2009年6月アーカイブ

インターフェロン誘導性のP200タンパクファミリー

(1) Blood Celss, Molecules and Diseases 32 (2004) 133-167

(2) Cytekine and Growth Factors Reviews 19 (2008) 357-369

我々は現在、H4K20をモノメチル化するPR-SET7の阻害剤を開発中であるが、PR-SET7高発現細胞であるK562細胞に100ug/ml投与すると増殖がほぼ完全に抑制される。そこで遺伝子の変動をみると容量依存的に誘導されているのが複数プローブで確認されたのがIFI16とサイクリンG2であった。この2つは増殖の早い腫瘍細胞で抑制されることがしられており、cellular senescenceにかかわると考えられている。最近、IFI16のファミリータンパクであるAIM2が細胞内のdouble strand DNA センサーであることがScience, Natureにあいついで報告された(2009 March)。これらのことからP200ファミリーについて検討することがH4K20メチル化の役割理解にも有用であると考えられ、その総説を中心に概要を紹介する。

文献1

P200遺伝子ファミリーは1982年インターフェロンにより誘導されるmRNAとしてP202がマウスで同定され、染色体1q21-q23領域に4つの遺伝子が同定された。ヒトでは3つの遺伝子が同定されている。

Table1をみると、マウスのp203→AIM2またはNMDA, p204→IFI-16, p205→MNDAと似ている。

図1の構造をみると、ヒトにホモログのないp202だけが変わった構造であるのがわかる。

N端側に90アミノ酸のアポトーシスとインターフェロン反応性にかかわるDomain in apoptosis and interferon response (DAPIN)をもつ。

中央からC端側には200アミノ酸のaドメインとbドメインとよばれるp200特有のドメインがある。このドメインには、MFHATVAT配列が2量体化などのタンパク相互作用をになう。

さらにLXCXE配列のRbタンパクの結合配列がある。

なお最近の報告ではウィルス感染などによる細胞質のdouble strand DNA感知について、p202はカスペース誘導を抑制し、AIM2は結合するとpyrin(DAPIN)ドメインを介してcaspase-1 活性化インフラメソームを活性化する。P202はネガティブレギュレーターなのであろう。

1) An orthogonal proteomic-genomic screen identifies AIM2 as a cytoplasmic DNA sensor for the inflammasome. Nat Immunol. 2009 Mar;10(3):266-72.

2) AIM2 activates the inflammasome and cell death in response to cytoplasmic DNA.

Nature. 2009 Mar 26;458(7237):509-13.

3) AIM2 recognizes cytosolic dsDNA and forms a caspase-1-activating inflammasome with ASC.

Nature. 2009 Mar 26;458(7237):514-8.

4) HIN-200 proteins regulate caspase activation in response to foreign cytoplasmic DNA.

Science. 2009 Feb 20;323(5917):1057-60.

図2既知の作用機構

IFI16はリンパ系、MNDAは骨髄系、AIM2は脾臓、小腸、マクロファージなどに存在。マウスのp204はMyoDと相互作用し、筋肉と心臓の分化にも重要。そこで対応するIFI16の組織分布をみると心臓、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞にもでている。血管内皮細胞ではTNFaのICAM1誘導などに必須。最近は膠原病のSLEの発症にかかわることが知られている。

5) Role of the interferon-inducible IFI16 gene in the induction of ICAM-1 by TNF-alpha.

Cell Immunol. 2009;257(1-2):55-60.

6) Interferon-gamma induces cellular senescence through p53-dependent DNA damage signaling in human endothelial cells. Mech Ageing Dev. 2009 Mar;130(3):179-88.

7) A novel role of the interferon-inducible protein IFI16 as inducer of proinflammatory molecules in endothelial cells. J Biol Chem. 2007 Nov 16;282(46):33515-29.

IFI16はp53,Rbと相互作用する。MNDAは種々核タンパクと、AIM2はdsDNA=カスペース経路

図3 遺伝子座 マウスではp204, 205,203,202の順で存在する。ヒトではMNDA, IFI16, AIM2の順番で存在する。遺伝子進化は先祖のa,bドメイン構造が重複進化し、マウスでは同定されていない遺伝子や多数のp202アルタナティブスプライシングがある。人でも未同定のpseudo genes があるので要注意。遺伝子進化の早い領域なので、エピゲノム変化が注目される領域である。下記の文献の図を配布するので参照。

8) The mouse Ifi200 gene cluster: genomic sequence, analysis, and comparison with the human HIN-200 gene cluster Genomics, Volume 82, Issue 1, July 2003, Pages 34-46

(2)の総説 マウスのIFI-16ホモログのp204の役割に注目 

p204は72kD、640アミノ酸で、N端のアミノ酸は、DAPINドメインを作る。別名、CARDドメイン、Prin,AIM,ASC,and DD domain (PAAD)ともいわれる。DAPINドメインは90アミノ酸からなり、炎症性のタンパク質に共通の配列をもつ。一番 N端側は核移行シグナル KKXKXXKとともにcanicalは核輸出シグナル LXXXLLXXXLLをもつ。前にものべたが2つの200アミノ酸の1a,1bドメインをもち、pRb(リン酸化されたRb)の結合配列LXCXEをもつとともに、cAMP dependent protein kinase (PKA), PKC, MAP kinase, ATM, Cdk2, casein-kinase-2によるリン酸化サイトをもつ。

