2010年4月アーカイブ

The Histone Chaperone Nap1 Promotes Nucleosome Assembly by Eliminating Nonnucleosomal Histone DNA Interactions 

Andrew J. Andrews, Xu Chen, Alexander Zevin, Laurie A. Stargell, Karolin Luger
Molecular Cell, Volume 37, Issue 6  834-842, 26 March 2010


真核生物の遺伝子発現はヌクレオソーム構造により制御される。ヌクレオソーム形成のダイナミックスは、転写か、ヌクレオソームの圧縮かを決める。しかし、どの程度の自由エネルギーが必要かは驚くほどわずかにしかわかっていない。そこで熱力学的パラメーターを検討したのが今回の論文である。

 

H3K56のアセチル化は、酵母ではRtt109で、ヒトではP300DNAのエントリーと出口に近いため転写活性化に重要である。この修飾は、ヌクレオソームの脱アセンブリーをうながす。

 

ヌクレオソームのアセンブリーは、次の順番でおこる。

1)DNAH3H4と作用して、DNA-(H3H4)2が形成される。

2)これにH2AH2Bが結合して古典的なオクタマーが形成される。

これにはヒストンシャペロンがかかわる。そのうちの酵母のNap1H2A-H2Bダイマーと、(H3-H4)2テトラマーに結合し、in vitroのヌクレオソームアセンブリーにももちいられるが、どのように働いているか不明である。図1にNap1DNAの可能性のある相互作用と平行定数K1-K4,K6を図式化してある。

 

生理的条件下ではヒストンはDNAと強い結合を示すため解析が難しい。蛍光標識したヒストンのテトラマー変化による変化か、FRETで検討した。

図2A H3H4DNAの結合はタイト(1nM)で、Nap1DNAの結合の10倍強い。

2B H2AH2BNap1の結合は、FRETでみると、生理的には五分五分であり、(自由と、結合が)、テトラマーが加えられるとFRETが低下する。

2C Nap1-H2AH2B(H3H4)2テトラマーの競合をFRETでみて適切な平衡定数をえた。

 

表1次にDNAの配列の影響をみた。S5とヌクレオソームと強い結合を示す601配列を比べるとΔΔG0-601-0.7kcal/molであった。

 

図3 H3K56アセチル化は、H3Nap1の親和性はかわりないがDNAの結合は、ΔΔGH3K56ac1.8Kcalであり、1/15に弱くなる。しかし一度DNAが多い条件下でH3K56(H3H4)2テトラソームを形成すると、ヌクレオソームの安定性は変わらなくなる。このことは、H2AH2Bダイマーがなくなると、テトラソームは不安定になる。

 

H2AH2BDNAの親和性は高い親和性で結合するため、カノニカルなオクタマー形成にH2AH2B-DNA複合体は邪魔になる。

図4に示すのはNap1DNA-H2AH2Bダイマーとどう相互作用するかである。△が5SDNAで■が601配列である。この図4ACを比較すると、Nap1があるとDNAH2AH2Bの結合ができにくくなることがわかる。

図4Bをみると、H2AH2BDNAと結合しているとNap1をいれても関係ない。

図5はNap1がないと、染色体DNAH2AH2Bの結合我増えるがH3の結合が減る事がわかる。

 

図6をみるとNap1がないと、転写活性化がより活発におこり抑制されやすいことがわかる。これらのことをみていくと、ヌクレオソーム形成は転写を抑制していることがデフォールトで、それがはずれると転写が増えるように思われる。古典的ヌクレオソーム以外の形でDNAH2AH2Bが結合すると転写はおこりやすくなる。

 

 (担当、児玉)

 

The EMBO journal, vol. 19, p2046, 2000

Figure 1 A

ANF promoter解析

ANFには以前からMEF2結合siteは無いと報告されているが、A/T rich siteMEF2結合配列に似ている。  

Figure 1Bleft pannel

MCK promoterを用いてANF promoter site competition assay

MCKにはMEF2結合サイトがあると報告されている。

MCK promoterANF A/T rich site500倍添加してもほとんどバンドはなくならない

ANF AT rich siteにおけるMEF2結合能は低い

right panel

ANF AT rich siteにはMEF2Aが弱いながらも結合する

MEF2AだけでなくMEF2C,MEF2Dにも同じ結果が得られた(Data not shown

 

