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このほど、東京大学先端科学研究センター(東京都目黒区駒場、中野義昭所長)システム生物医学分野の小林美佳研究員、神吉康晴特任助教、堤修一、和田洋一郎両特任准教授、油谷浩幸、児玉龍彦両教授、らの研究グループは、東京大学付属病院の興梠貴英特任助教、オックスフォード大学のCook博士、シンガポールゲノム研究所のRuan博士らのチームと共同で、NFkBを含み、miRNAホスト遺伝子群を同時に取り込む転写ファクトリーが存在することをことを明らかにした。本内容は2012年10月31日付でthe EMBO Journal電子版に"TNFa signals through specialized factories where responsive coding and miRNA genes are transcribed"と題して掲載された。

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従来研究チームが報告してきたマイクロアレイの結果は、TNFα刺激によって誘導される遺伝子群のみならず、抑制される遺伝子群も明らかにしていたが、それらの遺伝子制御機構については充分明らかにされていなかった。そこで、既報の転写"促進"ファクトリー(図1)と同様の転写複合体によって、miRNAホスト遺伝子とTNFα抑制遺伝子が同時に転写されることによって、産生されたmiRNAが効率的にターゲット遺伝子産物にアプローチすることができる転写"抑制"ファクトリーが存在するという仮説をたてた。

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実際、TNFαによって誘導されるMIR155と他のmiRNAホスト遺伝子の間にはRNA-FISHによって空間的近接関係が認められる(図2)。さらに、Chromatin conformation capture (3C)によって、TNFα応答性のMIR17, MIR 155, MIR 191の間には空間的相互作用があることが確認された(図3)。さらに、Circular 3C, Chromatin internaction analysis with paired end tag sequencing (ChIA-PET)によって、全ゲノム的にmiRNAホスト遺伝子間の相互作用が炎症性刺激を仲介する転写因子であるNFKb1(p65), 及びPol IIに依存性して生じる事がわかった(図4)。これは、転写"制御"ファクトリーの存在を示す知見であり、図5に示す様な新しいmiRNAの作動概念を示唆する結果となった。

なお、本研究は、オックスフォード大学、シンガポールゲノム研究所、及び大阪大学木村宏 博士との協力によって実施された。

PMID:23103767
Journal Website: EMBO
DOI:10.1038/emboj.2012.288

このほど、東京大学先端科学研究センター(東京都目黒区駒場、中野義昭所長)システム生物医学分野の三村維真理(現東大病院腎臓内科)、小林美佳、両研究員、児玉龍彦教授、和田洋一郎特任准教授の研究グループと東京大学付属病院の興梠貴英特任助教は、マウスの生体組織から直接クロマチン免液沈降を行う方法を開発し、組織におけるエピゲノム情報を解析することに成功した。マウスの心臓の発生過程において発現が胎児型から成体型に変化するミオシン重鎖の遺伝子発現変化を蛍光色の違いで識別できるマウスを開発していたノースカロライナ大学のKumar Pandya助教、Oliver Smithies教授と共同で、遺伝子発現変化にともなって実際にヒストン修飾が変化していることを証明した。

心臓におけるミオシン重鎖遺伝子は胎児型(α型)と成体型(β型)で異なっており、ゲノム上で隣接している別々の遺伝子(胎児型はMyh6、成体型はMyh7)から作られる(図1参照)。胎児型から成体型への発現のシフトは甲状腺ホルモンによって引き起こされる。実際、遺伝子の転写活性を反映するヒストン修飾の分布は、発生過程で胎児型遺伝子から成体型遺伝子へ移動する(図1上段)。しかし、甲状腺ホルモン阻害剤を使うと、活性型のヒストン修飾は胎児型ミオシン重鎖遺伝子上から動かなかった(図1中段)。しかしその後薬剤を中止したところ、活性型のヒストン修飾はきちんと成体型ミオシン重鎖遺伝子に移動することが確認され(図1下段)、このヒストン修飾分布の変化が発生過程において可逆的に制御されていることが明らかになった。

