2009年8月25日

Drosophila MSL complex globally acetylates H4K16 on the male X chromosome for dosage compensation

Drosophila MSL complex globally acetylates H4K16 on the male X
chromosome for dosage compensation.
Gelbart ME, Larschan E, Peng S, Park PJ, Kuroda MI.
Nat Struct Mol Biol. 2009 Aug;16(8):825-32. Epub 2009 Aug 2

背景
X染色体の遺伝子発現量補償(dosage compensation)は哺乳類では、メスのX染色体の不活性化、ショウジョウバエではオスのX染色体の活性化によりなされる。ショウジョウバエのdosage compensation複合体はnon-coding RNAであるroX RNAsとMSLタンパク複合体からなる。MSL複合体は、MSL1, MSL2, MSL3, MOF, MLEであり、MOFはhistone acetyltransferase(HAT)であり、MSLは転写活性化のヒストン修飾であるH4K16acする。
MSLはオスにのみ発現し、オスX染色体上のchromatin entry site(CES)に結合してからX染色体全体に広がっていくと考えられている(spreading)。CESにはroX RNAの遺伝子があり、roX RNAが転写後MSLに取り込まれて、MSL複合体が染色体上に広がっていくと考えられている。

要旨
X染色体におけるMSLの作用を調べるために、H4K16acとMSLのChIP-chipを行った。その結果、X染色体上の転写されている遺伝子はほとんどMSLによるH4K16ac修飾を受けているが、そのうち25%の遺伝子についてはMSLの結合は検出されていない。RNAiおよびハエのmsl mutantを用いた解析により、MSLの結合が検出できなかった活性化遺伝子のH4K16acもMSL依存的であることがわかった。H4K16acが広範囲であるのに対してMSLの結合部位は少ないということは、MSLがtransientに結合してH4K16acしていることを示唆しており、polycomb複合体(H3K27me)でも同様のモデルが提唱されていることから、transient associationというのは広範囲に広がるクロマチン修飾制御に共通のメカニズムなのかもしれない。

Fig.1 a. ChIP-chipオスのX染色体はbroadにH4K16ac修飾が入っており、MSLが結合している部位は特にH4K16acのChIPシグナルが高い。b.X染色体と2Lを比較すると、X染色体ではH4K16acのシグナルがbaselineのレベルで高い。c. MSL3のbaseline(分布のピーク)はシフトしない。d,e 転写されている遺伝子はMSLが結合していてH4K16シグナルが一番高い。

Fig.2 a.ほとんど全ての活性遺伝子は高レベルにH4K16acされている。Sup Fig.3b MSLと同様に、H4K16acのシグナルも活性化遺伝子の3'側にかけて強くなる。Sup Fig 3c,d MSLのはっきりとした結合は認められない遺伝子についても、同様の傾向が見られる(MSLの結合が検出限界以下ではあるが、target候補か?)。Fig.2bそこでmsl2をRNAiしたサンプルで比較すると、既知のMSL結合活性化遺伝子では、msl2のRNAiで発現量が低下するのが確認でき、さらにMSLの結合は検出限界以下であった活性化遺伝子の発現量低下も認められた。したがってMSL複合体はX染色体全体に広範囲に作用していると考えられる。

Fig.3a-c MSL複合体がH4K16acに必要かどうか、MSL複合体のRNAiでのH4K16acのChIP-PCRを行った。msl2 RNAi, mof RNAiでMSL target geneのH4K16acが減じる。MSLの結合が検出されていない活性化遺伝子についても、MSLのRNAiによりH4K16acがなくなる。ちなみに、MOFをRNAiしてお、MSLはCESに結合する。MOFはspreadingに必要。また、MSLがCESに結合してもMOFがなければH4K16acは起こらない。

Fig.4 in vivoで、ハエの幼虫オスでもChIP-chipを行った。その結果、SL2細胞のときと同様、a. X染色体で、SLと比べてH4K16acのbaselineのshift(X染色体全体に濃縮)b. 活性化遺伝子(TG)で特に高度にH4K16ac、c. ハエのmof mutantを用いたChIP-PCRでは、MSL target geneもMSLの結合が検出できていない活性化遺伝子でもH4K16acがbackgroundまで下がる。

Fig.5 オスのX染色体以外のH4K16acについて。メスのX染色体や常染色体(2L)、オスの2Lでも発現量の多い遺伝子の5'側にかけてH4K16acが検出できる(a, b, c)。5' H4K16acはオスでもメスでも見られるので、MSLは必要ないと考えられる。一方MOFはオスでもメスでも発現しており、NSLと複合体を形成することが知られている。

Fig.6そこでMOFが5'H4K16acにも関与するのか調べた。MOFのChIP-PCRでは5' 部位への結合は検出できなかった(Supp Fig.8a)。Fig.6a SL2細胞でmof RNAiでのH4K16acのChIP-PCRを行うと、MSL target gene(positive control)はmof RNAiでH4K16acはbackgroundレベルまで減じるのに対して、autosomal geneはあまり影響が見られなかった。Supp Fig. 8bまた、X染色体のMSL target geneにおいても、3' H4K16acはmof RNAiで顕著に減少するのに対して5' H4K16acはあまり変わらなかった。以上の結果から、5' H4K16acにはMOFはあまり大きな寄与はなく、他のHATがあると考えられる。MOFはX染色体のH4K16acに特異的なHATである。