2008年9月アーカイブ

要旨3

【紹介論文】
The HRX Proto-oncogene Product Is Widely Expressed in Human Tissues and Localized to Nuclear Structures 
Blood, Vol 89, No 9, 1997: pp 3361 - 3370


【内容】
HRX-ENL融合蛋白質に対する抗体を作製し、ヒト組織、細胞株を用い分子の局在を観察した.
結果、多くの細胞で核内に点在することが確認された.
また、この結果は11q23のトランスロケーションには依存しなかった.


【解説】
I. ターゲット分子
  Fig 1. HRX + EML の融合蛋白質 (約220KDa)


II. 抗原
  A. 合成ペプチド for HRX(モノクロ)
     1.840 - 854 aa
     2.2370 - 2384 aa 
     3.2830 - 2845 aa
  B. GST fusion protein 大腸菌発現物(ポリクロ) 
     GST-HRX
         1.160 - 356 aa (197aa)
         2.428 - 498 aa (71aa)
     GST-ENL
         1856 - 1908 aa (53aa)


III. モノクロのスクリーニング
    合成ペプチド抗原固相ELISA


IV. ポリクロの精製
    GST fusion 抗原アフィニティー精製


V. 抗体機能解析
   Fig 2.
   Mammalian 細胞(Bosc 293 cell)による HRX+ENL 融合蛋白質発現 WBによる抗体の特異性を確認
   Fig 2A. Lane1, 5の比較から190KDのバンドはN端が切れている
   Fig 2B. 抗体により認識できる分子が違う、aHRX2 は190kDのバンドを認識できない
   Fig 2C. HRXキメラタンパクの発現確認: 11q23 translocation のある HB11;19, RS4;11細胞では220 kD, 240 kDの位置にバンドを確認。しかし11q23 translocation のないMolt-4細胞ではバンドを確認できなかった。


   Fig 3.
   ヒト組織を用いた免疫染色
   Fig 3a, b : Thyroid、Fig 3c, d: CNS、Fig 3e, f, g: cardiac myocyte
   Fig 3h, i : glomerulus of kidney、Fig 3j, k, l : liver
   Fig 3m, n : macrophage in the lung、Fig 3o, p, q : tonsil cell
   正常細胞におけるWild-type HRXの発現は幅広く発現していたが、細胞種により発現のレベルは異なった.(Table 2.)


   Fig 4.
   HRXは転写因子TAL-1, PMLと違う場所に存在している


   Fig 5.
   U937細胞とRS4; 11細胞を用いMoAb HRX107 とPoly-aHRX2とで染色像を比較
   両抗体ともHRXは点状核内分布を示した.
   細胞種によりドットの大きさなどに差は見られたが、11q23 translocation の有無には無関係であった.(Table 1.)

   Fig 6.
   Flagタグ付き強制発現系においてMoAb HRX 107とflag抗体との染色像は重なる


まとめ
今回はMLLファミリーの抗体を作製する際、過去の抗体作製方法を調査が目的であり、抗体作製方法の観点から情報をまとめる
と以下のようになる。
• MLLファミリーの抗体を作製する場合、抗原はペプチド免疫、 大腸菌 部分長発現精製物が有効
• 特異性確認は動物細胞による全長強制発現物の使用、セルラインの使用が有効

(杉山)

要旨2

Genes&Development
Control of differentiation in a self-renewing mammalian tissue by the histone demethylase JMJD3.

 

要旨
カルシウムによって誘導される分化においてH3K27me3がこれらのプロモーターからはずれ、それに一致してPcG蛋白も離れるが、JMJD3の結合が増加する。反対にJMJD3が欠失すると分化がブロックされる。このことからJMJD3が遺伝子発現の抑制を解除する働きにより哺乳類の表皮組織の分化が誘導される可能性が示された。

 

Fig1
表皮は外側にいくほどより分化が進行しており、それに伴ってカルシウム濃度が高くなる。培養表皮細胞においてもカルシウム刺激により分化が誘導される。カルシウム+/-の培地で72時間培養した角質細胞を抗H3K27me3抗体でChIPを行い、tiling microarrayを行った。その結果、H3K27me3 は2335個のプロモーターに認められた。Gene Ontologyでは転写調節および発達、分化に関与する遺伝子に多く認められた。分化の過程で発現が4倍以上上昇する559個の遺伝子のうち、94個にH3K27me3が認められ、そのうちの半数以上を占める52の遺伝子で分化の過程においてH3K27me3が2倍以上失われていた。

 

