2009年11月 4日

Regulation of the Histone Demethylase JMJD1A by HIF-1α Enhances Hypoxic Gene Expression and Tumor Growth.

 Regulation of the Histone Demethylase JMJD1A by HIF-1α Enhances Hypoxic Gene Expression and Tumor Growth.
Adam J. Krieg1, Erinn B. Rankin1, Denise Chan1, Olga Razorenova1, Sully
Fernandez2, Amato J. Giaccia1
Division of Radiation and Cancer Biology, Department of Radiation Oncology,
Center for Clinical Sciences Research, Department of Radiation Oncology,
2 University of Pennsylvania School of Medicine, Philadelphia,
MCB Accepts, published online ahead of print on 26 October 2009

Abstract
JMJD1a,JMJD2b,JARID1Bは低酸素下においてHIF1のターゲットであることが最近報告されたが、これはHIF1がヒストン修飾を介して間接的に遺伝子発現を制御していることを示唆している。本研究では腎臓癌および大腸癌の培養細胞を用いてJMJD1a依存的に低酸素下で発現が上昇する遺伝子群を見出した。JMJD1aはADM(adrenomedullin)およびGDF15(growth and differentiation factor 15)のプロモーター領域のヒストンメチル化を減少させることにより遺伝子発現を制御している。さらに、JMJD1aをノックダウンさせると、腫瘍内微小血管環境において腫瘍の進展を抑制させることをin vivoで示した。このことから低酸素下におけるJMJD1aの制御は腫瘍進展を増強させることを目的とした低酸素下誘導遺伝子群の発現にかかわることが示された。

Methods and materials
0.5% hypoxia 20hours
ChIP-ChIP analysis; NimbleGen tiled promoter array (23000 promoter regions in the human genome)
Microarray analysis; Stanford Human Exonic Evidence Based Oligo arrays (HEEBO) (31000 unique genes and 8500 alternative transcripts)

Results
Fig.1A ChIP-chipによりRCC4 (clear-cell renal cell carcinoma) cell-lineにおいてJMJD1aがHIF1のtarget geneであることを確認した。
Fig.1B HIF1のターゲットとして知られている遺伝子VEGF, PFKFB3, STC2,もこれらのpromoter領域にHIF1が結合することがCHIP-PCRで確認された。Jumonji-domain containing proteinではJMJD1aのほかJMJD2bもまた、H3K9me2,H3K9me3をH3K9me1まで脱メチル化する酵素であり、低酸素下においてHIF1の結合することが確認された。HIF1, HIF2ともにJMJD2bのpromoter領域に結合することが示された。
また、H3K4me3の脱メチル化酵素として知られているJARID1Bもまた低酸素下で誘導される遺伝子である。
Fig.1C,1D 上記遺伝子の低酸素経時的変化において遺伝子発現量が24時間までに変化する様子をfold changeを縦軸にとりグラフにした。

Fig.2A HIF1alpha欠損マウスのMEFを使って、wild typeと比較したときに低酸素下ではこれらの脱メチル化酵素(JMJD1a,JMJD2b,JARID1b)が誘導されなくなることを示した。
Fig.2B HCT116(大腸癌細胞株)、MCF-7(乳がん細胞株)でもJMJD1a,JMJD2b, VEGFは低酸素下で誘導されることを確認した。
Fig.2C siRNAによりHIF1,HIF2,ARNTをノックダウンしたうえで低酸素刺激をするとRCC+VHL細胞株ではJMJD1aの発現量はHIF1,HIF2,ARNTをノックダウンしたときすべてで抑制されるが、MCF-7細胞株ではHIF1,ARNTをノックダウンしたときのみ抑制される。

