2009年9月 8日

Mass spectrometry identifies and quantifies 74 unique histone H4 isoforms in differentiating human embryonic stem cells

川村

Mass spectrometry identifies and quantifies 74 unique histone H4 isoforms in differentiating human embryonic stem cells


クロマチンのエピジェネティックな制御は多能性の樹立と維持に重要な役割を果たしていると考えられている。これまでヒストンテールの翻訳後修飾特異的抗体ベースの解析が行われてきたが、それでは複数の修飾部位(combination code)の解析は出来無い。この論文ではクロマトグラフィーとマススペクトリメトリーベースでヒストン修飾パターンの同定と定量を行い、ヒトES細胞のヒストンH4の74種の修飾パターンを検出した。またES細胞分化の際の修飾パターンの変化の定量も行った。その結果H4R3meはH4K20me2が存在するときにしか観察されないことなどを明らかにした。

未処理のES細胞ではK5,8,12,16アセチル化された転写活性化状態の物が多く抑制状態のK20ジメチルが少ない。分化に従ってメチル化とアセチル化のパターンは繊維芽細胞と似てくる。K20のメチル化状態は分化と関連がありそうだがこれまでの研究で細胞周期依存との報告もある。今回の結果でもTPA刺激後80時間でほとんどの細胞がG1期にある。メチル化の変化がどちらかもしくは両方により物かを決めるのは現状では難しい。
H4テールの修飾の組み合わせは理論的には約300万種類になる。今回の解析では74種を検出しただけだが、K20ジメチルが存在するときしかR3のモノ-, ジ-メチルが観察されないことなどを発見した。R3me1は転写活性化と関連しているのに対しK20のメチル化は不活性化とリンクしていることが報告されている。これはH3K4 とK27の関係に似ている。さらにヒストンのアセチル化はN末のアセチルかが無いと起こらないことも見出した。
今回の手法は他のコアヒストンの解析や他の多様な修飾を含むタンパクの解析に用いることが出来る。

nanoFlow HPLC
orbitrap Mass spectrometry
Linear ion trap Mass spectrometry
Electron transfer dissociation (ETD)
Collision induce dissociation (CID)

図1. ヒストンH4テールの解析。AspN消化により得られるヒストンの1-23aaの解析。A: 修飾の違いによるHPLCでの分離。B: 高分解能・高精度MSによる5アセチルフラクションの解析。C: ETD-MS/MSによる5アセチル、2メチルに相当するピークの解析。

図2. ヒト ES細胞74(75?)種のヒストンH4のconminational code map

図3. アイソフォームの定量。A: 2-5アセチル合成ペプチドを用いた定量性の確認。1:100までは直進性が得られる。B: アセチル化部位の異なる修飾数の同じ合成ペプチドを用いた定量性の確認。

SI図4 ESのTPA刺激による分化。A,B:細胞形態変化。C:oct4の発現細胞の変化。

SI図5 分化によるメチル化率の変化
TPA処理によりme0が減少しme2が増加する。ETD解析によりK20 がターゲットであることが示された。 (全体の傾向としてK5,8,12,16アセチルが減りK20me2が増加する。)

SI図6 同一フラクション中の修飾部位異性体の定量。A: orbitapでの精密質量決定による修飾数の決定。 B: EDTによるMS/MSフラグメントスペクトルから得られる多元一次方程式を用いた修飾部位異性体の定量。

SI図7 R3のメチル化はK20me2の時にしか起こらない。A: R3,K20未修飾。B: K20me C: K20me2, D: R3me+K20me2

SI図8 TPA刺激による細胞周期の変化。ほとんどの細胞がG1基に移行する。