2009年11月アーカイブ

Intronic enhancers coordinate epithelial-specific
looping of the active CFTR locus
Christopher J. Otta, Neil P. Blackledgea,1,2, Jenny L. Kerschnera,1, Shih-Hsing Leira, Gregory E. Crawfordb,
Calvin U. Cottonc, and Ann Harrisa,3

<背景と目的>
筆者らは既に腸管上皮細胞においてCFTR遺伝子内で第1イントロン内にenhancerを報告してきた。また、このサイトにはHNF1が結合してenhancer活性をあげていることも報告している。
今回、新たにDNase hypersensitivity sitesのmapを作ることで新たなenhancer、また細胞特異的なenhancerを同定しようと試みた。

<実験手法>
DNase-chip
3C
ChIP
Reporter

<Fig.1>
DNase-chip
Cell line特異的なDNase hypersensitivity sitesを決定するためにDNase-chipを行った。
6種類の細胞を用いて189kb領域をカバーするtiling arrayで行った。
右側のグラフは相対的なCFTRの発現量を示す。
CFTRが発現していないskin fibroblastではDHSはほとんど検出されなかった。
Intron11と+15.6kb領域に共通したDHSが認められ、cell line特異的なDHSも検出された。

<Fig.2>
3C-qPCR
CFTRの遺伝子座に関して3C-qPCRを行った。Color barはDHSを示す。
Promoter部分をanchorとするprimer setを作成(それぞれDHS regionを含むHindIII fragment)
結果
CFTRが発現していないskin fibroblastではchromatin conformationを形成していない
これに対して、大腸がんのcell lineであるCaCO2とHT29、精巣上体であるEpididymis、気道上皮であるNHBEにおいては11intronと3'領域がpromoterと近接していることが示された。
11 intronとpromoterとの相互作用が最も強かったのはCaCO2であった。
様々なDHSに関して検討を行ったが、11 intronと3'region以外では近接関係は認められなかった。

<Fig.3>
CaCO2細胞を用いたluciferase reporter assay
既に報告のある1 intronをポジコン、10 intronをネガコンとして、11 intronと3' regionがenhancer活性があるかどうか確かめた。
方向に関係なく、11 intronには非常に強いenhancer活性があった。
3' regionには活性がなかった。

これら1 intronと11 intronと3' regionを組み合わせるとそれぞれ活性が上昇した。3つを組み合わせた時が最も活性が高かった。

<Fig.4>
ChIP-qPCR
CaCO2細胞を用いたHNF1とp300のChIP-qPCR
CFTR遺伝子座の様々なDHSにおいてChIP-qPCRを行うと、既に報告のあるI intronと今回見つけた11 intron領域においてHNF1とp300が共局在していた。
また、もうひとつのenhancer領域である3' regionではp300のみが濃縮されていた

<結論>
・    細胞特異的なDHSが存在する
・    CaCO2細胞においてはCFTR遺伝子内にenhancerがいくつか存在する
・    第1イントロン、第11イントロン、3'下流域
・    3Cを行うと、第11イントロンとpromoterは近接関係にある
・    Reporter assayを行うと、第11イントロンは既報の第1イントロンよりもはるかに活性が高かった
・    第11イントロンにはHNF1とp300が結合していた

An RNA code for the FOX2 splicing regulator revealed by mapping RNA-protein interactions in stem cells.

Yeo GW, Coufal NG, Liang TY, Peng GE, Fu XD, Gage FH.

Nat Struct Mol Biol. 2009 Feb;16(2):130-7. Epub 2009 Jan 11.

 

スプライシング因子であるFOXタンパク質の結合motifはGCAUGであり、ES細胞のオルタナティブエクソンの近傍にエンリッチされている。FOX1はES細胞に発現していないが、FOX2はES細胞に高発現しており、今回CLIP-seqを用いてヒトES細胞におけるFOX2の結合部位をゲノムワイドに同定した。

・FOX2のターゲットとしてヒト遺伝子の7%に当たる数千のRNAを同定した。

・FOX2結合部位はオルタナティブスプライシング部位の近傍で、種間で保存された部位にエンリッチされていた。(Fig.2、Fig.3)

・FOX2はオルタナティブエクソンのupstreamに結合するとexon exclusion(skip)に、オルタナティブエクソンのdowmstreamに結合するとexon inclusionに作用する傾向がある。(Fig.4)

