2009年9月 8日

Linking DNA methylation and histone modification: patterns and paradigms

担当 砂河
Linking DNA methylation and histone modification: patterns and paradigms

Generating modification patterns
1.    Generation of the basal bimodal DNA methylation pattern.
ゲノム上のほとんどのCpGはメチル化している。ただし、CpGアイランドを除く。DNAメチル化は、発生の初期に消される時期が2度ある。→受精後すぐの時期、始原生殖細胞形成(PGC)の初期。ただし、前者は、インプリンティングやIAPなどのリピート配列は除く。脱メチル化からの防御機構としてStellaと言う遺伝子が知られているが詳細なメカニズムは不明。
Fig1. bimodal methylationの形成メカニズム
生殖細胞に於いてde novo DNAメチル化は、Dnmt3lを介してヒストンに結合することで起こる。H3K4のメチル化(me1-3)は、このDnmt3lのヒストンへの結合を阻害する。LSD1(KDM1B)のKOマウスでは、Oocyteで確立するMaternal Imprinting領域のメチル化に異常(ZP3-loxによるOocyte特異的KO)。PEGにおけるMaternalアリルのメチル化には、H3k4meの除去が必要。H3K4のメチル化は、DNAメチル化に対する防御機構?体細胞においてもヒストンH3K4のメチル化とDNAのメチル化は逆相関。
2.    Targeted de novo methylation in early development.
初期発生における多能性関連遺伝子におけるDNAメチル化は、原腸形成(3胚葉形成時)に際して生じる(多能性の消失時期に一致)。
Fig.2 多能性遺伝子の発現抑制
多能性関連遺伝子のメチル化は、多段階の過程を経て起こる。
①    プロモーター領域へのG9a、HDAC及びH3K4脱メチル化酵素を含む複合体のリクルートとそれに伴う、アセチル化の除去及びH3K9へのメチル化の導入。
②    H3K9のメチル化へのHP1の結合と局所的ヘテロクロマチン化の誘導。
③    G9aを含む複合体によるDnmt3a/bのリクルートに伴うDNAのメチル化
その他のDNAメチル化とヒストン修飾因子による制御機構
Pericentromeric satellite sequenceにおけるヘテロクロマチン化
関連するヒストン修飾酵素:SUV39H1/2
ヒストン修飾部位:H3K9me3
HP1によるDnmt3bのリクルートを介したDNAメチル化
Pericentromeric satellite sequenceへのSUV39H1/2のリクルートは、siRNA経路による制御が示唆されている。→RISCのKOによるH3K9me3シグナルの減弱。
3.    Effect of DNA methylation on histone modification.
DNAメチル化によるヒストン修飾への作用を示唆する報告
    メチルシトシン結合タンパク(MBD2やMeCP2など)によって仲介される。MBD2、MeCP2 : HDACのリクルート
    Dnmt1による複製フォークへのG9aのリクルート。エピジェネティックな修飾の維持。
    DNAのメチル化は、H3K4のメチル化を抑制する。植物(Arabidopsis thaliana)ではH2AZをヌクレオソームからの排除に関与
DNAのメチル化は、複製のたびに壊されるヘテロクロマチン構造を再構成するためのマーカーとしての役割?
4.    Interrelationships through enzyme interactions.
酵素間相互作用を介したヒストン修飾とDNAメチル化の関係。Dnmtは、抑制性ヒストン修飾を誘導する酵素と相互作用する(G9a、SUVH1/2、SETDB1、EZH2など)。
これらの結合は、各酵素の触媒領域(SET domain)を介さない(Fig.3)。G9aであれば、Ankyrin repeatを介して結合。ヒストン修飾酵素の活性は、Dnmtとの結合に影響しない。
同様の制御は、植物でも存在。A. thalianaでのSUVH4 (KRYPTONITE) 。ヒストン修飾酵素ではないがHP1は、N.crassaでのDNAメチル化に必須。
Paradigms of repression
ゲノムの大半は閉じたクロマチン構造をとっている。→クロマチン構造が開くことが配列依存的な転写因子の受け入れを可能とする。ヘテロクロマチン構造の形成と維持のメカニズムの解明が重要。
2つの遺伝子発現抑制機構
