2009年10月アーカイブ

DNA demethylation in hormone-induced transcriptional derepression

P450B1(CYPB27B1)はプロモーター領域のメチル化/脱メチル化がホルモンにより制御され、転写が調節される。ビタミンDの添加によりDNMTsがリクルートされ、プロモーター領域のCpGがメチル化される。その結果、CYPB27B1の発現は抑制される。
一方、副甲状腺ホルモン(PTH)の添加により、MBD4がリン酸化され5mCpG領域にAPサイトが形成される。
その後塩基除去修復機構により脱メチル化される。その結果、CYPB27B1の発現が回復される。

Nature 461, 754-761 (8 October 2009)
Nucleation, propagation and cleavage of target RNAs in Ago silencing complexes

RNAiのkey complexであるRISCのternary complex (Ago, guide DNA(RNA), target RNA)の結晶構造解析を行った。ArgonauteはN-terminal, PAZ(RNA binding), MID(RNA binding), PIWIドメイン(endonuclease活性)を持つタンパク質で、Agoによるtarget RNAの切断には、guide RNAとtarget RNAの相補的な結合(position 2-8; seed segment, 10-11 step; cleavage site)が必要である。これまで、Agoとsmall RNAおよびtarget RNAの結合の分子メカニズム(ダイナミクス)はわかっていなかった。今回Agoの触媒ドメインのmutantを用いることでternary complexの解析を行った。

Cleavage site in Ago ternary complexes
(Supp Fig.1)Asn546 Agoとguide DNA(21nt), target RNA (12nt, 15nt, 19nt)を用いて結晶構造を解析し、guide鎖とtarget鎖の詳細なアライメントがモニターできた。
(Fig.1b)12ntの相補的なtarget RNA(21nt)を用いた解析では、guide鎖1-12, 20-21、target鎖2-12がモニターでき、両端はそれぞれAgoの結合ポケットに固定しているのがわかった。(Fig.1d,e) Cleavage siteである10-11 step リン酸基はAgo PIWI domainの触媒残基(Asp478, Asp660,Asn546mut)のそばに位置する。(Supp Fig.4、5)binary とternary complexを比較すると、guide鎖(直交から積み重ね)およびAgo(PAZ domain)の構造変化が見られる。

Release of guide 3'-end from PAZ pocket
(Fig.2b)15ntの相補的なtarget RNA(21nt)を用いた解析では、guide鎖1-16、target鎖2-16がモニターでき、guide鎖の5'リン酸はMid pocketに結合したままであるが、3'側は12-15のらせん構造形成によりPAZ pocketから外れた。(Fig.2c,d,e&movie2)相補的結合が12ntから15ntになったときのcomplexの構造変化。PAZ domainが旋回する。(Fig.2f)またPIWI domainのtargetと接触するloop1(loopからbeta-turn),2の構造も変化し、水素結合によりより安定化する。この変化は12-15の2本鎖が伸長して、PIWIとN domainの間が開き、L1,L2がguide DNAと衝突しないように構造変化を起こし、PAZ domaingが押されて3'端が外れると考えられる。以上の結果から、Agoとguide鎖による認識、targetの切断メカニズムは'two state'modelに合うと考えられる。

N domain blocks guide-target pairing beyond positon 16
(Fig.3b)19ntの相補的なtarget RNA(21nt)では、15ntのものと類似していた。(Fig.3c) N domainにより16ntより先の伸長が阻害され(guide鎖の16はTyr43に、target鎖の16はPro44に固定される)、それぞれ別々の方向に分かれた。

