MSCとadipocyteにおける、H3K27me3とBMI1、SUZ12を見た結果。
MSCではHOXD11とD12の境界領域にそれぞれのピークが見られた。これらのピークはadipocyteには見られない。
(Fig 2B) MNaseによるマッピングのデータ。この領域全体にわたって、統計的に有意に差が検出された。
HOXD11とD12の間は、PcGやH3K27meが濃縮しているだけでなく、分化に伴って、ヌクレオソームの占有に変化が生じる。
MSCでは低ヌクレオソーム、高H3K27me、PcG

(Fig S3) MNaseに対する感受性を調査した。
もしDNAがcompactedな構造であればMNaseに耐性であり、モノヌクレオソームのフラグメントは形成されない。結果として、MNaseに感受性があると評価されてしまう。
MNase処理後にサザンブロッティングを行った結果、MNase処理後にバンドが消失した。
(Fig 6) ChIPでも、hESC、adipocyte、osteoblastに比べて、H3の蓄積が少なかった。
これらの結果から、MSCのD11.12はH3の欠乏した、nucleaseに対してhypersensitiveな領域であると言える。

D11.12がヒトの培養細胞で抑制機能を持つか検討するために、ルシフェラーゼアッセイを開発した。
(Fig 3A) 使用したコンストラクトは、バックグラウンドレベルの最低限の発現を示すためのthymidine kinaseプロモーターにlucをつないだpLuc、activatorとして機能するYY1結合サイトを含んだYY1pLuc、さらに上流にD11.12をつないだD11.12。
(Fig 3B) YY1pLucではluc活性が上がるのに対し、D11.12ではその活性が抑制された。
(Fig3C) HOXD11とD12の間にある、他の領域(PcGの蓄積が無く、MNaseにhypersensitiveでない領域)を挿入しても、抑制効果はなかった。
(Fig3D) D11.12領域には2つの特徴があり、一つはYY1結合サイトのクラスターがあること、もう一つは種間で高度に保存されているということである。
YY1結合配列に変異を入れると、抑制効果は一部失われたが、YY1pLucまでは活性の回復は見られなかった。
D11.12の保存領域237bpを欠失させると、発現の回復がフルに見られた。
(Fig 3E) D11.12ではプロモーターにBMI1、SUZ12、H3K27me3が蓄積していた。pLucやYY1pLucでは蓄積無し。Lucのgene内では変化は無い。
mutD11.12ではBMI1の蓄積が見られなかった。K27me3も低かった。
conserved regionを欠失させると、BMI1、SUZ12、K27me3は検出できなくなった。
conserved regionはPRC1とPRC2の両方のリクルート、安定化に必要だと考えられる。

(Fig4A) BMI1とEEDに対するsiRNA-lentivirusの系を用いて、遺伝子の抑制を行った。発現抑制の確認をウエスタンで行った。
(TableS2) BMI1、EEDを抑制した時のHOX遺伝子群の発現量変化を調べたところ、HOXD11、12、13の発現が上昇し、HOXD1、4、10の発現は変化しなかった。
(Fig4B) よく知られているp16領域の発現も上昇していた。
(Fig4C) 遺伝子抑制した細胞でのLuc活性を見ると、YY1pLucに比べて2桁程度発現が上昇した。D11.12にはPcGによって抑制される配列が他に存在すると考えられる。
YY1の関与を見るために、YY1の結合分子、RYBPをノックダウンした。
Vimentinの発現が上昇したのに対し、p16は変化しなかった。HOXD11,12,13の発現が上昇した。Lucの発現はYY1pLuc以上にまで上昇した。
これらのことから、D11.12による発現抑制はPcGに依存していると結論づけた。

D11.12がゲノムに挿入されたあとでも機能するかを検討した。
(Fig5A) このコンストラクトには、インシュレーターとFRTサイトを導入してある。
(Fig5D) ゲノムに組み込んだ後も、BMI1、SUZ12、K27me3の濃縮が見られた。FRTを利用して、D11.12を抜いた細胞では、これらの濃縮は見られなかった。
(Fig5C)lucの発現量も、D11.12を除去すると上昇した。安定的にゲノムに挿入された場合にも、D11.12は抑制に必要であることがわかった。
D11.12の抑制機能が分化後も維持されるかについて見るために、MSC(+)、(-)をそれぞれ分化させて、Adi(+)、(-)とした。
(Fig5C) adipocyte特異的な遺伝子をRT-PCRで確認。(Fig5B)D11.12が存在する場合にLucの抑制が確認された。
Adi(+)ではBMI1、SUZ12、K27me3が濃縮しているのに対し、Adi(-)ではそれらは濃縮しない。
これらより、D11.12は分化を通して、抑制機能を維持している。
(Fig5C) Adi(+)でBMI1,EED,RYBPを抑制するとlucの発現が回復した。
BMI1を抑制すると、プロモーターやluc遺伝子へのBMI1の濃縮が失われた。
EED1を落とすと、BMI1とSUZ12の濃縮が完全に失われた。
RYBPを抑制すると、BMI1、SUZ12、K27me3の濃縮が完全に失われた。もしRYBPがPRC1 and/or 2の安定性に関与しているならば、この領域にPRC2がリクルートされなくなり、K27me3が減少したと説明できる。

(Table S1) HOXD10,12,13はESCで低発現しているが、MSCで発現が無くなり、adipocyteやosteoblastで発現回復する。
HOXD11はESCからずっと抑制されたままである。
(Fig6) 未分化のESではPcGがD11.12に濃縮していた。しかし、Fig2Bでは、MNaseに対するhypersensitivityは見られていない。
MSCに分化すると、BMI1、SUZ12、MNase感受性が上昇し、H3の濃縮が減少した。H3K27me3は高レベルに濃縮しているわけではない。
さらに分化すると、BMI1やSUZ12存在量は低くなり、H3K27me3マークは減少した。
結論としては、内在性のD11.12はPcGに占有されており、その程度は分化に伴って変化する。
YY1のChIPより、YY1はD11.12に存在して、PcGによる発現抑制に加担している。

まとめ
・D11.12はヒト細胞で最初に発見されたPcG responsive elementであり、ヌクレオソームがdepletedな領域である。
・D11.12による転写抑制は分化を通じて維持されており、その抑制には保存領域とYY1結合領域が必要である。