2008年4月アーカイブ

Transcription Regulation through Pausing
Leighton J Core and John T Lis Science 2008 319 1791-2

ポリメレースIIはショウジョウバエやほ乳類の遺伝子でTSSの20?50塩基のところで停止していることが報告されてきた。Promoter-ProximalPausingプロモーター近傍休止とよばれる。

最初の10?15のフォスフォディエステル結合のあとヘリケースが安定的にDNAを開いてクロマチン構造がほどかれていく必要がある。

ポリメレースのプロモーターへのリクルートは転写の第一段階である。最近のハエゃヒトでのゲノムワイドの探索で、20?30%の遺伝子はポリメレースがす でに多い。しかしその中には発現が少ないかないものもある。この場合、結合以降が律速段階である。発現の多い遺伝子でもポーズの見られるものがある。試験 管内ではポリメレースは補助装置なしでも伸張を行う。しかしフルスピードのRNA合成には、DSIF(DRB sensitivity elongation factor)とNELF(nagative elongation factor)による安定化が必要と考えられている。

プロモーター近傍へのポリメレースのエントリーとエスケープの量が重要である。ショウジョウバエのHSP70では、GAGA因子が効果的な休止に必要であ る。このたまったポリメレースが次の因子による活性化に有用である。このエスケープに重要なのはpTEFb(positive transcriptionfactor b)とよばれるキナーゼである。この因子はポリメレースII、NELF, DSIFなど多数の転写複合体タンパク質をリン酸化し、NELFがはずれてDSIFは残る。

休止の間にmRNAのキャッピングがおこり、ポリメレースのリン酸化が進む。遺伝子の中では、発生や細胞のシグナリングに迅速に反応するところでの休止がよく見られる。


ヒストンのH2AとH2Bのユビキチン化に関わる酵素が同定されている。転写開始と伸長、およびクロマチン修飾にかかわることが、このページでは H2Bを中心に解明されてきたこととを紹介します。下にある3つの図がH2B、H2Aのユビキチン化に関わる機能を示しています。

(1) ユビキチン化のメカニズム
ATP依存性のユビキチンのE1酵素での活性化、ユビキチンのE2酵素のシステインへの移転、標的タンパク質のリジンへのE3からなる。E3はしばしば C3H4RINGフィンガーモチーフを特徴とする。ポリユビキチン化されたタンパク質は26Sプロテアソームで分解される。モノユビキチン化タンパク質 は、特別の機能のタグとしてマークされる。H2Aの119番目のリジンのモノユビキチン、ubH2AH2Bの123番目のリジンのモノユビキチン、 ubH2Bが注目されている。これらモノユビキチン化は可逆的である。
(2) H2Bモノユビキチン化
Rad6は発芽酵母でみつかった最初のH2Bモノユビキチン化を担うE2である。試験管内ではポリユビキチン化も担うが、酵母内ではH2Bの123番のも のだけである。E3であるBre1に加えてもう一つのLge1が複合体を作る。そのホモログ名を挙げてある。ほ乳類では、HR6AとHR6Bがリダンダン トに作用しHR6Bノックアウトマウスは、生存可能で、オスsterileである。ヒトでBre1のホモログのE3はRNF20とRNF40があり、複合 体を作る。RNF20がH2Bユビキチンにかかわる実験結果がある。他のH2BE3候補としてはp53のネガティブレギュレーターのmdm2がある。 mdm2はコアヒストンのH2AとH2Bをユビキチン化できる。BRCA1もin vitro ではH2AとH2Bをユビキチン化するがin vivoでは不明である。
(3) H2Bの脱ユビキチン化
ユビキチンに特異的なプロテアーゼがある。酵母ではUbp8、ヒトではUSP22であり、ショウジョウバエでは、Spt-Ada-Gcn5- acetyltransferase(SAGA)複合体の一部である。SAGAを形成することが、脱ユビキチン化に必要である。ヒトでは TFTC/SATAGA複合体になる。これらは転写を活性化する。第二にプロテアーゼは酵母のUbp10でこれはSAGA複合体は必要としない。 UBP10はSir4と相互作用してサイレンシングにUbp8とUbp10は核内で別のソースのH2Bを脱ユビキチン化するらしい。
(4) 転写開始の早期ステップとユビキチン化
(5) H2BはH3k4di-tri-とH3K27のメチル化必須、FACT、伸張
(6) UbH2Bの脱ユビキチン化は転写活性の最適化に必須
(7) H2Aモノユビキチン化は抑制的
(8) H2A.Zのモノユビキチン化
(9) UbH2A脱ユビキチン化
(10) ヒストンユビキチン化とDNA修復

