2009年4月22日

Evidence for a Bigenic Chromatin Subdomain in Regulation of the Fetal-to-Adult Hemoglobin

Evidence for a Bigenic Chromatin Subdomain in Regulation of the Fetal-to-Adult Hemoglobin Switch ,Hugues Beauchemin and Marie Trudel*Institut de Recherches Cliniques de Montréal, Molecular Genetics and Development, Faculte de Medecine de l'Universite de Montreal, Montreal, Quebec, Canada Molecular and Cellular Biology, March 2009, p. 1635-1648, Vol. 29, No. 6

#背景

 ヒトのベータグロビン遺伝子には、5'側からε、Gγ、Aγ、δ、β、の5種類があって発生の各ステージにおいて連続的に使い分けられている。

ε:primitive erythropoiesisの時にyolk sakで。

続いて

Gγ、Aγ:livefer fefinitive erythropoiesisで。

やがてこれらが抑制されて、

δ、 β:成体型。骨髄で。

に置き換わる。βグロビン遺伝子とlocus control region (LCR)の発生各段階における相互作用については、従来それぞれのパーツを含むmini construcst, mini lociとLCRの相互作用として研究されていたが、全てを説明することが難しかったので、βグロビン遺伝子全体とLCRの全てを含むyeast artificial chromosome (YAC)を作りマウスに組み込んでそれぞれの発現調節を観察した。これによって、5つの遺伝子が発生の段階でLCRと相互作用する組み合わせを明らかにしようと試みた。

 

#結果

図1.PBGDAγ-YACマウスの樹立方法

 特にAγのプロモーターの役割を明らかにするためにこれをよく似た性質を持っているporphobilinogen deaminase (PBGD)のプロモータに置換したPBGDAγ-YACを作成して、β-YACマウスと比較した。 (A)はコンストラクト模式図。(B)はYACコンストラクトにPBGD promoterが挿入されていることの確認。(C)はこのYACを組み込んだtransgenic mouseの7系統の比較。

図2.PBGDAγ-YACマウスとβ-YACマウスにおける各種ベータグロビン遺伝子の発現時系列

(A) 二つのマウスでεの発現には変わりなく、e10.5以降低下している。しかしβ-YACマウスではβがe12.5から増加しているのに対して、PBGDAγ-YACマウスではこの立ち上がりが遅れ、Gγ、Aγの発現が高いレベルで遷延している。

(B)δ/βの比率を経時的に見るとβ-YACでは成体時に急激に増加するに対して

PBGDAγ-YACマウスでは、胎生期を通じて比率が低く、成体での増加も見られない。

図3.同上蛋白レベルの時系列変化

胎生期から成体至る各種βグロビン蛋白の発現をワイルド、β-YAC 、PBGDAγ-YAC で比較し(A)、さらにその変動パターンをプロットした(B)。図2と同様にβの立ち上がりが遅れること、GγとAγのe16.5までの抑制が消失し発現が遷延していた。

図4.各種ベータグロビンの発現量と発現分布の確認

成体になったβ-YAC 、PBGDAγ-YACマウスから赤血球を回収して、α2muγ2hu (-HbF) とα2muβ2hu(-HbA)に対する抗体でFACSを行った。PBGDAγ-YACではHbF陽性細胞があって、ヒト型γグロビンの発現が確認された(A)。樹立された7系統のマウスでは、ヒト型γグロビンが85から100%で発現していた(B)。

図5.各種ベータグロビン遺伝子におけるepigenetic変化

e12.5では主に肝造血が起こっているので、二つのPBGDAγ-YACマウスと一つのβ-YACマウスの肝臓から核破砕液を調整してヒストン修飾に対する抗体(H3, H3ac, H4ac, H3K4me2)でChIP-PCR (A)とDNA methylation assay (B)を行った。H3自体の存在はPBGDAγ-YACで37%低下していたものの、H3ac, H3meの修飾の割合はγのpromoter領域でも、PBGDAγの領域でも増加していた。一方βのプロモーター領域に変化はなかった。また、Gγの遠位プロモーターでは変化なかったものの、近位プロモーターではメチル化が低下していた。

図6.各種ベータグロビン遺伝子プロモーター領域とLCRの空間的位置関係

LCRと各種プロモータ領域の3Cを行ったところ、e12.5ではεとLCRの関係はβ-YAC 、PBGDAγ-YACマウスいずれにおいても見られなかったが、PBGDAγ-YACではβ-YAC と比較してGγからPBGDAγのintergeneも含む広い領域との関係が認められた。一方、β-YACでは成体型グロビン遺伝子領域とLCRと関係していた(A)。

さらにPBGDAγ-YACの成体では、LCRと胎児型グロビン領域との関係は維持されたままであった事に加え、成体型グロビン遺伝子領域との近接関係も始まっていた(B)。

 

#結論

β-YACではδグロビンまたはその上流領域、βグロビンまたはその上流領域の一方または両方を使ってLCRに結合することでδとβグロビン遺伝子をLCRにつなぎ止めている。しかし、PBGDAγ-YACマウスではPBGDAγプロモーターが同じようにアンカーポイントとして働きLCRをGγとAγのbigenic cubdomainに動員して占拠させるので、δとβがはじき出されている。さらに成体になってもその移動が遅れる結果、胎児型のGγとAγの発現が遷延し、成体型のδとβの発現が遅れる(図7)。

(和田)