2009年6月11日

microRNAとhESC

hMicroRNA-145 Regulates OCT4, SOX2, and KLF4 and Represses Pluripotency in Human Embryonic Stem Cell Cell 137, 647-658,May 15, 2009

【summary】

microRNA(miRNA)は遺伝子発現の調節分子であり、発生過程において重要な役割を担っている。miR-145はself-renewing中のヒト胎生stem cell(hESCs)での発現は低いが、分化過程では高発現となる。多分化能分子である、OCT4, SOX2, KLF4がmiR-145の直接のターゲットであり、内在性miR-145がそれぞれの3'UTRに結合し、抑制することが明らかになった。

miR-145の増加はhESCの多分化能を抑制し、lineage-restricted分化を誘導する。

miR-145の欠損は分化が抑制され、OCT4, SOX2, KLF4の発現が亢進する。また、miR-145のプロモーターにOCT4が結合し、その発現を抑制する。OCT4,SOX2、KLF4とmiR-145の間には、ダブルネガティブフィードバックループが働いている。

【introduction】

100以上のmiRNAがESC, EBで発現しているが、そのターゲットタンパクは不明である。miRNAの産生に必要なDicerやDGCR8を抑制したマウスESCsで多分化能を失い、分化が阻害された。この現象はOct4を間接的に抑制するRbl2-依存DNAメチル化を制御するmiR-290の導入により回復された。しかし、OCT4の発現が変化するときには、このmiR-290の発現は低く、dominant playerと考えられる。そこで、多分化能を制御する遺伝子の3'UTRにmiRNAが制御する領域があると予想し、分化過程でのmiRNAの発現解析とプログラム解析により、pluripotency分子であるOCT4, SOX2, KLF4の3'UTRに結合するmiR-145を見つけ出した。

【fig1】 miR-145が分化細胞(EB:embryoid bodies)で発現が亢進し、KLF4, OCT4, SOX2の3'UTRがターゲットとなりうると予測された。また、pre-miR-145添加により3'UTRのルシフェラーゼアッセイで、活性が抑制された。

【fig2】内在性のmiR-145によるKLF4, OCT4, SOX2の抑制効果を、3'UTRのルシ

フェラーゼアッセイにより確認。また、miR-145標的領域の欠損(6bp)により、その抑制効果は阻害された。

【fig3】miR-145がmRNAの分解か翻訳阻害のどちらに働くのかを調べるためレンチによ

りmiR-145 GFPをhESCに導入。その結果、miR-145はSOX2に対してはmRNAの分解、KLF4,OCT4に対しては翻訳阻害として機能することが明らかになった。次にmiR-145のaniti-senceを導入したhESCにて、OCT4, SOX2, KLF4それぞれのmRNAおよびタンパク量を定量すると、miR-145GFP発現の結果と一致することが明らかになった。

【fig4】 gain of function

self-renewalの維持にmiR-145が影響するかどうかを調べた。レンチにより分子

を導入後bFGFを加えながら培養し、6日後 self-renewalマーカーであるSSEA4を用いて評価した。miR-145発現により、self-renewalの割合が減少し、またアポトーシスの増加、S1細胞が減少しG1細胞の増加がみられた。この結果、miR-145の亢進はhESCsのself-renewalの抑制型制御分子という事を示唆しているmiR-145発現の長期的影響を見るため、11日後の細胞を観察すると、明らかにコロニーの大きさが減少し、分化していることがわかる。miR-145の発現はSelf-renewalを逸脱させ分化を促進させる、またポジティブコントロールであるshOCT4発現細胞よりも、分化細胞の割合が高いことがわかった。

【fig5】hESCは胚体外栄養外胚葉(extraembryonic trophectoderm),外肺葉(ectoderm),内

胚葉(endoderm),中胚葉(mesoderm)に分化することができるが、miR-145の発現と分化への影響を調べた。miR145導入11日後の細胞の遺伝子発現を調べた。Mesoderm, ectodermのマーカーは確認できたが、endoderm, placentaのマーカーは確認されなかった。このためmiR-145の亢進は、mesoderm,

ectoderm系列への分化を誘導することが明らかになった。また、3'UTR欠損のOCT4およびSOX2を導入すると、miR-145依存の分化誘導が抑制された。miR-145は分化促進するために幾つかの多分化能分子を抑制することが明らかになった。

【fig6】loss of function

miR-145アンチセンス導入によるloss of functionの検証。Fig4との比較。miR-145阻害のため、分化抑制が示され、S期細胞の割合も増加した。またfig3と対照的に、miR-145阻害により、多分化能維持分子であるOCT4, KLF4のタンパクレベルも亢進した。また、内胚葉、中胚葉、栄養外胚葉の分化マーカーも減少。

【fig7】どの分子によりmiR-145が制御されているか検証。miR-145のTSS上流1kbが保

存され、OCT4の結合配列を見つけ出した。ルシフェラーゼアッセイにて、OCT4により活性が抑制することがわかり、EMSAにこの領域にOCT4が結合することが証明された。OCT4のChIP解析により、hESC細胞ではこのmiR-145のプロモーター領域が濃縮するが、BMP4添加により分化を誘導させると、濃縮が減少することがわかった。

【discussion】miR145が多分化能分子であるOCT4, SOX2, KLF4を抑制的に制御してい

ることが明らかになった。近年の報告で、somatic stem cell やマウスESCsがmiRNAにより調節されうることがわかり、今回の報告でhESCでmiRNAが直接に多分化能分子を制御することを報告した。miR145はESCにおいてOCT4ダブルネガティブフィードバックループを形成しているが、self-renewalとdifferentiationの変化時にこのフィードバックがどのように切り替わるかということが次の課題である。

(野中)