2009年7月アーカイブ

エピゲノム勉強会資料20090714
The Putative Tumor Suppressor microRNA-101 Modulates the Cancer Epigenome by Repressing the Polycomb Group Protein EZH2
Jeffrey M. Friedman1, Gangning Liang1, Chun-Chi Liu2, Erika M. Wolff1, Yvonne C. Tsai1, Wei Ye1, Xianghong Zhou2 and Peter A. Jones1
1 Department of Urology, Biochemistry and Molecular Biology, Norris Comprehensive Cancer Center, Keck School of Medicine, and 2 Department of Molecular and Computational Biology, University of Southern California, Los Angeles, California
要旨 Polycomb Repressive Complex2(PRC2)はヒストンH3のリジン27をトリメチル化してエピジェネティックな遺伝子サイレンシングを引き起こす。PRC2複合体の活性サブユニットであるEZH2は癌化を促進することが知られており、いくつかの癌種で過剰な発現が報告されている。今回、膀胱移行上皮癌(Transitional cell carcinoma:TCC)症例のmicroRNAプロファイリングを行いmiR-101がTCCで発現低下していることを認め、TCC細胞株でmiR-101が細胞増殖やコロニー形成を阻害することを示した。さらにmiR101がEZH2をダイレクトに抑制しており、EZH2のノックダウンと同様の細胞増殖低下をきたすことが分かった。以上よりmiR-101の低下はEZH2の過剰発現をきたし癌化することが示唆され、miR-101がクロマチン構造に関与する潜在的ながん抑制因子である可能性が示唆された。
Table1.Fig1A,B microRNA microarray(LC sciences)を用いてTCCと正常で異なる発現を示すmicroRNAを調べた。
Fig1C,DそれぞれのmicroRNAを細胞株にTranscfectionしたStable cell lineを作製した。細胞増殖とコロニー形成を調べたところmiR-101が最もよく細胞増殖とコロニー形成を阻害した。
Fig2A TargetScanを用いてmiR-101の標的遺伝子を調べたところEZH2のスコアが高かった。このためTCC癌組織と近傍の正常組織よりEZH2とmiR-101の発現をRT-PCRで評価したところ逆相関がみられた。
Fig2B 次に細胞株にpre-miR-101(50nM)をtransientにtransfectionしてWestern blotによる評価を行った。EZH2に比べK27me3はあまり減少しなかった。正常組織中と同濃度である5nMでもEZH2の減少がみられた。
Fig2C,D EZH2がmiR-101のダイレクトな標的であることを示すためにEZH2の3'UTR(Wild or Mutated)を用いてluciferase reporter assayを行った。
Fig3 miR-101とEZH2のノックダウンのフェノタイプを比較した。shRNAによるEZH2のノックダウンでも細胞増殖、コロニー形成の阻害がみられた。
Fig4 発現アレイを用いてantiEZH2 siRNAとpre-miR-101の発現を比較した。43の遺伝子が共通して発現回復した。

エピゲノム勉強会7/14/2009
Polycomb Mediated Epigenetic Silencing and Replication Timing at the INK4a/ARF Locus during Senescence
Hanane Agherbi1., Anne Gaussmann-Wenger1., Christophe Verthuy1, Lionel Chasson1, Manuel
Serrano2, Malek Djabali1*
1 Centre d'immunologie INSERM-CNRS de Marseille Luminy, Marseille, France, 2 Spanish National Cancer Research Center (CNIO), Madrid, Spain
May 2009 | Volume 4 | Issue 5 | e5622

図1:Analysis of Polycomb EZH2, M33 and BMI1 binding at the INK4a/ARF region.
老化した細胞では、INK4a, ARFの発現が上がっており、これを抑制すると考えられるPRC2のcomponentであるEzh2が低下している。一方PRC1のBmi1は代わりがない。PRC1のM33, Bmi1を欠損した細胞では、老化細胞と同様の発現パターンが認められる。
さらにINK4a/ARF領域のRD (DNA replication origin)やexon1b, 2には若い細胞でEZH2が多く結合しているのに対し、老化した細胞での結合量が低下し、抑制効果が外れていることが示唆される。

図2:Loss of EZH2 binding and H3K27me3 methylation at the INK4a/ARF locus during senescence.
老化細胞では、RDにおけるH3K27me3マークが消失している。M33, BMIを欠損した細胞では、exon 1bにおけるH3アセチル化が増加しており、その様子は、HDAC阻害剤で処理したかの様である。

図3:Recruitment of MLL1 at the INK4a/ARF locus during senescence.
PRCに加えてTrx-G/MLLの分布とその結果起こることが予想されるH3K4me3の増加を同じ領域で見ると、MLL1は若い細胞でexon 1b, exon2に結合しているのに対し老化細胞とPRC mutantsではさらに多くのMLL1が結合している。にも関わらず
H3K4me3の量に変化がなく、老化細胞にも若い細胞にも同程度に存在していた。
一方H3K27me3の脱メチル化酵素である、Utxの発現量に変化はなかったが、Jmjd3は老化細胞で誘導されていた。
Jmjd3の増加とEzh2の低下がINK4/ARF locusの老化における活性化の原因と考えられた。