・hESCsとfetal nueral stem cellsでは、FOX2によるターゲットのスプライシングパターンが異なり、細胞のcontextによってFOX2の働きが異なる。(Supp. Fig.7、Fig.5)

・FOX2のターゲットには多くのスプライシングファクターが含まれており、FOX2がスプライシングファクターの上流として作用している可能性がある。(Supp. Table1)

 

(Fig.1) CLIP-seqとはcross-linking immunopreciitation clupled with high-throughput sequencingのことで、UVによりタンパクと核酸をクロスリンクし、RNAを扱いやすい50-100ntに切断してから免疫沈降後、RNA-タンパク複合体をSDS-PAGEにより分離(目的のタンパクを分子量で分離)し、ニトロセルロース膜にトランスファー(タンパクに結合しているRNAだけを分離、非特異を除去)し、膜からRNAを回収してシークエンスする方法である。

 

Splicing factor SFRS1 recognizes a functionally diverse landscape of RNA transcripts.

Sanford JR, Wang X, Mort M, Vanduyn N, Cooper DN, Mooney SD, Edenberg HJ, Liu Y.

Genome Res. 2009 Mar;19(3):381-94. Epub 2008 Dec 30.

 

 SRタンパクであるSFRS1(ASF/SF2)のCLIP-seqをHEKを用いて行った。

・SFRS1のconsenseu motif (GAAGAA)を同定(Fig.2)。

・SFRS1の結合部位の73%はprotein coding gene, 26%はncRNA(Fig.3)

・ターゲットRNAはRNA processingに関わる遺伝子が多い(Fig.4)

・consensus配列はSFRS1結合exonに濃縮されている(Fig.6)。

・結合部位のlocationはexon-intron境界の20-41塩基のところに多い(Fig.7)。

・遺伝疾患におけるmutation部位がSFRS1結合配列の欠失であるものをHGMD(Human Gene Mutation Database)により同定(Fig.8)。

