2009年8月アーカイブ

Drosophila MSL complex globally acetylates H4K16 on the male X
chromosome for dosage compensation.
Gelbart ME, Larschan E, Peng S, Park PJ, Kuroda MI.
Nat Struct Mol Biol. 2009 Aug;16(8):825-32. Epub 2009 Aug 2

背景
X染色体の遺伝子発現量補償(dosage compensation)は哺乳類では、メスのX染色体の不活性化、ショウジョウバエではオスのX染色体の活性化によりなされる。ショウジョウバエのdosage compensation複合体はnon-coding RNAであるroX RNAsとMSLタンパク複合体からなる。MSL複合体は、MSL1, MSL2, MSL3, MOF, MLEであり、MOFはhistone acetyltransferase(HAT)であり、MSLは転写活性化のヒストン修飾であるH4K16acする。
MSLはオスにのみ発現し、オスX染色体上のchromatin entry site(CES)に結合してからX染色体全体に広がっていくと考えられている(spreading)。CESにはroX RNAの遺伝子があり、roX RNAが転写後MSLに取り込まれて、MSL複合体が染色体上に広がっていくと考えられている。

要旨
X染色体におけるMSLの作用を調べるために、H4K16acとMSLのChIP-chipを行った。その結果、X染色体上の転写されている遺伝子はほとんどMSLによるH4K16ac修飾を受けているが、そのうち25%の遺伝子についてはMSLの結合は検出されていない。RNAiおよびハエのmsl mutantを用いた解析により、MSLの結合が検出できなかった活性化遺伝子のH4K16acもMSL依存的であることがわかった。H4K16acが広範囲であるのに対してMSLの結合部位は少ないということは、MSLがtransientに結合してH4K16acしていることを示唆しており、polycomb複合体(H3K27me)でも同様のモデルが提唱されていることから、transient associationというのは広範囲に広がるクロマチン修飾制御に共通のメカニズムなのかもしれない。

Fig.1 a. ChIP-chipオスのX染色体はbroadにH4K16ac修飾が入っており、MSLが結合している部位は特にH4K16acのChIPシグナルが高い。b.X染色体と2Lを比較すると、X染色体ではH4K16acのシグナルがbaselineのレベルで高い。c. MSL3のbaseline(分布のピーク)はシフトしない。d,e 転写されている遺伝子はMSLが結合していてH4K16シグナルが一番高い。

Fig.2 a.ほとんど全ての活性遺伝子は高レベルにH4K16acされている。Sup Fig.3b MSLと同様に、H4K16acのシグナルも活性化遺伝子の3'側にかけて強くなる。Sup Fig 3c,d MSLのはっきりとした結合は認められない遺伝子についても、同様の傾向が見られる(MSLの結合が検出限界以下ではあるが、target候補か?)。Fig.2bそこでmsl2をRNAiしたサンプルで比較すると、既知のMSL結合活性化遺伝子では、msl2のRNAiで発現量が低下するのが確認でき、さらにMSLの結合は検出限界以下であった活性化遺伝子の発現量低下も認められた。したがってMSL複合体はX染色体全体に広範囲に作用していると考えられる。

Fig.3a-c MSL複合体がH4K16acに必要かどうか、MSL複合体のRNAiでのH4K16acのChIP-PCRを行った。msl2 RNAi, mof RNAiでMSL target geneのH4K16acが減じる。MSLの結合が検出されていない活性化遺伝子についても、MSLのRNAiによりH4K16acがなくなる。ちなみに、MOFをRNAiしてお、MSLはCESに結合する。MOFはspreadingに必要。また、MSLがCESに結合してもMOFがなければH4K16acは起こらない。

Fig.4 in vivoで、ハエの幼虫オスでもChIP-chipを行った。その結果、SL2細胞のときと同様、a. X染色体で、SLと比べてH4K16acのbaselineのshift(X染色体全体に濃縮)b. 活性化遺伝子(TG)で特に高度にH4K16ac、c. ハエのmof mutantを用いたChIP-PCRでは、MSL target geneもMSLの結合が検出できていない活性化遺伝子でもH4K16acがbackgroundまで下がる。

