ゲノムサイエンス分野の八木浩一研究員(東大消化管外科学)、金田篤志准教授らは、大腸癌前癌病変のDNAメチル化解析を行い、大腸癌腺腫にも3つのDNAメチル化エピジェノタイプが存在し、鋸歯状腺腫が高メチル化群・BRAF変異陽性を示すだけでなく、従来型の大腸腺腫が中メチル化群と低メチル化群に分かれること、中メチル化群はKRAS変異と相関することを同定し、American Journal of Pathology誌に発表した(published online 23 Nov 2011)。
八木、金田らは、大腸癌が3つのDNAメチル化エピジェノタイプに分類されることを昨年報告している(Clin Cancer Res, 16:21-33, 2010). 高メチル化群は既報のCIMP陽性に相当し、マイクロサテライト不安定でBRAF変異(+)の大腸癌と強く相関する。中メチル化群はマイクロサテライト安定なKRAS変異(+)症例、低メチル化群はマイクロサテライト安定なBRAF変異(-)KRAS変異(-)症例と相関する。
今回、前癌病変について横浜市立大学と共同研究を行い、正常大腸粘膜、大腸異常陰窩、大腸腺腫のDNAメチル化を解析した。異常陰窩の段階では癌遺伝子の変異は認められるがメチル化の蓄積は正常粘膜と比べてもわずかであった。大腸腺腫は、正常粘膜・異常陰窩と比べて非常に高いメチル化蓄積を示し、stage II, III, IVの大腸癌とも差がなかった。3例の鋸歯状腺腫はすべて高メチル化群に分類され、BRAF変異(+)であり、既報の通り高メチル化大腸癌の前癌病変と思われた。49例の従来型大腸腺腫(管状腺腫・管状絨毛腺腫)はBRAF変異(-)であり、中メチル化群・低メチル化群の2群に分類されること、中メチル化群がKRAS変異(+)と相関することを初めて同定した。腺腫の段階で3つのエピジェノタイプおよび癌遺伝子との相関はすでに完成しており、高・中・低メチル化群の腺腫がそれぞれ高・中・低メチル化群の大腸癌の前癌病変であること、3つの異なる大腸癌発生機構が存在することを示唆した。
Koichi Yagi, Hirokazu Takahashi, Kiwamu Akagi, Keisuke Matsusaka,Yasuyuki Seto, Hiroyuki Aburatani, Atsushi Nakajima, Atsushi Kaneda.
Intermediate methylation epigenotype and its correlation to KRAS mutation in conventional colorectal adenoma.
2011年11月アーカイブ
<Summary>
ヒストンの翻訳後修飾は、細胞分化や発生などの多様な生物学上のプロセスにおいて重要な役割を担っており、ヒストンへの異常な修飾は癌をはじめとする様々な疾患と関連している。筆者らは、67の新規なヒストン修飾あるいは修飾部位を同定し、その中にはTyrosine hydroxylation(Yoh)、Lysine crotonylation(Kcr)の2種類の全く新しい修飾も含まれていた。
Kcrはヒト体細胞およびマウス雄性生殖細胞ゲノムのアクティブなプロモーターあるいはエンハンサーに見られた。Kcrは減数分裂後のマウス雄性生殖細胞の中で特に性染色体にエンリッチしており、雄性生殖細胞分化を制御する重要なシグナルであることが示唆された。
<Key findings>
► Identification of 67 novel histone marks including 28 lysine crotonylation sites
► Verification of Kcr as a novel histone mark
► Kcr is a robust indicator of active cellular genes
► Kcr is likely an important histone mark for male germ cell differentiation
(担当:合田)
ATRX ADD domain links an atypical histone methylation recognition mechanism to human mental-retardation syndrome
Nature structural and molecular biology . 2011, July 18 , 7 , p769-776
(担当:谷村)
金田篤志准教授らは、がん遺伝子Rasが誘導する早期細胞老化におけるエピゲノム変化をゲノム網羅的に解析し、ヒストン活性化マーク・抑制マークの調和された変化により制御される重要なシグナルを同定、PLoS Genetics誌に報告した(3 Nov 2011)。
今研究ではヒストン修飾変化をクロマチン免疫沈降(ChIP)-高速シーケンス(seq)、DNAメチル化変化をメチル化DNA免疫沈降 (MeDIP)-seq、遺伝子発現変化を発現アレイにてそれぞれ網羅的に解析した。細胞老化において発現上昇・低下した遺伝子は、いずれも分泌因子が有 意に濃縮しており、細胞の分泌蛋白環境変化が重要であることを示唆した。抑制マークであるヒストンH3K27me3マーク、活性マークである H3K4me3は、細胞老化の前後でダイナミックに変化した。H3K27me3を失うと同時にH3K4me3を獲得する遺伝子は著明に発現上昇し、その中 で最も発現上昇する分泌蛋白遺伝子がBmp2であった。逆に、新たにH3K27me3を獲得しH3K4me3を失う遺伝子は著明に発現低下し、Bmp2- Smad1シグナルの阻害因子であるNogとSmad6がその代表的因子であった。DNAメチル化変化はほとんどおきておらず、ヒストン修飾変化の重要性 が示唆された。細胞老化時はBmp2上昇、Nog低下、Smad6低下、それに伴うSmad1リン酸化が細胞老化に必須であることも示した。その下流標的 遺伝子をSmad1抗体を用いたChIP-seq解析で同定した。下流標的遺伝子はBmp2刺激で発現上昇するが、Smad6も標的遺伝子の一つであっ た。老化時のH3K27me3獲得は、Smad6によるネガティブフィードバックループを破綻させるなど老化に負に働く因子の抑制に働き、逆に H3K27me3を獲得しないSmad1標的遺伝子は、細胞老化時に発現上昇し、細胞増殖の抑制に働く因子を含むなど細胞老化に正に働いていて、エピゲノ ム変化が細胞老化の正負因子を制御していることが示唆された。
Atsushi Kaneda, Takanori Fujita, Motonobu Anai, Shogo Yamamoto, Genta Nagae, Masato Morikawa, Shingo Tsuji, Masanobu Oshima, Kohei Miyazono, Hiroyuki Aburatani.
Activation of Bmp2-Smad1 signal and its regulation by coordinated alteration of H3K27 trimethylation in Ras-induced senescence.
PLoS Genet. 7: e1002359, 2011.
Journal web site