Molecular Cell 35, 755-768, September 25, 2009
Dynamic Interactions and Cooperative Functions of PGC-1a and MED1 in TRa-Mediated Activation of the Brown-Fat-Specific UCP-1 Gene
Wei Chen, Qiheng Yang, and Robert G. Roeder.  Laboratory of Biochemistry and Molecular Biology, The Rockefeller University, New York, NY 10021, USA 
イントロ:PGC-1alphaもMED1もそのLXXLLドメインと、核内受容体(特にTR)の
Activation Function 2 (AF2)-containing activation domainとの相互作用によって、
プロモーター領域に動員される。しかし、TRがPGC-1alphaとMED1をどのように使い分けているか不明であった。褐色脂肪組織で誘導されるUCP-1の上流220 bpには、核内受容体が結合するEnhancer領域が知られているので、これをモデルとして、TRがPGC-1alphaとMED1に結合する様子を詳細に検討した。
図1.MEFをinsulin, PPAR gamma agonist, T3でadipocyteに分化させ、RA for 18 hrs, 8-Br-cAMP for 6 hrsで刺激してUCP-1を誘導する実験系を用いて、MED1 (C-side) はUCP-1の誘導に必要で有ることを示した。さらに、MED1 もPGC-1a も脂肪細胞の分化においてUCP-1 のEnhancerへ同時に動員されていることがChIPによって判った。
図2.UCP-1のenhancer領域をビーズに結合しておき、結合する蛋白を回収するというImmobilized template assayによって、UCP-1 promoterに二つある結合可能部位のうち、TRE/DR3 がTRa-RXRa の動員に必要であることが判った。そこで、MED1 もPGC-1a も脂肪細胞の分化においてUCP-1 のEnhancerへ同時に動員されていることを確認するため、Flag-tagged蛋白と、GST-fusion蛋白を作成した。
図3.Standard recruitment assayによって、PGC-1aは、TRa-RXRa and
T3-dependent manneでUCP-1 enhancer に動員されることを示した。さらに、PGC-1a もMED1もともにリガンド依存性にUCP-1 Enhancer へ別々に動員されていた。
MED1 全長と二つのLXXLLモチーフを含むMED1(580-701) 断片は、TRa-RXRa- and T3-dependent mannerでUCP-1 enhancer に動員される。LXXLLを含むMED1のC端を入れるとPGC-1aの結合は抑制された。実際にMED1のC端は、PGC-1aとTRa siteにおいて競合的に結合していた。しかし、LXXLLを含むMED1のC端ではなく、全長をいれると、PGC-1aの結合が逆に増加した。これはPGC-1aが他のモチーフでMED1-TRa-RXRaに結合していることを示唆していた。
図4.PGC-1aとの相互作用に必要なMED1のドメインを同定するため、GST-PGC-1a(551-797) fusion 蛋白をGSTビーズに固定し、35S-methionine-labeled MED1 断片との結合を観察した。一方、MED1との相互作用に必要な、PGC-1aのドメインも同定した。
図5.PGC-1a がそのLXLLを介したTRaのAF2との結合とは関係なくTRa- RXRa-UCP-1 enhancer complex に動員されていることを検討するため、Hisタグをつけた蛋白を精製した。MED1がないとき、PGC-1a(1-505) がT3依存性にTRa-RXRaによってUCP-1 Enhancerへ動員された。しかし、MED1のある時Full lengthのMED1があるとTR interaction domainを持たない、PGC-1a(334-797) とPGC-1a(501-797) までも動員された。これは、MED1があればPGC-1aはC端を介してMED1のC端に結合し、LXXLLは必要ないことを示す。
図6.PGC-1の動員はHel細胞から精製したMediatorの動員によって有意に促進された。LXLLを持たないPGC-1の動員もMediatorの動員によって促進された。
図7.PGC-1の相互作用のモデル。(i) an initial recruitment of PGC-1a through ligand-dependent interactions of LXXLL motifs with the AF2 domain of TRa.  (ii) subsequent recruitment of p300, with the possible participation of SRC-1 to initiate histone acetylation and other chromatin modifications that make the promoter more accessible to the general transcription machinery and the Mediator.  (iii) Interactions of the Mediator, through the LXXLL motifs in MED1, with the TRa AF2 domain and concomitant displacement of PGC-1a.  (iv) a PGC-1a transition involving displacement from TRa followed by retention on the enhancer complex through interactions of the PGC-1a RS/E domains with the C-terminal domain of MED1.  (v) a stimulatory effect of Mediator-bound PGC-1a on formation and/or function of the preinitiation complex at the promoter.
結論:核内受容体とこれら二つの蛋白の結合の様子が、クロマチンリモデリングから転写のinitiationにかけて変化する機構を解明した。

<Advanced reference on Mediator complex>
1)  Malik, S., and Roeder, R.G. (2005). Dynamic regulation of pol II transcription by
the mammalian Mediator complex. Trends Biochem. Sci. 30, 256-263.
2)  Structure of the Mediator subunit cyclin C and its implications for CDK8 function. 
J. Mol. Biol. 350, 833-842 (2005).
3)  A conserved Mediator hinge revealed in the structure of the MED7/MED21 heterodimer. 
J. Biol. Chem. 280, 18171-18178 (2005).
4) Structure and TBP binding of the Mediator head subcomplex Med8-Med18-Med20.
Nature Struct. Mol. Biol. 13, 895-901 (2006).

(和田洋一郎)

脂肪細胞分化と肥満に関するエピゲノムの論文がNature Japanに11月13日付けでとりあげられました。

一連の研究は脂肪細胞分化とともに、環境による影響を強く受ける生活習慣病発症にエピゲノム制御が関与するという大きな発見であり、更なる解明は我々一同の大きな目標となっております。

Nature Japan 特集記事:脂肪細胞の分化や肥満に関与するエピゲノムのしくみを解明!


参考論文

Obesity and metabolic syndrome in histone demethylase JHDM2a-deficient mice.
PubMed

The peroxisome proliferator-activated receptor gamma/retinoid X receptor alpha heterodimer targets the histone modification enzyme PR-Set7/Setd8 gene and regulates adipogenesis through a positive feedback loop.
PubMed

COUP-TFII acts downstream of Wnt/beta-catenin signal to silence PPARgamma gene expression and repress adipogenesis.
PubMed

Nature Japan 著者インタビュー:南 敬 准教授

Nature Japan の著者インタビューにて、血管システム分野の南敬准教授が紹介されました。

2009年6月25日号にNature誌に掲載された、ダウン症候群の腫瘍増殖抑制とDSCR1の役割に関する論文についてのインタビューです。

2009年8月10日 LSBMニュース記事

PubMed
Journal Website (Nature誌)