P204は、インタフェロンα、β、γや、Poly(rI:rC)で転写誘導をうける。

特に総説359ページからの「p204の生物学的機能」を紹介する。

P204は細胞増殖を阻害する。その機能はマルチステップと考えられている。

Rbとp53と結合するが、骨肉腫細胞のU2OS(p53+,Rb+)とSaos2(p53-,Rb-)で、IFI-16過剰発言は、U2OSで効くことはしられるが、Saos2では増殖抑制するという報告と、しなという報告がある。MEFではRbないとp204過剰発現でも増殖抑制しない。

もう一つの機能はp204がRNA特異的なUBF-1と結合すること、HDACであるSin3aと結合することなどリボゾーム機能、エピジェネティック機能が注目されている。

しかし、増殖抑制の本体はまだ不透明な感じが強い。

現在、もっともよく検討されているのは、マウスのC2C12筋芽細胞の筋管細胞への骨格筋の分化のモデルである。この分化につれp204のタンパク量が増加し、リン酸化され、核から細胞質へ運び出される。P204遺伝子のE-box配列にMyoDとmyogeninとE12/E47転写因子が結合する。P204過剰発現は、筋肉分化を促進する。逆にsiRNAやアンチセンスは分化を抑制する。

図1は、この過程を示す。リン酸化されたP204はIdと結合すると核の外へでてIdの抑制作用を抑制する。その結果、C2C12細胞ではMyoDが活性化して骨格筋に分化し、心筋ではGATA4とNkx2.5が活性化して心臓へ分化する。骨芽細胞ではCbfa1が活性化して骨へ分化する。

図2は軟骨細胞でのp204はCbfa1で促進され、Sox5で抑制される。誘導されたP204はCbfa1と結合してコファクターとして作用する。軟骨細胞では、IhhはPTHrPを増加させ、PTHrPは軟骨細胞を増殖させるとともにIhhを抑制しネガティブフィードバックを形成する。Ihhによりcollagne II陽性の軟骨細胞を増殖させられるが、collagenXを作る肥大化軟骨細胞の増加はPTHrPにより抑制されている。P204はここに介入し、Ihh機能をまし第一段階を進めるとともに、PTHrPを抑制して第二段階を進める。

もう一つ、重要なのは酵母2ハイブリッドで同定されたrasとの相互作用である。P204は細胞質で野生型と変異型の両方のrasタンパクと結合している。マウスの心臓ではcoimmunoprecipitationされている。H-ras-GTPハp204と結合するがH-ras-GDPは結合しない。Ras はp204のリン酸化と核外移行を促進する。これはPI-3K阻害剤Ly294002で阻害される。P204過剰発現はanchorage independent 増殖を阻害する。

(児玉)

hnPNP and PCAF

The histone acetyltransferase PCAF associates with actin and hnRNP U for RNA polymerase II transcription.

Obrdlik A, Kukalev A, Louvet E, Farrants AK, Caputo L, Percipalle P.

Mol Cell Biol. 2008 Oct;28(20):6342-57.

 

アクチンは、RNAPII転写のキーレギュレーターであることが知られている。

hnRNPsとの特異的な複合体を形成することでアクチンは初期転写産物の伸長の間に、RNAPII活性化補助因子をリクルートするために機能することが提唱されている。本論文において、著者らはアフィニティークロマトグラフィー、タンパク質-タンパク相互作用アッセイと核抽出液の生化学分画とによってヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)PCAFがアクチンとhnRNP U と相互作用していることを報告している。DNase I結合タンパク画分中に検出されるPCAFおよび核アクチンに関連したHAT活性はアクチン-hnRNP U複合体の崩壊によって解除することができる。さらに、アクチン、hnRNP U、およびPCAFが、Ser2/5-あるいはSer2がリン酸化されたRNAPIIのカルボキシ末端領域構造物と結合しているとわかった。クロマチンおよびRNA免疫沈降法により、アクチン、hnRNP U、およびPCAFが構成的に発現しているRNAPII制御遺伝子のプロモーターおよびコード領域に存在しており、そして、それらがRNPタンパク質複合体と結合していることを証明した。最後に、アクチン-hnRNP U相互作用の崩壊は生細胞でのブロモウリジン三リン酸の取り込みを抑制した。すなわち、アクチンとhnRNP UとがRNAPII転写伸長の制御においてPCAFと協調的に作用していることが示唆される。

Fig. 1 PCAFがアクチン-hnRNP Uと結合する。

(A) DNase Iアフィニティークロマトグラフィーの結果から、PCAFは核内のアクチンと結合する。(B) PCAF抗体を用いたHeLa核抽出液からの免沈。(C) hnRNPコンストラクトの模式図。(D) pull-downアッセイ。(E) b-actin抗体を用いた内在性タンパクの免沈。