Fig.5 オスのX染色体以外のH4K16acについて。メスのX染色体や常染色体(2L)、オスの2Lでも発現量の多い遺伝子の5'側にかけてH4K16acが検出できる(a, b, c)。5' H4K16acはオスでもメスでも見られるので、MSLは必要ないと考えられる。一方MOFはオスでもメスでも発現しており、NSLと複合体を形成することが知られている。

Fig.6そこでMOFが5'H4K16acにも関与するのか調べた。MOFのChIP-PCRでは5' 部位への結合は検出できなかった(Supp Fig.8a)。Fig.6a SL2細胞でmof RNAiでのH4K16acのChIP-PCRを行うと、MSL target gene(positive control)はmof RNAiでH4K16acはbackgroundレベルまで減じるのに対して、autosomal geneはあまり影響が見られなかった。Supp Fig. 8bまた、X染色体のMSL target geneにおいても、3' H4K16acはmof RNAiで顕著に減少するのに対して5' H4K16acはあまり変わらなかった。以上の結果から、5' H4K16acにはMOFはあまり大きな寄与はなく、他のHATがあると考えられる。MOFはX染色体のH4K16acに特異的なHATである。

CTCF: Master Weaver of the Genome

Cell 135, June 26, 2009 (1194-1211)
CTCF: Master Weaver of the Genome
Jennifer E. Phillips et al.
ゲノムワイドな解析により分ってきた文脈の推定機構における transcriptional activation/repression,
insulation、imprinting、X chromosome inactivation などのCTCFの役割を支持するデータを再考し、
また発生的に制御されている遺伝子領域において染色体内、染色体間の部分的な接触にCTCFが介在すると
いう証拠をハイライトして行く。これらの解析はクロマチン構造というグローバルな組織でのCFCTの主要
な役割を支持している。また、DNAメチレーション、高次元なクロマチン構造と細胞の分化系列特異的な遺
伝子発現との関係を制御しているepigenetic systemの構成要素としてCTCFは継承的であるということを
示唆している。
10 nm nucleosomal fiber が昔はキーワードでありリニアな世界で物事を考えてきたが、新しい実験結果
やイメージング技術の発達により核内でのクロマチンの3次元構造が重要でることが分ってきた。
クロマチンループ構造の再考察を行う。
Figure 1. CtCF Organizes Chromatin Contacts at an Imprinted Locus
A、Bは2次元的な考え
Paternal allele (ICR部分はメチル化されていない為にCTCFがバインディング): Igf2 geneが発現
Maternal allele(ICR部分はメチル化されている): H19 geneが発現
C、Dは3Cによる実験結果を踏まえた3次元的な考え
Paternal allele では組織特異的なエンハンサーによりIgf2が発現する。
Maternal alleleではCTCFがICR結合することにより重合し合いクロマチンのループ構造を形成し、エンハ
ンサー部分がH19遺伝子に接近できる。
【略語】ICR: imprinting control region
Figure 2. Cell Type-Specific Intra-chromosomal Interactions at a Developmentally
Regulated Locus
Aはマウスβグロビンローカスの全体像
B-Dは3Cをベースにした3次元的な考え。CTCFが介在し細胞特異的に構造を形成している。
【略語】HSs: DNase I-hypersensitive sites
Figure 3. An inducible Chromatin Loop
サイトカインに誘導されてループ構造を形成する例。
XL9はHLA-DRB1とHLA-DQA1の間にあり、CTCFが結合するが両遺伝子は活性化されない。
IFNγの刺激により、coactivator であるCIITAがRFXコンプレックスに結合、さらにCIITAにCTCFが結合
することによりクロマチン内構造変化が起こりエンハンサーエレメントであるXL9がプロモーター領域に接
近することでHLA-DRB1とHLA-DQA1の転写が活性化される。
Figure 4. Potential Classes of CTCF-Mediated Contacts
A-F: 実験的に分っているCTCFが介在するクロマチンの接触
G-L: 仮説によるCTCFが介在するクロマチンの接触
Figure 5. Possible Mechanisms for Developmentally Regulated Loop Formation
発生的に制御されているループ構造の形成
Figure 6. Possible Mechanisms for Epigenetic Inheritance of CTCF-Mediated Chromatin
Loops
1. General structural contacts -> Housekeeping genes
2. Tissue-specific of developmentally regulated loops -> Lineage-specific gene
3. Imprinted loops -> Monoallelically expressed gene
GPS2 is required for cholesterol efflux by triggering histone demethylation, LXR recruitment, and coregulator assembly at the ABCG1 locus.
Jakobsson T, Venteclef N, Toresson G, Damdimopoulos AE, Ehrlund A, Lou X, Sanyal S, Steffensen KR, Gustafsson JA, Treuter E.
Mol Cell. 2009 May 14;34(4):510-8.


