2011年11月29日

大腸癌前癌病変のエピジェノタイプとKRAS変異の相関

ゲノムサイエンス分野の八木浩一研究員(東大消化管外科学)、金田篤志准教授らは、大腸癌前癌病変のDNAメチル化解析を行い、大腸癌腺腫にも3つのDNAメチル化エピジェノタイプが存在し、鋸歯状腺腫が高メチル化群・BRAF変異陽性を示すだけでなく、従来型の大腸腺腫が中メチル化群と低メチル化群に分かれること、中メチル化群はKRAS変異と相関することを同定し、American Journal of Pathology誌に発表した(published online 23 Nov 2011)。

八木、金田らは、大腸癌が3つのDNAメチル化エピジェノタイプに分類されることを昨年報告している(Clin Cancer Res, 16:21-33, 2010). 高メチル化群は既報のCIMP陽性に相当し、マイクロサテライト不安定でBRAF変異(+)の大腸癌と強く相関する。中メチル化群はマイクロサテライト安定なKRAS変異(+)症例、低メチル化群はマイクロサテライト安定なBRAF変異(-)KRAS変異(-)症例と相関する。

今回、前癌病変について横浜市立大学と共同研究を行い、正常大腸粘膜、大腸異常陰窩、大腸腺腫のDNAメチル化を解析した。異常陰窩の段階では癌遺伝子の変異は認められるがメチル化の蓄積は正常粘膜と比べてもわずかであった。大腸腺腫は、正常粘膜・異常陰窩と比べて非常に高いメチル化蓄積を示し、stage II, III, IVの大腸癌とも差がなかった。3例の鋸歯状腺腫はすべて高メチル化群に分類され、BRAF変異(+)であり、既報の通り高メチル化大腸癌の前癌病変と思われた。49例の従来型大腸腺腫(管状腺腫・管状絨毛腺腫)はBRAF変異(-)であり、中メチル化群・低メチル化群の2群に分類されること、中メチル化群がKRAS変異(+)と相関することを初めて同定した。腺腫の段階で3つのエピジェノタイプおよび癌遺伝子との相関はすでに完成しており、高・中・低メチル化群の腺腫がそれぞれ高・中・低メチル化群の大腸癌の前癌病変であること、3つの異なる大腸癌発生機構が存在することを示唆した。

 Koichi Yagi, Hirokazu Takahashi, Kiwamu Akagi, Keisuke Matsusaka,Yasuyuki Seto, Hiroyuki Aburatani, Atsushi Nakajima, Atsushi Kaneda. Intermediate methylation epigenotype and its correlation to KRAS mutation in conventional colorectal adenoma.

Am J Pathol. epub 23 Nov 2011