結論 H2Aのアウトプットは抑制、促進両方。H2Bは活性化。この2つの機能は、一般的にレシプロカルである。
(まとめ 児玉 龍彦)

Weake VM, Workman JL. Histone ubiquitination: triggering gene activity. Mol Cell. 2008 Mar 28;29(6):653-63より

遠い染色体上にあるエレメント間の相互作用は、立体的に近くに移行することによって促進される。従来の顕微鏡による解析に加えて、ホルムアルデヒドによる クロスリンクとローカス特異的なPCRを用いた3Cによる解析で物理的接近を解析できるようになった。この2つは相補的で、顕微鏡は、1個の細胞をみられ るが解像度は低く、3Cは解像度は高いが多数の細胞を必要となする。

よくしられているのはβグロビン遺伝子である。このローカスにはいくつかの類似グロビン遺伝子があり、10?60kbの一つのシスエレメントがある。同様 の例はαグロビン遺伝子、インタロイキンクラスターでもある。匂い受容体では異なる染色体の間で相互作用がある。多数の遺伝子座の制御では、Th2サイト カイン群やインターフェロンγ遺伝子群もある。

ほ乳類のX染色体の不活性化では特異なトランス作用が働く。X染色体を2個もつメスでは、1個の大半は不活性化される。2個のX不活性化センターで相互作用が始まり、エピゲノム改変が進む。

これらのことから"制御発現ユニットregulatory expression unit"という概念が生まれている。複雑なゲノムでは微生物と異なり、遠いエレメント間の相互作用がおこるが、例えばインプリントされた遺伝子では、父 型と母型のアレルに異なるエレメントが結合する。

染色体間の相互作用は一過性である。例えばコンフォーカルで3Cから予想された結果は10%以下の細胞でしか確認できない。染色体間の相互作用は、それを 仲介するタンパク質のノックダウンで見る等が行われている。FISHによる解析はRNA合成を見るのに有力である。相互作用がなくなっても発現に変化にな い場合もある。

どのように異なるローカスが近くに移動するかについては、受動的モデルと能動的モデルがある。最近ではアクチン依存の軌道にのっておこると考えられている。さらにインシュレーターが重要であろう。

クロマチンが描くクローバーのお話。略してマチクロ。
高速シーケンサやTiling Array 等を使ったわけではなく、PCRのバンドで検出するスタンダードなやり方で3C (Chromosome Conformation Capture)を行い、BRCA1(*1)の転写に絡んだ"gene looping"を観察した論文。
*1 癌抑制遺伝子 BReast CAncer 1
転写の最中、遺伝子は単なるフリーの紐のような状態ではなく、ところどころをつまんで束ねられてloopが作られたような状態になっていたりするようです。
BRCA1の配列と睨めっこして、注目したい部分(loopingの根元)にうまく対応するrestriction siteをもつ制限酵素を選んだ上で、狙ったところに 3C primerを設計。
この実験により、BRCA1の遺伝子配列のうち 近くに"束ねられている" ことが分かった部位は次の通り:
(i) BRCA1のpromoter配列
(ii) BRCA1のintron 2 (ECR: Evolutionary Conserved non-coding Region と言われる配列 ref: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15990270)
(iii) introns 3-5
(iv) intron 13-exon 15
(v) BRCA1のterminator配列
これら(i)~(v)が束ねられてBRCA1 geneが "四つ葉のクローバー" のような形をとり転写が抑制された状態から、エストロゲン刺激が入ると(v)が外れて "三つ葉のクローバー" の形になり転写が活性化される、というのが著者らの想定しているモデルだそうです。 それと、転写阻害剤(KM05283)を作用させると(v)が(i)に近づけなくなる、という実験結果から、loopingに必要な因子として "gene loop mediator factor" なるものの存在も予想しています。
また、以上の結果はMCF7なる乳癌cell lineでのものですが、他の乳癌cell linesにおいてもloopingを検討しており、cell lineによってloopingの状況が違っていることを観測。 promoterメチル化などとは別に、loopingの異常が発癌に寄与している可能性を示唆しています。
一方、loopingの変化のphysiologicalな役割を示唆する現象として、妊娠中と授乳中のマウス乳腺細胞(Brca1は妊娠中に特 に誘導される)のloopingを比べ、後者においてpromoterとterminatorが近接していることを確認し、遺伝子発現量の一般的制御方式 としてのloopingの重要性についても考察を加えています。
kissing ではinterchromosomal, intrachromosomal なinteractionがありましたが、さらにはgene loopingにおいてはintragenicと、クロマチンの相互作用はますます深みが増してきた模様で。
きっとクローバーの葉の枚数も3, 4枚どころでは済まない例がたくさん...。
(Kazuki Yamamoto)

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