さらに、二つの遺伝子座の間にも活性型のヒストン修飾が見つかり、ここに未知のマイクロRNAの産生部位が存在すること、そしてこれが遺伝子発現調節メカニズムを解明する鍵となることを明らかにした。本内容は2012年6月付けでGene Expression誌に掲載された。

なお、本研究におけるヒストン修飾解析は大阪大学木村宏博士の協力によって実施された。

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Distribution of histone3 lysine 4 trimethylation at T3-responsive loci in the heart during reversible changes in gene expression.
Pandya K, Kohro T, Mimura I, Kobayashi M, Wada Y, Kodama T, Smithies O.
Gene Expr. 2012;15(4):183-98.

PMID: 22783727
Journal Website: Gene Expression
DOI: 10.3727/105221612X13372578119698

EBウィルスの感染は胃癌・リンパ腫など一部の悪性腫瘍の発生に密接に関与する。昨年12月には、(1)胃癌には低メチル化群、高メチル化群、超高メチル化群の3群が存在すること、(2)超高メチル化群はEBウィルス感染によって引き起こされること、を発表している(Matsusaka et al. Cancer Res 71:7187-97, 2011)。

今回、ゲノムサイエンス分野の金田篤志准教授、東大人体病理の松坂恵介助教らは、EBウィルス感染がエピジェネティック機構を介した発癌ドライバー事象である、という総説をまとめ、Cancer Res誌最新号に報告した(Kaneda et al. Cancer Res 72:3445-50, 2012)。

低メチル化細胞株にEBウィルスを感染させると再現性よく短期間にゲノム広範囲の異常メチル化を誘導しうる。また胃癌背景粘膜にはEBウィルス感染や超高メチル化の蓄積が認められない。わずか20-50日間と短期間でEBウィルス陽性胃癌が形成された症例報告がある。これらのことから、EBウィルスは胃粘膜上皮には稀にしか感染成立しない、あるいは稀でなかったとしてもメチル化誘導はめったに起きないと思われる。しかし一度メチル化誘導が起きる条件が整うと、広範囲の異常メチル化が短期間に誘導され、メチル化がある程度起きた発癌リスクの高い背景粘膜が形成されるのではなく、感染細胞が一気に癌を形成するものと思われる。その異常メチル化形成には、ホスト細胞が起こすウィルスゲノムのメチル化や、ヒストン修飾・3次元立体構造の変化などさまざまなエピジェネティックな要因がからんでいる可能性があり、この複雑なメチル化形成機構の解明がEBウィルス関連腫瘍を理解する鍵と思われる。

Atsushi Kaneda, Keisuke Matsusaka, Hiroyuki Aburatani, Masashi Fukayama. 
Epstein-barr virus infection as an epigenetic driver of tumorigenesis.
Cancer Res. 2012 Jul 15;72(14):3445-50. Epub 2012 Jul 3.

doi: 10.1158/0008-5472.CAN-11-3919
PMID: 22761333

 このほど、東京大学先端科学研究センター(東京都目黒区駒場、中野義昭所長)システム生物医学分野の三村維真理(みむら いまり)研究員(現、東京大学腎臓内分泌内科)と児玉龍彦教授、和田洋一郎特任准教授らの研究グループは転写因子HIF1A (Hypoxia inducible factor 1 alpha)が血管内皮細胞において低酸素環境でヒストン修飾酵素と協調的に下流の遺伝子発現を制御することを明らかにした。本内容は2012年5月29日付でMolecular and Cellular Biology (American society for microbiology)電子版に掲載された。

