2010年7月アーカイブ

2010年7月14日付でオックスフォード大学との共同研究 "Active RNA Polymerases: Mobile or Immobile Molecular Machines?" がPLoS Biology誌に掲載されました。

昨年我々はTNFαで刺激された内皮細胞において転写活性化される遺伝子上でnascent RNA産生の波を観察しました(2009年10月14日ニュース) が、これはクックらが提唱していた転写ファクトリー仮説を支持するものでした。 これは組織化されたRNAポリメレースIIを含む転写ファクトリーに遺伝子が動員されて転写と修飾が同時進行するという概念です。さらにファクトリーの数 は誘導される遺伝子数より遙かに少ないので、ファクトリーは複数の遺伝子を同時に転写すると考えられます。 そこで、我々が既報で解析したSAMD4Aと同じ14番染色体上にあり、TNFαで誘導される遺伝子群から、Chromatin conformation capture (3C)-PCRによって転写が進む時に限って空間的近接関係が認められる遺伝子としてTNFAIP2を同定しました。 加えて別の染色体上にもSAMD4Aと近接関係のあるSLC6A5を見出しました。さらにRNA-FISH法により、産生されたRNA自体も核内で近接関 係にあることを確認しました。 今回の報告は、TNFαで駆動される転写ファクトリーは"複数の遺伝子を同時に転写することができる"という新たな概念を支持するものです。 今後より網羅的な解析によってファクトリーが同時に取り込み、転写する遺伝子群の組み合わせが明らかになると、核内の微細環境で起こっている転写のメカニ ズムがより詳しく解き明かされると考えられます。

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ROBO1タンパク質の切断機構と細胞核移行

ROBO1は、軸索誘導においてSlitの受容体として機能し、細胞が反発する方向にシグナルを伝える。2006年にItoらは、ROBO1がヒト の肝細胞癌において発現量が亢進することを報告した。この報告の中で、ROBO1の細胞外ドメインが血清中や細胞株の培養上清中から検出されていたが、切 断部位は決定されていなかった。

今回、我々は、ROBO1タンパク質の切断部位を同定した。また、ROBO1が金属プロテアーゼとγ-セクレターゼによる二段階切断を受け、129 kDaのROBO1-CTF1と118 kDaのROBO1-CTF2という二種類のC末端断片を産生することを明らかにした。さらに、ROBO1の一部が細胞核に蓄積し、これが金属プロテアー ゼやγ-セクレターゼの阻害剤で抑制されることを示した。

これらのことから、ROBO1は切断を受け、細胞核へ移行することで、単純な受容体以外の機能も有する可能性が考えられた。

以上の知見をFEBS Letters誌にて発表した。


Seki M, Watanabe A, Enomoto S, Kawamura T, Ito H, Kodama T, Hamakubo T, Aburatani H.
Human ROBO1 is cleaved by metalloproteinases and γ-secretase and migrates to the nucleus in cancer cells.
FEBS Letters. 2010 Jul 2; 584 (13) 2909-15.

PubMed
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Klf4 Interacts Directly with Oct4 and Sox2 to Promote Reprogramming

ZONG WEI,a,b,c YANG YANG,a,b,e PEILIN ZHANG,a,b ROSEMARY ANDRIANAKOS,a,b KOUICHI HASEGAWA,a,d
JUNGMOOK LYU,a,b XI CHEN,f GANG BAI,e CHUNMING LIU,f MARTIN PERA,a,d WANGE LU
a,b,c

                                         STEM CELLS 2009;27:2969-2978

要旨

体細胞からiPS細胞を作成するのにKLF4, Oct4, Sox2は重要な因子でありことが知られている。また、KLF4, Oct4, Sox2は同じ遺伝子群の発現を制御していることが知られている。このことから、これらの因子には相互作用があるのか否かについて解析した。その結果、KLF4はOct4, Sox2と直接相互作用いることが明らかとなった。また内在性のKLF4もOct4, Sox2との相互作用していることがiPS細胞ならびにmouse ES細胞において確認された。相互作用にはKLF4のC末領域のzinc finger motifが重要であることが明らかとなった。dominant negative KLF4および内在性KLF4をノックダウンさせるとKLF4/Oct4/Sox2の複合体を形成できずにreprogrammingが抑制されることが明らかとなった。以上のことから、KLF4, Oct4, Sox2の相互作用はreprogrammingに重要であることが明らかとなった。

