2009年5月13日
ヒストンH2AXは低酸素による血管新生に必須である.
Histone H2AX is integral to hypoxia-driven neovascularization
Matina Economopoulou, Harald F Langer, Arkady Celeste, Valeria V Orlova, Eun Young Choi1,Mingchao Ma, Athanassios Vassilopoulos, Elsa Callen, Chuxia Deng, Craig H Bassing, Manfred Boehm,Andre Nussenzweig & Triantafyllos Chavakis
タイトル:ヒストンH2AXは低酸素による血管新生に必須である.
H2AヒストンファミリーメンバーXとそのC末端側(γ-H2AX)のリン酸化はDNA損傷時のDNA修復に関わることが知られている。低酸素はDNA損傷を誘導する生理的なストレスである一方,血管新生を引き起こすことが知られている.すなわち,低酸素により産生した血管増殖因子が内皮細胞の増殖を誘導する。
以上のように, H2AXと低酸素時の内皮機能には関わりがあることが推測される.
本論文では低酸素時の内皮細胞におけるH2AXの機能解析を行っている.
結果:
- 内皮細胞で低酸素状態はγ-H2AXを誘導した。
- H2AXの欠損により低酸素状態での内皮細胞の増殖が抑制された。
- H2AX-/-マウスにおいて発生段階での血管新生には変化がみられない.一方,増殖性網膜症,後肢の虚血,腫瘍血管新生時の低酸素が誘導する血管新生は低下した。
- 内皮細胞特異的H2afx欠損では,低酸素による網膜における血管新生,腫瘍血管新生が低下した。
結論:
H2AXは低酸素時の内皮細胞の増殖に必要であり,低酸素による血管新生に重要である。
Figure 1
(a) γ-H2AXの免疫細胞染色(緑色:γ-H2AX,青色:DAPI).
→normoxiaでは染色が見られないが,hypoxiaでは1時間,6時間ともに見られた.
(DNA損傷を引き起こす放射線照射やhydroxyureの添加と同様の染色像が見られた)
(b) siRNAを用いたATR,ATMのノックダウンの検討(ウエスタンブロッティング).
(c) ATR,ATMノックダウン時のγ-H2AXの発現検討(ウエスタンブロッティング).
→ATRノックダウンによりhypoxiaによるγ-H2AXの産生が抑制された.ATMノックダウンは影響しない.
(d) siRNAを用いた-H2AXのノックダウンの検討(ウエスタンブロッティング).
(e) H2AXのノックダウン時にnormoxia,hypoxia状態にし,FGF-2,FCSを加えた場合の内皮細胞(HUVEC)の増殖の検討.
→hypoxiaにするとFGF-2,FCS刺激による増殖が減少した.
(f)H2afxノックアウトマウスの肺における内皮細胞を用いたnormoxia,hypoxia状態での細胞増殖.
→ノックアウトマウスではhypoxia状態でのFCS刺激による内皮細胞の増殖がみられない.
(g) 未成熟網膜症(ROP)での γ-H2AXの免疫組織染色(赤色:lectin=内皮細胞,緑色:γ-H2AX,青色:DAPI).
→未成熟網膜症(ROP)の病変部でγ-H2AXが誘導されていた.
Figure 2 野生型マウスとH2AfXノックアウトマウスの比較.
(a) ROP時の網膜における新生血管の定量.
(b) 網膜のPAS,ヘマトキシリン染色.
→ノックアウトマウスではROP時に網膜の新生血管が減少していた.
(c) 網膜全体のレクチン染色.
→ノックアウトマウスにおいて病的な血管新生は抑えられており,より生理的な血管網が観察された.
(d) 網膜のレクチン,BrdU染色.
(e) BrdUによる増殖の定量.
(f) TUNELアッセイによるアポトーシスの定量.
→ ノックアウトマウスでは増殖が抑えられ,アポトーシスが増加していた.
(g) 内皮特異的H2afxノックアウトマウスを用いた網膜の新生血管の定量.
→内皮特異的H2afxノックアウトマウスでも同様に,新生血管の減少が見られた.
Figure 3 後肢を虚血状態にした場合のH2AX欠損による影響.
(a) ドップラー流速計による血流の定量.
→ノックアウトマウスの方が虚血状態からの血流の戻りが弱い.
(b) 虚血させた筋肉におけるCD31+(内皮細胞),BrdU+細胞の定量.
(c) 虚血させた筋肉における免疫組織染色(緑色:CD31,赤色:BrdU,青色:DAPI)
→ノックアウトマウスで内皮細胞の増殖が抑えられていた.
Figure 4 H2AX欠損による腫瘍血管新生への影響.
(a) CD31による血管の定量.
(b) CD31による免疫組織染色
→腫瘍における血管密度がノックアウトマウスで減弱していた.
(c) BrdUによる内皮細胞増殖の定量.
(d) caspase-3によるアポトーシスの定量.
→腫瘍における内皮細胞の増殖は抑えられ,アポトーシスが亢進していた.
(e) NG-2によるペリサイトの定量
→ペリサイトの数に影響していない.
(f) 腫瘍サイズの経時変化.
(g) 25日における腫瘍の重さ比較.
→ノックアウトマウスにおいて腫瘍サイズの減少が見られた.
(末弘)