A pair of MG2+ cations mediates cleavage chemistry
(Fig.3e,f)RNase Hによる加水分解は2つのMg2+イオンにより増強される(position A; 核にアタックして水分子を活性化、position B; 転移を安定化)。Ago ternary complexへのMg2+の結合を調べるために、Mg2+存在下での構造を解析した。(Supp Fig.18) Mg2+1個と2個ではPAZ domainとtarget鎖の構造に変化が見られ、2個のときに触媒残基が最適な配置になることがわかった。
Analysis of the catalytic activity of T.thermophilus Ago&Minimal target DNA requirements
酵素活性をDNA target(RNAよりきれいな結果を得られるから)を用いて解析し、target鎖自体の性質を調べた。(Fig.4b)target鎖の長さを5'側から短くすると、切断活性16ntまで短くしても変わらず、15nt以下で活性が急激に低下した。切断には17より先の2本鎖は必要ないことがわかった。(Fig.4c)次に15ntのDNA targetをはじからずらして作成し用いると、4-18までは同等の活性が見られたが、5-19で活性が急激に低下した。切断に1-3は必要ないことがわかった。以上より4-16がペアになっていることが、21nt DNA guideのときに必要であることがわかった。一方guide鎖に関しては、9ntまで短くてもtarget RNAの切断に十分であることを前回報告している(10-16は必要ない?)。9ntのguide DNAは3'端がPAZ domain始めから結合していないことから、Ago ternary complexが切断活性化構造になるには、3'端とPAZとの結合がとれるのが必要で、それ(PAZの旋回によるguide DNAとの結合が外れること)は16ntまでの2本鎖形成により起こる。
Target DNA sugar-phosphate backbone role during cleavage
(Fig.5a)Target DNAの構造と切断活性との関係を調べるために、修飾DNAを用いて解析した。切断リン酸ジエステル結合部の近傍の11の2'-deoxyriboseを2'-OHを2'OMeにすると切断されなくなり、逆に2'-F(negative chargeなので)にすると増強された。(Fig.5b)切断部のリン酸基をO(Mg2+)からS(Mn2+)へ置換すると、Mg2+での切断活性がなくなり、Mg2+と直接連携していると考えられた。Rp型のSはMn2+の添加によりrescueされるが、Sp型はされない。Rp型は構造的に金属イオンAとのみ連携していることから、金属イオンAによる配置はflexibleであると考えれる。
 
 
これまで、Sphingosine 1-phosphate (S1P) の receptor (S1P1-5) を介したsignal 伝達以外のS1P のreceptor 非依存性の細胞内調節(pleiotropic effect) については存在が示唆されていたが、原理不明であった。この paper はこれがS1P のヒストンH3 のアセチル化のレベルを調節することに基づいていることを生化学的に示したものである。
Sphingosine (Sph) にリン酸基をつけてS1P にする酵素には SphK1, SphK2の2種類あるが、SpK1 は主に細胞質に存在するのに対し、SphK2 は核内のクロマチン分画に存在する。

Fig.1 はMCF-7 の核抽出液にSph からS1p を産生する酵素が存在し、SphK2 をtransfection した MCF-7 の核抽出液の活性はSph の-OH 基によるものである(A)。細胞分画から、ヒストンH3 と同じ分画に存在し(B)、免疫沈降実験からヒストンH3 とくっついていること、これはSphK2 の酵素活性に依存せず、SphK2G212E mutant でも結合しうることを示している(C)。
Supplemental Fig. 1C から、SphK2 はヒストンH4, H2B に結合しない、SphK1 はヒストンH3 に結合しないことを示している。

Fig. 2
SphK2 自体の活性として、H3-K9, H4-K5, H2B-K12 のアセチル化を促進していることが挙げられる。H3K14 やH2A には関与しない。SphK2 が産生しうる S1P やDHS1P をMCF-7 抽出液に In vitro で加えても同じ活性が得られる。siRNA でknockdown すると、siSphK1 ではなく、si-SphK2 によってその活性は消失する。なお、SphK1 は細胞質でのS1P 産生に関わっている(D)。SphK2 siRNA でのH3-K9, H2BK12, H4-K5 アセチル化消失はS1P 添加によって回復している。SphK2 のSiRNA をもう一つ3'UTR 側に用意し、同じヒストンアセチル化の抑制効果が認められたが、このsiRNA insensitive なSphK2 transfection によってrescue されている。(Supplemental S2)。多方面からの証明。

Fig. 3
SphK2 あるいはS1P 添加でのヒストンアセチル化誘導において、これらがHAT 活性を上げているのではなく (Supplemental S3)、HDAC 活性の抑制に基づくものであることの証明。HDAC 抑制効果は TSA に匹敵するほど(A and B)、類縁脂質メディエーターLPA では異なり、S1P は HDAC1, HDAC2 に結合する(C)。内因性結合もLC-MS/MS にて証明(D)。Supplemental S4 にてHDAC 阻害活性はHDAC1,2 の発現量減少でなく、活性調節によるものであることを示している。Supplemental S5 にてHDAC family のうち、HDAC1, 2のみにS1P が結合すること。過剰のHDAC1 あるいはHDAC2 結合因子を加えて、Ni-カラムに結合した label-S1Pの遊離実験系でS1P は同じくHDAC inhibitor であるSAHA やTSA と匹敵するほどのAffinity であること、構造的に S1P のHDAC 結合部分は SAHA やTSA のそれと類似していることを示している(Supplemental S6, S7)。

HDAC1, 2は co-repressor complex として Sin3 やNuRD とくっついているが、SphK2 強制発現物はこれらともくっつくことができる(Complex 形成を妨げない)、内因性結合はsiSphK2 にてHDAC1, 2の共沈が減少していることで証明 (Supplemental S8A and B).