図4:BMI1 interacts with CDC6 and is required for CDC6 repressing function.
Replication complexの一部であるCDC6とPRC1の一部であるBMI1が強制発現の実験でも、thymocyteを使った実験でも免疫沈降で共沈してきた。さらに、BMI1がCDC6によるInk4a/Arfの抑制に必要であることを確かめるために、野生型とBmi1欠損のMEFにCDC6を強制発現してArf, Ink-4aの発現抑制効果を見たところ、Bmi1がないとCDC6による発現抑制効果が失われたので、CDC6によるInk4a/Arf locusの抑制にはPRCが必要であることがわかった。

図5:INK4a/ARF timing of replication.
若い細胞ではK4me3とK27me3が共存しているいわゆる"bivalent domains"として見いだされた"replication switch"がoffなので、exon 1bがlate replicatingだが、老化した細胞や、PRC1のmutantではswitchがonなので、early replicatingになっている。

図6:Model for Pc-G and MLL1 proteins in regulation of cellular senescence at the INK4a/ARF locus.
Polycombの変異体をつかうとreplication timingの変化が起こることから、
MLL1とPRCは、領域がactiveのときとsilenceされているときで図に示すようにヒストン修飾を介して協調的に遺伝子の転写を制御していることが明らかになった。

(和田洋一郎)

Polycomb protein Ezh2 regulates pancreatic β-cell Ink4a/Arf expression and regeneration in
diabetes mellitus
Hainan Chen, Xueying Gu, I-hsin Su, et al.
Genes Dev. 2009 23: 975-985
Abstract
膵島β細胞の増殖は自己複製と膵島の拡大にとって重要である。Cyclin-dependent kinase inhibitorである
p16INK4aと癌抑制遺伝子p19Arfの増加は老齢マウスにおいてβ細胞の再生に制限をかける。しかし、β細胞
におけるInk4aとArfの働きについてはよくわかっていない。ここでは、ヒストンメチル化酵素であり
Polycomb group (PcG) protein complexのコンポーネントである、Enhancer of zeste homolog 2
(Ezh2)が、β細胞ではInk4a/Arfを抑制していることを報告する。Ezh2のレベルが老化していく膵島β細胞
において減少すること、そしてこのことがInk4a/ArfにあるヒストンH3トリメチルを減少させp16INK4aと
p19Arfのレベルを上昇させる.Ezh2をβ細胞特異的にノックアウトした若いマウスでは、Ink4a/Arf ロー
カスにあるヒストンH3トリメチルが減少しておりp16INK4aとp19Arfのレベル上昇を引き起こしていた。これ
らの変異マウスはβ細胞の増殖能と大きさの低下、低インシュリン血症、軽い糖尿病というフェノタイプを
示したが、 Ink4a/Arf の germline deletion でそのフェノタイプはレスキューされた。コントロールマウス
にてストレプトゾトシン(実験的に糖尿病を引き起こす薬剤)を使用しβ細胞を破壊した場合、Ezh2の発
現が誘導され、それにより適応すべくβ細胞の増殖と大きさが大きくなった。一方、変異マウスに同じ処置
を行ったがβ細胞の再生は起こらず、糖尿病性致死という結果になった。このことから、Ezh2依存的なβ
細胞の増殖を証明することにより、糖尿病発症時において正常β細胞の拡大とβ細胞の再生ができないこと
の根底にはユニークなエピジェネティックメカニズムが関与していることが明らかとなった。
【ノート】
<前提条件>
Ink4a, Arfの発現増加に伴ってβ細胞の増殖が低下する(1999、2006年に報告)
ファイブロブラストにおいてPcGがInk4a, Arfの発現制御をしている(2003、2007年に報告)

<仮説>
β細胞の増殖とPcGは関係している
【結果】
1.Ezh2の発現レベルが下がることで膵島β細胞の増殖が落ちる
2.β細胞においてEzh2の減少が、 Ink4a/Arf ローカスのヒストン修飾を変化させる
3.Ezh2コンディショナルノックアウトマウスでは早期に Ink4a/Arfが発現誘導される
4.βEzh2KOマウスではβ細胞の発育不全、軽い糖尿病というフェノタイプが現れる
5. Cdkn2aを不活性化すると上記のフェノタイプがレスキューされる
6.ストレプトゾトシン処理を受けたβEzh2KOマウスはβ細胞の再生が起こらす重篤な糖尿病になる

1: Nature. 2009 Jun 11;459(7248):857-60. Epub 2009 May 27

A spatial gradient coordinates cell size and mitotic entry in fission yeast.

