2009年5月26日

A Role of DNA-PK for the Metabolic Gene Regulation in Response to Insulin

A Role of DNA-PK for the Metabolic Gene Regulation in Response to Insulin

Roger H.F. Wong,1,2 Inhwan Chang,1 Carolyn S.S. Hudak,1 Suzanne Hyun,1 Hiu-Yee Kwan,1 and Hei Sook Sul1,2,*

1Department of Nutritional Science and Toxicology

2Comparative Biochemistry Program

University of California, Berkeley, Berkeley, CA 94720, USA

Cell 136, 1056-1072, March 20, 2009

 

脂肪酸合成酵素(FAS)は脂肪合成の中心的な酵素であり、摂食およびインスリンシグナルによって転写活性化される。転写因子のUSFはFAS遺伝子の転写活性化に必須で、本論文において摂食に応答してDNA-PKがPP1によって脱リン酸化され、USFがDNA-PKによってリン酸化されることが引き金となってスイッチ様のメカニズムが生じることを報告しています。絶食下では、USF-1はHDAC9によって脱アセチル化されており、プロモーターの不活性化を引き起こしている。対照的に、摂食によってUSF-1へのDNA-PKのリクルートメントが誘導されてリン酸化され、それによってP/CAFがリクルートされた結果としてUSF-1がアセチル化されてFASプロモーターが活性化される。USFに結合しているDNA切断/修復コンポーネントによってFASの活性化時に一過性にDNA切断が誘導される。DNA-PKが欠損しているSCIDマウスでは、摂食誘導性のUSF-1のリン酸化/アセチル化、DNA切断、およびFAS活性化による脂肪合成が障害されており、結果としてトリグリセライドレベルが低下している。これらの結果は、DNA損傷反応の中心的なキナーゼが代謝遺伝子の活性化に寄与していることを示している。

 

図1 USF-1結合タンパクの精製

(A) 左から、USF-1結合タンパクリスト。USF-1溶出生成物のSDS-PAGE(銀染)。TAP溶出物のイムノブロット。293細胞をUSF-1モノクローナル抗体にて免沈後のイムノブロット。293F細胞からのTAP溶出物のイムノブロット。(B) RT-PCRによる発現チェック。(C) USF-1結合タンパク質の-444 FAS-CATプロモーター領域のChIP(FAS-CAT promoterトランスジェニックマウス)およびmGPATプロモーター領域のChIP(野生型マウス)。(D) 定量的real-time PCRによる肝臓におけるFASおよびGPATの絶食および摂食時の遺伝子発現変動。(E) FLAG-tag USF-1を過剰発現させたHepG2からの免沈イムノブロット。(F) -444(-65m) FAS-CAT promoter過剰発現マウスの肝臓を用いたChIP。USF-1のsiRNAによるノックダウンを行ったHepG2細胞でのChIP。(G) -444 FAS-CATプロモーターおよび-444 (-150m) FAS-CATプロモータートランスジェニックマウスの肝臓を用いたUSF-1結合タンパク質のChIP。(H) -444 FAS-CATのDNA切断、内在性FASプロモーターの切断、DNA-PKおよびTopoIIbのChIP解析。

 

図2 摂食誘導性のUSF-1のS262リン酸化およびK237アセチル化

(A) USF-1免沈サンプルの抗S262リン酸化USF-1抗体を用いたイムノブロット。(B) -444 FAS-CATプロモーターの抗S262リン酸化USF-1抗体を用いたChIP。(C) 野生型USF-1およびS262変異体を過剰発現させた293FT細胞でのChIP、FASプロモーター活性、およびFASタンパク発現量。(D) USF-1免沈サンプルの抗K237アセチル化USF-1抗体を用いたイムノブロット。(E) -444 FAS-CATプロモーターのK237アセチル化USF-1抗体を用いたChIP。(F) 野生型USF-1およびK237変異体を過剰発現させた293FT細胞でのChIP、FASプロモーター活性、およびFASタンパク発現量。

 

図3 摂食誘導性のUSF-1リン酸化は摂食時に脱リン酸化/活性化されたDNA-PKを介している

(A) USF-1とDNA-PKをインキュベートするとS262がリン酸化される。(B) USF-1とともにDNA-PKおよびkinase-deadのT3950Dを過剰発現させた細胞からUSF-1を免沈して抗P262リン酸化USF-1抗体にてイムノブロット。USF-1とT3950A DNA-PKを過剰発現させた細胞からUSF-1を免沈して抗P262リン酸化USF-1抗体にてイムノブロット。野生型あるいはS262A USF-1とDNA-PKとを過剰発現させた細胞からUSF-1を免沈して抗P262リン酸化USF-1抗体にてイムノブロット。(C) DNA-PKのsiRNAによるノックダウンのUSF-1リン酸化に及ぼす影響。FASプロモーター活性に及ぼすDNA-PKのsiRNAによるノックダウンの影響。(D) 絶食および摂食マウス肝臓中のp53ペプチドを用いたDNA-PK活性測定。(E) 絶食および摂食時のDNA-PKのリン酸化状態。(F) DNA-PKおよびUSF-1のリン酸化に及ぼすオカダ酸およびタウトマイシンの効果。(G) USF-1のリン酸化に及ぼすPP1のsiRNAによるノックダウンの効果。(H) PP1は摂食時またはインスリン刺激時に核に移行する。

