2009年5月13日

γH2AX and cancer

Nat Rev Cancer. 2008 Dec; 8(12):957-67.

γH2AX and cancer

William M. Bonner, Christophe E. Redon, Jennifer S. Dickey, Asako J. Nakamura, Olga A. Sedelnikova, Stéphanie Solier and Yves Pommier

H2AX

  • H2A : H2AX, H2AZ, H2A.Bbd, macroH2Aの4種類のバリアントが存在
  • H2AXは、主要なヒストンH2Aに非常によく似ているが、C末端尾部が十数アミノ酸長く、DNA損傷に応答してリン酸化されるg-セリン残基を含んだ特異的なSQモチーフ(SQRY)を持つ。
  • 通常の細胞では約10%程度含まれる。H2Aは、約80%程度。HeLaやLymphocyteでは2%程度、SF268(human Glioma)では、20%程度と細胞によって異なる。
  • Yeast(出芽酵母)のH2A(H2A1,H2A2)は、mammalianのH2AXに相当。
  • 多くのreplication-dependentヒストンは、polyAを持たないStem loop型のmRNAでイントロンを持たない単一エクソン型であるが、H2AXは、単一エクソン型のStem loop型でありながらpolyA配列を持つ。

H2AX and cancer

  • ヒトの癌(特にAMLやALL)で高頻度に変異や欠失が見られる領域である11q23にコード。頭頚部癌、乳癌などでも欠失やコピー数異常の報告あり。乳癌の場合は約37%でコピー数異常。
  • Imatinib mesylate(Gleevec)によるGIST細胞株のアポトーシス際にはH2AXの発現上昇がみられる。
  • H2afx-/-及び+/-マウスは、正常に生まれるが、特に癌を作らない。ただし、p53 nullのbackgroundでは癌を作る。
  • H2afx-/-マウスのオスは、精子形成不全のため不妊。イムノグロブリンクラススイッチの異常により免疫不全。成長遅延。

DSB (Double Strand Break) Formation

DSB形成には種々の要因によって引き起こされる。

  • IRやbreomycinなどは、DNAと直接相互作用しDSBを形成するもの。
  • ROS(Reactive Oxygen Species)。細胞の酸化的リン酸化やcytochrome P450の代謝、炎症反応、金属イオンなどによって惹起されるROSによる障害。1細胞あたり1日平均5000ヶ所程度のSingle strand breakが引き起こされていると考えられており、そのうちの約1%程度がDSBに移行。
  • DNAの複製とカップルしたDSBの産生。多くの抗癌剤がこれに含まれる。dNTP poolに干渉することで作用する抗癌剤としてgemcitabine, melphalan, cisplatin及びhydroxyureaなどがある。また、Topoisomeraseに干渉することで作用するものとしてcamptothecin、indolocarbazole、etoposide、mitoxantrone、doxorubicinなどがある。camptothecin、indolocarbazoleは、TOPⅠに作用し、etoposide、mitoxantrone、doxorubicinは、TOPⅡに作用する。
  • DNA修復(ヌクレオチド除去修復)不全。ヌクレオチド除去修復欠損によって塩基が取り除かれた修復中間体等が生じ、その結果、DSBが引き起こされる。ヌクレオチド除去修復欠損による疾患として色素性乾皮症がある。また、ミスマッチ修復遺伝子であるMYHは、大腸線種症の原因遺伝子としていられており、その不活化は、ゲノム不安定化を引き起こし、大腸癌のリスクを上げる。
  • テロメアの短小化。テロメアの短小化は、セネッセンスと呼ばれる不可逆的な細胞周期停止を引き起こす。その際、テロメアは、それまで末端部位を保護していたタンパクが消失し、保護されない2本鎖末端ができる。その結果、DSBと認識され、gH2AX Focusが誘導される。
  • その他として、イムノグロブリンクラススイッチや減数分裂、アポトーシス、レトロウイルスのインテグレーション際にもDSBが形成される。

Measuring γH2AX

多くの抗癌剤処理は、DSBを誘導する。 gH2AXは、DSBと密接な相関関係があるため、その測定は、診断や治療効率の指標となる可能性がある。測定には、現在、ヒトH2AXのC末のリン酸化ペプチド : CKATQAS(PO4)QEYを抗原としたgH2AX抗体による。gH2AX Fociの計測法としては、顕微鏡もしくはfluorescence-activated cell sorting (FACS)が考えられる。また、DNA障害時にgH2AX Fociと共局在する因子と同時に検討することで抗癌剤の作用点をより詳細に明らかにすることが可能となる。ただし、S期においてgH2AXのシグナルはより強く出るためS期の細胞は、その他の細胞と区別する必要がある。免疫蛍光顕微鏡ではgH2AXのシグナルがfocusなのかそうでないのかを区別可能だがイムノブロットでは区別できない。ただし、イムノブロットでは、総H2AXに対する相対的なgH2AXを測定できるため異なる細胞間を比較するときに有用(FACSも同様)。

γH2AX in clinical research and therapy

Diagnostic uses
癌遺伝子の活性化は、単独もしくはhypoxiaや炎症のようなストレスとともに前癌細胞でのDSBの形成を誘導する。gH2AXのレベルはゲノムの不安定性を反映するため前癌病変検出に役立つ可能性がある。metastatic renal cell carcinomaとadenocrtical carcinomaの診断、潰瘍性大腸炎のモニタリング、毛細血管拡張性運動失調症(AT)などのゲノム不安定性症候群の診断など。