Fig.3A, 3B microarrayでJMJD1aをsiRNAによりノックダウンしたうえで低酸素0.5%刺激をしたときに誘導される遺伝子群を同定した。Control siRNAのtransfectionにより低酸素で1.5倍以上誘導される遺伝子は821個、そのうち53個の遺伝子がJMJD1a依存的に低酸素で誘導された。これらの遺伝子群にはHIF1のターゲットとして知られているADM,EDN1,SERPINE1,PLAUR, HMOX1などが数多く含まれていた。残りの208個の遺伝子はcontrol siRNAでは誘導されなかったが、JMJD1aのノックダウンにより低酸素下における発現誘導が減少した遺伝子群である。
Fig.3C RT-PCRで確認
ADM,SERPINE1,HMOX1, EDN1はsiRNA of JMJD1a under hypoxiaで有意に誘導がかからなくなる
STC2, PFKFB3は有意差なし。
SERPINEB8, EDN2, GDF15は有意差はないが、低酸素下で誘導される傾向がある。このことから低酸素下でHIF1により誘導される遺伝子のすべてではないが、一部の遺伝子群はJMJD1a依存的に誘導されることが示された。

Fig.4A,4B HCT116細胞を用いてJMJD1aのノックダウンを行い、蛋白レベルでの低酸素下での発現減少を確認した。
Fig.4C, 4D  ADMとGDF15はJMJD1a依存的に低酸素下で発現が減少した。
Fig.4E さらに長期的なJMJD1aノックダウン実験のため、HCT116細胞にshRNAを用いて持続的に正常酸素下でもJMJD1aをノックダウンさせる細胞株を2ライン作製した。この2ラインにおいて、低酸素下ではnon-silencing control株と比較してJMJD1a,ADMはともに誘導が抑制された。

Fig.5A JMJD1aを持続的に発現抑制させた細胞株とcontrol株を用いて、低酸素下に4時間および16時間暴露し、H3K9me2,H3K9me1のメチル化レベルを測定した。これまでの報告ではH3K9me1,2を脱メチル化し、unmethylatedレベルにすることが知られているため、shRNAを用いた持続的JMJD1a抑制株ではターゲットのpromoter領域において、H3K9me2メチル化レベルが増加することが想定された。
H3K9me1,2,3抗体を用いてChIPを行い、ADMとGDF15のpromoter領域(転写開始点)から200bp下流に設計したPrimerを用いてRT-PCRによるChIP-PCRで確認した。IgGと比較してH3K9me1,2,3いずれもenrichmentが見られた。
Fig.5C. H3K9me2の16時間後低酸素下ではshJMJD1aがnon-silencing controlよりも2倍以上増加していた。
4回の独立した実験の平均結果から、ADMとGDF15においてH3K9me1,3レベルはshJMJD1aで変化はなく、H3K9me2のみpromoter領域においてメチル化レベルが増加した。低酸素下でJMJD1aの働きとは独立してG9aの活性によりrepressされることがすでに報告されているMLH1遺伝子のpromoter領域におけるメチル化レベルはH3K9me1,2,3ともに増加する傾向は認められたが有意差を認めなかった。
Fig.5D 実験間のばらつきが実験条件によって左右されやすいため、shJMJD1aのNon-Silencing Controlに対する比率の平均を計算した。これによりADMとGDF15では明らかに低酸素16時間および4時間後にH3K9me2の平均fold differenceが増加しているが、MLH1遺伝子では変化しないことがはっきり示された。

Fig.6 SCID miceにnon-silencing controlおよびshJMJD1aのHCT116細胞を持続的に皮下注したときの腫瘍進展を示した。
Fig.6A JMJD1aのノックダウンにより腫瘍進展が遅れた。
Fig.6B vitroでは2%低酸素下で培養したHCT116は成長が遅くなったが、JMJD1aをノックダウンするとその差はなくなった。
Fig.6C HIF1ノックアウトマウスから作製したHCT116細胞では低酸素下においてJMJD1aの発現上昇は認められなかった。
Fig.6D JMJD1aの持続的発現上昇はRCCでも認められ、正常腎臓と比較して腎がん細胞においては発現が上昇していた。

Fig.7 低酸素刺激に対してHIF1αを介したJMJD1aの発現上昇は、ADM,GDF15のH3K9me2レベルを増加させることにより腫瘍進展を促進させる効果を持つ。