Fig. 2 hnRNP抗体CED17の特徴付け。

(A) HeLa細胞核抽出液を用いたイムノブロット。(B) CED17を用いた免沈。(C) CED17のエピトープはC末。(D) CED17を用いた核染色。

Fig. 3 アクチン-hnRNP U複合体の崩壊によるPCAFの解放。

(A) CED17添加時のDNase Iアフィニティークロマトグラフィー。(B) hnRNP U-Cを用いたpull downアッセイに及ぼすCED17の影響。(C) CED17を用いた内在性タンパクの免沈。

Fig. 4 actin, hnRNP U, PCAF, およびpol IIが一部複合体を形成する。

(A) ゲル濾過フラクションのイムノブロット。(B) CED17が複合体形成に及ぼす影響。(C) nonspecific抗体の複合体形成に及ぼす影響。

Fig. 5 actin-hnRNP U複合体の崩壊はHAT活性を低下させる。

核抽出液を抗体とpreincubationした後、DNase Iアフィニティークロマトグラフィーにて精製し、結合タンパク中のHAT活性を測定。

Fig. 6 actin, hnRNP U, PCAFはリン酸化されたpol IIのCTDと結合する。

(A) S-tag CTDコンストラクトの模式図。(B) リコンビナントCTDをprotein S-agaroseに結合させた後、cdk7およびcdk9にてCTDを処理してリン酸化させた。

Fig. 7 actin, hnRNP-U, PCAFのChIP解析。

TSA処置ありまたは処置無し細胞をクロスリンクした後、各抗体にて免沈しPCRにて確認。

Fig. 8 actin, hnRNP-U, PCAFのpromoterおよびcoding regionの相対的占有率。

(A) TSA非添加条件。(B) TSA添加条件下。

Fig. 9 promoterおよびcoding regionの相対的占有率。

Fig. 10 actin, hnRNP U, PCAFはnascent RNP複合体と相互作用する。

(A) 核内中のアクチンの分布。(B) RIP解析。

Fig. 11 In vivoでのactin-hnRNP U相互作用の崩壊によってpol IIによる転写活性が抑制される。

(A) CED17を核に注入するとBrUTPの取り込みが低下する。(B) BrUTP取り込み阻害活性は、TSA処理することによって打ち消される。

Fig. 12 actin, hnRNP U, PCAFのcoding領域への結合はpol II CTDのリン酸化に依存している。

(A) coding領域のChIPに及ぼすCDK inhibitor DRBの影響。(B) active geneへのactin, hnRNP U, PCAF, pol II CTDの結合に及ぼすDRBの影響。(C) H3K9アセチル化に及ぼすDRBの影響。

Fig. 13 モデル図

(A) 転写開始時にはactinとhnRNP Uは恐らくコンタクトしていない。(B) 転写が開始され、actinが高リン酸化されたCTDを介してリクルートされ、hnRNP Uと複合体を形成すると、PCAFのリクルートメントが促進されてpol IIの伸長が亢進される。

 

(田中)

GlcNAcylation of a histone methyltransferase in retinoic-acid-induced granulopoiesis

Nature (2009) Vol. 49, 455-459

Fujiki R, Chikanishi T, Hashiba W, Ito H, Takada I, Roeder RG, Kitagawa H, Kato S

 

Figure 1 a: HL60細胞はレチノイン酸(RA)に反応して顆粒球に分化する。分化した顆粒球は、CD11bが陽性になる。

b:未分化のHL60細胞をレチノイン酸で分化誘導したとき、GST-RARalpha(リガンド結合ドメイン)のレジンでRA誘導性のRARコンプレックスを解析した。

C:MLL5タンパクには、full length(MLL5Full)とshort form(MLL5)があり、RARalpha抗体でIPしたwestern blottingの結果、MLL5のみがinteractionしていた。d:RA

依存性のRARE luc assayを行ったところ、MLL5で、luc inductionを認めた半面、setドメインのデリーションやミューテーション、MLL5Fullでのinductionは認めなかった。

e: 同様にHKMT(ヒストンリジンのメチルトランス活性)は、H3K4のリジンをアラニンにすることで、RA依存性の活性はH3(1-21)に比較して低下した(HL60-R2は、RAへの反応性の悪い細胞をライン化したもの)。

Figure 2 a,b&c:Flag tagged MLL5を用いて、HL60の核抽出液をaffinity purifyしてゲルろ過クロマトグラフィーを用いて分子量ごとに分析した。その結果、HKMT活性のあるMLL5-L complex(18-24分画) と活性のないMLL5-S complex(30-32分画)に分けられた。

d:上記分画について、H3tailをsubstrateにして、HKMT活性を測定したところ、H3(1-21) tail特異的にMLL5-L complexが活性を有していた。e:MLL5-L complexはMLL5-S complexと比較して、特異的にHCF-1NやOGTを含んでいた。OGTはWGAに結合することが知られているためWGAカラムで生成したものについても検討して、より明確な結果を得た。f:substrate prefrerenceを検討したところ、H3 NucleosomeはMLL5-L complexの場合のみでメチル化していた。 g:さらに、H3 tailについて検討したところ、(1-21)に特異的なHKMT活性を認め、そのうち、K4A mutantでは活性が低下したのに反して、K9Aでは影響が認められなかった。このK4のメチル化活性は、モノメチルの場合に認められた。h:その結果をMALDI-TOF/MSで確認した。i:さらにwestern blotting法でも同様の結果が得られた。

