2012年10月アーカイブ

EZH2 inhibition as a therapeutic strategy for lymphoma with EZH2-activating mutations

「EZH2 activating mutation を有するリンパ腫に対して,EZH2 阻害を治療戦略とすることについて」
EZH2 は PcG タンパク質複合体を構成し,ヒストン H3 の Lys27(H3K27)をメチル化することにより,遺伝子発現を抑制する。EZH2 の過剰発現はある種の癌において,腫瘍発生や,予後不良に関係するといわれている。EZH2 の SET ドメインの Y671 や A677 残基の体細胞突然変異が,びまん性大細胞型 B 細胞性リンパ腫(DLBCL)や,濾胞性リンパ腫で報告され,このような変異がある場合には,H3K27me3 上昇が見られている。
今回報告する GSK126 は,S アデノシルメチオニン(SAM)と競合し,EZH2 特異的にメチル化活性を阻害する。GSK126 を投与すると,細胞株においては H3K27me3 減少がみられ,サイレンシングを受けていたPcG 標的遺伝子の発現が誘導された。また,GSK126 は,EZH2 変異を有する DLBCL 細胞株では細胞増殖を抑制し,EZH2 変異陽性 DLBCL 担癌マウスモデルでは腫瘍の growth を抑えた。
以上より,EZH2活性を阻害することは,EZH2変異陽性リンパ腫の治療戦略となりうることが示された。

担当:船田
The long-range interaction landscape of gene promoters
ヒトゲノムにおけるプロモーター領域と長距離転写制御領域間の相互作用の全体像
Sep 6 (2012), vol 489, Nature

これまでの Encode コンソーシアムの成果により、ヒトゲノムに散らばる非常に多数
の機能エレメントや疾患につながる調節性変異が特定された。しかしながら、それら
遺伝子から遠方の機能領域と標的遺伝子との関係性を規定する原理はまだ不明確で
ある。この研究では、5C(chromosome conformation capture carbon copy)と呼ば
れるゲノム上の機能領域間の相互作用を特定する実験手法を用いて、ヒトゲノムの
1%に当たる ENCODE の試験的計画領域において、転写開始点(TSS)と遠位エレ
メントの間の相互作用を総合的に解析した。5C マップは GM12878、K562、HeLa-S3
細胞に対して作成され、各相互作用領域の転写活性の特定には ENCODE コンソーシ
アムで行われた ChIP-seq、CAGE、DNase-seq のデータを用いた。結果として、そ
れぞれの細胞株において、プロモーターと遠位部位(エンハンサー、プロモーター、
CTCF 結合部位)との間に、1,000 個以上の長距離相互作用を特定した。更に、それ
ら相互作用のゲノム上での位置関係の傾向を解析する事により、長距離相互作用は明
らかな非対称性を示し、TSS の上流に位置する遠方機能領域との相互作用に対する
偏りがあることがわかった。また ChIP-seq データとの比較により、長距離相互作用
は CTCF やコヒーシンの結合部位によって阻害されないことが特定され、これら因
子のインスレーター以外の機能の可能性を示唆している。更に、最も近傍の遺伝子と
のループ形成による相互作用は全体の約 7%のみであり、単純にゲノムの近接性から
長距離相互作用を推測できないことを示している。また、各 TSS は複数の遠方の機
能領域と相互作用を行い、複雑な相互作用により遺伝子発現が制御されていることが
わかった。

担当:仲木
Brown Remodeling of White Adipose Tissue by SirT1-Dependent Deacetylation of Pparγ.
Cell, 2012

褐色脂肪組織(BAT)は蓄積されたエネルギーを熱として放散するため、白色脂肪組織

(WAT)を褐色様形質に転換させること(browning)は、肥満の重要な治療戦略となり

うると考えられる。

本研究によって、脱アセチル化酵素SirT1は、WATの褐色化を促進することが分かり、

それは、PparγのLys268とLys293の脱アセチル化を伴うことが明らかになった。この

SirT1依存性のPparγ

るPrdm16のPparγへの結合にも必要であった。さらに、Pparγが脱アセチル化されると

BAT遺伝子(Brown genes)の発現が増加する一方で、インスリン抵抗性をもたらす

WAT遺伝子(White genes)の発現が抑制された。また、脱アセチル化が起こらないよう

なPparγ変異体は白色脂肪細胞にWhite genesの発現を保持し、Brown genesの発現変化は

見られなかった。以上より、SirT1依存性のPparγの脱アセチル化は白色脂肪細胞の褐色化

をもたらすことが明らかになり、このことが肥満治療に有用である可能性が示された。

担当:阿部
Loss of 5-Hydroxymethylcytosine Is an Epigenetic Hallmark of Melanoma
Cell 150, 1135-1146, September 14, 2012

DNA のメチル化 (C→5-mC)は、生物学的・病理学的に重要なエピジェネティックマークである。5-mCは TET family によって 5-hmC に変換されることが知られているが、まだ、5-hmC の意義は十分に解明されていない。本研究では、メラノーマにおいて、5-hmC の減少が重要であることを見出した。
まず、メラノーマと良性のホクロの組織を比較し、メラノーマにおいて 5-hmC が減少していることをIHC, dot blot, glucosylation assay にて確認した。また、メラノーマのなかでも、原発巣と転移巣で比較し、転移巣では、より 5-hmC が減少しており、予後とも相関する(5-hmC が少ないほど予後が悪い)ことがわかった。これにより、5-hmC の減少は、メラノーマの診断のみならず、予後予測にも重要であると言える。
次に、メラノーマとホクロのゲノムワイドな 5-mC, 5-hmC の分布を調べるため、MeDIP-Seq, hMeDIP-Seq を行った。グローバルに見てメラノーマでは 5-hmC の peak が明らかに減少していたが、5-mC はほとんど変化なかった。さらに、ホクロにおいてメラノーマに比べて、5-hmC が高く、かつ 5-mCが低い遺伝子を抽出し、GO 解析、KEGG pathway 解析を行ったところ、cell morphogenesis, cytoskeleton organization, Ras protein signal transduction, posttranscriptional regulation of gene expression, Wnt signaling pathway が抽出された。
メラノーマにおける 5-hmC の減少が、TET family やその cofactor であるα-KG をコントロールするIDHs の影響によるものか、RT-qPCR でその発現を調べたところ、IDH2、TET family(特に TET2)の発現が低下していることを見出した。
そこで、IDH2 の発現を回復させることで、メラノーマの形質に変化があるかどうか、zebrafish modelを用いて評価した。IDH2 を強制発現させた zebrafish melanoma model では、5-hmC が増加し、さらに TFS の延長が認められた。また、TET2 をメラノーマ細胞株で発現させ、MeDIP-Seq, hMeDIP-Seqを施行したところ、TET2 wild type を導入した株では、5-hmC が増加していることを確認した。なおCatalytic domain の変異株では、5-hmC の増加は認められなかった。TET2 導入株で、表現型の変化を見たところ、浸潤能・腫瘍形成能の低下が認められた。
以上から、メラノーマにおける 5-hmC の減少は、(多くは)TET2 もしくは IDH2 の発現低下を介して生じ、その発癌や悪性度に寄与していると考えられる。

担当:垣内

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