 

図4 USF-1のK237はP/CAFによってアセチル化され、HDAC9によって脱アセチル化される

(A) USF-1抗体による免沈サンプルのイムノブロット。USF-1はP/CAFによってアセチル化される。USF-1はP/CAFとAcetyl CoAの存在下でアセチル化される。(B) 野生型USF-1はアセチル化されるが、K237A変異体はアセチル化されない。抗アセチル237K抗体を用いた検討結果より、USF-1はK237がアセチル化される。K246R変異体は野生型と同様にアセチル化される。(C) HDAC9によってアセチル化されたUSF-1の脱アセチル化が生じる。(D) GST pull-downアッセイ。(E) -444 FAS-CATプロモーター活性に及ぼすHDAC9の影響。(F) -444 FAS-CATプロモーター活性をP/CAFが増加させ、HDAC9が低下させる。

 

図5 摂食/インスリン誘導性のUSF-1のリン酸化およびアセチル化はDNA-PKの欠損によって顕著に低下する

(A) USF-1とDNA-PKとのコトランスフェクションによってS262のリン酸化のみならず、K237のアセチル化が増加する。(B) K237のアセチル化はオカダ酸処理によって減少する。PP1 siRNAによるノックダウンによりS262のリン酸化およびK237のアセチル化がほとんど消失する。(C) K237アセチル化に及ぼす野生型およびS262変異体の影響。S262Aでアセチル化が低下し、hyperphosphorylationをmimicするS262Dでアセチル化が増加。(D) HepG2細胞からの過剰発現USF-1の免沈イムノブロット。S262DとP/CAFとが、S262AとHDAC9とがより共沈している。P/CAF, HDAC9, SREBP1の発現レベルは両細胞で同等(下:イムノブロット)。(E) HepG2細胞のインスリン刺激によるUSF-1のS262のリン酸化およびK237のアセチル化に及ぼすDNA-PKのsiRNAによるノックダウンの影響。DNA-PKをノックダウンするとS262のリン酸化およびK237のアセチル化がほとんど認められない。(F) DNA-PKcsが欠損しているglioblastoma cell line M059JとDNA-PKを有する関連株M059K細胞におけるインスリン刺激によるUSF-1のリン酸化およびアセチル化に及ぼす影響。(G) M059JおよびM059K細胞でのUSF-1相互作用タンパクのChIP。インスリン非存在下では、両細胞ともHDAC9がリクルートされているが、インスリン刺激時においてはDNA-PKが欠損しているM059J細胞では、DNA-PKを始め、Ku-80, PARP-1, TOPOIIb, PP1, P/CAFのリクルートが認められない。(H) SCIDマウス(DNA-PK遺伝子の自然発症的な変異を有するため、90%タンパクレベルで低下が認められる)では摂食時のUSF-1のS262のリン酸化が低下している。(I) 野生型およびSCIDマウス肝臓のChIP。USF-1は両マウスにおいて同等にFAS promoter上に結合しているが、摂食時におけるリン酸化フォームの結合がSCIDマウスではほとんど認められない。同様に、DNA-PK, Ku-80, TOPOIIb, PP1のリクルートも認められない。定量的PCRの結果を下に示す。(J) SCIDマウスでは摂食に伴うUSF-1のK237のアセチル化が障害されている。(K) ChIP解析。摂食時のFASプロモーター上へのアセチル化USF-1のリクルートがSCIDマウスでは減少している。

 

図6 脂肪酸合成酵素の誘導の減弱に伴うde novo脂肪合成の低下と肝臓および血清トリグリセライドレベルの減少

(A) 絶食および摂食時の肝臓におけるFAS mRNAレベルのRT-PCRによる解析。 (B) 定量的PCR解析。SCIDマウスでは摂食に伴うFASの誘導が減弱している。(C) run-on assayによるFAS転写速度の解析。野生型マウスでは摂食後6時間でFAS転写物が10倍に増加するが、SCIDマウスでは6倍程度で40%の低下が認められる。(D) DNA切断および関連タンパクのChIP-PCR。野生型マウスでは、摂食後3時間においてDNA切断が認められるが、SCIDマウスではDNAの切断およびDNA-PKやTOPOIIbのリクルートが認められない。(E) 野生型およびSCIDマウス肝臓における脂肪de novo合成。24時間摂食後のde novo合成はSCIDマウスでは野生型と比較して60%低下していた。(F) 24時間摂食後の肝臓におけるFASタンパクのイムノブロット。SCIDマウスの肝臓のFASタンパクの発現量は野生型と比較して有意に低下していた。(G) 24時間摂食後の肝臓中のトリグリセライドおよび血清トリグリセライドレベルの比較。SCIDマウスでは肝臓中のトリグリセライドレベルが30%低下、血清トリグリセライドの有意な低下が認められた。(H) モデル。

(田中)