    DNAのメチル化とそれに続くヘテロクロマチン化による抑制機構
    特異的DNA配列を認識するクロマチン制御因子を介した抑制機構
1.    Polycomb targets and DNA methylation.
Polycombによる遺伝子発現抑制の特徴は、可逆的な抑制であること。Polycombの標的遺伝子の多くは、CpGアイランドを持ったプロモーターを持ち、発生を通じて非メチル化状態が維持されている。多くの標的遺伝子は、発生分化の制御遺伝子(Sox, Paxなど)を含む。InvitroでEZH2とDnmt3a/bの結合すること、ESから神経細胞への分化の過程で一部のPolycombの標的遺伝子がメチル化することからPolycombによるDNAのメチル化仲介が考えられているがその重要性についてははっきりとしない。(Mohn, F. et al. Mol. Cell 30, 755-766 (2008), Meissner, A. et al. Nature 454, 766-770 (2008).)
2.    X inactivation.
FemaleのX染色体の一方は、発生の初期に不活化される。遺伝子量補償と呼ばれる現象で一方の染色体がDNAメチル化やヒストン修飾により恒常的ヘテロクロマチン構造をとる。なお、哺乳類では、栄養外胚葉においては父方X染色体が不活化を受け、将来胚本体を形成するEpiblastでは、ランダムに一方のアリルに不活化が起こる。前者は、DNAのメチル化を介さず、H3K27により不活化。後者は、H3K27me3のspreadによるX染色体の不活化とそれに続いて着床後の不活化XにはDNAメチル化が生じる。ヒトやマウスを含む有胎盤類に比べオポッサムやカモノハシなどの有袋類のX染色体の不活化にはDNAのメチル化が起こらずその不活化は不安定。→X染色体の不活化に伴うDNAのメチル化は、不活化状態の安定化に寄与。
3.    Pluripotency genes.
ES細胞からの分化に伴う多能性遺伝子の抑制は、H3K9のメチル化に続くDNAのメチル化を介した恒常的ヘテロクロマチン化の形成により行われ、分化細胞のリプログラミング化を防ぐメカニズムと考えられている。その過程は、3つの段階からなり、ヒストン修飾とDNAメチル化の連続反応からなる。
①    分化誘導に伴うプロモーター領域への抑制因子のリクルート
②    G9aを含む複合体による脱アセチル化とH3K9のメチル化によるヘテロクロマチン化
③    G9aを含む複合体を介したプロモーター領域へのDnmt3のリクルートによるDNAのメチル化による不可逆的なヘテロクロマチンへの移行。
Somatic cell reprogramming
体細胞から多能性細胞へのリプログラミングは、多能性遺伝子のプロモーター領域の抑制状態から活性化状態への段階的な切り替わりによって起こる。リプログラミングの初期の段階で不活化ヒストン修飾の除去が誘導され、その後、DNAのメチル化の低下が起こる(Fig. 4)。G9a、ヒストン脱アセチル化酵素およびDNAメチル化酵素阻害剤は、リプログラミング効率を上昇させる。→始原生殖細胞の形成時や受精直後の過程に起こっているリプログラムを模倣?
安定的なエピジェネティックな修飾が細胞種特異的表現系の安定的維持に重要。
DNA methylation in cancer
癌において、正常細胞で非メチル化状態が維持されているCpGアイランドの多くが異常メチル化。メチル化遺伝子の大半(>90%)は、癌抑制遺伝子ではなく、正常細胞で発現していない遺伝子。正常細胞におけるpolycombの標的遺伝子。
EZH2によるDnmtのリクルートの可能性→癌におけるEZH2とDnmtの発現量の不均衡の結果?
癌細胞において正常細胞におけるpolycombの標的遺伝子上のH3K27me3は、DNAメチル化に置き換わっている(Fig.5)。→DNAメチル化による恒常的遺伝子発現抑制による遺伝子発現の可塑性の低下。
Future direction
ある種のヒストン修飾は、DNAメチル化に関与する。この関係は、SETドメインを持ったヒストンメチル化酵素とDnmtとの相互作用による。今後の課題として以下の点があげられる。
    DNAメチル化パターンがどのようにしてヒストン修飾のパターンに翻訳されるのか?
    メチルシトシン結合タンパクによるヒストンアセチル化に続くH3K4およびH3K9のメチル化制御にかかわる因子の同定
    Dnmtと相互作用するヒストン修飾酵素によるDNAメチル化誘導のメカニズム。ヒストン修飾からDNAメチル化へのスイッチング機構の解明。
    組織特異的クロマチン構造の誘導による組織特異的遺伝子発現にかかわる因子の同定とその制御
    DNA脱メチル化のメカニズムの解明
    複製に伴うエピジェネティック情報の伝達機構の解明