Figure 2

A) Hela細胞、CV-1細胞、P19細胞を用いたANF promoter reporter assay

 ANF promoterMEF2により用量依存的に活性化される。

 細胞種による反応性が異なる機序は不明。

B)細胞種による反応性の違いは、ANF promoterだけではなく他のpromoterでも生じる

3×MEF2MCK(MEF2結合siteあり) promoterMEF2結合site

α-MHC:α-myosin heavy chainMEF2結合siteあり)

C)結合siteへの変異をいれANF promoter reporter assay

 

Figure 3

A)GATAMEF2cotransfectionさせANF promoter reporter assay

B)MEF2GATAcotransfectionさせANF promoter reporter assay

 

Figure 4

A)GATA4MEF2Acotransfectionさせ結合siteへの変異をいれANF promoter reporter assay

B)GATA結合siteがなく、MEF2結合siteのみのpromoter reporter assay

MEF2結合siteのみでは相乗的な作用は認められない。

 

Figure 5

MEF2GATAinteraction解析(co I.Pならびにpull down assay

A)    HA-MEF2Flag-GATA4を用いてcoI.P

B)    MBP-GATAMEF2A,C,Dを用いてpull down assay

C)    MEF2AGATA4site constractを用いてcoI.P

GATAC末(DNA結合配列)にMEF2Aが結合する。GATADNA結合配列に変異がある(G4m)とMEF2Aは結合しない

D)    GATA4MEF2 DNA結合 domainDIVE)とのco I.P

E)    GATA4 DNA結合配列とMEF2CとのcoI.P

MEF2CDNA結合配列に変異があってもGATA4interactionする

 

Figure 6

MEF2Aと変異を含むGATA4を用いたANF promoter reporter assay

A)    MEF2Aと変異を含むGATA4を用いたANF promoter reporter assay

GATAC末にはDNA結合配列があり、これらが欠損もしくは変異があるとpromoterは活性化されない。

B)    GATA4と変異を含むMEF2を用いたANF promoter reporter assay

MEF2ADNA結合配列が欠損しているとpromoter活性は低下する。しかし、MEF2Cについては、DNA結合配列に変異があってもpromoter活性は増強される

GATADNA結合作用は重要であるがMEF2DNA結合siteがなくてもGATApromoter活性化作用を増強させる

 

Figure 7

A)ANF以外でGATAにより制御される遺伝子のpromoter reporter assay

α-MHC:α-myosin heavy chain

α-CA:α-cardiac actin

BNPB-type natriuretic peptide

 

MHCCAでもMEF2GATAにより相乗的にpromoterは活性化された。

しかし、β-MHCのようにすべてのGATAの標的遺伝子がMEF2による相乗的作用は得られるのではない。

B)primary cardiomyocytesにおけるANF promoter assay

ANF promoterprimary cardiomyocytesにおいてもMEF2により活性化され、GATA結合siteに変異があるとその作用は消失した。

 

以上のことから、MEF2GATAは相互作用することによりANF promoterを相乗的に活性化させた。

 (担当、前島)

Long non-coding RNA HOTAIR reprograms chromatin state to promote cancer metastasis

nature vol464 p1071

Rajnish A. Gupta1, Nilay Shah4, Kevin C. Wang1, Jeewon Kim2, Hugo M. Horlings6, David J. Wong1, Miao-Chih Tsai1,

Tiffany Hung1, Pedram Argani5, John L. Rinn7, Yulei Wang8, Pius Brzoska8, Benjamin Kong8, Rui Li3, Robert B. West3,

Marc J. van de Vijver6, Saraswati Sukumar4 & Howard Y. Chang1

Abstract

Large intervening non-coding RNAs(linc RNA)はゲノムで広く転写されているが、その転写産物と疾患の関係は明らかになっていない。近年の遺伝子量補正、インプリンティング、ホメオティック遺伝子の研究で個々のLincRNADNA及び特定のクロマチンンリモデリング関与していることが示唆されている。本研究ではHOXクラスターにあるLincRNAが乳がん進行において脱制御されていることを示した。HOTAIRと呼ばれるこのLincRNAは乳がんの原発巣および転移において発現が亢進し、原発巣HOTAIRの発現レベルは転移と死亡の強力な予想因子となりうる。上皮がん細胞でHOTAIRを強制発現させるとゲノムワイドなPRC2の再標的が行われ、局在のパターンが胚性線維芽細胞によく似たものになり、異常なH3K27のメチル化、遺伝子発現、がん細胞の浸潤転移をひき起す。逆に、HOTAIRの喪失は特に異常なPRC2を発現している細胞において、がん細胞の浸潤能を抑制する。