Pharmacodynamic uses
Leukocyte及びSkin punch biopsyに対する電離放射線照射実験によりgH2AXのレベルは、電離放射線照線量と強く相関する。正常細胞とtumor biopsyへの放射線や放射線類似物質の作用をgH2AXのレベルで検討することでより効果的な容量を評価できる可能性がある。

Drug development and phase 0 protocols.
DSBは、genotoxic stressの現れであることから、gH2AXの測定はLymphocyte、skin及びtumour biopsyを用いた新規抗癌剤の作用を評価できる可能性がある。

Conclusion

gH2AXを用いたDSBのモニタリングは、治療の進展や癌の進行の判定を可能とすることを示唆している。この手法は、低侵襲性に得られる検体を用いた薬剤の効果をモニタリングできる有用な迅速で安価なツールである。より迅速なアッセイへ向けたELISAやDNA障害のレベルをリアルタイムでのモニタリングの自動化と開発する必要がある。

 

Fig1.

a)Human peripheral blood mononuclear cellsに1GyのIRを照射後30分でのgH2AXとDNAの染色像。核内にドット状のgH2AX Fociがみられる。

b)Campthotecin処理したColon Cancer Cell

c)Etoposide処理したLeukemia Cell

d)normal human colonの凍結切片

e)colon adenocarcinomaの凍結切片

f)mouse fibroblast cellに1GyのIRを照射後30分でのgH2AXとp53BP1の染色像。

g)agingにより短縮化したテロメアにおけるgH2AXとテロメアの染色像。

h)インドキョン細胞に0.6Gyを照射後90分でのmetaphaseの切断されたchromosome。White Arrow : 切断されたmetaphase chromosome末端, Black Arrow : 正常metaphase chromosome

i)left panel : human fibroblastに1 Gyを照射後30分でのmetaphaseの切断された一部のchromosome(最も長いもの。Chr1もしくは2と予想される)。約245Mbのchromosome。middle, gH2AX Fociの大きさは、約40Mbと約16Mb。right panel : 同時期、同スケールでの異なるその他2つのchromosome。middleは、約169MbでgH2AX Fociの大きさは、約20Mb、rightは、約149MbでgH2AX Fociの大きさは、約45Mbと約22Mb。chromosomeの長さは全てwhite dot barの部分で計測。

j)Colon cancer cellにTRAIL(TNF-related apoptosis-inducing ligand)を処理後のgH2AXの染色像。left : 照射後1時間、辺縁型染色像。middle : 核全体に染色。right : 処理後3時間、apoptoticな核全体に染色。

k)一過的にUV-Cを照射したnormal human fibroblast。核全体にgH2AXが染色。

Fig2.

a)種々のDSB(double strand break)発生源。

IRやTposiomerase阻害剤や白金製剤などの抗がん剤、活性酸素、DNA障害応答タンパクの変異、テロメアの短小化、イムノグロブリンクラススイッチ、減数分裂、ウイルス感染、アポトーシスなど。

b) gH2AX fociの構成因子とその形成機構

H2AXのリン酸化酵素としてPI3kinase familyのATR, ATM, DNA-PKの3種類が存在し、redundantに働いていると考えられている。ただし、上流の刺激で主に使われる酵素が異なり、DSBは、ATMにより、SSBの際は、ATR、高浸透圧刺激やアポトーシスの際に生じるDNA断片化等ではDNA-PKが引き起こすと言われている。DSBが生じるとATMによりSer139がリン酸化されH2AXは、gH2AXとなる。その結果、NBS1-MRE1-RAD50のtri-complexがMRE1のBRCT-FHAドメインを介して結合し、さらなるATMの活性化とDSB部位へのリクルートによるH2AXのリン酸化を誘導し、gH2AX はspreadingしていく。

c)下流経路

gH2AX fociの形成後の下流経路には、修復因子の集積に伴うDSB修復とそれに伴うチェックポイント制御、そしてDSBのランドマークとしてのpost-translationalな修飾の除去があげられる。具体的には、gH2AX foci の形成にもかかわるMDC1 complexによる修復タンパクのDSBへの集積および、ATM/ATRによるチェックポイントキナーゼの活性化が引き起こされる。まずMDC1 complexによりDSB部位へのRNF8-Ubc13及びBRCA1複合体がリクルートされ、H2AおよびH2AX-K119のpoly-Ub化が誘導される。このpoly-Ubをランドマークとして種々のUb結合モチーフを持った修復因子の集積が起こる。また、Ubc13は、ヒストンアセチル化酵素であるTip60によるH2A(X)-K5のアセチル化を誘導する。これら、Ub化とアセチル化を受けたH2A(X)は、nucleosomeを緩め、H2A(X)のリリースを誘導する。また、このnucleosomeの緩和は、ヒストンH3/H4のさらなる修飾(H4-K20me)を誘導し、p53BP1などの修復因子が動員される。DSB修復の完了は、gH2AXの消失により起こる。H2AXがnucleosomeからのリリースすることでDSB修復が完了するが、その為にはUb化とアセチル化に加えPP2AやPP4CによるSer139の脱リン酸化が必要である。

Fig3.

c)mammalianでは平均的に5 nucleosome毎にH2AXを持った30nm fiberを形成。Yeastでは全nucleosomeがH2AX。Yeastの場合、配列的にmammalianのH2AXと同一。gH2AX foci内の約10%がリン酸化。d)Mre11及びRad51の位置は、DSB部位に一致。H2AXの機能的Yeast analogであるH2Aのリン酸化シグナルは、DSB部位周辺30k程度にわたって見られる。