Figure 3 a:OGTがlarge complexにのみ含まれていることに関連して、OGTがGlcNAc transferを調節してcomplexを活性化させている可能性を考え、検討した。MLL5-L complexでは、GlcNAcylated Ser/Thr residue抗体での反応を認める。b:更に、O-GlcNAc化の変化でHKMT活性が認められることを確認した。(UDP-GlcNAc; O glycosyl donor, UDP GalNAc; decoy, O-glcNAcase; GlcNAcylationを外す)。その結果、GlcNACylatedの(糖鎖修飾のある)場合にHKMTの活性上昇が認められ、逆にGlcNACylateionが外されている場合は、その活性がほとんど認められなかった。c:MLL5のSET domainについて、すべてのSer/Thr residueをAlaninにmutationすることで、GlcNACylationを検討したところ、T440Aで明らかに弱くなっていた。この部位は、ヒトとハエで保存されている反面、ほかのMLLには認められない。d:UDP GlcNAcによるHKMTの活性化をそれぞれのmutantについて検討した。e:また、MLL5のGlcNAcylationの程度とHKMT活性が、核内のUDP GlcNAcのレベルに比例していることが確認された。(DONとAZAは、グルコースが核内に移行してGlcNAc量を増やすことを阻害する。)

Figure 4 a:HL60細胞の分化の程度をフローサイトメトリーで検討したところ、PUGNAc(GlcNAcaseの阻害剤で、核内タンパクのGlcNAcylationをinduceする)処理で分化が進む反面、DONやAZAでは低下した。b:また、HL60-R2細胞では、PUGNAcがRAへの反応性を正常方向にもどした。c:同様の結果は、western blottingでH3K4のメチル化を検討した場合にも認められる。d:また、HL60-R2細胞では、GlcNAcが少なく、O-GlcNAcaseが多いということが分かった。e:HL60の分化に関わることが知られているCEBPEのmRNAレベルについても、MLL5とOGTが必要であり、MLL5Fullのミュータントは発現に影響を与えなかった。f:フローサイトメトリーの検討でも同様に、HL60の分化はMLL5とOGTそれぞれのshRNAによって低下したものの、MLL5Fullのミュータントは発現に影響を与えなかった。g:最後に、MLL5とそのミュータントのoverexpressionを行った系を用いて検討したところ、HL60の分化はRAとGlcNAcase inhibitorによって促進していた。

(稲垣)

microRNAとhESC

hMicroRNA-145 Regulates OCT4, SOX2, and KLF4 and Represses Pluripotency in Human Embryonic Stem Cell Cell 137, 647-658,May 15, 2009

【summary】

microRNA(miRNA)は遺伝子発現の調節分子であり、発生過程において重要な役割を担っている。miR-145はself-renewing中のヒト胎生stem cell(hESCs)での発現は低いが、分化過程では高発現となる。多分化能分子である、OCT4, SOX2, KLF4がmiR-145の直接のターゲットであり、内在性miR-145がそれぞれの3'UTRに結合し、抑制することが明らかになった。

miR-145の増加はhESCの多分化能を抑制し、lineage-restricted分化を誘導する。

miR-145の欠損は分化が抑制され、OCT4, SOX2, KLF4の発現が亢進する。また、miR-145のプロモーターにOCT4が結合し、その発現を抑制する。OCT4,SOX2、KLF4とmiR-145の間には、ダブルネガティブフィードバックループが働いている。

【introduction】

100以上のmiRNAがESC, EBで発現しているが、そのターゲットタンパクは不明である。miRNAの産生に必要なDicerやDGCR8を抑制したマウスESCsで多分化能を失い、分化が阻害された。この現象はOct4を間接的に抑制するRbl2-依存DNAメチル化を制御するmiR-290の導入により回復された。しかし、OCT4の発現が変化するときには、このmiR-290の発現は低く、dominant playerと考えられる。そこで、多分化能を制御する遺伝子の3'UTRにmiRNAが制御する領域があると予想し、分化過程でのmiRNAの発現解析とプログラム解析により、pluripotency分子であるOCT4, SOX2, KLF4の3'UTRに結合するmiR-145を見つけ出した。

【fig1】 miR-145が分化細胞(EB:embryoid bodies)で発現が亢進し、KLF4, OCT4, SOX2の3'UTRがターゲットとなりうると予測された。また、pre-miR-145添加により3'UTRのルシフェラーゼアッセイで、活性が抑制された。

【fig2】内在性のmiR-145によるKLF4, OCT4, SOX2の抑制効果を、3'UTRのルシ

フェラーゼアッセイにより確認。また、miR-145標的領域の欠損(6bp)により、その抑制効果は阻害された。

【fig3】miR-145がmRNAの分解か翻訳阻害のどちらに働くのかを調べるためレンチによ

りmiR-145 GFPをhESCに導入。その結果、miR-145はSOX2に対してはmRNAの分解、KLF4,OCT4に対しては翻訳阻害として機能することが明らかになった。次にmiR-145のaniti-senceを導入したhESCにて、OCT4, SOX2, KLF4それぞれのmRNAおよびタンパク量を定量すると、miR-145GFP発現の結果と一致することが明らかになった。

