2010年4月28日
Long non-coding RNA HOTAIR reprograms chromatin state to promote cancer metastasis
Long non-coding RNA HOTAIR
reprograms chromatin state
to promote cancer metastasis
nature vol464 p1071
Rajnish
A. Gupta1, Nilay Shah4,
Kevin C. Wang1, Jeewon Kim2,
Hugo M. Horlings6, David J. Wong1,
Miao-Chih Tsai1,
Tiffany
Hung1, Pedram Argani5,
John L. Rinn7, Yulei Wang8,
Pius Brzoska8, Benjamin Kong8,
Rui Li3, Robert B. West3,
Marc
J. van de Vijver6, Saraswati Sukumar4 &
Howard Y. Chang1
Abstract
Large intervening non-coding
RNAs(linc RNA)はゲノムで広く転写されているが、その転写産物と疾患の関係は明らかになっていない。近年の遺伝子量補正、インプリンティング、ホメオティック遺伝子の研究で個々のLincRNAがDNA及び特定のクロマチンンリモデリング関与していることが示唆されている。本研究ではHOXクラスターにあるLincRNAが乳がん進行において脱制御されていることを示した。HOTAIRと呼ばれるこのLincRNAは乳がんの原発巣および転移において発現が亢進し、原発巣HOTAIRの発現レベルは転移と死亡の強力な予想因子となりうる。上皮がん細胞でHOTAIRを強制発現させるとゲノムワイドなPRC2の再標的が行われ、局在のパターンが胚性線維芽細胞によく似たものになり、異常なH3K27のメチル化、遺伝子発現、がん細胞の浸潤転移をひき起す。逆に、HOTAIRの喪失は特に異常なPRC2を発現している細胞において、がん細胞の浸潤能を抑制する。
これによりLincRNAはがんのエピゲノムを調節し、がん診断と治療の重要な標的である可能性を示している。
要点
LincRNA HOTAIRの発現と乳がんの悪性度、転移に相関がある。
HOTAIRの発現はPRC2複合体の再配置を促し、転移能及び足場非依存性増殖能を亢進させる。
Fig1
正常乳腺上皮、乳がん原発巣、転移巣のRNAを高密度なHOXクラスタータイリングアレイを用い解析を行った。
乳がん原発巣、転移巣に発現が亢進しているLincRNAとしてHOTAIRがある。
(Fig1e,f)このHOTAIRの発現と予後、転移に相関があることが予想される。このHOTAIRはHOXC(chr12)クラスターに存在するLincRNAで異なるクロモソームであるHOXD(chr2)ローカスにPRC2複合体とともに結合する。
(PRC2は発生に関与する遺伝子の抑制やがん進行に関与し、H3K27メチル化酵素を含む複合体である)
そこでHOTAIRの発現はポリコーム複合体の再配置やH3K27me3化によりがん進行に関与するのではないかと考える。
Fig2
(fig2 a)レトロウィルスを用いてHOTAIR発現のステーブルラインを樹立。HOTAIR高発現細胞において、コロニーフォーメンション及びインベージョンアッセイにおいても優位に増加した。
(Fig2b)また、siRNAを用いて強制発現のHOTAIRを抑制すると、その浸潤能は抑制された。
(fig2c)In vivoでのHOTAIRの役割を観察するために、この細胞株にLuc標識し増殖能及び広がりを測定した。
(Fig2d)また、転移能をもたないSK-BR3細胞を用いて、HOTAIRによる転移を測定した
Fig3
HOTAIR発現によるPRC2複合体の結合領域の変化をChIP-chipにより測定した。
(Fig3a)H3K27me3、PRC2複合体の一部であるSUZ12,EZH2の結合変化を測定すると、HOTAIRにより新たな結合領域が854個所検出された。HOTAIR発現によりPRC2複合体が形成されたプロモーター領域には乳がんで発現が抑制されている、HOXD10,PGR,JAM2,EPHA1などが含まれていた。Gene-Ontology解析ではこの854遺伝子には多くのcell-cellシグナル経路が含まれていた。また、死亡に至る悪性乳がんでの発現抑制と854遺伝子に相関があった。
(Fig3c)またpattern-matching algorithm HOTAIRで誘導されるPRC2複合体配置のパターンは乳腺上皮様から胎生線維芽細胞様へと移行する。
Fig4
HOTAIR誘導による浸潤能亢進はPRC2複合体と直接関係があるのか検証した。
(Fig4 b)PRC2複合体の一部であるEZH2,SUZ12をshRNAで抑制することで、HOTAIR高発現による浸潤能は低下した。(Fig4c)HOTAIR強制発現により誘導された遺伝子発現変化は、shEZH2,shSUZ12により下のレベルまで戻った。
HOTAIRによって発現が抑制される遺伝子は、PRC2複合体のSUZ12、EZH2を抑制することで、発現が回復された。また逆に(Fig4d)HOTOAIRにより亢進される遺伝子についても、PRC2複合体を抑制することで、発現が元に戻った。
(Fig4e)また、EZH2強制発現により浸潤能が上がるが、HOTAIRを抑制することにより浸潤能は抑制される。
これらの結果からHOTAIRとPRC2にはがん浸潤において共依存の関係があると考えられる。
まとめ
(Fig4f)がんにおけるトランスクリプトームは、protein
coding genesやmicroRNA,脱制御されたLincRNAなどを含め複雑なものであるが、LincRNAであるHOTAIRが転移、進行を制御していることは明らかである。
HOTAIRがゲノムワイドなPRC2の再配置を行いH3K27me3を誘導し遺伝子発現を抑制する。このようなメカニズムは他のLincRNAでも報告されている。
(担当、野中)