 

Figure 1. IPS細胞の構築

Oct4, Sox2, Klf4, c-Mycを発現するドキシサイクリン誘導レンチウイルスおよびrtTAとpuromycin selection cassetteを持つレンチウイルスを、Oct4-GFPレポーターを持つマウス胎仔線維芽細胞(MEF)に感染させ、2週間ドキシサイクリンを含むES細胞培地で培養し、ES細胞様のGFPポジティブコロニーからiPS細胞(1st iPS)を樹立し、アルカリフォスファターゼ(AP), SSEA1ポジティブであること、多能性関連遺伝子を発現していることを確認した。

最も多能性関連遺伝子発現がES細胞と近いラインを選抜し、マウス胚盤胞に注入し新たにMEFを得る。新たなMEFにドキシサイクリン添加によりiPS細胞(2nd iPS)を得られた。また、1st iPS細胞から、in vitroで神経幹細胞(NSCs)に分化させた。分化させたNSCsにドキシサイクリン添加により新たなiPS細胞(2nd iPS)を得た。

reprogramming効率はGFPポジティブなコロニー数を計測してreprogramming効率を調べた。また、今回得られたiPS細胞はドキシサイクリンの濃度を上げること、HDAC阻害剤(バルプロ酸)VPA添加の両方で効率が改善することが分かった。また、iPS細胞をSCIDマウスに導入するとより派生したteratoma形成が示された。

 

 

 

Figure 2. KLF4はOct4、Sox2 interactionする

A, B. 293T細胞にFlag-tagged KLF4、Oct4およびSox2を強制発現させ、抗Flag抗体、抗Oct4抗体および抗Sox2抗体にてI.P、interaction 解析

C, D. IPS細胞にて抗KLF4抗体、抗Oct4抗体および抗Sox2抗体にてI.P、Interaction解析

E, F. mouse ES細胞にて抗KLF4抗体、抗Oct4抗体および抗Sox2抗体にてI.P、Interaction解析

→内在性KLF4はOct4, Sox2とinteractionすることがIPS細胞ならびにmouse ES細胞にて確認された(内在性のKLF4とSox2とのinteractionについては確認できなかった)

 

Figure 3. KLF4のC末端にてOct4とSox2はinteractionする

B, C. KLF4 zinc finger motifを削るとOct4ならびにSox2とのinteraction効率が低下

D, E. KLF4 middle regionもN末端もOct4ならびにSox2とのinteractionには無関係

F, G. GST pull down assayにおいてもKLF4、Oct4、Sox2はC末端にてinteractionしていることを確認

   H. Sox2はKLF4とOct4のinteractionを阻害しない(Sox2とOct4がinteractionする領域は異なるのではないか)

   I. Oct4抗体を用いてChIP → control IgGならびにKLF4抗体にてChIP PCR

Oct4ならびにKLF4は同領域に結合していると示唆された

 

Figure 4. dominant negative KLF4はwild type KLF4と競合しreprogramingを阻害する

A, B. dominant negative KLF4にはNanog-luciferaseを活性化させない

   C. dominant negative KLF4にはDNA結合活性がない

D, E. dominant negative KLF4によりwild type KLF4のOct4ならびにSox2とのinteractionを阻害する

 

F, G. dominant negative KLF4によりNSC由来のIPSのreprogramming効率が低下

H, I. dominant negative KLF4によりMEF由来のIPSのreprogramming効率が低下

KLF4△ZF1-3についてはreprogrammingの阻害は認められなかった。

 

Figure 5. 内在性KLF4はreprogrammingならびにES細胞のself-renewalに重要である

A, B. Oct4、Sox2 overexpression MEFにshKLF4処理するとAPポジティブ細胞が減少

   →内在性のKLF4がreprogrammingに関与

C, D. Oct4、Sox2 overexpression MEFにdominant negative KLF4(KLF4△ZF3)処理によりAPポジティブ細胞が減少

   →内在性のKLF4の発現レベルだけでもreprogrammingすることが可能

E, F. mouse ES細胞にdominant negative KLF4(KLF4△ZF3)処理するとSSEA1ポジティブ細胞が減少

      しかし、KLF4△ZF1-3(dominant negative体ではない)ではSSEA1ポジティブ細胞はコントロールと変わらない

 

(前島)

 

 

 

 

 

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