【fig4】 gain of function

self-renewalの維持にmiR-145が影響するかどうかを調べた。レンチにより分子

を導入後bFGFを加えながら培養し、6日後 self-renewalマーカーであるSSEA4を用いて評価した。miR-145発現により、self-renewalの割合が減少し、またアポトーシスの増加、S1細胞が減少しG1細胞の増加がみられた。この結果、miR-145の亢進はhESCsのself-renewalの抑制型制御分子という事を示唆しているmiR-145発現の長期的影響を見るため、11日後の細胞を観察すると、明らかにコロニーの大きさが減少し、分化していることがわかる。miR-145の発現はSelf-renewalを逸脱させ分化を促進させる、またポジティブコントロールであるshOCT4発現細胞よりも、分化細胞の割合が高いことがわかった。

【fig5】hESCは胚体外栄養外胚葉(extraembryonic trophectoderm),外肺葉(ectoderm),内

胚葉(endoderm),中胚葉(mesoderm)に分化することができるが、miR-145の発現と分化への影響を調べた。miR145導入11日後の細胞の遺伝子発現を調べた。Mesoderm, ectodermのマーカーは確認できたが、endoderm, placentaのマーカーは確認されなかった。このためmiR-145の亢進は、mesoderm,

ectoderm系列への分化を誘導することが明らかになった。また、3'UTR欠損のOCT4およびSOX2を導入すると、miR-145依存の分化誘導が抑制された。miR-145は分化促進するために幾つかの多分化能分子を抑制することが明らかになった。

【fig6】loss of function

miR-145アンチセンス導入によるloss of functionの検証。Fig4との比較。miR-145阻害のため、分化抑制が示され、S期細胞の割合も増加した。またfig3と対照的に、miR-145阻害により、多分化能維持分子であるOCT4, KLF4のタンパクレベルも亢進した。また、内胚葉、中胚葉、栄養外胚葉の分化マーカーも減少。

【fig7】どの分子によりmiR-145が制御されているか検証。miR-145のTSS上流1kbが保

存され、OCT4の結合配列を見つけ出した。ルシフェラーゼアッセイにて、OCT4により活性が抑制することがわかり、EMSAにこの領域にOCT4が結合することが証明された。OCT4のChIP解析により、hESC細胞ではこのmiR-145のプロモーター領域が濃縮するが、BMP4添加により分化を誘導させると、濃縮が減少することがわかった。

【discussion】miR145が多分化能分子であるOCT4, SOX2, KLF4を抑制的に制御してい

ることが明らかになった。近年の報告で、somatic stem cell やマウスESCsがmiRNAにより調節されうることがわかり、今回の報告でhESCでmiRNAが直接に多分化能分子を制御することを報告した。miR145はESCにおいてOCT4ダブルネガティブフィードバックループを形成しているが、self-renewalとdifferentiationの変化時にこのフィードバックがどのように切り替わるかということが次の課題である。

(野中)

FoxA1

FoxA1 Translates Epigenetic Signatures into Enhancer-Driven Linegane-Specific Transcription

Cell 132, 958-970, 2008

 

 

<背景>

FoxA1 (別名HNF3α)は肺、腎臓、膵臓、肝臓、前立腺、乳腺等の発生に重要な転写因子である。

上記組織の腫瘍においてFoxA1の発現は上昇しているが、特に前立腺癌、ERα-positiveな乳癌において発現が高い。

 

乳癌においてはFoxA1の発現はendocrine therapyへの感受性と相関しており、FoxA1の発現の高いERα-positive乳癌の方が予後が良い。

前立腺癌においてはAR (Androgen Receptor)と相互作用することでARの標的遺伝子の制御に関与している。

 

<本研究の目的>

つまり、FoxA1は異なる細胞で異なる転写制御ネットワークに関与しているが、その詳細な分子機構は不明である。

そこで、2種類の細胞を用いてERα, FoxA1, H3K4me3, H3K4me1のChIP-chipを行い転写制御機構の解明を試みた。

 

<Fig.1>

A:MCF7細胞においてFoxA1 ,ERαでChIP-chipを行った。FDR1%で結合箇所を探索したところ、FoxA1は12,904箇所、ERαは5,782箇所あった。両者の共通箇所は2,623箇所であった。

B:上記結合箇所のうち、機能的に意味のあるものをさぐるために、結合箇所のうちTSSから20kb以内にあるものに関してE2刺激前後での解析を行った。E2 (Estrogen)刺激に対して発現の上昇する遺伝子、減少する遺伝子に関してFoxA1, ERαの結合箇所に差があるかどうかを調べた。E2 up-regulated genesに関しては両転写因子の共通遺伝子、E2 down-regulated genesに関してはFoxA1 unipue遺伝子と共通遺伝子に関してE2刺激前と刺激後とで有意差があった。つまり、ERα-positive乳癌細胞においてはFoxA1, ERα両者が結合する箇所は機能的に重要であると推測される。

C:Primary Breast Tumorsで以前行われた遺伝子解析とmergeを行った。FoxA1関連遺伝子と報告されているものは今回の解析でも有意差があった。