大血管の内皮細胞におけるGATA3の重要な役割

LSBM血管グループの大学院生 Song らは、血管内皮細胞に発現する GATA 転写因子GATA2, 3, 6 のうち、微小血管内皮では GATA2 のみが発現するのに対し、大血管では GATA3 が最も強く発現していること、GATA3 siRNA から GATA3 によってTie2 の発現が担われていることを見出した。 GATA3 が内皮におけるAngiopoietin-Tie2 シグナルを介した遊走、炎症阻害、アポトーシス阻害に寄与していることを報告した。

Song H, Suehiro J, Kanki Y, Kawai Y, Inoue K, Daida H, Yano K, Ohhashi T, Oettgen P, Aird WC, Kodama T, Minami T.
Critical role for GATA3 in mediating Tie2 expression and function in large vessel endothelial cells.
J Biol Chem. 2009 Oct 16;284(42):29109-24. Epub 2009 Aug 12.

PubMed

10/13日付で掲載されたPNAS誌の転写の波の論文が、最近の重要な発見として11/13日付サイエンス誌のEditors' choiceにて取り上げられることになりました。

今回の報告は、転写メカニズムという根源的な生命現象に関わる発見であり、その理解に新たな一ページを書き加えたことを評価していただけたことが、研究者一同にとって大きな励みになっております。

Editors' Choice (Science誌)

2009年10月14日 LSBMニュース記事

Journal website (PNAS誌 OPEN ACCESS ARTICLE)

PubMed

自然免疫応答の万能監視役を発見

自然免疫応答では核酸を認識する機構が働いています。このたび、東京大学医学部免疫学研究室の谷口維紹教授らの研究グループとの共同研究で核酸を介する自然免疫応答における万能の監視役として働くタンパク質を同定し、Nature 462, 99-103 (11月5日号) に掲載されました。

質量分析計をもちいたタンパク質の同定は東京大学先端科学技術研究センターで行い、機能解析は谷口教授らのグループにより行われました。 同定されたタンパク質は、HMGB (high-mobility group box)1-3であり、そのタンパク質のノックアウトマウス細胞およびノックダウン細胞では、さまざまな免疫応答が低下していることが明確に示されています。 HMGBが認識する核酸の特異性が低いにもかかわらず、結合の後に起こる核酸認識受容体の活性化に選択性が見られることから、この経路は万能の核酸認識機構であると考えられ、免疫応答活性化における階層構造の存在を示唆しています。 HMGBが免疫学的疾患の治療ターゲットとして期待されます。

PubMed

Journa website (Nature.com)

Inter-MAR Association Contributes to Transcriptionally Active Looping Events in Human b-globin Gene Cluster

Li Wang, Li-Jun Di, Xiang Lv, Wei Zheng, Zheng Xue, Zhi-Chen Guo, De-Pei Liu*, Chi-Chuan Liang

National Laboratory of Medical Molecular Biology, Institute of Basic Medical Sciences, Chinese Academy of Medical Sciences (CAMS) and Peking Union Medical College

(PUMC), Beijing, People's Republic of China

 

Abstract

マトリックス結合領域 (MARs) はクロマチン構成および遺伝子制御において重要な役割を有している。b-globin遺伝子クラスターにはいくつかのMARエレメントが存在しているが、これらのMARエレメントがどの様にしてb-globin遺伝子発現の制御に関与するかは不明である。この論文では、ヒトb-globin遺伝子クラスターのLCRに新規のMARエレメントを同定し、b-globin遺伝子クラスター中のMAR間相互作用えお同定している。また、いくつかの遺伝子座において高次クロマチン構造様のネットワークを形成すると考えられているSATB1が特定のMARsに結合することでb-globin特異的なMAR間相互作用に関与していることを証明する。SATB1のノックダウンによりMARsへのSATB1の結合およびMAR間相互作用頻度が顕著に減少する。結果として、ACHの確立およびa-like globinとb-like globin遺伝子発現が影響を受ける。まとめとして、SATB1は少なくとも高次クロマチン構造への影響を介してhemoglobin遺伝子、とりわけ初期分化遺伝子の制御因子であることが示唆される。

 

