2010年4月 7日

UTX mediates demethylation of H3K27me3 at muscle-specific genes during myogenesis.

The EMBO J. 2010. 1-11.

Shayesta Seenundun, Shravanti Rampalli, Qi-Cai Liu et al.

 

Abstract

PcG(Polycomb)TrxG(Trithorax)は組織特異的な遺伝子発現を制御するために拮抗して作用する。PcG蛋白の一つであるEzh2H3K27のトリメチル化を行うことによって遺伝子発現抑制を促進する。遺伝子が発現するためにはH3K27me3ははずれてTrxG蛋白によりH3K4me3に置き換わる必要がある。H3K27me3の脱メチル化酵素はこれまでに同定されているが、どの遺伝子上に働くのがそのターゲット遺伝子のメカニズムは明らかにされていなかった。本稿では、筋形成の際に筋肉特異的遺伝子上でUTXを介した脱メチル化が2段階でおこなわれることを示した。転写活性因子であるSix4は筋遺伝子の転写調節部位にUTXをリクルートし、その結果、H3K27me3が転写開始点の上流ではずれる。coding regionH3K27me3がはずれるとRNA polymeraseが延長される。さらにpolymerase IIの延長をブロックするとcoding regionにおいてH3K27me3/H3K4me3が形成された。このようにUTXが抑制マーカーであるH3K27me3をはずすと遺伝子上でその変化がダイナミックに行われることが示された。

 

背景

PcG: Ezh2(KMT6):H3K27me3(repressive marker)

TrxG: KMT2: H3K4me3 (active marker)

H3K27me3の脱メチル化酵素:①UTX:KDM6AJMJD3:KDM6B

Proteomics analysesの結果から、UTXMLL3/HALR(KMT2C), MLL4/ALR(KMT2D), PTIPと複合体を形成することが知られている。

発生の過程においてMyog(myogenin)は骨格筋細胞のみに発現しているが、CKm(muscle creatine kinase)は骨格筋と心筋細胞に発現しており、組織特異的に発現する遺伝子のモデルとして最適であることが今までに示されている。これらの遺伝子上にはヒトembryonic fibroblastにおいてH3K27me3のマーキングがあり、CKm遺伝子も筋前駆細胞においてEzh2のターゲットとしてH3K27me3が入っていることが報告されている。筋肉が分化するとCKm遺伝子上のH3K27me3ははずれ、active markerとしてH3K4me3がはいる。

 

Fig.1

Myogenesis(筋形成)に重要な役割を果たす2つの遺伝子MyogCKmの遺伝子上にそれぞれ5か所、6か所primerを設計し、ChIP-PCRにてH3K27me3の濃縮を確認した。

0時間すなわち増殖型の筋芽細胞ではH3K27me3が遺伝子全体に入り、H3K4me3はほとんど入らないが、24時間後の分化したときはMyog遺伝子上のH3K27me3ははずれ、かわりにH3K4me3が入っている。一方CKm遺伝子上では24時間後には発現していないため、H3K27me3がはいったままである。しかし、CKmの遺伝子上でもenhancerである②の部分だけはH3K27me3がはずれている。48時間後の分化ではMyogCKmともに遺伝子上流10kbまでにわたりH3K27me3ははずれ、遺伝子は高く発現している。しかし3'端は減少しながらもH3K27me3enrichを認めた。

 

Fig.2

H3K27me3の脱メチル化酵素にはJMJD3UTXがあるが、JMJD3H3K27me3のメチル化レベルをglobalに変化させるのに対してUTXはあまり影響を与えないという報告がある。そのことからUTXは特異的なgenome lociにのみ脱メチル化を行う可能性が示唆された。ChIP assayによりUTXが分化に伴ってリクルートされ、Ezh2は減少し、H3K4me3のマーカーであるAshL248時間後にリクルートされることが示された。筋形成の分化の過程においてUTXAshL2がリクルートされる、というこの現象は既に知られているNTERA2細胞が分化する際にUTXAshL2HoxA1-3HoxB1-3遺伝子にリクルートされるのと同様である。48時間後までにはUTXMyogおよびCKm遺伝子のcoding region全体にリクルートされており、H3K27me3が分化に伴ってはずれた部位と一致した。このことから、H3K27me3の脱メチル化はUTXを介して行われた可能性が示唆された。