これによりLincRNAはがんのエピゲノムを調節し、がん診断と治療の重要な標的である可能性を示している。

要点

LincRNA HOTAIRの発現と乳がんの悪性度、転移に相関がある。

HOTAIRの発現はPRC2複合体の再配置を促し、転移能及び足場非依存性増殖能を亢進させる。

Fig1

正常乳腺上皮、乳がん原発巣、転移巣のRNAを高密度なHOXクラスタータイリングアレイを用い解析を行った。

乳がん原発巣、転移巣に発現が亢進しているLincRNAとしてHOTAIRがある。

(Fig1e,f)このHOTAIRの発現と予後、転移に相関があることが予想される。このHOTAIRHOXC(chr12)クラスターに存在するLincRNAで異なるクロモソームであるHOXD(chr2)ローカスにPRC2複合体とともに結合する。

(PRC2は発生に関与する遺伝子の抑制やがん進行に関与し、H3K27メチル化酵素を含む複合体である)

そこでHOTAIRの発現はポリコーム複合体の再配置やH3K27me3化によりがん進行に関与するのではないかと考える。

Fig2

(fig2 a)レトロウィルスを用いてHOTAIR発現のステーブルラインを樹立。HOTAIR高発現細胞において、コロニーフォーメンション及びインベージョンアッセイにおいても優位に増加した。

(Fig2b)また、siRNAを用いて強制発現のHOTAIRを抑制すると、その浸潤能は抑制された。

(fig2c)In vivoでのHOTAIRの役割を観察するために、この細胞株にLuc標識し増殖能及び広がりを測定した。

(Fig2d)また、転移能をもたないSK-BR3細胞を用いて、HOTAIRによる転移を測定した

Fig3

HOTAIR発現によるPRC2複合体の結合領域の変化をChIP-chipにより測定した。

(Fig3a)H3K27me3PRC2複合体の一部であるSUZ12,EZH2の結合変化を測定すると、HOTAIRにより新たな結合領域が854個所検出された。HOTAIR発現によりPRC2複合体が形成されたプロモーター領域には乳がんで発現が抑制されている、HOXD10,PGR,JAM2,EPHA1などが含まれていた。Gene-Ontology解析ではこの854遺伝子には多くのcell-cellシグナル経路が含まれていた。また、死亡に至る悪性乳がんでの発現抑制と854遺伝子に相関があった。

(Fig3c)またpattern-matching algorithm HOTAIRで誘導されるPRC2複合体配置のパターンは乳腺上皮様から胎生線維芽細胞様へと移行する。

Fig4

HOTAIR誘導による浸潤能亢進はPRC2複合体と直接関係があるのか検証した。

(Fig4 b)PRC2複合体の一部であるEZH2,SUZ12shRNAで抑制することで、HOTAIR高発現による浸潤能は低下した。(Fig4c)HOTAIR強制発現により誘導された遺伝子発現変化は、shEZH2,shSUZ12により下のレベルまで戻った。

HOTAIRによって発現が抑制される遺伝子は、PRC2複合体のSUZ12EZH2を抑制することで、発現が回復された。また逆に(Fig4d)HOTOAIRにより亢進される遺伝子についても、PRC2複合体を抑制することで、発現が元に戻った。

(Fig4e)また、EZH2強制発現により浸潤能が上がるが、HOTAIRを抑制することにより浸潤能は抑制される。

これらの結果からHOTAIRPRC2にはがん浸潤において共依存の関係があると考えられる。

まとめ

(Fig4f)がんにおけるトランスクリプトームは、protein coding genesmicroRNA,脱制御されたLincRNAなどを含め複雑なものであるが、LincRNAであるHOTAIRが転移、進行を制御していることは明らかである。