図1. MARHS2と相互作用するクロマチンフラグメントの同定とSATB1結合アッセイ。

A: b-globin遺伝子クラスターの模式図。縦線はHidIII消化部位。矢印は3C用プライマー。No.1: 263521, No.2: MARHS4, No.3: MARHS2, No.4: MARe, No.5: 223527, No.6: 222228, No.7: MARg, No.8: 200386。横線はChIP用プライマー。

B: QACTアッセイによるクロマチンフラグメントの捕獲頻度。MARHS2をリーダーフラグメントとして相互作用するクロマチンフラグメントを同定。

C: SATB1のChIP assay。

 

図2. 未分化およびヘミン処理K562細胞を用いた3C assay.

リーダーフラグメントをA: MARHS4, B: MARHS2, C: MARgとして実施。

D: b-like globin遺伝子発現に及ぼすヘミン処理の影響

 

図3. SATB1介在性のMAR間相互作用

A: SATB1のChIPアッセイ。B: ChIP-3Cアッセイ。

図4. SATB1のb-globin遺伝子座のクロマチン構造に及ぼす影響

A: SATB1ノックダウン後のSATB1の発現。

B: SATB1ノックダウン後の細胞におけるe-, g-, b-, a-, およびz-globin遺伝子発現。

C: e-およびg-globin遺伝子発現のreal-time PCR。

D: MAR間相互作用に及ぼすSATB1ノックダウンの影響。3C

E: SATB1のChIPアッセイ。

F: HS2とe-, g-,およびb-globinプロモーター間の3Cアッセイ。

 

図5. ヘミン処理後のSATB1の発現および修飾。

A: SATB1のRT-PCR。B: ウェスタンブロット。C: SATB1のアセチル化。

 

図6. 中期におけるb-globin遺伝子クラスターのMARsへのSATB1の結合

A: SATB1, B: H3Ac, CRNPのChIPアッセイ。As: 非同期。s: 同期(G2/M期)。

The nuclear envelope and transcriptional control

The nuclear envelope and transcriptional control

Nuclear envelopeは単に核を構成しているだけではない。
積極的にクロマチンや転写因子、その他の因子と相互作用することで、遺伝子発現を制御していることが最近分かってきている。

Fig.1
Heterochromatin in mammalian and yeast cells is distinct from nuclear pores.
A,B
Mammalianのliver nucleusの電子顕微鏡写真
heterochromatin領域は核膜の内側に集まっており、nuclear poresとは位置が重ならない。

C: yeast
HeterochromatinのマーカーであるEsc1 (enhancer of silent chromatin 1; labelled green)と、nuclear poresのマーカーであるNup49 (nucleoporin 49)との共染色。お互いに重ならないのが分かる。

D,E
電子顕微鏡写真。黒いドットはmycタグのついたEsc1。矢印はnuclear poresを示す。

Fig.2
The nuclear periphery in metazoans and yeast.
真核生物では核はinnerとouterの2重膜によって細胞質とは隔てられている。この2重膜に埋め込まれる形で核膜孔(nuclear pores)が存在する。核膜孔はおよそ30のタンパク質から成るNPC (Nuclear Pore Complex)という複合体である。

A: yeast
Esc1はinner membraneと相互作用し、核膜の内側に存在する。ただし、nuclear poresとは共在しない。また、heterochromatin構成タンパク質であるSir4と相互作用してheterochromatin形成を担う。

B: metazoan
Inner membraneはlaminとその相互作用タンパク質であるlamin associated proteinsに裏打ちされている。これらはinactive chromatinと相互作用することが知られている。ただし、最近の報告では遺伝子発現において抑制的な作用だけではなく、活性化にも寄与していることが分かってきた。

Fig.3
Yeastでは、nup133遺伝子にmutationを加えると、nuclear poresが核内の一方向に偏る。これはtelomereの位置に影響を与えない、つまりtelomereの位置はnuclear poresとは無関係に決定されている。

Fig.4
転写とカップルしたRNA exportがNPC近傍で起こっているモデル図。
NPCは直接的に、また間接的にも転写を制御している。
全ての遺伝子がこのモデルに従うわけではないが、発現量のfine-tuningが必要ないくつかの遺伝子はこのモデルに従う。