要約
転写コレギュレーターはリガンドシグナルよりも、核内受容体シグナルにおいて文脈および経路の特異性を付与していると思われるが、そのような特性を与えるコレギュレーターおよび根底にある分子機構の正体の大部分は謎のままである。本論文では、オキシステロール受容体のLXR経路において、ABCG1コレステロールトランスポーター遺伝子転写およびマクロファージからのコレステロール流出における選択的なGPS2の必要性について言及する。GPS2がリガンド活性化に応答してABCG1特異的なプロモーター/エンハンサー領域にLXRのリクルートを促進することに関与しており、ヒストンH3K9脱メチル化に機能的にリンクしていることを見いだした。さらに、ABCG1とは別のGPS2の様式でLXRによって制御される遺伝子のABCA1について他のコレギュレーターとの関連も含めGPS2の基本的な機能の違いについて報告している。この論文では、ゲノム中の制御領域への核内受容体のアクセスをコレギュレーター依存的なエピジェネティックメカニズムが決定しているということを提唱している。この機序におけるパスウェイとコレギュレーター選択性は、選択的LXR作動薬の開発における薬理学的な可能性を含んでいる。

図1 GPS2の発現低下によってLXRによるABCG1の誘導およびコレステロール流出が障害される。
(A-C)HepG2あるいはTHP-1においてコファクターをsiRNAによってノックダウンした際のLXR標的遺伝子の発現変動。GPS2のノックダウンによってABCG1の発現が特異的に低下する。(D) ABCG1プロテインレベルに及ぼすGPS2の影響。GPS2のノックダウンによってLXRアゴニストによるABCG1タンパク発現の増加が認められなくなる。(E)THP-1細胞からのHDLによるコレステロール流出に及ぼすGPS2のsiRNAの効果。GPS2のノックダウンによりLXRアゴニストによるHDL介在性のコレステロール流出の増加が認められなくなる。

図2 GPS2とLXRがABCG1プロモーターに選択的にリクルートされる。
(A-C)HepG2あるいはTHP-1をLXRアゴニスト処理した後のChIP assay。ABCG1のプロモーター上ではリガンド依存的にLXRおよびGPS2がリクルートされ、HDAC3およびNCoRが減少する(A)。ABCG1プロモーター上ではリガンド依存的にLXR/RXRおよびGPS2がリクルートされており、CBPやSRC-1、pol IIがリクルートされる(B)。THP-1でも同じ(C)。(D, E) C57Bl/6JあるいはLXR-/-マウスをT0901317投与し、肝臓を用いてABCA1およびABCG1プロモーター領域についてChIP(D)およびRe-ChIP(E)を実施した結果、in vivoにおいてもリガンド依存的にABCG1プロモーター上へのLXR/RXRおよびGPS2がリクルートされるが、ノックアウトマウスでは認められない。

