2008年9月 3日

MLLと細胞周期

文献 1 MLL5のRNAiは細胞周期のアレストを引き起こす

 Cheng F , Liu J , Zhou SH , Wang XN , Chew JF , Deng LW , International Journal of Biochemistry and Cell Biology. 2008;40(11):2472-81. PMID: 18573682

図1 ほ乳類のトライソラックス蛋白MLLファミリーには5つのタンパク質がある。
MLL1別名ALL1, HRX, Htrxは骨髄性およびリンパ球性白血病細胞で、様々な融合遺伝子と融合タンパク質を作る。
MLL5は一番小さく、急性白血病でしばしば欠失する 7q22に存在する。PH (plant homology) ドメインは1個しかなく、2量体化を担い、サイクロフィリンとの相互作用に必須である。
SET ドメインはあるがポストSETドメインがなくH3K27活性は証明されていない。核内のスペックルに存在し、過剰に発現すると細胞周期の進行を阻害する。細胞分裂と染色体分裂にかかわる。このアレストはP53ノックアウト細胞でもおこるためp53比依存的と思われる。

図3 2つのRNAiでの増殖抑制 細胞数↓ BrDU↓ 
図4 G2/M境界から出発しても G1/S境界から出発しても細胞周期がおかしい。
図5 P21が増加し、リン酸化の少ないhypo-phosphorylatedRBが増加する。
図6 P53ノックアウトでも同じ増殖抑制なので異なるメカニズムであろう。

 

文献 2 最近、MLL1は2相性にG1/SとG2/Mで機能することが報告されている。

Genes Dev. 2007 October 1; 21(19): 2385-2398. Bimodal degradation of MLL by SCFSkp2 and APCCdc20 assures cell cycle execution: a critical regulatory circuit lost in leukemogenic MLL fusions

MLLのN端の1400アミノ酸蛋白は60以上もの異なる融合タンパクをつくりながら白血病にかかわっている。これはMLL-EF2経路がサイクリンの制御など細胞周期の制御に中心的役割をはたしていることによる。この論文で筆者らは、細胞周期の限定されたタイミングにユビキチン化による分解がおこることにより、S期とM期で分解されることによる。このため過剰発現も細胞周期の異常をおこす。MLL分解はN端の1400アミノ酸でおこるので、融合タンパクではこの分解の異常が原因となって白血病がおこるのであろう。

E2FはRbによって抑制されている転写因子である。RbのCDKによるリン酸化は細胞周期を制御する重要なメカニズムである。一方、ユビキチン/プロテアソームシステムは、SCF(Skp1-Cul1-Fbox protein)やAPC(anaphase-promoting complex/cyclosome)により選択されたタンパク質を分解する。このリン酸化とユビキチン化が周期的制御を可能にする2つのメカニズムである。

ポリコームグループ(PcG)とトライソラックスグループ(trxG)はエピジェネティックな制御にかかわる。PcGはp16Ink4a/Arf ローカスおよびサイクリンAの制御にかかわる。例えばPcGのBmi1はp16Ink4aを抑制することにより細胞増殖を促進する。一方、PcGの Mel18は増殖をおさえて腫瘍抑制因子と考えられている。しかしtrxGと細胞周期の関係はまだ明らかでない。

TrxGのMLLは3969アミノ酸からなり、QL(V)D/GXDGサイトでスレオニン・アスパルターゼ1により分解されN端の320kDaとC 端の180kDaのヘテロダイマーを形成する。この切断酵素はアスパラギン酸のあとのスレオニンを基質として使う新しいタイプの酵素で、この酵素の欠損マウスは細胞周期の異常をおこす。MLLはH3K4のメチル基転移酵素であるとともに、2相性の発現で細胞周期を制御することが証明されてきた。

図1 2相性のMLLの発現 CではM期後期にMLLが細胞内で減少することを示している。
図2 (A) RT-PCRでGAPDHと比較したMLLのmRNA量。(B)ビーズに結合したMLLのN端側融合タンパクN320の細胞lysateでの分解アッセイ (C)26Sプロテアソーム阻害によるMLL分解抑制 (D) Flag MLLのポリユビキチネーション
図3 ユビキチンリガーゼの役割  (A) SCF/SKP2とAPC/cdc20によるMLLの分解 (B) 免疫沈降での確認 (c) S期とM期後期のライセートでのin vitor degradation での確認 (D) Hela細胞でのSKP2とcdc20のノックダウンでのMLLの蓄積
図4 MLLの分解と細胞周期 (A)HeLa細胞でのレトロウィルスによるMLLshRNA
(E) MLLはM期の進行に必要である。 (F) MLL過剰発現はS期ブロックを引き起こす。MLLまたはGFPをいれGFP 陽性細胞でのBrDU 取り込みを計測する。
図5 (A) MLLのN端1400アミノ酸がSKP2およびcdc20による分解の標的である。(B)MLLのN
端320kDaがC端側の蛋白質の安定性を制御する。
図6 (A)MLL融合タンパクの安定性 mycと融合すると不安定化するが、その他の白血病でみられる融合は、安定化する特徴をもつ。 (B) ヒト白血病細胞では、MLL-AF4融合タンパクが細胞周期の間、安定している。 (C) 融合タンパクはユビキチンリガーゼの認識を阻害する (D) 細胞のライセートに対しても融合タンパクは、抵抗性である。
図7 細胞周期のMLL阻害による異常のメカニズム MLLが周期的に変動することが鍵である。