HOTAIRがゲノムワイドなPRC2の再配置を行いH3K27me3を誘導し遺伝子発現を抑制する。このようなメカニズムは他のLincRNAでも報告されている。

(担当、野中)

肝細胞癌ゲノム解析データの公開

ゲノムサイエンス分野は国立がん研究センターと共同で国際共同プロジェクト「国際癌ゲノムコンソーシウム(International Cancer Genome Consortium:ICGC)」に参加しています。その研究デザインなど、プロジェクトの方針と進捗状況に関する論文が、4月15付けでNature 誌に掲載されました。

本プロジェクトでは肝細胞がんゲノムの解析を進めており、最初の症例の肝がんのゲノム変異の解読データをICGCのウェブサイトで2010年4月15日から公開しました。

International Cancer Genome Consortium.
International network of cancer genome projects.
Nature. 2010 Apr 15;464(7291):993-8.

PubMed
Jounal Website

Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Apr 5. [Epub ahead of print]

Histone H3K27 methyltransferase Ezh2 represses Wnt genes to facilitate adipogenesis.

Wang L, Jin Q, Lee JE, Su IH, Ge K.

Nuclear Receptor Biology Section, Clinical Endocrinology Branch, National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases, National Institutes of Health, Bethesda, MD 20892.

担当:野村

Cell. 2010 Apr 2;141(1):69-80.

A chromatin-mediated reversible drug-tolerant state in cancer cell subpopulations.

Sharma SV, Lee DY, Li B, Quinlan MP, Takahashi F, Maheswaran S, McDermott U, Azizian N, Zou L, Fischbach MA, Wong KK, Brandstetter K, Wittner B, Ramaswamy S, Classon M, Settleman J.

Massachusetts General Hospital Cancer Center, 149 13th Street, Charlestown, MA 02129, USA.

担当:辰野

Structural Biology of Human H3K9 Methyltransferases

Structural Biology of Human H3K9 Methyltransferases

PlosOne January 2010 | Volume 5 | Issue 1 | e8570

 

ヒトH3K9メチルトランスフェラーゼの構造生物学

 

SETドメインメチストランスフェラーゼは、ヒストンテールの特異的なリジン残基にメチルマークをつけ、遺伝子転写のエピジェネティックな制御に主な役割を果たしている。既知のヒトH3K9メチルトランスフェラーゼ8種(図1)のうち4種であるGLPG9aSuv39H2およびPRDM2の活性ドメインの構造を、アポまたはメチル基を与えるコファクターまたはペプチド基質とのコンプレックスの状態で、解いた(2)。メチル化状態の特異性を決める構造因子を解析し、H3K9をトリメチル化できるG9aミュータントを設計した(図3)。またI-SETドメインが固いドッキングプラットフォームとなり、誘導されてフィットするPost-SETドメインが触媒能力のあるコンフォメーションを取ることを示した(図45)。酵素とヒストン基質を長期間静電的に結合させるモデルを提案し(8)、ターゲットリジン残基の上流のひとつのアルギニン残基の存在が結合と特異性に重要であることを示した(図6)。

 

1 ヒトヒストンメチル化酵素の系統樹

2 4種のヒトH3K9 HKMTの構造: 4つの構造の重ね合わせ(E6)

3 G9aのモノ/ジメチル化の特異性を決定している構造

GLPの構造を元にヒストンとの位置関係を見るとG9aY1067K9ジメチルの方向を決めてAdoMetからメチル基を転移出来なくしているためトリメチル活性がない。Y1067F変異体はトリメチル活性を持つ。F1152Y変異体ではモノメチル活性しかもたない。(E25)

4 I-SETドメインは比較的固定した保存された構造を持つ(E8)

5 Post-SET(青)とI-SET(シアン)とヒストンの水素結合によって全てのHKMTの構造が保存されている。H3R8は広い範囲でI-SETドメインと接触している。

6 GLPH3K9me,me2の複合体ではH3K4H3R8と重なっている。(E17)

7 Suv39H2の自己阻害構造。

Suv39H2の構造解析でPost-SetドメインのC末端側のK264がヒストンのH3K9の占める部位と重なっていることが示された。

8 H3K9ペプチド結合部位の静電コンポーネント

ヒストンテールは正の荷電しているのに対し酵素の基質ポケットは負の電荷を持つ。(E19-23)

Nat Med. 2010 Mar;16(3):286-94. Epub 2010 Feb 14.

