2009年5月13日

ヒストンH2A

WSTF regulates the H2A.X DNA damage response via a novel tyrosine kinase activity.
Xiao, A., Li, H., Shechter, D., Ahn, S.H., Fabrizio, L.A., Erdjument-Bromage, H.,
Ishibe-Murakami, S., Wang, B., Tempst, P., Hofmann, K., Patel, D.J., Elledge, S.J. and Allis, C.D.
Nature 457, 57-62 (2009)


・ヒストンH2A にはゲノム上に複数のバリアントがあり、その一つであるH2A.X はH2A
の1 ~ 10%とマイナーなバリアントであるが、哺乳類においてはDNA 二重鎖損傷に応答
して、Ser139 がATM やATR によってリン酸化される(γ-H2A.X と表記)。
・しかしγ-H2A.X のリン酸化制御やDNA 修復中のクロマチンリモデリングにおける正
確な役割は不明である。
・著者らはWICH 複合体を構成するWSTF による新たな制御メカニズムを報告している。
・著者らはWSTF がチロシンキナーゼ活性を持つことを新たに示した。
・またWSTF はH2A.X のTyr142 をリン酸化するとともに、このキナーゼ活性が(基質は
H2A.X 以外の未知のものであるが)DNA 損傷時の反応として必須な制御機構に重要な役
割を果たしていることを示した。
図の説明
図1
a:H2A.X の142 チロシンが保存されている(ヒト、マウス、線虫、ツメガエル)
b:放射線照射後、正常状態でリン酸化されているTyr142 のリン酸化レベルは、時間と
ともに減弱し、8 時間で最も減弱する(MEF)。(アフリカツメガエルでも同様のデータを
SupFig1 で示す)
図2
a:H2A.X を含んだヌクレオソーム精製方法
b:WT の放射線照射(-)でH2A.X と結合しているペプチドは171kDa のWSTF と145kDa
のSNF2H である。この結合はIR(放射線照射)で消失。そのほかにはβアクチンが結合
している。(IP 中に含まれるヒストンに変化はない。)
c:H2A.X とWICH 複合体の結合を免疫沈降で確認。IR(-)でH2A.X はWSTF とSNF2H
と結合しており、この結合はIR(+)で消失。Tyr142Phe 変異体のH2A.X ではWICH 複合体
との結合は認めず(Tyr142 のリン酸化なしでは、Ser139 のリン酸化も低下することが示
唆される)。
d:WSTF をノックダウンすると、H2A.X のTyr142 のリン酸化も低下する
図3
a:WSTF の各種construct
b-f は昆虫細胞で作成したWSTF、g は大腸菌で作成(大腸菌にはチロシンキナーゼが少
ないので大腸菌を使用)
b:WSTF によるヌクレオソーム中のH2A.X のリン酸化確認。H2A.X のPhe142mutant は
- 2 -
リン酸化されない。
c:昆虫細胞で作成したWSTF によるH2A.X Tyr142 リン酸化の特異抗体での確認
d:WSTF のN 端がH2A.X のTyr142 リン酸化活性を持つ。C 端WSTF には活性がない
e:1-340 でキナーゼ活性が1/50 まで消失。
f:WSTF のCys338Ala mutant はキナーゼ活性を持たない
g:N 端(含むWAC domain)とC 端の共存下でキナーゼ活性が最大になる。
図4
a:WSTF k/d により、放射線照射後のH2A.X のSer139 リン酸化が維持出来なくなる。
b:H2A.X のSer139 リン酸化foci の変化。正常ではfoci の増大が認められるが、k/d では
foci が維持されない。
c:IR 8 時間後のMDC1 のfoci 形成がWSTF k/d 細胞では認められない
d:c と同条件でのATM の集積も認められない
e,f:c-d で示されたWSTF k/d で生ずる、IR 8 時間後のH2A.X のSer139 リン酸化、ATM
foci 形成異常が、WSTF キナーゼ活性で回復するかを示した。キナーゼ活性を持つWSTF
でのみH2A.X のSer139 のリン酸化やリン酸化ATM のfoci 形成回復が認められた。
まとめ
(1)H2A.X のTyr142 がリン酸化されることを示した。DNA 損傷に対する反応で重要な役
割を果たす
(2)WSTF は、WAC ドメインを持つN モチーフと保存性の低いC モチーフを持ち、H2A.X
Tyr142 のキナーゼである。H2A.X 以外の基質を持つ可能性がある。
(3)WSTF のキナーゼ活性とH2A.X のTyr142 のリン酸化は複数の意味を持つ。(a)定常状
態におけるTyr142 のリン酸化は、DNA 損傷後に生じるSer139 のリン酸化に必要であり、
DNA 損傷に引き続くTyr142 の脱リン酸化は、Mdc1 やATM の動員に必要であるととも
に、Ser139 のリン酸化に必要である、(b)WSTF は未知の機序により、Mdc1 やATM のfoci
への動員を通じてγ-H2A.X foci の維持を制御している、(c)Tyr142 のリン酸化が起こらな
いと、通常のH2A.X のSer139 リン酸化(通常DNA 損傷後16 時間以上維持される)・脱
リン酸化のサイクルが短くなり、foci の形成から消失までが短くなるのかも知れない。

(穴井)