 

<Fig.2>

A:乳がんのcell lineであるMCF7細胞と前立腺がんのcell lineであるLNCaP細胞とでFoxA1の結合を比較した。染色体8,11,12番を調べたところ、図のような分布となり、proximal promoter以外の結合(enhancerと考えられる)が多かった

B:両細胞でFDR1%での結合サイトを調べると、MCF7細胞では2034か所、LNCaP細胞では2753か所あった。両者に共通の部分は855か所あった。

C:それぞれの腫瘍においてFoxA1結合サイトを3タイプ(MCF7 only, both, LNCaP only)に分けて調べた。すると、乳がんではMCF7 only sitesのみが、前立腺がんはLNCaP only sitesのみが、FoxA1関連遺伝子と非関連遺伝子とで有意差があった。

 

<Fig.3>

A:3タイプの結合サイトに関してFoxA1のbinding sitesの周辺400bpの領域にERE (Estrogen response element)とARE (Androgen receptor element)があるかどうかを調べた。その結果、MCF7 only sitesにはEREが、LNCaP細胞にはAREが有意に多かった。

B:MCF細胞におけるERα、FoxA1のChIP-chip、LNCaP細胞におけるAR, FoxA1のChIP-chip dataを調べた。MCF7細胞におけるERα結合箇所717か所のうち、FoxA1と重なるのは381か所、LNCaP細胞におけるAR結合箇所822か所のうちFoxA1と重なるのは512か所あった。これら381か所と512か所はほとんど重ならなかった。つまり、両細胞においてERα、ARは重要な因子であり、その結合の半分近くがFoxA1と重なっていることからもFoxA1は細胞特異的な転写制御ネットワークに重要な役割を果たすことが予想される。しかも、細胞によってFoxA1結合領域は重ならないことから、よりこのモデルの重要性が支持される。

C:MCF7細胞、LNCaP細胞においてE2-regulated genesとDHT-regulated genesをそれぞれ調べた。するとregulated genesとnon-regulated genesとで有意差があったのはERα/FoxA1 overlapping sites in MCF7とAR/FoxA1 overlapping sites in LNCaPだけであった。このことからもこのoverlapping sitesは両細胞の遺伝子発現制御ネットワークにおいて重要なことが示唆される。

 

<Fig.4>

A:FoxA1のcistromeを決定している因子は何か、を調べるために結合サイトのmotif解析を行った。MCF7 only, both, LNCaP onlyとで結合配列に差はなかった。

B~G(ChIP-qPCR):結合サイトのepigenetic markを調べた。MCF7細胞におけるLNCaP only sitesに関してはH3K4me1, H3K4me2が濃縮率が低く、H3K9me2の濃縮率が高かった。逆もまた同様。従って、FoxA1はMCF7細胞においてはH3K9me2が低く、H3K4me1とH3K4me2が高いregionにrecruitされている。LNCaP細胞においても同様。

H:MCF7細胞におけるChIP-chip dataでepigenetic markを解析した。上記ChIP-qPCRと同様にMCF7細胞におけるLNCaP only sitesのH3K4me2は濃縮率が低かった。また、FoxA1 recognition motifのうち、実際にFoxA1が結合している個所と結合していない個所とでH3K4me2の濃縮率を比較したところ、unbound regionの方がH3K4me2の濃縮率は低かった。

 

<Fig.5>

A:FoxA1のcistromeにERαが関与しているかどうかを調べた。ERαのsi RNAとLUCのsiRNA (Control)とでFoxA1のChIPでの濃縮を比較すると(ChIP-qPCR)、変化がなかった。従って、FoxA1のcistromeにはERαは関与していない。

B:FoxA1をsiRNAによりノックダウンした際にDNaseI hypersensitivity sitesが変化するかどうかを調べた。結果、MCF7細胞におけるLNCaP only, LNCaP細胞におけるMCF7 only箇所はhypersensitivity sitesは変化がなかったが、その他は変化していた。

C:それぞれの細胞においてFoxA1をノックダウンした際のH3K4me1とH3K4me2が変化するかどうかを調べた。MCF7細胞ではK4meには変化がなかった。LNCaP細胞ではK4me1はFoxA1をノックダウンすると上昇する結果となった。これは、FoxA1がH3K4のメチル化を促すモデルではなく、H3K4meが入っている場所にFoxA1がrecruitされるモデルを支持する結果である

D~E:E2刺激によって発現が上昇する遺伝子(CCDN1)と減少する遺伝子(BIK)に関してFoxA1をノックダウンした際の発現及びH3K4のメチル化状態を解析した(ChIP-qPCR)。すると、両遺伝子共にFoxA1をノックダウンすると発現が減少するが、K4のメチル化状態は変化しなかった。つまり、FoxA1の有無はH3K4me状態に影響を与えない。

 

<Fig.6>

A~D:KDM1(H3K4のdemethylase)を強制発現した際のepigenetic markおよびFoxA1のcistromeを解析した(ChIP-qPCR)。KDM1を強制発現すると、H3K4me2は減少し(A)、H3K9me2は変化がない(C)。また、タンパクレベルでKDM1を強制発現してもFoxA1には影響を与えない(D)。にもかかわらず、KDM1を強制発現するとFoxA1のrecruitは顕著に抑制される(B)