EZH2がRasGAPであるDAB2IP(NF-kB抑制作用も持つ)の抑制を介して、Ras, NF-

kBを活性化し、それが前立腺がんの増殖、転移のメカニズムであるとする報告で

す。

担当、穴井。

Oncogene, 28, 2009, 184-94

内容は、

「低酸素状態でRUNX3のプロモーター領域はヒストンのメチル化によりサイレンシングされている。

それらはG9aによるメチル化およびHDAC1による脱アセチル化によるものである」

という内容です。

担当、杉山

Nat Genet. 2010 Mar;42(3):255-9. Epub 2010 Jan 31.

担当、馬郡

The EMBO J. 2010. 1-11.

Shayesta Seenundun, Shravanti Rampalli, Qi-Cai Liu et al.

 

Abstract

PcG(Polycomb)TrxG(Trithorax)は組織特異的な遺伝子発現を制御するために拮抗して作用する。PcG蛋白の一つであるEzh2H3K27のトリメチル化を行うことによって遺伝子発現抑制を促進する。遺伝子が発現するためにはH3K27me3ははずれてTrxG蛋白によりH3K4me3に置き換わる必要がある。H3K27me3の脱メチル化酵素はこれまでに同定されているが、どの遺伝子上に働くのがそのターゲット遺伝子のメカニズムは明らかにされていなかった。本稿では、筋形成の際に筋肉特異的遺伝子上でUTXを介した脱メチル化が2段階でおこなわれることを示した。転写活性因子であるSix4は筋遺伝子の転写調節部位にUTXをリクルートし、その結果、H3K27me3が転写開始点の上流ではずれる。coding regionH3K27me3がはずれるとRNA polymeraseが延長される。さらにpolymerase IIの延長をブロックするとcoding regionにおいてH3K27me3/H3K4me3が形成された。このようにUTXが抑制マーカーであるH3K27me3をはずすと遺伝子上でその変化がダイナミックに行われることが示された。

 

背景

PcG: Ezh2(KMT6):H3K27me3(repressive marker)

TrxG: KMT2: H3K4me3 (active marker)

H3K27me3の脱メチル化酵素:①UTX:KDM6AJMJD3:KDM6B

Proteomics analysesの結果から、UTXMLL3/HALR(KMT2C), MLL4/ALR(KMT2D), PTIPと複合体を形成することが知られている。

発生の過程においてMyog(myogenin)は骨格筋細胞のみに発現しているが、CKm(muscle creatine kinase)は骨格筋と心筋細胞に発現しており、組織特異的に発現する遺伝子のモデルとして最適であることが今までに示されている。これらの遺伝子上にはヒトembryonic fibroblastにおいてH3K27me3のマーキングがあり、CKm遺伝子も筋前駆細胞においてEzh2のターゲットとしてH3K27me3が入っていることが報告されている。筋肉が分化するとCKm遺伝子上のH3K27me3ははずれ、active markerとしてH3K4me3がはいる。

 

Fig.1

Myogenesis(筋形成)に重要な役割を果たす2つの遺伝子MyogCKmの遺伝子上にそれぞれ5か所、6か所primerを設計し、ChIP-PCRにてH3K27me3の濃縮を確認した。

0時間すなわち増殖型の筋芽細胞ではH3K27me3が遺伝子全体に入り、H3K4me3はほとんど入らないが、24時間後の分化したときはMyog遺伝子上のH3K27me3ははずれ、かわりにH3K4me3が入っている。一方CKm遺伝子上では24時間後には発現していないため、H3K27me3がはいったままである。しかし、CKmの遺伝子上でもenhancerである②の部分だけはH3K27me3がはずれている。48時間後の分化ではMyogCKmともに遺伝子上流10kbまでにわたりH3K27me3ははずれ、遺伝子は高く発現している。しかし3'端は減少しながらもH3K27me3enrichを認めた。

 