Moseley JB, Mayeux A, Paoletti A, Nurse P.

 

2 : Nature. 2009 Jun 11;459(7248):852-6. Epub 2009 May 27.

Polar gradients of the DYRK-family kinase Pom1 couple cell length with the cell cycle.

Martin SG, Berthelot-Grosjean M.

 

 

真核細胞では通常一定の大きさにまで成長してから細胞周期が進行するが、これにはサイクリン依存性キナーゼ Cdk1(cdc2) によって制御されている。このCdk1 の活性制御は一連のリン酸化kinase による抑制制御のカスケード (Wee1-Cdr1-Cdr2) が関与することは詳しく解明されていたが、細胞の大きさを監視する仕組みはわかっていなかった。

ロックフェラー、Paul Nurse ら

分裂酵母を用いて、G2-M の移行エンジンとなる Cdk1 には15番目のY をリン酸化して活性を抑制する Wee1 と逆にこのY15 リン酸化を外してCdk1 を活性化する Cdc25 phosphatase の大きな制御のバランスがある。

この人たちは前にWee1 を今度はリン酸化して活性を抑制するキナーゼCdr2 を同定していたが、proteomics 的アプローチから Cdr2 に相互作用するものとしてBlt1, Mid1, Cdr1 を同定した。

図1,Cdr2, Blt1, Mid1, Cdr1 がいずれも細胞の中心部(間期細胞の中央部ノード(集合点)に局在する。各々物理的相互作用もある。

図2,Cdr2 がこの集合体の要であって、Cdr2 欠損株だとMid1, Cdr1, Blt1 いずれもノードに集合できなくなる。Supplemental Fig. S3 には欠損株の組み合わせがあるが、Cdr2 がないときだけ、この集合がおかしくなる。図2cde のデータからまたWee1 もこのcomplex に入っていてやはりsupplemental S5 からもCdr2 が欠損するとこの集合体に集まらなくなる。

図2にあるようなCdr2 をtop とする制御ネットワークとmitotic entry 制御ネットワークとの相関をしらべるために、cell polarity factor がCdr2 のノードへの局在を制御しているのではないかと考え、polarity factor である For3, mod5, orb2, orb6, pom1, tea1, tea4 の各々の欠損株からの forward genetics アプローチからPom1 (dual specificity tyrosine phosphorylation regulated kinase ) が重要であることがわかった。

図3a、Pom1 欠損だとCdr2 がnode にいけなくなる。さらにSupplemental Fig. S8 から、Mid1, blt1, Cdr1 もnode に集まらなくなる。

図3b、Pom1 はCdr2 をリン酸化している。図3c、WT の分裂酵母の長さに対して、Pom1 欠損だと、M期移行が早くなってその分細胞が短いが逆に Cdk1 の活性化酵素 Cdc25 を不活化するとM期移行が不全で細胞が長くなる。その後は関連性を欠損株の組み合わせで見ているが、Pom1 とCdc25 は独立しているので各々の機能が長さに反映するが、 Cdr2, Cdr1, Wee1 は 同じ系なので、足し算、引き算効果が認められない。Supplemental Table S1, S2 も参照。Tea1 はPom1 の局在制御関連なので、cdc25 とは独立しているが、Pom1 やCdr2 とのdouble mutant でも更なる変動は認められない。

図4,Pom1 の発現濃度が細胞の両端が濃く、そこからのgradient がある。即ち細胞が大きくなると細胞中心のPom1 濃度が最も低くなる。そこで細胞が大きくなるとcell middle でのPom1 がなくなり、Cdr2 の抑制が外れ、一連のキナーゼが活性化され、Wee1 をリン酸化し、Cdk1 の抑制を外し、G2-M が移行していくというモデルが提唱される。図4d ではPom1 を異所性に発現した場合、Cdr 2のnode 局在が崩れていることを示している。図4e ではPom1 の異所性発現でCdr2 のdysfunction があって細胞のG2-M 移行が遅れること、これはCdr2 欠損と同じでCdc25 とは独立の系であることを示している。

Martin, SG らのpaper

ほとんど同じことを似たapproach で発表。追記点としては、Cdr2 のpathway にある Cdr1 の活性を阻害する kinase が Nif1 であり、これのNif1 欠損株ではCdr1 が活性化するためwee1 の阻害がかかり、Cdk1 がより活性化され、細胞のG2-M が促進(細胞サイズが小さくなる)こと、Cdc25 のPathway には Wis1 とSty1 というのがあって、これらの欠損株では cdc25 の活性化が不十分となることを Table 1にて示している。

一番のkey は 図3cである。

さらに、Supplemental Fig. 2 にてPom1, Nif1 ともにcell edge に局在するが、この局在制御にPom1 がactin 非依存的、微小管依存的であるのに対し、Nif1 は逆でactin polymerization に依存していることを示している。

(南)

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