図3 GPS2とLXRとの相互作用部位の検討
(A) mammalian 2ハイブリッドアッセイ。GPS2のLXLLモチーフが持たない100-327 aa領域を用いて検討した結果、GPS2はSRC-2と同様なリガンド依存的な結合が認められた。(B)応答配列および精製タンパクを用いた複合体形成アッセイ。in vitroではリガンド非存在下でもLXR/RXRおよび応答配列が存在することで複合体を形成(レーン4)し、リガンド添加によりさらに結合が増加する(レーン5)。(C)LXRのインターフェース変異体を用いたGSTプルダウン。SRC-2は変異体を用いると結合がなくなるが、GPS2は影響を受けない。(D)Helix12を欠如させたLXRを用いたCoIP。GPS2はリガンドの有無に関係なく、Helix12ではない部分と結合している。(E) Helix12を欠如させたLXRを用いたRe-ChIP。Helix12がなくてもABCG1プロモーター上にLXR/RXRおよびGPS2はリクルートされるが、pol IIやSRC-1, 2などはリクルートされない。

図4 GPS2とLXRがH3K9脱メチル化を伴ってABCG1の転写を活性化する。
(A, C, D) Huh7にてGPS2, NCoR, TBLR1をsiRNAsによってノックダウンし、LXRアゴニストによるLXRやコファクターのABCG1のプロモーター、エンハンサー、およびABCA1プロモーターへのリクルートをChIPアッセイによって検討。LXRリガンド添加後、時間依存的にLXR/RXRおよびGPS2のABCG1プロモーターおよびエンハンサー領域への結合が増加した(A)。ABCG1プロモーター領域ではLXRアゴニスト処理に伴い、H3Acが時間依存的に増加し、H3K9me2が低下した(C)。LXRリガンド依存的にABCG1プロモーターおよびエンハンサー領域ではH3K9me2およびG9aが減少し、KDM1, KDM3AおよびKDM4Aのリクルートが増加した(D)。(B)3Cアッセイによるクロマチンループ形成に及ぼすGPS2の影響。LXRリガンド添加によりABCG1のプロモーターおよびイントロン領域がループを形成し、GPS2のノックダウンにより消失した。(E)ChIPアッセイを用いたABCG1プロモーター上へのKDMのリクルートにおけるGPS2のdeletion constructの影響。GPS2のLXR/RXRへの結合部位(150-264aa)を含むコンストラクトではABCG1プロモーター領域上でのH3K9me2の低下とLXRやKDMsのリクルートが認められるが、150-210aaのコンストラクトではH3K9me2の解除およびLXR/RXRやKDMsのリクルートが起こらない。(F)GPS2介在性のLXR転写活性化の仮説モデル。

Clearing the way for mitosis: is cohesin a target?

Nature Reviews Molecular Cell Biology 10, 489-496 (July 2009)
Clearing the way for mitosis: is cohesin a target?
By Mitsuhiro Yanagida

Box 1: Component of cohesin complex and two hypothetical models
a. Componet of cohesin complex
•two structural maintenance of chromosome (SMC) subunits, SMC1 and SMC3,
•contain large coiled-coil domains
•have ATPase activities
•two non-SMC subunits, RAD21 and SCC3
b. Ring-like cohesion comlex model
c. Other model proposed by Koshland et. al.

Figure 1 | control of chromosomal dynamics in mitosis.
Interphase: sister chromatids are held
together by cohesin
Prophase:
•Activation of
•cyclin-dependent kinase 1 (CDK1),
•Polo-like kinase 1 (PLK1),
•Aurora B
•the spindle assembly check point (SAC)
•chromosome condensation
•nuclear envelope breakdown.
Prometaphase: mitotic checkpoint complex (MCC) :proposed to inhibit the ability of cell division cycle 20 (CDC20) to activate the e3 ubiquitin ligase anaphase promoting complex or cyclosome (APC/C).
Metaphase: In metaphase, the chromosomes and kinetochores align in the middle of the mitotic spindle,
Anaphase: cyclin B (an activator of CDK1) and securin (the inhibitor of separase) are ubiquitylated by the APC/C and degraded by the 26S proteasome.
Telophase: the chromosomes in the daughter nuclei decondense.

