2009年9月30日

Protein methyltransferases as a target class for drug discovery

Protein methyltransferases as a target class for drug discovery
Nat. Rev. Drug Discov. 2009 (9) 724-732

Introduction
・同じゲノムを持つ細胞が分化するには、特定の遺伝子の転写調節が必要であり、この転写調節に関与するエピジェネティックな調節が細胞分化の決定のキーである。
・ヒストンとクロマチンの説明。(Fig1)
・遺伝子発現におけるエピジェネティックな制御・・・DNAのメチル化とヒストンの修飾
→DNAやヒストンの修飾因子が転写調節におけるエピジェネティックな制御のmediator
・多くの修飾酵素が同定され、活性のメカニズムや三次元構造がとられた。(Ref2,3)
DNMTs, PMTs, protein demethylases, HATs, HDACs, ubiquitin ligases, kinases
・HDACsやDNMTsには小分子の阻害剤がある。(Table1; 5-azacitidine, Decitabine, Vorinostat)他の修飾酵素でも阻害剤が作れるのでは?

PKMTs and PRMTs in human disease
・PKMTやPRMTは癌、炎症、神経変成疾患などに関与する。
・DOT1L以外のPKMTは130aaのSET domain(酵素の活性中心)を持つ。
・EZH2の活性には、PRC2の全構成因子が必要
・EZH2 or SUZ12の発現亢進・・・前立腺、乳、膀胱、大腸、皮膚、肝、子宮、肺、胃癌、リンパ腫、ミエローマ
・そのほかは(Table2)
・癌以外では、SETDB1がハンチントン病、PRMT4(CARM1)がmuscular atrophy
・SETD7、PRMT4、PRMT1は、NF-κB関連の炎症。
・SETD1Aはヘルペスウイルス、PRMT4はT lymphotrophicウイルスの感染に関与。

PMTs as a drug target class
・PKMTとPRMTには小分子の関与する共通の触媒反応メカニズムがある。(kinaseのように)
・PKMTsとPRMTsはSAMをメチル基のドナーとして、lysineやarginineの窒素原子にメチル基を付加する。(Fig.2)
・どのリジンに何個のメチル基を付加するか、という意味で基質特異的である。
・しかし、化学的なメカニズムの共通性から、一つのクラスとしてまとめて標的にすることで、効率的かつ経済的に薬剤の探索が可能であると考えられる。
・細胞質のタンパク質をメチル化する酵素もある。

Representation of PMTs in the human genome
・PMTの数を数えて、それぞれの関係性を理解するには、共通するSETドメインでアラインメントに注目する必要がある。
・2007年のCellでは24個のPKMTsが同定された。 (Ref29)
・これらは現在は7つのファミリーに分けられている。
SUV39、MLL、SET2(NSD)、RIZ(PRDM)、SMYD、EZH、SUV420、ファミリー以外としてothers(SETD7,8)、DOT1L
・52個のPKMTがヒトゲノムに存在するのではないか。(unpublished)現在HPRDには46個のSETタンパク質が登録されている。
・PRMTは8個が活性を確認されている。これらの間のアミノ酸の保存性は低い。GENEにはPRMT1~10、ただし4と9は欠番。
・10-50個のPRMTsが存在すると予測されている。
・PMT target classは創薬標的の探索において重要なpoolである。

