2012年7月23日

EBウィルス感染は発癌のエピジェネティック・ドライバー

EBウィルスの感染は胃癌・リンパ腫など一部の悪性腫瘍の発生に密接に関与する。昨年12月には、(1)胃癌には低メチル化群、高メチル化群、超高メチル化群の3群が存在すること、(2)超高メチル化群はEBウィルス感染によって引き起こされること、を発表している(Matsusaka et al. Cancer Res 71:7187-97, 2011)。

今回、ゲノムサイエンス分野の金田篤志准教授、東大人体病理の松坂恵介助教らは、EBウィルス感染がエピジェネティック機構を介した発癌ドライバー事象である、という総説をまとめ、Cancer Res誌最新号に報告した(Kaneda et al. Cancer Res 72:3445-50, 2012)。

低メチル化細胞株にEBウィルスを感染させると再現性よく短期間にゲノム広範囲の異常メチル化を誘導しうる。また胃癌背景粘膜にはEBウィルス感染や超高メチル化の蓄積が認められない。わずか20-50日間と短期間でEBウィルス陽性胃癌が形成された症例報告がある。これらのことから、EBウィルスは胃粘膜上皮には稀にしか感染成立しない、あるいは稀でなかったとしてもメチル化誘導はめったに起きないと思われる。しかし一度メチル化誘導が起きる条件が整うと、広範囲の異常メチル化が短期間に誘導され、メチル化がある程度起きた発癌リスクの高い背景粘膜が形成されるのではなく、感染細胞が一気に癌を形成するものと思われる。その異常メチル化形成には、ホスト細胞が起こすウィルスゲノムのメチル化や、ヒストン修飾・3次元立体構造の変化などさまざまなエピジェネティックな要因がからんでいる可能性があり、この複雑なメチル化形成機構の解明がEBウィルス関連腫瘍を理解する鍵と思われる。

Atsushi Kaneda, Keisuke Matsusaka, Hiroyuki Aburatani, Masashi Fukayama. 
Epstein-barr virus infection as an epigenetic driver of tumorigenesis.
Cancer Res. 2012 Jul 15;72(14):3445-50. Epub 2012 Jul 3.

doi: 10.1158/0008-5472.CAN-11-3919
PMID: 22761333