2009年10月21日

Regulation of Histone Acetylation in the Nucleus by Sphingosine-1-Phosphate

これまで、Sphingosine 1-phosphate (S1P) の receptor (S1P1-5) を介したsignal 伝達以外のS1P のreceptor 非依存性の細胞内調節(pleiotropic effect) については存在が示唆されていたが、原理不明であった。この paper はこれがS1P のヒストンH3 のアセチル化のレベルを調節することに基づいていることを生化学的に示したものである。
Sphingosine (Sph) にリン酸基をつけてS1P にする酵素には SphK1, SphK2の2種類あるが、SpK1 は主に細胞質に存在するのに対し、SphK2 は核内のクロマチン分画に存在する。

Fig.1 はMCF-7 の核抽出液にSph からS1p を産生する酵素が存在し、SphK2 をtransfection した MCF-7 の核抽出液の活性はSph の-OH 基によるものである(A)。細胞分画から、ヒストンH3 と同じ分画に存在し(B)、免疫沈降実験からヒストンH3 とくっついていること、これはSphK2 の酵素活性に依存せず、SphK2G212E mutant でも結合しうることを示している(C)。
Supplemental Fig. 1C から、SphK2 はヒストンH4, H2B に結合しない、SphK1 はヒストンH3 に結合しないことを示している。

Fig. 2
SphK2 自体の活性として、H3-K9, H4-K5, H2B-K12 のアセチル化を促進していることが挙げられる。H3K14 やH2A には関与しない。SphK2 が産生しうる S1P やDHS1P をMCF-7 抽出液に In vitro で加えても同じ活性が得られる。siRNA でknockdown すると、siSphK1 ではなく、si-SphK2 によってその活性は消失する。なお、SphK1 は細胞質でのS1P 産生に関わっている(D)。SphK2 siRNA でのH3-K9, H2BK12, H4-K5 アセチル化消失はS1P 添加によって回復している。SphK2 のSiRNA をもう一つ3'UTR 側に用意し、同じヒストンアセチル化の抑制効果が認められたが、このsiRNA insensitive なSphK2 transfection によってrescue されている。(Supplemental S2)。多方面からの証明。

Fig. 3
SphK2 あるいはS1P 添加でのヒストンアセチル化誘導において、これらがHAT 活性を上げているのではなく (Supplemental S3)、HDAC 活性の抑制に基づくものであることの証明。HDAC 抑制効果は TSA に匹敵するほど(A and B)、類縁脂質メディエーターLPA では異なり、S1P は HDAC1, HDAC2 に結合する(C)。内因性結合もLC-MS/MS にて証明(D)。Supplemental S4 にてHDAC 阻害活性はHDAC1,2 の発現量減少でなく、活性調節によるものであることを示している。Supplemental S5 にてHDAC family のうち、HDAC1, 2のみにS1P が結合すること。過剰のHDAC1 あるいはHDAC2 結合因子を加えて、Ni-カラムに結合した label-S1Pの遊離実験系でS1P は同じくHDAC inhibitor であるSAHA やTSA と匹敵するほどのAffinity であること、構造的に S1P のHDAC 結合部分は SAHA やTSA のそれと類似していることを示している(Supplemental S6, S7)。

HDAC1, 2は co-repressor complex として Sin3 やNuRD とくっついているが、SphK2 強制発現物はこれらともくっつくことができる(Complex 形成を妨げない)、内因性結合はsiSphK2 にてHDAC1, 2の共沈が減少していることで証明 (Supplemental S8A and B).

外来刺激との連動証明
SphK2 の活性化はcatalytic 部分のリン酸化によって生じる。そのリン酸化を担う PKC の活性化剤 PMA で細胞を刺激すると、5分以内に SphK2 とHDAC1 の共局在量の上昇と有意な S1P 量の一過性上昇が認められる(Supplemental S8C, S9)。
HDAC1, 2の関係する知られた抑制ターゲット遺伝子として、p53非依存的なp21 のpromoter 活性減少がある。MCF-7細胞にSphK2 のsiRNA 処理後、PMA 刺激しても p21 のタンパク、mRNA、レポーター活性化はsi-Control に比べ大きく減少している(Supplemental S10)。
Fig. 4
SphK2 をoverexpression すると、H3-K9 のアセチル化が上昇し、PMA 刺激が加わると、さらに上昇する。逆に siRNA にてSphK2 をknockdownすると、PMA によるH3-K9 アセチル化がなくなる。
P21 と同じ挙動を示す遺伝子としてc-fos 遺伝子もあり、同様なH3-K9 のSphK2 依存的PMA 応答 H3-K9 アセチル化上昇が認められる。

これらのことを踏まえ、E に示すモデルでもって S1P の新たな epigenetics 調節効果を提唱している。