2010年3月アーカイブ

大腸癌肝転移のゲノムコピー数解析

研究員の山本尚吾、緑川泰らは、大腸癌肝転移に関連するゲノムコピー数異常についてGenes Chromosomal and Cancer誌に報告した。

大腸癌の治療方針の決定に際して腫瘍の転移の可能性を推定することは重要である。多くの癌では染色体欠失、増幅などのゲノム変異が生じているが、大腸癌の最も一般的な転移先である肝臓への転移において特徴的なゲノムコピー数の異常を同定することで、転移プロセスの解明や転移の可能性を推定する手掛かりになる。

本研究では、肝転移を認めた大腸癌症例19例及び肝転移のない大腸癌14症例について、SNPアレイを用いたゲノムワイド遺伝子コピー数解析を行った。 肝転移の有無に関わらず14の染色体腕で増加や欠失が見られた一方、肝転移群では 20p13-p12.1、20q11.21-q13.33の染色体増加と、6q14.1-q25.1のヘテロ接合性消失(LOH)が高頻度に見られた。 また、同一症例の原発大腸癌と肝転移癌組織の染色体異常を比較したところ、大部分は共通の染色体異常が維持されていたが、原発巣のみで見られる遺伝子コピー数変異もしばしば見つかったことから、癌細胞の不均質性に由来すると考えられる。

本研究により、大腸癌の染色体異常は肝転移のあるなしに関わらずゲノムワイドに類似した傾向があるが、6q、20p、および20qの染色体異常は肝転移群で高頻度なことから肝転移プロセスに関わる可能性が示唆された。

Yamamoto S, Midorikawa Y, Morikawa T, Nishimura Y, Sakamoto H, Ishikawa S, Akagi K, Aburatani H.
Identification of chromosomal aberrations of metastatic potential in colorectal carcinoma.
Genes Chromosomes Cancer. 2010 Feb 19.

PubMed
Journal website

大学院4年鄧穎氷、博士研究員永江玄太らは、ヒト肝癌サンプルを用いて遺伝子プロモーター領域におけるメチル化異常を網羅的に解析し、C型肝炎関連肝癌で有意に高頻度に高メチル化が認められる遺伝子群を同定し、Cancer Science誌に報告した(published online 27 Feb 2010)。

肝癌発生にはB型肝炎ウィルス感染とC型肝炎ウィルス感染が大きく関わるが、癌発生機序は異なると考えられる。今研究ではまず3例の正常肝、3例のB型肝炎関連肝癌とその背景肝、3例のC型肝炎関連肝癌とその背景肝、合計15サンプルにおいてMeDIP-chip法を用いて、プロモーター領域がメチル化されている遺伝子をゲノム網羅的に抽出。背景の慢性肝炎・肝硬変では認められず、癌ではB型、C型、それぞれの癌に特異的に認められるメチル化遺伝子の候補を同定した。

それを、合計125例の臨床サンプルを用いてMALDI-TOFF (MassARRAY)による質量分析法でvalidationを行った。年齢の補正も行った結果、C型肝炎関連肝癌で有意に高頻度に高メチル化が認められる遺伝子が少なくとも15個存在することが判明し、RAS/RAF/ERKシグナルやWntシグナルのインヒビターを多く含むことから、C型肝炎関連肝癌の癌発生にDNAメチル化異常が深く関与する可能性が示唆された。

Ying-Bing Deng, Genta Nagae, Yutaka Midorikawa, Koichi Yagi, Shuichi Tsutsumi, Shogo Yamamoto, Kiyoshi Hasegawa, Norihiro Kokudo, Hiroyuki Aburatani, & Atsushi Kaneda.
Identification of genes preferentially methylated in hepatitis C virus-related hepatocellular carcinoma.
Cancer Science. Published Online (Feb 27, 2010),

PubMed
ournal website

このアーカイブについて

このページには、2010年3月に書かれたブログ記事が新しい順に公開されています。

前のアーカイブは2010年2月です。

次のアーカイブは2010年4月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。