 

Fig.3

Lentivirusを用いてUTXをノックダウンさせたときMyogCKm遺伝子の発現は低下した。さらに免疫染色では多核形成とMHC(myosin heavy chain)陽性myotubeの形成が抑制される。 さらにUTXのノックダウンにより分化した筋芽細胞のH3K27me3の脱メチル化も抑制された。

 

Fig.4

Homeobox proteinで転写活性因子Six4UTXの関係をC2C12細胞の核抽出分画を用いて共免疫沈降で確認した。さらにK562細胞においても内在性のUTXSix4の共沈を確認した。ChIP assayによりSix4MyogCKm両方の転写調節部位に24時間後の分化でリクルートされた。さらにSix4siRNAにより70%程度ノックダウンするとMyog, CKmの遺伝子発現量は低下したが、UTX, myostatin, global levelH3K27me3は変化しなかった。筋形成に特異的な遺伝子だけがSix4のノックダウンにより発現低下することは、UTXがこれらの遺伝子にリクルートされていることを示すと考えられた。また、その結果、Six4のノックダウンによりH3K27me3はこれらの遺伝子上にenrichされた。

 

Fig.5

Ash2L1/MLL(KMT2B)を含むH3K4メチル基転移酵素複合体が筋形成特異的遺伝子すなわちMyogCKm遺伝子のプロモーター領域にリクルートされるには、p38 MAPKによる転写因子のリン酸化が必要であることがすでに報告されている。そこで、薬理的阻害薬であるSB203850を用いてこれらのリクルートもp38 MAPK依存的であるかどうか調べた。阻害薬を使用すると分化後にAsh2L1Myogにリクルートされなくなるが、UTXは変化せず、UTXMyogのプロモーター領域にリクルートするにはp38MAPK活性は必要ないことがわかった。さらにp38MAPKシグナリングを抑制してもMyog,CKm遺伝子上のプロモーター領域でH3K27me3は脱メチル化されることもわかった。しかし、coding region(Myogの④、CKmの④⑤)では阻害薬投与により脱メチル化活性の広がりが失われH3K27me3がはいっていることがわかった。P38MAPK阻害薬はAsh2L1のリクルートを阻害し、H3K4me3が入らないようになる。Ash2L1をノックダウンすると、Myog遺伝子上でcoding regionH3K27me3がはいったままになる。このことからAsh2L1のリクルートはUTXの脱メチル化活性をcoding regionに広げるために必要であることがわかった。

 

Fig.6

分化した筋芽細胞においてp38MAPKを阻害することによりRNA polymerase IIenrichすることが知られている。さらにUTXPol IIの延長に対してRpb1と共同して作用することが知られている。そこで筆者らは転写延長の薬理作用的阻害薬DRBを使って、UTXを介して脱メチル化にはPol IIの延長が必要であるかどうかを検討した。DRBによりCKmMyogの発現は抑制され、それに伴ってMyogCKm5'端にはpol IIが蓄積した。Pol IIの延長がH3K27me3の脱メチル化に与える影響を調べるため、DRB処理3時間後(+分化45時間後)とDRB処理24時間後(+分化24時間後)のC2C12細胞にH3K27me3ChIPを行った。その結果、どちらもH3K27me3coding regionに増加していることがわかった。さらにそこにはUTXがなく、regulatory regionすなわち転写開始点にはUTXが入っていることがわかった。このことからUTXの脱メチル化活性はPol IIの延長によりMyogCKmcoding regionに移動することが示された。