2009年4月 2日

ES細胞からの三胚葉への分化誘導

ES細胞は初期胚に由来する多能性幹細胞であり、このES細胞を用いたin vitroでの分化誘導は、細胞系譜の決定などの機構について解析するのに適した系である。これまでES細胞から各胚葉への分化誘導する技術が多数報告されているが、一つの系で三胚葉(内胚葉・中胚葉・外胚葉)への分化を同時に観察できる分化誘導系の報告はこれまでなかった。

今回、熊本大学発生医学研究センターの粂昭苑教授、白木伸明博士らとの共同研究によりES細胞から三胚葉を効率よく分化誘導できる方法を報告した。これまで、粂昭苑教授たちのグループは、中胚葉由来の培養細胞株M15細胞を用いて ES細胞から内胚葉組織である膵β細胞及び肝細胞を効率的に分化誘導する系を報告していた。ここで得た知見をもとに、M15細胞と液性因子の添加を組み合わせることで内胚葉のみならず中胚葉・外胚葉を効率的に分化誘導することに成功した。アクチビン及びbFGFの添加により中内胚葉及び内胚葉を、Bmp7により中胚葉を、p38Mapkの阻害剤であるSB203580により神経外胚葉を分化誘導することができた。分化誘導した各細胞についてマイクロアレイ解析を行ったところ各種マーカー遺伝子の発現を確認できた。さらに、長期培養を行った結果、神経系ではニューロンのみならずアストロサイトやオリゴデンドロサイトへの分化、中胚葉系では骨や脂肪細胞への分化が確認された。

以上のことから、M15細胞を用いて分化誘導した細胞は、成熟した神経及び中胚葉への分化能を保持していることが明らかとなった。本研究により開発された分化誘導系やそこから得られる三胚葉を用いることにより発生初期現象のさらなる解明が期待される。

Nobuaki Shiraki, Yuichiro Higuchi, Seiko Harada, Kahoko Umeda, Takayuki Isagawa, Hiroyuki Aburatani, Kazuhiko Kume, and Shoen Kume
Differentiation and characterization of embryonic stem cells into three germ layers.
Biochem Biophys Res Commun. 2009 Apr 17;381(4):694-9. Epub 2009 Feb 27.

PubMed