2008年4月10日

クロマチンとクローバー Dynamic interactions between the promoter and terminator regions of the mammalian BRCA1 gene. -Tan-Wong et al. PNAS, 2008 Apr 1;105(13):5160-5. を読んで

クロマチンが描くクローバーのお話。略してマチクロ。
高速シーケンサやTiling Array 等を使ったわけではなく、PCRのバンドで検出するスタンダードなやり方で3C (Chromosome Conformation Capture)を行い、BRCA1(*1)の転写に絡んだ"gene looping"を観察した論文。
*1 癌抑制遺伝子 BReast CAncer 1
転写の最中、遺伝子は単なるフリーの紐のような状態ではなく、ところどころをつまんで束ねられてloopが作られたような状態になっていたりするようです。
BRCA1の配列と睨めっこして、注目したい部分(loopingの根元)にうまく対応するrestriction siteをもつ制限酵素を選んだ上で、狙ったところに 3C primerを設計。
この実験により、BRCA1の遺伝子配列のうち 近くに"束ねられている" ことが分かった部位は次の通り:
(i) BRCA1のpromoter配列
(ii) BRCA1のintron 2 (ECR: Evolutionary Conserved non-coding Region と言われる配列 ref: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15990270)
(iii) introns 3-5
(iv) intron 13-exon 15
(v) BRCA1のterminator配列
これら(i)~(v)が束ねられてBRCA1 geneが "四つ葉のクローバー" のような形をとり転写が抑制された状態から、エストロゲン刺激が入ると(v)が外れて "三つ葉のクローバー" の形になり転写が活性化される、というのが著者らの想定しているモデルだそうです。 それと、転写阻害剤(KM05283)を作用させると(v)が(i)に近づけなくなる、という実験結果から、loopingに必要な因子として "gene loop mediator factor" なるものの存在も予想しています。
また、以上の結果はMCF7なる乳癌cell lineでのものですが、他の乳癌cell linesにおいてもloopingを検討しており、cell lineによってloopingの状況が違っていることを観測。 promoterメチル化などとは別に、loopingの異常が発癌に寄与している可能性を示唆しています。
一方、loopingの変化のphysiologicalな役割を示唆する現象として、妊娠中と授乳中のマウス乳腺細胞(Brca1は妊娠中に特 に誘導される)のloopingを比べ、後者においてpromoterとterminatorが近接していることを確認し、遺伝子発現量の一般的制御方式 としてのloopingの重要性についても考察を加えています。
kissing ではinterchromosomal, intrachromosomal なinteractionがありましたが、さらにはgene loopingにおいてはintragenicと、クロマチンの相互作用はますます深みが増してきた模様で。
きっとクローバーの葉の枚数も3, 4枚どころでは済まない例がたくさん...。
(Kazuki Yamamoto)