Figure 2 | DNA topological constraints under continuous TOP2 action.
a. Three known topological natures of DNA
supercoiling, knotting and catenation.
Eukaryotic DNA topoisomerase II (TOP2): an ATP-dependent enzyme, catalyses the conversions
b. Two kinds of supercoiling occur in chromosomal DNA.
c. When transcription proceeds in the direction indicated by the arrow, negative supercoils are formed behind, but positive supercoils are made in front of, the transcription machinery if the DNA ends are not freely rotated.
d. In metaphase and anaphase, the chromosome arms might be topologically separated in the presence of TOP2, but become catenated in the absence of TOP2. TOP2 continuously acts on the chromosomes during mitosis, avoiding decondensation and catenation between DNA strands.
e. Polo-like kinase 1 (PLK1)-interacting checkpoint helicase (PICH):
a member of the SNF2 family of ATP-dependent DNA helicases.
decorates the centromeric DNA threads during anaphase
TOP2: required for the resolution of the PICH-decorated threads in anaphase.

Figure 3 | Possible role of condensin in chromosome 'cleansing'.
a. The holocomplex of condensin contains
2 structural maintenance of chromosome (SMC) subunits, SMC2 and SMC4
3 non-SMC subunits condensin non-SMC defective (Cnd1), Cnd2 and Cnd3
b. The SMC heterodimer rapidly re-anneals single-stranded DNA (ssDNA)
c. Condensin might function in clearing mitotic chromosomes through SMC dimer-mediated DNA annealing to eliminate proteins and RNA transcripts that are bound to the unwound ssDNA.  Non-SMC subunits might have a negative, regulatory role.

Figure 4 | cohesin loading and 'cleansing' model for cohesin in mitosis.
a. G1 phaseにおいてcohesinはScc2によってloadingされ、Eco1によってアセチル化されてS phaseにはcohesive cohesinとなってDNA二本鎖を束ねる。
Early prophaseには、Plk1によってリン酸化されて、cohesive cohesinが減ってゆくが、これはPp2aに結合したSgoによって拮抗する。
MetaphaseにはSeparaseによるcohesinの解離が進行してAnaphaseにはすべてのcohesinが染色体から離れている。
Bではcohisin complexだけがpulling forceに拮抗するopposing forceの源と考えられているが、筆者は、cのようにcohisinはまだ明らかになっていないcmposit opposing forceの一つであって、cohesinが除去される過程においてすべてが解除されて初めてanaphaseにおける染色体の分離が実現すると考えている。

抗原受容体の多様性を生み出すクロマチン構造変化
Jhunjhunwala, Zelm, Peak & Murre Cell, 2009, vol 138 435

獲得免疫における多様性は、個々のリンパ球が単一の抗原受容体を発現することにより担われる。抗原受容体遺伝子は多数の領域にちらばった断片が、単一mRNAにアセンブルされて作られる。このアセンブルはエピゲノムマーキング、核内局在、クロマチントポロジーにより行われる。この総説では、離れたクロマチンの相互作用が、抗原受容体の多様性を生み出すメカニズムをまとめる。

イントロダクション
リンパ球はDreyerとBennettが1965年、細胞毎に特異な抗原受容体の遺伝子を組み替えにより、発現していることを発見した。遺伝子は
variable (V) → diversity (D) → joining (J) → constant (C)
をコードする領域からなる。この総説は3つの部分からなる。
第一にクロマチンの遠距離相互作用のポリマーサイエンス(高分子科学)
第二にエピゲノムマーキング、核内局在、クロマチントポロジーと組み替え、
第三に実際に抗原受容体の実際のトポロジーについて述べる。

<補足 添付のパワーポイント参照>
このレビューの著者のJhunjhuwalaは、Cellに本年、IgH領域のFISHでのクロマチン構造の変化の論文を書いているのでまずそれを紹介する。
IgH領域でFISHプローブを作り、クロマチンを標識した部位との距離を計ると、Pre-pro-B細胞から,pro-B細胞になるときにVDJ組み替えがおこる。その時に相対的な位置関係が近づく。これをさらに、J領域をプローブにみるとV領域の遠いほう(distal)が近い方(proximal)と同じような距離に近づくことがわかる。

