2011年10月アーカイブ

胃癌におけるDNAメチル化エピジェノタイプの同定

胃癌発生にはDNAメチル化異常が密接に関与し、これまでDNAメチル化異常の少ない胃癌と多い胃癌の存在や、ヘリコバクター感染・慢性炎症によるDNAメチル化が知られていた。
今回、ゲノムサイエンス分野の松坂恵介研究員(現東大人体病理)、金田篤志准教授、永江玄太助教らは、DNAメチル化網羅的解析の結果から胃癌を3群の異なるDNAメチル化エピジェノタイプに分類し、EBウィルス感染による特異的な高メチル化パターンを同定しCancer Research誌に報告した(published online 11 Oct 2011)。
今研究では胃癌のDNAメチル化異常をイルミナ社のInfinium 27K ビーズアレイを用いて網羅的に解析した。27,578箇所のCpG部位、14,495個の遺伝子プロモーター領域のメチル化状態を解析するアレイである。51症例の胃癌は、低メチル化群、高メチル化群に加えて、EBウィルス感染陽性と完全に合致する超高メチル化群の3群に分類された。すべての胃癌、および高メチル化群でメチル化される遺伝子は、これまでよく知られているようにES細胞におけるポリコーム標的遺伝子群が有意に多かった。しかしEBウィルス胃癌ではMLH1遺伝子はメチル化されず、EBウィルス胃癌特異的にメチル化される遺伝子はポリコーム標的遺伝子ではない、など、EBウィルス陰性胃癌とは異なるメチル化機構が働いていることが示唆された。そこでAkataシステムを用い低メチル化群に属する胃癌細胞株MKN7をin vitroにEBウィルスに感染させたところ、独立に樹立した3クローンすべてにおいて新規に異常メチル化が認めら、超高メチル化パターンを示した。新規に認められたメチル化部位は、3クローン間でよく重なっており、それらメチル化遺伝子の発現抑制も確認した。
以上、EBウィルス感染という胃癌発癌の背景因子に相関したエピジェノタイプを同定し、そのエピゲノム異常の原因がEBウィルス感染そのものであることを証明した。

Keisuke Matsusaka, Atsushi Kaneda, Genta Nagae, Tetsuo Ushiku, Yasuko Kikuchi, Rumi Hino, Hiroshi Uozaki, Yasuyuki Seto, Kenzo Takada, Hiroyuki Aburatani, Masashi Fukayama
Classification of Epstein-Barr virus positive gastric cancers by definition of DNA methylation Epigenotypes
Cancer Res. Published Online (Oct 11, 2011), doi:10.1158/0008-5472.CAN-11-1349

Journal web site
CTCF-promoted RNA polymerase II pausing links DNA methylation to splicing

Shukla S, Kavak E, Gregory M, Imashimizu M, Shutinoski B, Kashlev M, Oberdoerffer P, Sandberg R, Oberdoerffer S.

Nature. 2011 Oct 2. doi: 10.1038/nature10442.

CTCFは"intergenic activity"(インスレータとしての機能)についてよく研究
されている分子であるが、多くのChIP-seqデータベースから遺伝子間のみな
らず遺伝子内に結合することも示されている。このCTCFの遺伝子内結合によ
る"intragenic activity"については今まで報告がなく不明であった。本論文では、
exon上のCTCF結合によるintragenic activityとしてalternative splicing への影響
を報告している。
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ChIP-seq database showed CTCF known as an insulator bound to intragenic
region. However, intragenic activity of CTCF remains unclear. This paper
suggested CTCF binding on exon linked to alternative splicing of pre-mRNA.

(担当:末弘)

Context-Specific Regulation of NF-κB Target Gene Expression by EZH2 In Breast Cancers

Lee ST, Li Z, Wu Z, Aau M, Guan P, Karuturi RK, Liou YC, Yu Q.
Mol Cell. 2011 Sep 2;43(5):798-810.

(担当:穴井)
PKA-dependent regulation of the histone lysine demethylase complex PHF2-ARID5B

Atsushi Baba et al. Nature cell biology 13:668-675 June 2011

1) PHF2, a jmjC demethylase, is enzymatically inactive by itself, but becomes an
active H3K9Me2 demethylase through PKA-mediated phosphorylation.

2) Phosphorylated PHF2 then associates with ARID5B, a DNA-binding protein, and
induce demethylation of methylated ARID5B.

3) Phosphorylated PHF2 and demethylated ARID5B complex removes the
repressive H3K9Me2 mark.

(担当:山崎)
Integrative annotation of human large intergenic noncoding RNAs reveals global properties and specific subclasses.

Moran N Calbili, et al.
Gene and Dev.
2011 Sep 15;25(18):1915-27. Epub 2011 Sep 2.

(担当:三村)

DNAメチル化は、受精後急速に減少し、インプリンティング領域などの一部の領域を除いて初期化される。初期化されたDNAメチル化状態は、発生、分化に 伴って蓄積し、組織特異的メチル化パターンを形成すると考えられている。これまでES細胞から各胚葉へ分化誘導する技術を用いたDNAメチル化パターンの 比較は報告されていたが一つの系で三胚葉(内胚葉・中胚葉・外胚葉)への分化を同時に観察できる分化誘導系を用いた胚葉間比較は報告されていなかった。

今回、砂河孝行研究員は熊本大学発生医学研究センターの粂昭苑教授、白木伸明助教らとの共同研究によりES細胞から誘導した3胚葉(内胚葉・中胚 葉・外胚葉)におけるDNAメチル化状態をMeDIP on chip法によりゲノムワイドに比較検討を行った。その結果、ES細胞からの3胚葉分化に伴い著しいDNAメチル化の増加は観察されるものの胚葉間の違い は少なく、遺伝子発現制御に重要なプロモーター領域は極めて低メチル化に保たれていることが分かった。一方、一部の生殖細胞において特異的に発現する遺伝 子のプロモーター領域は、胚葉分化時に高度にメチル化していた。さらに、3胚葉由来組織である脳、肝臓、骨格筋および精子においても同様にメチル化状態を 比較検討したところ、胚葉間同様に組織間の違いは殆どないことが分かった。また、胚葉間同様に生殖細胞特異的遺伝子のプロモーター領域は、体細胞組織にお いてメチル化されており、精子においては脱メチル化状態となっていた。

以上のことから発生の初期におけるDNAメチル化は、発生・分化における遺伝子発現制御を行っているというよりはむしろ生殖細胞特異的遺伝子の発現を恒常的に抑制することによって細胞運命を体細胞分化に固定する役割があると考えられた。

本研究成果は10/7付けでPLoS ONE誌に掲載された。
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