2009年4月22日

Ezh2 Orchestrates Gene Expression for the Stepwise Differentiation of Tissue-Specific Stem Cells

Ezh2 Orchestrates Gene Expression for the Stepwise Differentiation of Tissue-Specific Stem Cells

Elena Ezhkova1, et al.

1Howard Hughes Medical Institute, Laboratory of Mammalian Cell Biology and Development, The Rockefeller University, New York, NY 10065, USA

【要旨】ポリコームはES細胞において分化のキーレギュレーターである。一方で各組織に存在する多分化能を有する前駆細胞においての働きはよく知られていない。今回の研究ではマウスの皮膚を用いてポリコームのコンポーネントであるEzh2が皮膚前駆細胞において果たす役割を解析した。Ezh2は胎生期のマウスの皮膚前駆細胞に多く発現し、より分化が進むにつれて、あるいは生後増殖がゆるやかになるにつれて減少していた。さらに詳しく見ると、Ezh2は細胞増殖においてはInk4A-Ink4B locusのヒストン修飾を変化させて細胞増殖を調節し、また分化においては分化に必要な遺伝子のヒストン修飾を変化させて転写因子AP-1の結合を調節することで遺伝子発現を調節していた。このことからポリコームはES細胞だけでなく組織特異的な幹細胞においても幹細胞の自己複製能の維持と空間的・時間的な分化の調節に重要な働きをしていることが示唆された。

 

Figure.1 A. Basal layerではSuprabasal layerと比べてポリコームの発現が亢進している。B-F. 蛍光顕微鏡で見るとEzh2はBasal layerに多く発現しており、加齢とともにその発現割合や細胞増殖は減少している。G. Caで分化誘導するとポリコームの発現は低下した。H. 分化誘導によってEzh2タンパク発現も低下していた。I-J. Ezh2は核内に局在している。

Figure.2 胎児のBasal progenitor cellを用いてChIP-PCRを行って組織特異的に発現する遺伝子locusのH3K27me3をみた。分化早期に見られる遺伝子にはK27me3の濃縮は見られなかったが、分化後期に見られる遺伝子や他の組織特異的に発現する遺伝子にはK27me3の濃縮を認めた。

Figure.3 A-C. Basal cellでEzh2をノックアウトするとEzh2, K27me3の発現低下を認めた。D-F. ノックアウトされた細胞では細胞増殖の低下も認めた。G-L. 培養したところノックアウトされた細胞はより大きく平坦な形状となりまばらな増殖を示した。さらに培養を続けたところノックアウトされた細胞では増殖が停止した。アポトーシスの割合には差を認めなかったが、細胞周期ではG0-G1期の割合が増え、S期が減っていた。このためInk4A/Bの発現を見たところノックアウトされた細胞で発現亢進が見られた。

Figure.4 A-C. P0でノックアウトマウスの皮膚はより肥厚した角質と顆粒細胞マーカーの発現亢進を認めた。D-H. またE16でもノックアウトマウスでは皮膚バリアーやケラトヒアリン顆粒の早期形成を見た。

Figure.5 A. マイクロアレイではノックアウトマウスのE16 Basal cellはE16WTよりE18WTに似ており早期分化が示唆された。B. 転写因子については変化を認めなかった。C. late differentiation geneにのみ発現変化を認めた。D. EDC(epidermal differentiation complex on mouxe)クラスター E. K27me3,H3のChIPを行った。Late differentiation geneの多くにK27me3の濃縮を確認した。

Figure.6 A. WT Basal cellでLate differentiation geneのH3K4me3の濃縮を見たところ明らかな濃縮はなかった。B. EDC周辺のAP1 consensus binding site C-D. AP-1 protein(cJun, cFos, JunD)は分化とともに発現が亢進する。E. Tanshinone ⅡAでDNAとAP-1の結合を阻害するとAP-1 binding siteを持つLate differentiation geneの発現が低下する。F. cJun/JunDに対するshRNAを行ったところLate differentiation geneの発現低下を見た。G. AP-1の活性を上げるPMAでは低Ca条件下でもLate differentiation geneの発現亢進が見られた。H. Ezh2ノックアウトにshRNA(cJun,JunD)を行ってかつPMA刺激したところ発現回復はほとんど見られなかった。

Figure.7 A-B. Late differentiation geneは分化誘導で発現亢進が起こり、その際にK27me3の濃縮低下が見られる。C. cJunのChIPを行うとEzh2ノックアウトあるいは分化誘導された時にLate differentiation geneに濃縮する。D. Tanshinone ⅡA刺激するとcJunの濃縮が見られなくなった。E. 胎生期の皮膚前駆細胞ではポリコームによるK27me3はAP-1等の転写因子が分化に関連する遺伝子に結合するのを防いでいる。

(佐藤輝)