Fig2
A:分化において誘導される遺伝子(KRT1,S100A8,IVL)のプロモーター領域にH3K27me3の結合は有意に減少している。その動き方はSUZ12(PcG蛋白の一つ)と同じ。それとは逆にJMJD3はカルシウム+で増加している。(IVLを除く)
B:カルシウム+(分化誘導)で遺伝子のmRNAレベルは上昇
C:WBで蛋白の発現量はカルシウムの有無で差はない。また、H3K27me3自体がなくなってしまうわけでもない。
PcG蛋白複合体とJMJD3が逆の動きをすることはnon-HOX遺伝子を直接制御している可能性がある。


Fig3
JMJD3のSiRNAで欠失させたところ、免疫組織染色でもKeratin1,10が消失し、mRNAレベルでもKRT1,S100A8の発現が低下した。ただし、IVLでは変化がみられなかった。

 

Fig.4
JMJD3をOverexpressすると、発現量は増加するが、遺伝子変異体(H1390A)を作ると発現量は低下する。経時的変化をみてもJMJD3をoverexpressした場合はControlよりも早く分化が誘導される。

 

(三村)

MLLの複合体

9月18日エピゲノム勉強会  MLLの複合体   児玉


トライソラックスのヒト版であるMLLには、1−5の他、多数のファミリー遺伝子がある
MLL1,2は多発性内分泌腺腫瘍の原因遺伝子(Multiple Endcrine Neoplasia、MEN1)別名meninと複合体を作りその腫瘍催奇性にかかわる。
一方、核内受容体のコファクターASC-2 (activating signal cointegrator 2 / 別名 AIB3, TRBP, TRAP250, NRCそしてPRIP)はMLL3,MLL4と複合体を作り核内受容体の活性化にかかわる。
今回はこの2つのながれの仕事をまとめてみたい。

(1)MLL (別名ALL1, TRX1), MLL2 (別名ALR  ALL1 related gene)
Yokoyama A, Wang Z, Wysocka J, Sanyal M, Aufiero DJ, Kitabayashi I, Herr W, Cleary ML.
Leukemia proto-oncoprotein MLL forms a SET1-like histone methyltransferase complex with menin to regulate Hox gene expression.
Mol Cell Biol. 2004 Jul;24(13):5639-49.
K562細胞の核抽出液から、Qsepharose, heparin sepharose, 抗MLL-N端、C端抗体での精製で,分離した複合体を質量分析で同定している。コントロールはSUV39H1でこれと重なるものは非特異的として除外して考えている。
HCF2/HCF1  host csll factor   ヘルペスウィルスVP16を活性化する宿主側因子として発見。
  KelchドメインでASH2L1、2と結合する。
ASH2L1, ASH2L2 H3K4メチル化酵素 最近はがん遺伝子の一つと考えられている。
Menin
WDR5 (別名 BIG-3)
RBBP5 (Rb結合タンパク5 別名 RBQ-3)  これもWDリピート蛋白

Yokoyama A, Somervaille TC, Smith KS, Rozenblatt-Rosen O, Meyerson M, Cleary ML.
The menin tumor suppressor protein is an essential oncogenic cofactor for MLL-associated leukemogenesis.
Cell. 2005 Oct 21;123(2):207-18.
正常はMLLは、前にのべた大きな複合体でmeninと存在する。MLL変異で白血病をうみだすときも、N端側のMenin結合サイトは残っていて、それが発がん性にかかわることを証明した。

Yokoyama A, Cleary ML.
Menin critically links MLL proteins with LEDGF on cancer-associated target genes.
Cancer Cell. 2008 Jul 8;14(1):36-46.
Menin は血球系で白血病発症に必須だが、内分泌系腫瘍では抑制タンパク質である。この論文でMeninはLEDGF (lens epithelium-derived growth factor)という白血病と自己免疫とHIV1感染にかかわるクロマチン因子と結合して正常は転写活性化を維持している。MeninがLEDGFと結合できなくなると腫瘍化する。
もう一つのMLL3,MLL4は、ASC-2 (activating signal cointegrator 2 / 別名 AIB3, TRBP, TRAP250, NRCそしてPRIP)と複合体を作る

Goo YH, Sohn YC, Kim DH, Kim SW, Kang MJ, Jung DJ, Kwak E, Barlev NA, Berger SL, Chow VT, Roeder RG, Azorsa DO, Meltzer PS, Suh PG, Song EJ, Lee KJ, Lee YC, Lee JW.
Activating signal cointegrator 2 belongs to a novel steady-state complex that contains a subset of trithorax group proteins.     Mol Cell Biol. 2003 Jan;23(1):140-9.
ここのALR-1はその後 MLL4-1, ALR-2はMLL4-2としてMLL4のスプライシング産物とされ、HALRはMLL3と改名された。
HASH2とRBQ3=RbBp5は、menin複合体と同じである。
 

Lee S, Lee DK, Dou Y, Lee J, Lee B, Kwak E, Kong YY, Lee SK, Roeder RG, Lee JW.
Coactivator as a target gene specificity determinant for histone H3 lysine 4 methyltransferases.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2006 Oct 17;103(42):15392-7.