 転写因子HIF1Aは低酸素下においてDNAに結合して遺伝子の発現、細胞の性質を制御することが知られている。HIF1Aは正常酸素分圧下ではプロリルハイドロキシラーゼ(PHD: prolyl hydroxylase)により水酸化された後、ユビキチン化を受けて分解されるが、低酸素分圧下ではPHDが働けなくなるため分解をまぬかれてその機能を発揮する。近年、低酸素下においてjumonji-domainを含む一連のヒストン脱メチル化酵素群の発現が誘導されること、その一部はHIF1Aによって転写調節を受けることが報告されている。しかし、低酸素下における転写因子とヒストン脱メチル化酵素の間の相互作用については不明であった。そこで、今回は低酸素刺激によって内皮細胞で高度に誘導されるヒストン脱メチル化酵素であるKDM3Aに着目して、HIF1Aとの関係を検討した。

 まず、クロマチン免疫沈降と超高速シーケンサー(ChIP-Seq)を用いて、HIF1Aの結合部位を全ゲノム上で明らかにした(図1)。また、ヒストン脱メチル化酵素KDM3AとHIF1Aのノックダウンによるアレイ解析からその下流遺伝子群を同定した(図2)。

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 次に、HIF1AおよびKDM3A両者によって発現が制御される標的遺伝子SLC2A3(Solute carrier family2A3: GLUT3; glucose transporter 3)に着目した。SLC2A3はノックダウンすると低酸素下においてHUVECのtube formationおよび細胞内へのグルコースの取り込みが阻害されることから血管内皮細胞の維持において重要な役割を果たす遺伝子である。ChIP-seqによって低酸素下でSLC2A3遺伝子の転写開始点およびエンハンサー領域2か所の計3か所にHIF1Aが結合することが明らかとなったが、これら3か所が生体内のクロマチン構造上では立体的に近接していることをChromatin conformation capture(3C)法によって示した(図3)。

 上記で示された低酸素下におけるクロマチン立体構造の変化において、ヒストン修飾酵素であるKDM3Aの挙動を解析した。その結果、KDM3AはSLC2A3のHIF1A依存的にHIF1A結合部位と同じ場所にリクルートされており、その時HIF1AとKDM3Aは免疫沈降産物に共存していた。以上の結果に基づいて、今回の論文では低酸素下におけるHIF1AとKDM3Aによるクロマチン立体構造変化を含む新規の転写制御機構を見出したことを報告した(図4)。

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 本研究は、システム生物医学ラボラトリーのゲノムサイエンス部門、代謝医学部門、及び分子生物医学部門との共同作業、並びに大阪大学木村宏博士との協力によって実施された。

Dynamic change of the chromatin conformation in response to hypoxia enhances the expression of GLUT3 (SLC2A3) by cooperative interaction of HIF1 and KDM3A.

Mimura I, Nangaku M, Kanki Y, Tsutsumi S, Inoue T, Kohro T, Yamamoto S, Fujita T, Shimamura T, Suehiro JI, Taguchi A, Kobayashi M, Tanimura K, Inagaki T, Tanaka T, Hamakubo T, Sakai J, Aburatani H, Kodama T, Wada Y.
Mol Cell Biol. 2012 May 29. [Epub ahead of print]






  • 分子生物医学部門の太期健二特任助教らは、免疫沈降法により単離した敗血症患者血中のPTX3複合体を比較定量プロテオミクス手法で網羅的に解析し、その中で同定されたアズロシジン1(AZU1)との直接結合を明らかにしました。

    本研究により、敗血症においてPTX3が殺菌能のあるAZU1と協調して宿主保護的な役割を担っていること、さらにPTX3-AZU1複合体が新たな敗血症のマーカーになる可能性が示唆されました。

    本研究は順天堂大学練馬病院、新潟大学、株式会社ペルセウス プロテオミクス、JSR株式会社と共同で実施されました。

    The proteomic profile of circulating pentraxin 3 (PTX3) complex in sepsis demonstrates the interaction with azurocidin 1 and other components of neutrophil extracellular traps.
    Daigo K, Yamaguchi N, Kawamura T, Matsubara K, Jiang S, Ohashi R, Sudou Y, Kodama T, Naito M, Inoue K, Hamakubo T.
    Mol Cell Proteomics. 2012 Jan 25. [Epub ahead of print]

