2010年12月 1日

内在性HNF4αのアイソフォーム・リン酸化・複合体をプロテオミクス解析で一挙に同定

分子生物医学では、Hepatocyte nuclear factor 4α(HNF4α)の転写調節機構に重要なHNF4αのアイソフォーム・リン酸化状態、及び複合体を内在性HNF4αからプロテオミクス解析で同定し、そ の結果をThe journal of biological chemistryに報告しました。

HNF4αは主に肝臓で機能する核内受容体で、肝臓の分化・恒常性維持に関係する遺伝子の転写調節を担っています。HNF4αの機能はアイソフォー ム・リン酸化状態、及び結合する複合体により変化するため、機能解析のためにはそれらの同定が必要ですが、内在性HNF4αの細胞内存在量は微量なため、 その解析は技術的に困難でした。

今回私達は当研究室で樹立した特異性・親和性の高いモノクローナル抗体と、JSR株式会社が 開発した高機能磁性粒子(2011年発売予定)を組み合わせることで、微量な内在性HNF4αと複合体を少量のサンプルから簡便かつ高効率に精製する手法 を確立することに成功しました。さらに上記手法で精製したものからショットガンプロテオミクス解析でアイソフォーム・リン酸化を、ラベルフリーセミ定量プ ロテオミクス解析で複合体タンパク質の定量値をそれぞれ同定することに成功しました。

プロテオミクス解析から、内在性HNF4αが

  1. 異なるアイソフォームの複合体を形成していること
  2. 既知の部位に加えて新たなリン酸化部位を持つこと
  3. ヒストン修飾・mRNAスプライシング・クロマチンリモデリング等の機能を持つ多数の複合体と結合していること

を示す結果となりました。

さらにホモ2量体を形成していると考えられているHNF4αが、一部Hepatocyte nuclear factor 4γ(HNF4γ)とヘテロ2量体を形成していることが示唆されるデータを見出し、生化学的・分子生物学的・ゲノムワイドな解析を用いて実際にヘテロ2量 体で転写を活性化出来ることを明らかにしました。

今回の報告から、HNF4αの転写調節機構はそれぞれの因子が密接に影響しあって成り立っていることが強く示唆される結果となりました。さらに本解析手法は他の内在性タンパクにも応用可能であると考えられます。

Daigo K, Kawamura T, Ohta Y, Ohashi R, Katayose S, Tanaka T, Aburatani H, Naito M, Kodama T, Ihara S, Hamakubo T.
Proteomic Analysis of Native Hepatocyte Nuclear Factor-4{alpha} (HNF4{alpha}) Isoforms, Phosphorylation Status, and Interactive Cofactors.
J Biol Chem. 2011 Jan 7;286(1):674-86. Epub 2010 Nov 3.
PubMed PMID: 21047794.

内在性HNF4α複合体のイメージ公開

本研究におけるプロテオミクス・ゲノミクスの大規模解析はダイナミカルバイオインフォマティクス分野の大田佳宏特任研究員、井原茂男特任教授が中心となって進められました。 今回彼らによってプロテオミクス解析で得られたデータから内在性HNF4α複合体のイメージが作成されましたので公開いたします。

このイメージは、複合体構成タンパクは幾つもの複合体を横断的に形成し、あたかも"cycling chain"の様に動的に結びついている状態を表しています。中心分子(黄色)はHNF4αの結晶構造です。