E:LNCaP細胞、MCF7細胞においてホルモン応答性遺伝子のepigenetic markとERα、FoxA1等のcistromeを調べた。例えばMCF7細胞においてE2 regulated genesの一つであるNAT10はLNCaP細胞ではH3K9me2が入っており、MCF7細胞ではERα、FoxA1、H3K4me2がrecruitされているが、KDM1を強制発現するとH3K4me2の濃縮は解除される。

 

<Fig.7>

まとめ

2つの異なる細胞においてFoxA1はpioneer factorとして働いていると考えられる。H3K4me2が入っている場所にFoxA1はrecruitされ、H3K9me2が入っている場所にはrecruitされない。E2やDHTといった刺激が加わった時に、FoxA1が既に入っている場所はenhancerとして働き、遺伝子の発現制御を行う。細胞特異的なFoxA1のcistromeを決定しているのはepigenetic markである。

 

<結論>

  • genome-wideにFoxA1のCistromeを解析した結果、FoxA1の細胞特異的な機能はrecruitされる場所によって決まることが示された。また、Proximal Promoterよりはdistant enhancerの方がはるかに結合箇所が多かった。
  • cell lineage-specificな転写因子と協同してFoxA1は機能していることが示された
  • FoxA1のcistromeはH3K4me2の分布によって決定されていることが示された。
  • つまり、FoxA1のようなpioneer factorは細胞のepigenetic markと細胞特異的な遺伝子発現制御メカニズムとを繋いでいると考えられる。
(神吉)
Epigenetic Silencing of the p16INK4a Tumor Suppressor Is Associated with Loss of CTCF Binding and a Chromatin Boundary 

 (Molecular Cell 34, 271-284, May 15, 2009)

がん抑制遺伝子p16INK4aのエピジェネティックなサイレンシングは、CTCFの結合およびクロマチン境界の消失に関連している

 

Summary

がん抑制遺伝子p16INK4aは、ヒトの癌でしばしばエピジェネティックな不活化をうけるが、これは乳癌発がんの初期にみられる。われわれは、p16の異常サイレンシングの際に消失する上流のクロマチン境界の存在について述べる。多機能性タンパクであるCTCFがクロマチン境界付近に結合し、この結合の消失はさまざまながんでのp16のサイレンシングに強く関連していることを示す。さらに、CTCFの結合はRASSF1AやCDH1の活性化にも相関しており、メチル化やサイレンシングされたときには、このCTCFの相互作用は失われる。興味深いことに、p16がサイレンシングされた細胞では、CTCFのポリADPリボシル化と分子シャペロンNucleolinからの解離が起こっており、正常な機能が抑制されている。したがって、CTCF・ポリADPリボシル化・DNAメチル化の相互作用によって生じる局所的な領域のクロマチン境界の不安定化は、さまざまな癌におけるがん抑制遺伝子の不活性化や発がんのinitiationにかかわる一般的なメカニズムである。

 

Introduction

・           がん抑制遺伝子の転写抑制はヒトの癌でしばしばみられ、プロモーター領域のDNAの高メチル化や抑制性クロマチンのヒストン修飾などがあげられる。INK4の領域は、細胞増殖に重要な領域であり、癌においてDNAメチル化や染色体欠失によってしばしば不活化している。

・           エピジェネティックなメカニズムによるp16の機能的不活化については、まだ詳細がわかっていない。たとえば、RNAの発現レベルとDNAメチル化には明らかな関係が見られていない。p16発現を抑制するポリコーム複合体の構成タンパクBMI1やEZH2、SUZ12の発現との関係についてもはっきりしていない。

・           そこで、p16のプロモーター領域だけでなく、このINK4/ARFの染色体領域について解析を行った。p16の2kb上流にはクロマチン境界(chromosomal boundary)が存在しているが、p16を発現していない乳癌細胞ではこの境界が消失していた。この境界の3′側には、インスレータータンパクCTCFの認識領域があり、p16を発現している細胞でCTCFをknock downすると、プロモーター領域のエピジェネティックな変化とともに発現が抑制された。同様な現象は、RASSF1AやCDH1 (E-cadherin)でも検証され、CTCFの結合と発現抑制の強い相関が明らかとなった。

・ CTCFはポリADPリボシル化(PARlation)による翻訳後修飾を受ける。p16を発現していない細胞では、このポリADPリボシル化経路がみられず、coregulatorであるNucleolinとも解離していた。さらに、PARlationをchemicalで抑制したり、PARP-1をknockdownすると、p16やRASSF1A の発現が抑制された。

・ 以上より、CTCF・ポリADPリボシル化・DNAメチル化の相互作用によって生じる局所的な領域のクロマチン境界の不安定化は、さまざまな癌におけるがん抑制遺伝子の不活性化や発がんのinitiationにかかわる一般的なメカニズムであると考えられる。

Results

 

Figure 1.