クロマチン構造
図1は1970年代から80年代に電顕で報告されたクロマチントポロジーを示す。
Laemmliは、〜90kbpのループからなり、18ループで一つのロゼットを作り、100ロゼットで染色体を作るとした。最近の薄い切片の電顕では、60-130nm幅の部分が、30nm幅の部分で分断されているモデルを示している。

クロマチンの動力学
クロマチンは動いている。そこで図1のようなポリマー科学からのモデルが作られる。
1A 固定的なセグメントがあり、自由に曲がれるヒンジにより結合されており、自由に重なりうるモデル
1B 自由に曲がれるが、お互いに相互作用しにくいモデル
1C 連続的にフレキシブルなポリマーのモデル。酵母の実測値はこれに近い。
拘束条件がなかれば、輪郭の大きさ、引力と斥力、込み合い効果、繊維の本来の曲がりやすさによる。
1D 横田らのrandom walk/giant loop modelは、2-5mbpのループで拘束された、ランダムに動く鎖からなる。しかし、実際のゲノムマーカーの距離が1-2Mbp以下なので、1Mbp1Eのマルチループモデルが提唱された。さらに最近では、
1Eのループサイズが一定でないモデルが提案されている。

抗原受容体ローカスの構造 図2
2A  Bリンパ球では、免疫グロブリン重鎖の遺伝子座には、4つの領域が3Mbpに分布している。15の部分的に分散したV領域に,平均500塩基サイズの195VH断片をもつ。V領域の遺伝子密度は低く、時には50kBp の遺伝子間距離をもつ。V領域の下流には、10-13 DHと4つのJH領域、μ、δ、γ1、2、3など8つの抗体のサブタイプをきめるCH領域がある。
2Bと2C  軽鎖の遺伝子座には、Igκ領域またはIgλ領域がある。120のVκ遺伝子断片からなり、Jκクラスターと一つのCκからなる。Igκと比べてIgλは、それぞれのJとCがある。さらに2つのV領域Vλ1とVλ2のみが頻繁に使われる。Vλ2はJλ2の60kb下流にあり、他のJλとは組み替えないが、Vλ1は、Jλ1の22kbp上流にあり、Jλ1とJλ3と融合する。
T細胞受容体も驚くほど類似した構造をとる。

リンパ球の成熟と抗原受容体のアセンブリー

多分化能をもった幹細胞から、lymphoid-primed-multipotent progenitors (LMPPs)ができる。この細胞は、長期間の自己再生能を欠き、リンパ球系のみへの分化能をもつ。ここからpre-pro-Bリンパ球が生まれ、これがcomitted^pro-Bリンパ球、さらにpro-Bリンパ球になり、この段階でV(D)J遺伝子再編成が始まり、官僚する。RAG1およびRAG2によりV,D,J周辺の領域で切断がおこる。DHJH接合がVHDHJH再編成に先行する。ひとたびVHDHJH組み替えが完了するとpre-B細胞受容体が構成されて機能しだし、RAG1,RAG2の発現が抑制されて、Bリンパ球の生存と増殖がうながされる。この増殖拡大のあと、細胞周期から逸脱して、再度RAG1とRAG2の発現を促し、Igκの再編成をおこす。Pre-Bリンパ球段階で、IgκVJ遺伝子再編成が始まる。再編成が生産的でないか、Igκ欠損になると、B細胞はIgλ再編成を始める。自己反応性のB細胞を発現するB細胞は、RAG発現を続け、「受容体エディティング」とよばれる二次性のIgκ再構成をおこす。もし、2つのIgκアレルでのIgκ再構成がうまくいかない場合はIgλVJの再構成がおこる。こうして、IghとIgL鎖の再構成が連続的におこる。
 αβおよびγδT細胞の胸腺での分化も、T細胞受容体の再構成でおこる。
 片方のアレル毎の再構成を確実にするため、まずIgκ遺伝子座でモノアレルに活性化される。ついでIg重鎖のリアレンジ(再構成)がされ、有効な重鎖ができると、pre-B細胞受容体からのシグナルがフィードバックにより抑制され、ひとつの免疫グロブリン遺伝子だけが活性化される。