HeLa細胞の核では、ASC2はMLL複合体と結合しているものと、RXRと結合しているものがある。ASC2+/-マウスは、SETドメインに変異をもつMLL3異常ヘテロと同じ表現型になる。

図1 MLL3の触媒ドメインを含む61アミノ酸をデリーとしてあるマウス。
図2 A. P14でホモは既に少ない。 B.胎児はネクローシスになっている。
C. ヘテロ破ASC-2へテロとそっくりの表現型を示す。目をあくのが遅延し、D. 成長が遅く、E. 体重が30−40%少ない。F. ホモのE12/5のMEFは増殖スピードが半分である。

図3 次ページ A. MLL3欠損ホモがRAR活性化をサポートする。
B. それぞれのmRNAのレベル
C. ASC2と共沈 D. レチノイン酸によるRARβ2mRNA誘導がASC2欠損できえる。
Fに注目 MML4とMLL3は別々の複合体である。共沈しない。ASC2はどちらとも結合している。
 図3  図4
図4 A MLL3とMLL4のsiRNAをGFP plasmidとともに行った。 B. RARβのmRNA
量。 C. ASC2のIPでWDR5もおちてくる。.D RbBP5やWDR5のsiRNAでもRARβ2のレベルは低下する。E. RARβ2ローカスでのchipでMLL3, MLL4の結合がASC-2の欠損でなくなる。


S. Lee, J. Lee, S.-K. Lee, and J. W. Lee
Activating Signal Cointegrator-2 Is an Essential Adaptor to Recruit Histone H3 Lysine 4 Methyltransferases MLL3 and MLL4 to the Liver X Receptors
Mol. Endocrinol. 2008 22:1312-1319
ASC-2 is required for ligand-induced recruitment of MLL3 and MLL4 to LXRs, and LXR ligand T1317 induces not only expression of LXR-target genes but also their H3K4-trimethylation. Strikingly, both of these ligand effects are ablated in ASC-2-null cells
  NcoA6の関与する複合体。
Cho Y. W., et al. PTIP associates with MLL3- and MLL4-containing histone H3 lysine 4 methyltransferase complex. J Biol Chem. 2007;282:20395-406. [PubMed]

(図版省略)

MLL (2)

MLL protects CpG clusters from methylation within the Hoxa9 gene, maintaining transcript expression

Erfurth FE , Popovic R , Grembecka J , Cierpicki T , Theisler C , Xia ZB , Stuart T , Diaz MO , Bushweller JH , Zeleznik-Le NJ , Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America. 2008 May 27;105(21):7517-22.

 

 

Homeobox遺伝子(HOX遺伝子)は、胚発生や造血形成の過程で細胞運命を決める決定的な役割を担っている。MLL関連白血病では、HOXA9を含む一連のHOX遺伝子の高発現がみられる。MLLはこれらの標的遺伝子の発現誘導というよりはむしろその維持に関わっているとされているが、その機序についてはわかっていない。

この論文では、MllがHoxa9領域の特定のCpG配列に結合して転写制御を行っていることを示している。Mll存在下ではこれらのCpG領域がメチル化から保護されているが、Mllをknock downすることによってこれが解除される。Mll knock out細胞でもCpGのメチル化が認められるが、この細胞にMllを導入することで、メチル化の消失が認められる。すなわち、MllがDNAメチル化から保護する役割を示している。興味深いことに、MLL-AF4融合タンパクもこれらのCpG領域の一部の領域に対して同様の作用を認める。このような転写制御様式はMllが転写の維持に働いているだけでなく、他のCpG DNA結合タンパクに対しても作用している可能性を示唆している。DNAメチル化からの保護は、DNAメチル化転移酵素を制御しながらエピジェネティック情報を伝達していく重要なメカニズムかもしれない。

 

(Fig.1A.)(Fig.S1.) (Fig.S2.) (Fig.S3.)      