    Gタンパク質共役型受容体(GPCR)はホルモンや神経伝達物質の受容体で、創薬の最も重要なターゲットとなっています。その立体構造が詳しくわかれば、良い薬をつくる手がかりが得られます。しかし、疎水性部位が多い膜タンパク質は結晶化が困難で、特に7回膜貫通型のGPCRの構造解析は難易度が高いと考えられています。京都大学の岩田教授は、これまで膜タンパク質の結晶化に抗体をプローブとして用いる方法を開発されています。
    今回、分子生物医学研究室の岩成宏子助教、新井修研究員、名倉淑子研究員は千葉大の村田武士先生、京大の日野智也研究員、小林拓也先生、岩田想先生らのグループと共同で、パーキンソン病治療薬ターゲットのアデノシンA2a受容体に対するマウス抗体の取得に成功しました。この抗体は受容体を不活性型に固定し、アデノシン(アゴニスト)の結合を阻害するが、阻害剤(アンタゴニスト)の結合をじゃましない、インバースアゴニストと呼ばれる活性をもっていることがわかりました。
    この抗体を用いたA2a受容体の結晶構造解析に関する研究成果は、Nature誌の電子版(2012年1月29日)に掲載されました。

    Hino T, Arakawa T, Iwanari H, Yurugi-Kobayashi T, Ikdeda-Suno C,  Nakada-Nakura Y, Kusano-Arai O, Wevand S, Shimamura T, Nomura N, Cameron A D, Kobayashi T, Hamakubo T, Iwata S & Murata T.  
    G-protein-coupled receptor inactivation by an allosteric inverse-agonist antibody.
    Nature, January 29, 2012

    ゲノムサイエンス分野の八木浩一研究員(東大消化管外科学)、金田篤志准教授らは、大腸癌前癌病変のDNAメチル化解析を行い、大腸癌腺腫にも3つのDNAメチル化エピジェノタイプが存在し、鋸歯状腺腫が高メチル化群・BRAF変異陽性を示すだけでなく、従来型の大腸腺腫が中メチル化群と低メチル化群に分かれること、中メチル化群はKRAS変異と相関することを同定し、American Journal of Pathology誌に発表した(published online 23 Nov 2011)。

    八木、金田らは、大腸癌が3つのDNAメチル化エピジェノタイプに分類されることを昨年報告している(Clin Cancer Res, 16:21-33, 2010). 高メチル化群は既報のCIMP陽性に相当し、マイクロサテライト不安定でBRAF変異(+)の大腸癌と強く相関する。中メチル化群はマイクロサテライト安定なKRAS変異(+)症例、低メチル化群はマイクロサテライト安定なBRAF変異(-)KRAS変異(-)症例と相関する。

    今回、前癌病変について横浜市立大学と共同研究を行い、正常大腸粘膜、大腸異常陰窩、大腸腺腫のDNAメチル化を解析した。異常陰窩の段階では癌遺伝子の変異は認められるがメチル化の蓄積は正常粘膜と比べてもわずかであった。大腸腺腫は、正常粘膜・異常陰窩と比べて非常に高いメチル化蓄積を示し、stage II, III, IVの大腸癌とも差がなかった。3例の鋸歯状腺腫はすべて高メチル化群に分類され、BRAF変異(+)であり、既報の通り高メチル化大腸癌の前癌病変と思われた。49例の従来型大腸腺腫(管状腺腫・管状絨毛腺腫)はBRAF変異(-)であり、中メチル化群・低メチル化群の2群に分類されること、中メチル化群がKRAS変異(+)と相関することを初めて同定した。腺腫の段階で3つのエピジェノタイプおよび癌遺伝子との相関はすでに完成しており、高・中・低メチル化群の腺腫がそれぞれ高・中・低メチル化群の大腸癌の前癌病変であること、3つの異なる大腸癌発生機構が存在することを示唆した。

     Koichi Yagi, Hirokazu Takahashi, Kiwamu Akagi, Keisuke Matsusaka,Yasuyuki Seto, Hiroyuki Aburatani, Atsushi Nakajima, Atsushi Kaneda. Intermediate methylation epigenotype and its correlation to KRAS mutation in conventional colorectal adenoma.