エピゲノムマーキングと抗原受容体遺伝子座のアセンブリー

Igκ遺伝子座は、VκJκの再構成の前にモノアレリックに脱メチル化される。3つの特徴的なエピゲノムマーキングが報告されている第一に、DHJH再構成の前二、DH-CH領域のヒストンがアセチル化される。第二に、DHJH再構成のおこらない領域では、アセチル化がみられない、第三に、Vh-DHJHのおこるIgH遺伝子座では、VH領域のヒストンのアセチル化上昇が持続している。DHJHの再構成時のアセチル化は主に、DHエレメントの3'および5'側でおこる。これらのエレメントは最もよく用いられる。まずDH-JHがアセチル化され、DHJH再構成がおこる。ついで、VHセグメントがアセチル化されてVHDHJH会合がおこる。
 H3K4me3とH3R2me2がRAG2のDNA結合とリコンビネースの活性をあげる。RAG2のPHDドメインが担う。
 PAX5はDHJHと近位のVH-DHJH再構成に必要である。VHDHJH再構成の前にH3K9の脱メチル化がPAX5依存的におこる。EZH2を欠失させたproB細胞では、VH-DH-JH再構成ができない。

核内のトポロジーと、免疫グロブリン遺伝子座の構成

IgH領域は、血液系では内側の核膜の近くになる。VH 領域のdistalクラスターは核膜にくくられている。DHJHエレメントは離れている。RAG1,RAG2がDH-JHドメインに接近しやすいと思われる。
 図3はアレル別の遺伝子座の位置変動の違いを示す。
 図3で青い2つがproB細胞、緑の2つが、preB細胞、赤いにが免疫B細胞。染色体の青は、V領域を示し、染色体の赤はD/J/Cを示す。暗い青の点は、pre-centromeric heterochromatinを示す。
 B細胞へのコミットメントとともにIgH領域は、nuclear peripheryから離れて、大規模な核凝集がおこりVH-DH-JH再構成をおこす。一度、VH-DH-JH再構成がおこるとその遺伝子座は脱凝集(decontraction)をおこす。例えば図3AのIgHで真ん中のlarge pre-B細胞の下側の染色体。もう一つの組み替えなかったIgH領域はpericentromeric ヘテロクロマチンに移動し、そこでIgκと相互作用する。
 この脱凝集は次の再構成を抑止するとともに、アレル排除の機構をなしている(片方のアレルのみがIgH鎖をうみだすように組み替えられるということ)。
 Igκの遺伝子座も同じようなメカニズムで制御される。Pre-pro-B細胞では図3A2段目右、核膜の結合しているが、pro-B細胞では、核の中央へ移動し、pre-B細胞になると1個のアレルは、pericentromericの抑制的なヘテロクロマチン領域にはいる。
 IRF4はIgκがヘテロクロマチンにならないようにしている。同じようにIkaros(Znフィンガー転写因子)はIgκの制御配列に結合し、sisとクロマチン因子と結合する。SisはIgκ遺伝子座がpericentromeric heterochromatinに局在するのに、かかわる。

TCRでも同じようなメカニズム(略)
順序だった抗原受容体遺伝子の再構成と、クロマチンテリトリー

 遺伝子の再構成は、DH-JHがまずおこり、次いで、V-DJ結合がおこる。一度IgH鎖が産生されると、アレル排除が働き、もう一つのアレルはサイレンスされる。ただし、このアレル排除はVH領域の最も近位の4つの領域はこのアレル排除をエスケープできる。
 VHのディスタルの制御配列をDHにいれてみて結果をみると、再構成はよくおこるが、アレル排除と、順番は保たれない。
 Nono-coding RNAはV領域プロモーターからDHJH再構成のあとに作られる。Pro-B細胞では、アンチセンスのnon-coding RNA がDHJH領域全体に作られる。重要であるがその正確な意味はよくわからないがクロマチン領域の性格決めにかかわっているのかもしれない。