The PMT active site
・触媒作用のメカニズムは共通である。
・どの酵素も二分子求核置換反応によるメチル基の転移を利用している。
・窒素原子の非共有電子対が求電子性のmethylsulphonic cationをアタックし、5価のcoordinate carbon transition stateを形成する。遷移状態は崩壊して、メチル基は窒素原子へ再配置され、SAHが産物として生成する。(Fig2)
・自然に発生するadenosyl analogueを共通の遷移状態ドナーとして使うことは、キナーゼの場合と類似している。
・SAMを使用するという共通性のために、構造的、生物学的、病理生物学的多様性が正しく伝えられていない。創薬や医薬品化学の観点から、SAM結合様式と触媒メカニズムが重要なキーである。
・PKMTとPRMTに共通の構造は、SAMとリジンorアルギニンが、それぞれ酵素表面の逆側から活性中心に入る、という構造である。
・結晶の研究から、SAMとSAHに対する2つの異なる結合様式がある。(Fig3、Ref24)
①    SETドメインは、活性サイトがU字の構造を取り、SAMのmethylsulfonium cationがbaseのnarrow lysine channelに並ぶ。U字構造はリボースのhydroxyグループに結合するアスパラギン酸やグルタミン酸と、カルボン酸塩と塩橋を形成するリジンやアルギニン残基によって誘導される。
②    一方、PRMTではextended構造を取る。この場合も、底のacceptor-binding channelにmethylsulfonium cationが並ぶようになる。PRMTはダイマー形成がSAM結合や触媒作用に重要。→アルギニン残基への複数のメチル基転移に関与?
・DOT1Lはextended構造のSAMと結合する。
・選択的な薬剤の発見と至適化には結晶解析から得られる静的な構造だけでなく、動的な構造も考慮する必要がある。
・モノメチル化酵素とmultiメチル化酵素の違いは、酵素のリジン結合channelにおける立体充填(steric crowding)や水素結合パターンの度合いによると示唆されている。特にリジン結合ポケットの芳香族残基が重要な決定要因だと考えられる。
・トリメチル化酵素DIM5はこのアミノ酸がフェニルアラニン、モノメチル化酵素SETD7はチロシン。FとYを入れ替えると、酵素活性が変わる。(tyrosine-phenylalanine switch)
結合水分子の重要性も示唆されている。(Ref24)
・生理学的なpHではリジンのアミンはプロトンが付加されており、非共有電子対を持たない。分子動力学的なシミュレーションの結果、SAMとタンパク質基質の結合によって"water shuttle"が形成され、リジンからプロトンが外れる、というモデルが提唱された。"water shuttle"を形成する能力がメチル化の程度を規定すると示唆された。
・複数のメチル基を転移する酵素では、基質と結合した後、連続的に反応が起こるもの(processive mechanism)と、1反応ごとに結合と乖離を繰り返すもの(distributive mechanism)がある。
・PRMTはprocessive mechanismでジメチルアルギニンを生成するが、非対称のジメチルを触媒するタイプI PRMTと、対称のジメチルを触媒するタイプII PRMTがある。
・活性サイトの構造や化学反応メカニズムの多様性により、それぞれの酵素特異的な小分子modulatorが存在すると考えられる。

Known inhibitors of PMTs
・これまでにいくつかの間接的な阻害剤が報告されている。
・DZNepはSAH hydrolaseを阻害することで、SAHの蓄積を促し、全てのPMTやSAMを基質とする酵素を阻害する。
・SAMの生合成に関わるdihydrofolate reductaseやSAM synthaseを阻害することでも酵素活性を抑制することができる。
・広範なHDAC阻害剤である、panobinostatがEZH2を欠乏させる事が示された。
・直接的な阻害剤も報告されており、SAHやsinefungin(Streptomyces菌の培養由来)などがある。(Table3)
・より選択的な阻害剤として、SUV39に対するchaetocinやEHMT2に対するBIX-01294が報告されている。
・PRMTに対して選択的な、pyrazoleベースの阻害剤も報告されている。初のnMオーダーのPMT阻害剤である。


Conclusion
・小分子の阻害剤を用いてPMTを制御することは、癌を初めとする病気の治療に大きな意義を持つ。また、これらの酵素によるタンパク質修飾を研究する上でも利用できる。
・PMTの触媒作用を理解することで、メカニズムや構造ベースのリガンド探索が促進すると考えられる。
・PMTsを創薬標的として考える上で残された課題は、SAM結合ポケットをターゲットとする時に、特定の酵素を選択的に阻害できるか、ということである。
・ATP結合ポケットを標的とするキナーゼ阻害剤では十分に特異性を出すことができる。→これがPMTの場合にも当てはまるのか?
・今後の解析が必要であるが、選択的なPMT阻害剤の探索が進むことが望まれる。