外来刺激との連動証明
SphK2 の活性化はcatalytic 部分のリン酸化によって生じる。そのリン酸化を担う PKC の活性化剤 PMA で細胞を刺激すると、5分以内に SphK2 とHDAC1 の共局在量の上昇と有意な S1P 量の一過性上昇が認められる(Supplemental S8C, S9)。
HDAC1, 2の関係する知られた抑制ターゲット遺伝子として、p53非依存的なp21 のpromoter 活性減少がある。MCF-7細胞にSphK2 のsiRNA 処理後、PMA 刺激しても p21 のタンパク、mRNA、レポーター活性化はsi-Control に比べ大きく減少している(Supplemental S10)。
Fig. 4
SphK2 をoverexpression すると、H3-K9 のアセチル化が上昇し、PMA 刺激が加わると、さらに上昇する。逆に siRNA にてSphK2 をknockdownすると、PMA によるH3-K9 アセチル化がなくなる。
P21 と同じ挙動を示す遺伝子としてc-fos 遺伝子もあり、同様なH3-K9 のSphK2 依存的PMA 応答 H3-K9 アセチル化上昇が認められる。

これらのことを踏まえ、E に示すモデルでもって S1P の新たな epigenetics 調節効果を提唱している。


−東京大学、オックスフォード大学研究チームが米国科学アカデミー紀要に発表−

このたび、東京大学先端科学技術研究センター(以下、東大先端研)の和田洋一郎特任研究員、大田佳宏特任研究員、井原茂男特任教授、児玉龍彦教授(システム生物医学分野)らは英オックスフォード大学と連携して、「ヒトの染色体にポリメレースの複合体が結合してRNAが作られてゆく様子をとらえる」ことに成功しました。本成果は、日本時間10月13日(火)午前6時に米国科学アカデミー紀要の電子版に発表されました。

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概要:

遺伝子のDNAの配列を鋳型にRNAポリメレースという酵素によってRNAが作られ、RNAの配列をもとにタンパク質が作られることは、生命の基本原理と考えられています。しかし、ヒトの細胞核内のDNAは、タンパク質の情報をもつ部分が飛び飛びに存在し、しかもDNAがヒストンというタンパク質にまきついて染色体を作るため、DNAからRNAが作られるところを実際に観察するのはこれまで困難でした。ところが最近、ゲノムの解読からヒトの染色体のもつDNAの配列が明らかになり、RNAが作られて行く全体像を解読することが可能となってきています。

東大先端研の和田洋一郎特任研究員、大田佳宏特任研究員、井原茂男特任教授、児玉龍彦教授は英国のオックスフォード大学と連携して、ヒトの血管の細胞が炎症の刺激をうけた後、7.5分おきにRNAが作られて行く様子を染色体上で観察、ポリメレースが3100塩基(約1ミクロン)/分で動き、未熟なRNAが切断されると同時に次々と作られていく過程を観測することに成功しました。

通常DNAはコヒーシンおよびCTCFというタンパク質がともに作用し、束ねられ、ポリメレースは活性化される前からこのコヒーシンで区切られた染色体上の特定の狭い領域に集まっていますが、活性化されるとそこから動きだし、さらに先のコヒーシン(およびCTCF)の部分でスピードダウンしながら進んでいくことを見いだしました。従来ポリメラーゼは確率的に動いたり止まったりすると考えられていましたが、今回コヒーシンがこの動きを制御していることを明らかにしました。

[具体的な成果]

遺伝子の発現の時間依存性を精密に測定し、大量データの詳細な解析から導いた結果に対し、さらに実験で確認するという実験と計算のタイトな連携によって発見につなげました。