Fig.2

H3K27me3の脱メチル化酵素にはJMJD3UTXがあるが、JMJD3H3K27me3のメチル化レベルをglobalに変化させるのに対してUTXはあまり影響を与えないという報告がある。そのことからUTXは特異的なgenome lociにのみ脱メチル化を行う可能性が示唆された。ChIP assayによりUTXが分化に伴ってリクルートされ、Ezh2は減少し、H3K4me3のマーカーであるAshL248時間後にリクルートされることが示された。筋形成の分化の過程においてUTXAshL2がリクルートされる、というこの現象は既に知られているNTERA2細胞が分化する際にUTXAshL2HoxA1-3HoxB1-3遺伝子にリクルートされるのと同様である。48時間後までにはUTXMyogおよびCKm遺伝子のcoding region全体にリクルートされており、H3K27me3が分化に伴ってはずれた部位と一致した。このことから、H3K27me3の脱メチル化はUTXを介して行われた可能性が示唆された。

 

Fig.3

Lentivirusを用いてUTXをノックダウンさせたときMyogCKm遺伝子の発現は低下した。さらに免疫染色では多核形成とMHC(myosin heavy chain)陽性myotubeの形成が抑制される。 さらにUTXのノックダウンにより分化した筋芽細胞のH3K27me3の脱メチル化も抑制された。

 

Fig.4

Homeobox proteinで転写活性因子Six4UTXの関係をC2C12細胞の核抽出分画を用いて共免疫沈降で確認した。さらにK562細胞においても内在性のUTXSix4の共沈を確認した。ChIP assayによりSix4MyogCKm両方の転写調節部位に24時間後の分化でリクルートされた。さらにSix4siRNAにより70%程度ノックダウンするとMyog, CKmの遺伝子発現量は低下したが、UTX, myostatin, global levelH3K27me3は変化しなかった。筋形成に特異的な遺伝子だけがSix4のノックダウンにより発現低下することは、UTXがこれらの遺伝子にリクルートされていることを示すと考えられた。また、その結果、Six4のノックダウンによりH3K27me3はこれらの遺伝子上にenrichされた。

 

Fig.5

Ash2L1/MLL(KMT2B)を含むH3K4メチル基転移酵素複合体が筋形成特異的遺伝子すなわちMyogCKm遺伝子のプロモーター領域にリクルートされるには、p38 MAPKによる転写因子のリン酸化が必要であることがすでに報告されている。そこで、薬理的阻害薬であるSB203850を用いてこれらのリクルートもp38 MAPK依存的であるかどうか調べた。阻害薬を使用すると分化後にAsh2L1Myogにリクルートされなくなるが、UTXは変化せず、UTXMyogのプロモーター領域にリクルートするにはp38MAPK活性は必要ないことがわかった。さらにp38MAPKシグナリングを抑制してもMyog,CKm遺伝子上のプロモーター領域でH3K27me3は脱メチル化されることもわかった。しかし、coding region(Myogの④、CKmの④⑤)では阻害薬投与により脱メチル化活性の広がりが失われH3K27me3がはいっていることがわかった。P38MAPK阻害薬はAsh2L1のリクルートを阻害し、H3K4me3が入らないようになる。Ash2L1をノックダウンすると、Myog遺伝子上でcoding regionH3K27me3がはいったままになる。このことからAsh2L1のリクルートはUTXの脱メチル化活性をcoding regionに広げるために必要であることがわかった。

 

Fig.6

分化した筋芽細胞においてp38MAPKを阻害することによりRNA polymerase IIenrichすることが知られている。さらにUTXPol IIの延長に対してRpb1と共同して作用することが知られている。そこで筆者らは転写延長の薬理作用的阻害薬DRBを使って、UTXを介して脱メチル化にはPol IIの延長が必要であるかどうかを検討した。DRBによりCKmMyogの発現は抑制され、それに伴ってMyogCKm5'端にはpol IIが蓄積した。Pol IIの延長がH3K27me3の脱メチル化に与える影響を調べるため、DRB処理3時間後(+分化45時間後)とDRB処理24時間後(+分化24時間後)のC2C12細胞にH3K27me3ChIPを行った。その結果、どちらもH3K27me3coding regionに増加していることがわかった。さらにそこにはUTXがなく、regulatory regionすなわち転写開始点にはUTXが入っていることがわかった。このことからUTXの脱メチル化活性はPol IIの延長によりMyogCKmcoding regionに移動することが示された。

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