    Am J Pathol. epub 23 Nov 2011

    Ras誘導性細胞老化におけるエピゲノム変化

    細胞は癌の防御機構として、不可逆的な増殖停止である細胞老化という機構を持っている。新たな癌治療戦略の確立には、細胞が持っている癌防御機構を理解することが必須と考えられる。
     
     金田篤志准教授らは、がん遺伝子Rasが誘導する早期細胞老化におけるエピゲノム変化をゲノム網羅的に解析し、ヒストン活性化マーク・抑制マークの調和された変化により制御される重要なシグナルを同定、PLoS Genetics誌に報告した(3 Nov 2011)。
     
      今研究ではヒストン修飾変化をクロマチン免疫沈降(ChIP)-高速シーケンス(seq)、DNAメチル化変化をメチル化DNA免疫沈降 (MeDIP)-seq、遺伝子発現変化を発現アレイにてそれぞれ網羅的に解析した。細胞老化において発現上昇・低下した遺伝子は、いずれも分泌因子が有 意に濃縮しており、細胞の分泌蛋白環境変化が重要であることを示唆した。抑制マークであるヒストンH3K27me3マーク、活性マークである H3K4me3は、細胞老化の前後でダイナミックに変化した。H3K27me3を失うと同時にH3K4me3を獲得する遺伝子は著明に発現上昇し、その中 で最も発現上昇する分泌蛋白遺伝子がBmp2であった。逆に、新たにH3K27me3を獲得しH3K4me3を失う遺伝子は著明に発現低下し、Bmp2- Smad1シグナルの阻害因子であるNogとSmad6がその代表的因子であった。DNAメチル化変化はほとんどおきておらず、ヒストン修飾変化の重要性 が示唆された。細胞老化時はBmp2上昇、Nog低下、Smad6低下、それに伴うSmad1リン酸化が細胞老化に必須であることも示した。その下流標的 遺伝子をSmad1抗体を用いたChIP-seq解析で同定した。下流標的遺伝子はBmp2刺激で発現上昇するが、Smad6も標的遺伝子の一つであっ た。老化時のH3K27me3獲得は、Smad6によるネガティブフィードバックループを破綻させるなど老化に負に働く因子の抑制に働き、逆に H3K27me3を獲得しないSmad1標的遺伝子は、細胞老化時に発現上昇し、細胞増殖の抑制に働く因子を含むなど細胞老化に正に働いていて、エピゲノ ム変化が細胞老化の正負因子を制御していることが示唆された。

    Atsushi Kaneda, Takanori Fujita, Motonobu Anai, Shogo Yamamoto, Genta Nagae, Masato Morikawa, Shingo Tsuji, Masanobu Oshima, Kohei Miyazono, Hiroyuki Aburatani.
    Activation of Bmp2-Smad1 signal and its regulation by coordinated alteration of H3K27 trimethylation in Ras-induced senescence.
    PLoS Genet. 7: e1002359, 2011.