·           従来より知られている canonical HOXA9(CD exon)の上流からの転写産物(AB exon)が存在し、このプロモーター領域はCpGアイランドを有する。いずれのプロモーター領域にもMllが結合した。

·           AB exonのプロモーター領域(CpG1)のメチル化状態をみると、Mll-/-MEFに比して、Mll+/+MEFでは優位にメチル化が減少していた。CD exonのプロモーター領域(CpG3)やhomeodomainを含むCDⅡ(CpG6)では、違いはなかった。

·           CpG3は、Mll+/+MEF、Mll-/-MEFともにメチル化の程度は低い。

·           CpG1に関してはMllに依存したメチル化の違いがみられるが、CpG3にはそのような差はなく非メチル化状態にある。

         

(Fig.2.)(Fig.S4.) (Fig.S5.)         

·           Mll-/-MEFでは、ABからのHoxa9、CDからのcanonical Hoxa9ともに発現が低下している。

·           Mll shRNAでknock downにより、Hoxa9(AB)およびcanonical Hoxa9(CD)の発現が低下する

·           AB exonにはMllが結合していることが、ChIP実験により確認され、その結合領域にはCpG領域が複数存在する。

 

(Fig.3.)(Table 1.) (Fig.S4.) (Fig.S5.) (Fig.S6.)

·           TC(等温滴定カロリメトリー)で、CpGを含むオリゴとMLLタンパクのCXXCドメインの相互作用を測定した。

·           CpG1の配列のオリゴ(CpG1Ⅰ、CpG1Ⅱ)とは、1:1の結合で同程度の結合強度であった。

·           CpG1Ⅲの配列に対しては、2:1の結合で、結合強度はやや弱かった。(この領域は、Mllの強制発現でメチル化から保護されるが、Mll-AF4では保護されない。)

 

(Fig.4.)

·           MLL-A4融合タンパクによるメチル化からの保護効果は、MLLタンパクの強制発現で保護されるCpG領域の一部の領域にみられる。

 

(Discussion)

·           MllのCXXC domainがHoxa9 AB exonのプロモーター領域のCpG配列に結合することで、de novoメチル化に対してprotectiveに働き、Hoxa9遺伝子発現を維持しているモデルを示している。

·           作用機序は?

-            de novo DNA methyltransferaseのアクセスから保護する?

-            HATやHDACと相互作用することで、その領域のaccessibilityを制御する?

-            MLLが直接標的となるCpG領域のメチル化を戻している?

·           HOXA9のalternative transcriptについて

-            MLL関連白血病に、HOXA9(CD)がどの程度関わっているか、HOXA(AB)はどうなのか?については、依然不明である。

-            mir-196bもHOXA9 AB exonに存在しており、間接的な制御があるかもしれない。

·           HOXA9のプロモーター領域について

-            Hoxa9(CD)のプロモーターはATG配列をもつ古典的なタイプのプロモーター配列だが、Hoxa9(AB)のプロモーターはATG配列をもたないタイプのプロモーター配列である。

-            ヒトのHOXA9との相同性は Hoxa9(AB)の方が低い。MllのCXXC domainはこの上流側のHoxa9(AB)の直接結合していると考えられる。

·           MLLとCpG配列の相互作用について

-            MLLには高度に保存されたMT domain(aa1147-1244)もあり、ここにもCXXC domainが存在する。

-            このMT domainはSPR法でCG配列と結合することが報告されており、今回作成したGST-MTは2ヶ所でCG配列と結合する可能性がある。

MLLと細胞周期

文献 1 MLL5のRNAiは細胞周期のアレストを引き起こす

 Cheng F , Liu J , Zhou SH , Wang XN , Chew JF , Deng LW , International Journal of Biochemistry and Cell Biology. 2008;40(11):2472-81. PMID: 18573682

図1 ほ乳類のトライソラックス蛋白MLLファミリーには5つのタンパク質がある。
MLL1別名ALL1, HRX, Htrxは骨髄性およびリンパ球性白血病細胞で、様々な融合遺伝子と融合タンパク質を作る。
MLL5は一番小さく、急性白血病でしばしば欠失する 7q22に存在する。PH (plant homology) ドメインは1個しかなく、2量体化を担い、サイクロフィリンとの相互作用に必須である。
SET ドメインはあるがポストSETドメインがなくH3K27活性は証明されていない。核内のスペックルに存在し、過剰に発現すると細胞周期の進行を阻害する。細胞分裂と染色体分裂にかかわる。このアレストはP53ノックアウト細胞でもおこるためp53比依存的と思われる。