物理的境界としてのクロマチンテリトリー

参照と添付パワーポイントで示したが、図4では3つの点 アンカーが緑で、2つのゲノム領域が赤と青で示されている。3者の関係が、解析されている。

IgH鎖領域の解析の結果

図2のmultiloop subcompartmentモデル(MLS)に近い形を示している。大体120kbpのループが60kbpのリンカーで離れている。

遠距離のクロマチン構造の決定因子

YY1とCTCFが知られている。
YY1はショウジョウバエからヒトまで保存されているジンクフィンガータンパクで、欠損するとVDJ組み替えがおかしくなる。CTCFはコヒーシンと相互作用しているが、IgH領域では53の結合場所が推定されている。しかしDH-JHとCH領域には存在しない。
53BP1 クロマチン因子 H2AX、H4K20、H3K79を介してDNA double strand break
にかかわるが、53BP1はホモオリゴマリゼーションで橋渡し因子として働くと考えられている。

DistalとProximalのVH領域の違い 組み替えのときに、接近するのはdistal、アレル排除がかかわるのもdistal.

Down's syndrome suppression of tumour growth and the role of the calcineurin inhibitor DSCR1


ダウン症候群の患者では多くのタイプのガンの罹患率が有意に低く、この広範ながんに対する抵抗性は、1コピー余分に多い21番染色体上にある231個の遺伝子のうちの少なくとも1つが発現亢進することにより与えられていると考えられる。このような遺伝子の1つにDSCR1(Down's syndrome candidate region-1、RCAN1としても知られる)があり、血管内皮増殖因子(VEGF)による血管新生シグナルをカルシニューリン経路を介して抑制するタンパク質をコードしている。

今回我々は、DSCR1がダウン症候群患者の組織およびダウン症候群モデルマウスで増加していることを示す。
さらに、Dscr1遺伝子を1コピー導入することによる適度な発現の増加が、マウスにおいて腫瘍増殖を有意に抑制するのに十分であり、この抵抗性がカルシニューリン経路の抑制に起因する腫瘍血管新生が不足した結果であることを明らかにする。

我々はまた、DSCR1と別の21番染色体上の遺伝子Dyrk1aによるカルシニューリン活性の低下が、血管新生を顕著に抑制するのに十分であると考えられる根拠を示す。これらのデータは、ダウン症候群の患者においてがんの罹患率が低下するメカニズムを提唱し、カルシニューリン経路、その調節因子である DSCR1 と DYRK1a がヒトにおける多くのがんにおいて有望な治療標的になりえることを示唆している。

ボストン小児病院(米)、K-H Baek et al.
 
Down's syndrome suppression of tumour growth and the role of the calcineurin inhibitor DSCR1
Kwan-Hyuck Baek, Alexander Zaslavsky, Ryan C. Lynch, Carmella Britt, Yoshiaki Okada, Richard J. Siarey, M. William Lensch, In-Hyun Park, Sam S. Yoon, Takashi Minami, et al.
Nature. 2009 Jun 25;459(7250):1126-30. Epub 2009 May 20.



ダウン症は21番染色体が健常人より一つ多く連なる(トリソミー)になることが原因の最も高頻度(1/700の確立)で生じる遺伝病である。
精神遅延や神経疾患への悪影響が知られている一方、これまでの疫学データからダウン症患者が固形がんにかかる率が著しく低く、かつ動脈硬化などの血管性疾患の危険性もとても低いことが示されてきていたがその原理が不明であった。

今回我々は21番染色体上に存在するダウン症候群関連遺伝子 (DSCR-1) が血管の異常を察知して発現亢進し、そして血管の炎症を防ぐ役割をもっていること、DSCR-1 がないマウスでは血管の防護ができず、敗血症などのショックを与えると早期に致死的になることを明らかにした。
 
The Journal of Clinical Investigation にて発表。

The Down syndrome critical region gene 1 short variant promoter directs vascular bed-specific gene expression during inflammation in mice
Takashi Minami, Kiichiro Yano, Mai Miura, Mika Kobayashi, Jun-ichi Suehiro, Patrick C. Reid, Takao Hamakubo, Sandra Ryeom, William C. Aird, and Tatsuhiko Kodama
Journal of Clinical Investigation (August 3. 2009)

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