1)ポリメレースが作るRNAを短い時間間隔で計測

(特色)背景には空間分解能の高いカスタムのタイリングアレイ、細胞刺激の実験系が整備、それによる高精度精密解析(実験と情報解析)を行った。

  • 長い遺伝子を活用し、数分単位の計測を行った。
  • RNA生成の過程は波のようにみえる。(図1)
    初期の無効応答、転写速度:約1ミクロン/分、切断のメカニズム、一様な流れなどを見出した。
  • 細胞単位での転写実験で確認(オックスフォード大学と共同)。

2)実体としてのポリメレースの解析から新しい発見

  • チップーチップの解析結果からは一様な流れとしてよりも障害物中の流れにみえる。
  • データを詳細に解析することにより、エピジェネティックな相互作用を確認し、コヒーシンがポリメレースの運動の障害物になっていることを新たに発見。
  • コヒーシンをノックダウンした細胞ではポリメレースが障害なしに動くことを実験から確認。(図2)

3)意義

  • 従来の医学生物学と大量情報処理の融合によって、根源的な生命現象の解明が可能になった。
  • 一様な流れの実態:ポリメレースが確率的に変化するというのが従来の扱いだったが、今回、エピジェネティックな効果の一つであるコヒーシンによってポリメレースの運動は細胞の中でメカニカルな形で明示的に制御されていることが明らかになった。
  • 確率的な変化は制御しにくいが、エピゲノム修飾による変化ならば制御することも人為的に可能である。従来とは全く異なる新しい方法、例えば、コヒーシンを制御する薬の開発によって、疾患遺伝子の発現を調節する新しい可能性が示唆される。今後の医薬品開発にとって重要な発見である。

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図1 RNAの転写が遺伝子上を波のようにSAMD4A遺伝子を伝搬していく様子 RNAプローブを遺伝子にしきつめたタイリングアレイで計測し、転写の全体像を得た。


遺伝子の位置を横軸に、手前の軸に時間、上向き軸にRNAの発現の強さを表示。遺伝子はイントロン部分とエクソンの部分からなり、イントロン部分のRNAを赤で、イントロン部分を黄色で示す。イントロン部分のRNAは時間が経つと消滅し、エクソン部分のRNAは時間とともに蓄積されているようにみえる。 刺激直後(start)から(end)まで、RNAの転写が遺伝子上を波のように遺伝子を伝搬していき、安定に転写をする状態になっていく。

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図2 コヒーシンの有無で転写をつかさどるポリメレースの運動が変わる様子 遺伝子上でポリメレースの濃度を測定できる抗体を用い、網羅的にチップーチップ法で検出し、ポリメレースの運動を追跡した。


上の図で、横軸は遺伝子、縦軸はそれぞれの分子の濃度を表す。 刺激後、ポリメレースは遺伝子の位置とその0分、30分、60分と移動していく。 コヒーシンが有るとき、ポリメレースはコヒーシンのあるところで停留し、濃度差が大きくなる。一方、コヒーシンが無いとき、ポリメレースの濃度差は遺伝子全体で平坦になっていくことがみてとれる。

今回の成果によって、ヒトの複雑な染色体上でRNAが作られる様子が詳しく観測できるようになりました。これまでは大腸菌など微生物のモデルをもとにポリメレースがDNA上に動員されると考えられていましたが、ヒトの細胞では、ポリメレースが集まったファクトリーが形成され、そこに沢山の遺伝子が集まってRNAが作られる様子が観察されました。日英の研究チームは、新しい遺伝子制御の基本原理のモデルの樹立に役立ち、特定の遺伝子群でのポリメレースの動きを制御する新しいコンセプトの治療薬開発につながる発見であると考えています。

Youichiro Wada, Yoshihiro Ohta, Meng Xu, Shuichi Tsutsumi, Takashi Minami, Kenji Inoue, Daisuke Komura, Jun'ichi Kitakami, Nobuhiko Oshida, Argyris Papantonis, Akashi Izumi, Mika Kobayashi, Hiroko Meguro, Yasuharu Kanki, Imari Mimura, Kazuki Yamamoto, Chikage Mataki, Takao Hamakubo, Katsuhiko Shirahige, Hiroyuki Aburatani, Hiroshi Kimura, Tatsuhiko Kodama, Peter R. Cook, and Sigeo Ihara
A wave of nascent transcription on activated human genes
PNAS published online before print October 13, 2009

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