Nup1と相互作用するSus1は、chromatin remodeling因子であるSAGA complexに含まれ、またmRNA exportに関与するTREX complexにも含まれる。
Nup2はactive geneのpromoterと相互作用することでactive geneをNPCに引き寄せる
Mlp1 (NPC associating protein)はmRNAの3'UTRと相互作用することでRNA exportに関与する。
つまり、NPC-tethering of an initiation complexと、mRNA processing complex (associated with the 3'UTR)を同時に行うモデルにおいて、遺伝子発現量のfine-tuningを行っている。
不良品のRNAが生成された際には、すぐに転写をactivateできるように一つのシステムとなっている。
また、Nup2はH2A.Zとも相互作用する。

こういったシステムはflyではちょうど2倍の発現量が必要となるdosage compensationの際には重要であることが示されている。

 Regulation of the Histone Demethylase JMJD1A by HIF-1α Enhances Hypoxic Gene Expression and Tumor Growth.
Adam J. Krieg1, Erinn B. Rankin1, Denise Chan1, Olga Razorenova1, Sully
Fernandez2, Amato J. Giaccia1
Division of Radiation and Cancer Biology, Department of Radiation Oncology,
Center for Clinical Sciences Research, Department of Radiation Oncology,
2 University of Pennsylvania School of Medicine, Philadelphia,
MCB Accepts, published online ahead of print on 26 October 2009

Abstract
JMJD1a,JMJD2b,JARID1Bは低酸素下においてHIF1のターゲットであることが最近報告されたが、これはHIF1がヒストン修飾を介して間接的に遺伝子発現を制御していることを示唆している。本研究では腎臓癌および大腸癌の培養細胞を用いてJMJD1a依存的に低酸素下で発現が上昇する遺伝子群を見出した。JMJD1aはADM(adrenomedullin)およびGDF15(growth and differentiation factor 15)のプロモーター領域のヒストンメチル化を減少させることにより遺伝子発現を制御している。さらに、JMJD1aをノックダウンさせると、腫瘍内微小血管環境において腫瘍の進展を抑制させることをin vivoで示した。このことから低酸素下におけるJMJD1aの制御は腫瘍進展を増強させることを目的とした低酸素下誘導遺伝子群の発現にかかわることが示された。

Methods and materials
0.5% hypoxia 20hours
ChIP-ChIP analysis; NimbleGen tiled promoter array (23000 promoter regions in the human genome)
Microarray analysis; Stanford Human Exonic Evidence Based Oligo arrays (HEEBO) (31000 unique genes and 8500 alternative transcripts)

Results
Fig.1A ChIP-chipによりRCC4 (clear-cell renal cell carcinoma) cell-lineにおいてJMJD1aがHIF1のtarget geneであることを確認した。
Fig.1B HIF1のターゲットとして知られている遺伝子VEGF, PFKFB3, STC2,もこれらのpromoter領域にHIF1が結合することがCHIP-PCRで確認された。Jumonji-domain containing proteinではJMJD1aのほかJMJD2bもまた、H3K9me2,H3K9me3をH3K9me1まで脱メチル化する酵素であり、低酸素下においてHIF1の結合することが確認された。HIF1, HIF2ともにJMJD2bのpromoter領域に結合することが示された。
また、H3K4me3の脱メチル化酵素として知られているJARID1Bもまた低酸素下で誘導される遺伝子である。
Fig.1C,1D 上記遺伝子の低酸素経時的変化において遺伝子発現量が24時間までに変化する様子をfold changeを縦軸にとりグラフにした。

Fig.2A HIF1alpha欠損マウスのMEFを使って、wild typeと比較したときに低酸素下ではこれらの脱メチル化酵素(JMJD1a,JMJD2b,JARID1b)が誘導されなくなることを示した。
Fig.2B HCT116(大腸癌細胞株)、MCF-7(乳がん細胞株)でもJMJD1a,JMJD2b, VEGFは低酸素下で誘導されることを確認した。
Fig.2C siRNAによりHIF1,HIF2,ARNTをノックダウンしたうえで低酸素刺激をするとRCC+VHL細胞株ではJMJD1aの発現量はHIF1,HIF2,ARNTをノックダウンしたときすべてで抑制されるが、MCF-7細胞株ではHIF1,ARNTをノックダウンしたときのみ抑制される。