図3 2つのRNAiでの増殖抑制 細胞数↓ BrDU↓ 
図4 G2/M境界から出発しても G1/S境界から出発しても細胞周期がおかしい。
図5 P21が増加し、リン酸化の少ないhypo-phosphorylatedRBが増加する。
図6 P53ノックアウトでも同じ増殖抑制なので異なるメカニズムであろう。

 

文献 2 最近、MLL1は2相性にG1/SとG2/Mで機能することが報告されている。

Genes Dev. 2007 October 1; 21(19): 2385-2398. Bimodal degradation of MLL by SCFSkp2 and APCCdc20 assures cell cycle execution: a critical regulatory circuit lost in leukemogenic MLL fusions

MLLのN端の1400アミノ酸蛋白は60以上もの異なる融合タンパクをつくりながら白血病にかかわっている。これはMLL-EF2経路がサイクリンの制御など細胞周期の制御に中心的役割をはたしていることによる。この論文で筆者らは、細胞周期の限定されたタイミングにユビキチン化による分解がおこることにより、S期とM期で分解されることによる。このため過剰発現も細胞周期の異常をおこす。MLL分解はN端の1400アミノ酸でおこるので、融合タンパクではこの分解の異常が原因となって白血病がおこるのであろう。

E2FはRbによって抑制されている転写因子である。RbのCDKによるリン酸化は細胞周期を制御する重要なメカニズムである。一方、ユビキチン/プロテアソームシステムは、SCF(Skp1-Cul1-Fbox protein)やAPC(anaphase-promoting complex/cyclosome)により選択されたタンパク質を分解する。このリン酸化とユビキチン化が周期的制御を可能にする2つのメカニズムである。

ポリコームグループ(PcG)とトライソラックスグループ(trxG)はエピジェネティックな制御にかかわる。PcGはp16Ink4a/Arf ローカスおよびサイクリンAの制御にかかわる。例えばPcGのBmi1はp16Ink4aを抑制することにより細胞増殖を促進する。一方、PcGの Mel18は増殖をおさえて腫瘍抑制因子と考えられている。しかしtrxGと細胞周期の関係はまだ明らかでない。

TrxGのMLLは3969アミノ酸からなり、QL(V)D/GXDGサイトでスレオニン・アスパルターゼ1により分解されN端の320kDaとC 端の180kDaのヘテロダイマーを形成する。この切断酵素はアスパラギン酸のあとのスレオニンを基質として使う新しいタイプの酵素で、この酵素の欠損マウスは細胞周期の異常をおこす。MLLはH3K4のメチル基転移酵素であるとともに、2相性の発現で細胞周期を制御することが証明されてきた。

図1 2相性のMLLの発現 CではM期後期にMLLが細胞内で減少することを示している。
図2 (A) RT-PCRでGAPDHと比較したMLLのmRNA量。(B)ビーズに結合したMLLのN端側融合タンパクN320の細胞lysateでの分解アッセイ (C)26Sプロテアソーム阻害によるMLL分解抑制 (D) Flag MLLのポリユビキチネーション
図3 ユビキチンリガーゼの役割  (A) SCF/SKP2とAPC/cdc20によるMLLの分解 (B) 免疫沈降での確認 (c) S期とM期後期のライセートでのin vitor degradation での確認 (D) Hela細胞でのSKP2とcdc20のノックダウンでのMLLの蓄積
図4 MLLの分解と細胞周期 (A)HeLa細胞でのレトロウィルスによるMLLshRNA
(E) MLLはM期の進行に必要である。 (F) MLL過剰発現はS期ブロックを引き起こす。MLLまたはGFPをいれGFP 陽性細胞でのBrDU 取り込みを計測する。
図5 (A) MLLのN端1400アミノ酸がSKP2およびcdc20による分解の標的である。(B)MLLのN
端320kDaがC端側の蛋白質の安定性を制御する。
図6 (A)MLL融合タンパクの安定性 mycと融合すると不安定化するが、その他の白血病でみられる融合は、安定化する特徴をもつ。 (B) ヒト白血病細胞では、MLL-AF4融合タンパクが細胞周期の間、安定している。 (C) 融合タンパクはユビキチンリガーゼの認識を阻害する (D) 細胞のライセートに対しても融合タンパクは、抵抗性である。
図7 細胞周期のMLL阻害による異常のメカニズム MLLが周期的に変動することが鍵である。

 

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