2009年5月26日

Histone modification at human enhancers reflect global cell-type-specific gene expression

Histone modification at human enhancers reflect global cell-type-specific gene expression

Heintzman ND, Hon GC, Hawkins RD, Kheradpour P, Stark A, Harp LF, Ye Z, Lee LK, Stuart RK, Ching CW, Ching KA, Antosiewicz-Bourget JE, Liu H, Zhang X, Green RD, Lobanenkov VV, Stewart R, Thomson JA, Crawford GE, Kellis M, Ren B.

Ludwig Institute for Cancer Research, UCSD School of Medicine, 9500 Gilman Drive, La Jolla, California 92093-0653, USA.

【概要】

ヒトの体は限られた機能を持つ、様々な細胞によって構成されている。系統特異性は、プロモーターやエンハンサー、インシュレーターや他のcis-制御DNA配列によって誘導される細胞特異的な遺伝子制御であると知られているが、細胞特異性における、これらの制御因子の相互的な役割はまだ明らかになっていない。私達は以前、ヒトゲノムのプロモーター、エンハンサー、インシュレーターの位置を特定するため、ChIP-chipシステムを発展させてきた。今回、私達は同様の手法を用い、様々な細胞種におけるこれらの制御因子を特定し、その細胞種特異的な遺伝子発現における役割を調べた。その結果、プロモーターやインシュレーターのCTCF結合のクロマチン状態は細胞種に関わらず変化がないことが観察された。一方、エンハンサーにおいては、細胞主特異的なヒストン修飾パターンが観察され、細胞種特異的な遺伝子発現との強い相関が見られ、機能的にも活性があることが示された。今回の結果は、ヒトゲノム上の55000以上の潜在的な転写エンハンサーを規定し、ヒトのエンハンサーについての現在の知見を広げただけでなく、細胞種特異的な遺伝子発現のけるこれらの要素の働きを明らかにした。

【実験方法】 ChIP-chip (H3K4me1, H3K4me3, H3K27ac)

【細胞】5種類の細胞  Hela; immortalized lymphoblast GM06690 (GM); leukaemia K562; embryonic stem cells (ES); BMP4-induced ES cells (dE)

1. プロモーター、インシュレーター、エンハンサーのヒストン修飾パターン

  • 414か所のプロモーター領域の±5kbの領域についてヒストン修飾を見ると、細胞種に関わらず、大体同じようなパターンであることが観察される。(Fig.1 (a))
  • CTCFの結合からインシュレーターを特定し、5つの細胞種間で比較したところ、ほとんど細胞種間での違いはなく、同様のパターンが観察された。
  • p300の結合部位からエンハンサーを探し出した所、細胞種特異的なパターンが観察された。
  • ヒストン修飾(H3K4me1、H3K4me3)によるエンハンサー予測についても同様に、細胞種特異的なパターンが観察された。(Fig.1(b))

2. ゲノムワイドなエンハンサー予測

  • HeLa細胞におけるH3K4me1、H3K4me3データから36589か所のエンハンサーサイトを予測した。(Fig.2(a))
  • この予測エンハンサーの中には、既に報告のある、β-globin HS2、PAX6、PLATのエンハンサーも含まれていた。(Fig.2(b))
  • これらのエンハンサーの位置を調べると、56.3%がintergenicな遠位なものであった。(Fig.2(c))
  • 予測エンハンサーの中から9か所を選び、luciferase assayにより転写活性を調べると、ランダムに選択したものに比べ、高確率でエンハンサーとしての活性が確認された。(Fig.2(e))
  • 予測されたエンハンサーは、intergenic regionやプロモーターサイトに比べ、保存性が高かった。
  • エンハンサー領域で濃縮されているmotifの検索を行ったところ、41のモチーフが明らかになり、そのうち19個は転写因子モチーフとして知られているものであり、22個は新規のものであった。これらの保存性は7から22%と、有意に高かった。41個のうち、90%以上はエンハンサー特異的なものであり、4個はプロモーターでも濃縮されているが、12個はプロモーターでは減少していた。

3. HeLaでのエンハンサー予測と細胞種特異的な遺伝子発現の相関

  • 予測されたエンハンサーはHeLaで特異的に発言している遺伝子の近く、特にプロモーターから200kb以内に多く存在した。(Fig.3(a))
  • K562において予測されたエンハンサー24566か所について、HeLaで予測されたエンハンサーと比較すると、ほとんどの部分で細胞特異的であった。(Fig.3(b))しかし、遺伝子発現を比較すると、ほとんど共通の遺伝子が発現していることがわかった。(Fig.3(c))
  • HeLa特異的に発現している遺伝子はHeLaのエンハンサーの近傍に多く存在しているが、K562エンハンサーの近傍では少ない。(Fig.3(e))
  • レポーターアッセイで確認をしてみると、K562で予測された9個のエンハンサーのうち、HeLaでもエンハンサー活性をもっていたのは2つだけであった。

4. エンハンサーと遺伝子発現誘導

  • HeLaで予測されたエンハンサーと、様々な細胞における転写因子の結合サイトの比較を行った。その結果、21.4%から32.6%という有意な割合で転写因子の結合サイトとHeLaでのエンハンサーが重なった。(Fig.4(a))
  • HeLaにinterferon-γを添加した際に誘導される発現遺伝子のエンハンサーの機能について調べた。1969か所のSTAT1結合部位のうち、429か所は誘導前のエンハンサーサイトと重なり(group I)、1260か所はH3K4me1は見られたなかった(group II)。(Fig.4(b))
  • H3K4me1が入っているSTAT1結合部位の近傍の遺伝子(group I)の方が、H3K4me1が入っていないSTAT1結合部位の近傍の遺伝子(group II)に比べ、遺伝子発現の割合が高いことが確認された。(fig.4(c))

(岡部)