(A)(B) p16発現乳癌細胞株(MDA-MB-435)および非発現細胞株 (T47D)を使用した。

(C)(D) p16発現乳癌細胞株(MDA-MB-435)では、p16のプロモーター領域の上流2kbまでが活性化型クロマチン修飾であり、その外側は抑制性クロマチン修飾状態にある。非発現細胞株 (T47D)では、プロモーター領域から上流にかけても抑制性クロマチン修飾状態にある。

 

Figure 2.

(A) p16の遺伝子発現は、プロモーター領域上流2kbへのCTCFの結合と関連している。

(B)(C) 他の細胞での検証でも、同様の結果を認める。

(D) Sp1の結合とは関連がみられない。

 

Figure 3.

(A) CTCFのshRNAによるノックダウンによりp16およびH19遺伝子の発現抑制がみられた。

(B) この領域では、活性化型修飾のH2A.Zが消失し、H4K20me1修飾が入った。

(C) 脱メチル化剤5AZAで処理すると、p16の発現が回復した。

(D) AZA処理後では、H3K4me3修飾がみられたが、CTCFの結合は見られなかった。

 

Figure 4.

(A) 各種細胞株間で、CTCFのリン酸化修飾は同程度である。

(B) CTCF, Topo IIα,Topo IIβ, PARP-1, Nucleophosmin, Nucleolinのタンパクの発現レベルは同程度である。

(C) Co-IPによる検証で、CTCFとTopo IIβやNucleophosminとの相互作用を認めた。PARP-1,との相互作用はMDA-MB-435のみにみられ、Nucleolinとの相互作用はT47Dのみでみられた。

(D) MDA-MB-435細胞では、CTCFおよびNucleolinのポリADPリボシル化を認めた。阻害剤3-ABAにて、この修飾は消失した。

(E) in vitro結合アッセイで、リコンビナントCTCFとPARP-1の複合体形成を確認した。CTCFはβ-NAD+依存的にポリADPリボシル化されてPARP-1が解離する。

(F) ポリADPリボシル化されたタンパクのウェスタンブロットを行うと、CTCFよりやや大きな分子量の2つのバンドをMDA-MB-435においてのみ認める。

 

Figure 5.

(A) MDA-MB-435では、p16のTSS1kb上流 の位置にCTCFの結合があり、ここにTopo IIβ, PARP-1が共局在している。T47Dでは、CTCFとTopo IIβの結合はなく、PARP1のみが結合している。

(B) MDA-MB-435では、上流1kbの位置にポリADPリボシル化を認めるが、T47DではさらにTSS付近にこの修飾が分布している。

 

Figure 5.

(C) 3-ABA処理により、p16やRASSF1Aの遺伝子発現が抑制された。

(D) PARP-1のknock downでも、同様にp16やRASSF1Aの遺伝子発現が抑制された。

 

Figure 6.

(A) 乳癌細胞株におけるCDH1, RASSF1A, RARβ2のmRNA発現レベル

(B) RASSF1AやCDH1の発現とも、CTCFの結合は関連している。

(C) RARβのプロモーター領域では、CTCFの結合はみられなかった。

 

Figure 7.

ポリADPリボシル化されたCTCFとそのコファクターが分離し、その結果、p16遺伝子の上流のクロマチン境界が不安定化して、隣接するヘテロクロマチンが広がることによってp16遺伝子のエピジェネティックな異常サイレンシングが生じる、というモデル

 

Discussion

・           PARP-1、NucleolinおよびNucleophosminは複合体として単離されたが、PARP-1とNucleolinは核マトリクスとクロマチンを結び付けるマトリクス・スキャフォールド結合領域と相互作用して、ゲノムDNAを形態的に離れた領域へと編成している。 ポリADPリボシル化されていないCTCFにはPARP-1が結合しており、Topo IIβやNucleophosminは結合しているが、Nucleolinは解離している。このような複合体では、p16遺伝子領域の境界を形成するには十分ではない。ポリADPリボシル化のような翻訳後修飾やコファクターとの相互作用が失われることで、p16領域のCTCF結合の消失や遺伝子発現抑制に至る可能性がある。

・           脱メチル化剤AZA処理 でp16の非発現細胞で発現回復を認める。Me3H3K4修飾の増加とMe3H3K9の減少はみられるが、CTCFの結合やH2A.Zの集合はみられない。臨床に応用されているAZAやHDAC阻害剤との併用などでは、ヒストンコードやCTCFの結合などを完全に戻して、がん抑制遺伝子の発現を長期的にわたって回復させるには不十分なのかもしれない。

 (永江)

DNA Damage Regulates Alternative Splicing through Inhibition of RNA
Polymerase II Elongation
Cell Volume   137, Issue 4, 15 May 2009, Pages 708-720

MicroRNA-145 Regulates OCT4, SOX2, and KLF4 and Represses Pluripotency
in Human Embryonic Stem Cells
Cell 137, 647-658,May 15, 2009

Epigenetic Silencing of the p16INK4a Tumor Suppressor Is Associated with Loss of CTCF Binding and a Chromatin Boundary
Molecular Cell 34, 271-284, May 15, 2009

FoxA1 Translates Epigenetic Signatures into Enhancer-Driven Linegane-Specific Transcription
Cell 132, 958-970, 2008

PR-SET7阻害薬作用

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