     Journal web site 

    胃癌におけるDNAメチル化エピジェノタイプの同定

    胃癌発生にはDNAメチル化異常が密接に関与し、これまでDNAメチル化異常の少ない胃癌と多い胃癌の存在や、ヘリコバクター感染・慢性炎症によるDNAメチル化が知られていた。
    今回、ゲノムサイエンス分野の松坂恵介研究員(現東大人体病理)、金田篤志准教授、永江玄太助教らは、DNAメチル化網羅的解析の結果から胃癌を3群の異なるDNAメチル化エピジェノタイプに分類し、EBウィルス感染による特異的な高メチル化パターンを同定しCancer Research誌に報告した(published online 11 Oct 2011)。
    今研究では胃癌のDNAメチル化異常をイルミナ社のInfinium 27K ビーズアレイを用いて網羅的に解析した。27,578箇所のCpG部位、14,495個の遺伝子プロモーター領域のメチル化状態を解析するアレイである。51症例の胃癌は、低メチル化群、高メチル化群に加えて、EBウィルス感染陽性と完全に合致する超高メチル化群の3群に分類された。すべての胃癌、および高メチル化群でメチル化される遺伝子は、これまでよく知られているようにES細胞におけるポリコーム標的遺伝子群が有意に多かった。しかしEBウィルス胃癌ではMLH1遺伝子はメチル化されず、EBウィルス胃癌特異的にメチル化される遺伝子はポリコーム標的遺伝子ではない、など、EBウィルス陰性胃癌とは異なるメチル化機構が働いていることが示唆された。そこでAkataシステムを用い低メチル化群に属する胃癌細胞株MKN7をin vitroにEBウィルスに感染させたところ、独立に樹立した3クローンすべてにおいて新規に異常メチル化が認めら、超高メチル化パターンを示した。新規に認められたメチル化部位は、3クローン間でよく重なっており、それらメチル化遺伝子の発現抑制も確認した。
    以上、EBウィルス感染という胃癌発癌の背景因子に相関したエピジェノタイプを同定し、そのエピゲノム異常の原因がEBウィルス感染そのものであることを証明した。

    Keisuke Matsusaka, Atsushi Kaneda, Genta Nagae, Tetsuo Ushiku, Yasuko Kikuchi, Rumi Hino, Hiroshi Uozaki, Yasuyuki Seto, Kenzo Takada, Hiroyuki Aburatani, Masashi Fukayama
    Classification of Epstein-Barr virus positive gastric cancers by definition of DNA methylation Epigenotypes
    Cancer Res. Published Online (Oct 11, 2011), doi:10.1158/0008-5472.CAN-11-1349

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    DNAメチル化は、受精後急速に減少し、インプリンティング領域などの一部の領域を除いて初期化される。初期化されたDNAメチル化状態は、発生、分化に 伴って蓄積し、組織特異的メチル化パターンを形成すると考えられている。これまでES細胞から各胚葉へ分化誘導する技術を用いたDNAメチル化パターンの 比較は報告されていたが一つの系で三胚葉(内胚葉・中胚葉・外胚葉)への分化を同時に観察できる分化誘導系を用いた胚葉間比較は報告されていなかった。

    今回、砂河孝行研究員は熊本大学発生医学研究センターの粂昭苑教授、白木伸明助教らとの共同研究によりES細胞から誘導した3胚葉(内胚葉・中胚 葉・外胚葉)におけるDNAメチル化状態をMeDIP on chip法によりゲノムワイドに比較検討を行った。その結果、ES細胞からの3胚葉分化に伴い著しいDNAメチル化の増加は観察されるものの胚葉間の違い は少なく、遺伝子発現制御に重要なプロモーター領域は極めて低メチル化に保たれていることが分かった。一方、一部の生殖細胞において特異的に発現する遺伝 子のプロモーター領域は、胚葉分化時に高度にメチル化していた。さらに、3胚葉由来組織である脳、肝臓、骨格筋および精子においても同様にメチル化状態を 比較検討したところ、胚葉間同様に組織間の違いは殆どないことが分かった。また、胚葉間同様に生殖細胞特異的遺伝子のプロモーター領域は、体細胞組織にお いてメチル化されており、精子においては脱メチル化状態となっていた。

    以上のことから発生の初期におけるDNAメチル化は、発生・分化における遺伝子発現制御を行っているというよりはむしろ生殖細胞特異的遺伝子の発現を恒常的に抑制することによって細胞運命を体細胞分化に固定する役割があると考えられた。

    本研究成果は10/7付けでPLoS ONE誌に掲載された。
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