Fig.3A, 3B microarrayでJMJD1aをsiRNAによりノックダウンしたうえで低酸素0.5%刺激をしたときに誘導される遺伝子群を同定した。Control siRNAのtransfectionにより低酸素で1.5倍以上誘導される遺伝子は821個、そのうち53個の遺伝子がJMJD1a依存的に低酸素で誘導された。これらの遺伝子群にはHIF1のターゲットとして知られているADM,EDN1,SERPINE1,PLAUR, HMOX1などが数多く含まれていた。残りの208個の遺伝子はcontrol siRNAでは誘導されなかったが、JMJD1aのノックダウンにより低酸素下における発現誘導が減少した遺伝子群である。
Fig.3C RT-PCRで確認
ADM,SERPINE1,HMOX1, EDN1はsiRNA of JMJD1a under hypoxiaで有意に誘導がかからなくなる
STC2, PFKFB3は有意差なし。
SERPINEB8, EDN2, GDF15は有意差はないが、低酸素下で誘導される傾向がある。このことから低酸素下でHIF1により誘導される遺伝子のすべてではないが、一部の遺伝子群はJMJD1a依存的に誘導されることが示された。

Fig.4A,4B HCT116細胞を用いてJMJD1aのノックダウンを行い、蛋白レベルでの低酸素下での発現減少を確認した。
Fig.4C, 4D  ADMとGDF15はJMJD1a依存的に低酸素下で発現が減少した。
Fig.4E さらに長期的なJMJD1aノックダウン実験のため、HCT116細胞にshRNAを用いて持続的に正常酸素下でもJMJD1aをノックダウンさせる細胞株を2ライン作製した。この2ラインにおいて、低酸素下ではnon-silencing control株と比較してJMJD1a,ADMはともに誘導が抑制された。

Fig.5A JMJD1aを持続的に発現抑制させた細胞株とcontrol株を用いて、低酸素下に4時間および16時間暴露し、H3K9me2,H3K9me1のメチル化レベルを測定した。これまでの報告ではH3K9me1,2を脱メチル化し、unmethylatedレベルにすることが知られているため、shRNAを用いた持続的JMJD1a抑制株ではターゲットのpromoter領域において、H3K9me2メチル化レベルが増加することが想定された。
H3K9me1,2,3抗体を用いてChIPを行い、ADMとGDF15のpromoter領域(転写開始点)から200bp下流に設計したPrimerを用いてRT-PCRによるChIP-PCRで確認した。IgGと比較してH3K9me1,2,3いずれもenrichmentが見られた。
Fig.5C. H3K9me2の16時間後低酸素下ではshJMJD1aがnon-silencing controlよりも2倍以上増加していた。
4回の独立した実験の平均結果から、ADMとGDF15においてH3K9me1,3レベルはshJMJD1aで変化はなく、H3K9me2のみpromoter領域においてメチル化レベルが増加した。低酸素下でJMJD1aの働きとは独立してG9aの活性によりrepressされることがすでに報告されているMLH1遺伝子のpromoter領域におけるメチル化レベルはH3K9me1,2,3ともに増加する傾向は認められたが有意差を認めなかった。
Fig.5D 実験間のばらつきが実験条件によって左右されやすいため、shJMJD1aのNon-Silencing Controlに対する比率の平均を計算した。これによりADMとGDF15では明らかに低酸素16時間および4時間後にH3K9me2の平均fold differenceが増加しているが、MLH1遺伝子では変化しないことがはっきり示された。

Fig.6 SCID miceにnon-silencing controlおよびshJMJD1aのHCT116細胞を持続的に皮下注したときの腫瘍進展を示した。
Fig.6A JMJD1aのノックダウンにより腫瘍進展が遅れた。
Fig.6B vitroでは2%低酸素下で培養したHCT116は成長が遅くなったが、JMJD1aをノックダウンするとその差はなくなった。
Fig.6C HIF1ノックアウトマウスから作製したHCT116細胞では低酸素下においてJMJD1aの発現上昇は認められなかった。
Fig.6D JMJD1aの持続的発現上昇はRCCでも認められ、正常腎臓と比較して腎がん細胞においては発現が上昇していた。

Fig.7 低酸素刺激に対してHIF1αを介したJMJD1aの発現上昇は、ADM,GDF15のH3K9me2レベルを増加させることにより腫瘍進展を促進させる効果を持つ。

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