2011年10月14日

胃癌におけるDNAメチル化エピジェノタイプの同定

胃癌発生にはDNAメチル化異常が密接に関与し、これまでDNAメチル化異常の少ない胃癌と多い胃癌の存在や、ヘリコバクター感染・慢性炎症によるDNAメチル化が知られていた。
今回、ゲノムサイエンス分野の松坂恵介研究員(現東大人体病理)、金田篤志准教授、永江玄太助教らは、DNAメチル化網羅的解析の結果から胃癌を3群の異なるDNAメチル化エピジェノタイプに分類し、EBウィルス感染による特異的な高メチル化パターンを同定しCancer Research誌に報告した(published online 11 Oct 2011)。
今研究では胃癌のDNAメチル化異常をイルミナ社のInfinium 27K ビーズアレイを用いて網羅的に解析した。27,578箇所のCpG部位、14,495個の遺伝子プロモーター領域のメチル化状態を解析するアレイである。51症例の胃癌は、低メチル化群、高メチル化群に加えて、EBウィルス感染陽性と完全に合致する超高メチル化群の3群に分類された。すべての胃癌、および高メチル化群でメチル化される遺伝子は、これまでよく知られているようにES細胞におけるポリコーム標的遺伝子群が有意に多かった。しかしEBウィルス胃癌ではMLH1遺伝子はメチル化されず、EBウィルス胃癌特異的にメチル化される遺伝子はポリコーム標的遺伝子ではない、など、EBウィルス陰性胃癌とは異なるメチル化機構が働いていることが示唆された。そこでAkataシステムを用い低メチル化群に属する胃癌細胞株MKN7をin vitroにEBウィルスに感染させたところ、独立に樹立した3クローンすべてにおいて新規に異常メチル化が認めら、超高メチル化パターンを示した。新規に認められたメチル化部位は、3クローン間でよく重なっており、それらメチル化遺伝子の発現抑制も確認した。
以上、EBウィルス感染という胃癌発癌の背景因子に相関したエピジェノタイプを同定し、そのエピゲノム異常の原因がEBウィルス感染そのものであることを証明した。

Keisuke Matsusaka, Atsushi Kaneda, Genta Nagae, Tetsuo Ushiku, Yasuko Kikuchi, Rumi Hino, Hiroshi Uozaki, Yasuyuki Seto, Kenzo Takada, Hiroyuki Aburatani, Masashi Fukayama
Classification of Epstein-Barr virus positive gastric cancers by definition of DNA methylation Epigenotypes
Cancer Res. Published Online (Oct 11, 2011), doi:10.1158/0008-5472.CAN-11-1349

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