2009年4月22日

Comprehensive Characterization of Genes Required for Protein Folding in the Endoplasmic Reticulum.

Comprehensive Characterization of Genes Required for Protein Folding in the Endoplasmic Reticulum.

Martin et al., Science 2009

 

【要約】

小胞体におけるタンパク質のフォールディングの異常は、老化や疾患との関連が示唆されているが、詳細はわかっていない。変異体ライブラリーを利用することによって、彼らは、小胞体におけるタンパク質のフォールディングに関与する数百の酵母のタンパク質を同定した。

 

【小胞体ストレス】タンパク質の高次構造形成や品質管理は小胞体が担っている。例えば、分泌タンパク質や膜貫通型タンパク質は小胞体によって、フォールディングが整えられる。ここでは、BiPをはじめとする分子シャペロンやフォールディング酵素(ジスルフィド結合や糖鎖付加を触媒する)により、新生タンパク質は極めて効率よく折り畳まれている。高次構造形成に失敗したタンパク質は、小胞体関連タンパク質分解機構(endoplasmic reticulum-associated degradation: ERAD)によって、小胞体から細胞質へ送り出され、ユビキチン・プロテアソーム経路で分解を受ける。

小胞体ストレスは、小胞体がつかさどる「折り畳み」と「分解」のバランスに変化が生じる現象である。

・ 環境要因的なストレス

・ 遺伝学的変異による高次構造が不安定なタンパク質の生成による

・ タンパク質合成の異常な亢進

哺乳類動物細胞では、3つの小胞体ストレスセンサー(PERK、ATF6、IRE1)がユビキタスに発現している。出芽酵母ではIRE1のみによって小胞体ストレスを感知している。

 

【タンパク質のフォールディングが関与する疾患】

・ 糖尿病(PERKの変異→新生児糖尿病であるWolcott-Rallison症候群の原因)

・ アルツハイマー病(PS1の変異によって、小胞体ストレス応答が低下)

・ パーキンソン病(この疾患で欠失が見つかったParkinはERADにおいてミスフォールディングれたタンパク質をユビキチン化する)

・ マクロファージの細胞死(LPS刺激時に産生されるフリーのコレステロールが小胞体ストレスになる)

 

【UPR(Unfolded protein response)の活性化】

tunicamycin(糖鎖付加の阻害)、thapsigargin(TAPaseの阻害を介して小胞体内カルシウム濃度を低下させる。小胞体シャペロンはカルシウム結合性タンパク質のため、低カルシウム濃度で折り畳み介助能力が低下する)、DTTなどの還元剤(ジスルフィド結合形成を阻害)

 

この論文では、細胞が本来兼ね備えているタンパク質のフォールディングをセンシングするメカニズムを利用したアッセイを利用している。

Ire1pは分泌タンパク質のマチュレーションに重要な役割を果たす膜タンパク質である。ミスフォールディング状態のタンパク質をセンシングして、転写因子Hac1p(ヒトではATF, XBP1)を活性化する。

 

【システムの説明】

用いた酵母は、変異体をライブラリー化した約4500株。系がワークしていることをDTTによるURPで確認した。GFP/RFPの比はDTTの添加によって大きくなるのがわかる(Fig.1B)。URPの検出はHac1pに応答するレポーターシステムを用いた(Fig.1A)。

・ Hac1pで活性化されるプロモーター(4XUPRE)で制御されるGFP

・ 恒常的に活性化されているプロモータ(TEF2)の下にRFP

 

【URPの応答があった変異体】

URPによって発現亢進したものが399変異体、発現抑制したものが334変異体あった。ChaperonやERAD、traffickingに関わる因子の他に、機能不明なもの(other function, poorly characterized)でURPが多く見られた(Fig1C)。特にURP応答の大きいものは機能不明であった。これらの遺伝子は、URPで発現が変化する遺伝子群と一致していない(Cell, 2000; ref.7)。局在はERやゴルジ体のものが多かった(Fig S3)。

 

【変異体の機能解析】

340の変異体を掛け合わせて60,000以上の「ダブル変異体」の増殖などのフェノタイプを用いて、機能の推測を行った。ダブル変異体を使った解析の有用性を確認するために行った実験(Fig2A)。X軸はシングル変異体のGFP/RFP。Y軸はターゲットの変異体に加えΔhac1になっているダブル変異体。Y=Xの直線上に乗るようなダブル変異体は変異のある二つの遺伝子が同じパスウェイにあることが示唆される。

・ ΔIREのみでGFP/RFPが低くなり、ΔHACも加わっても変化しない(=IREとHAC1は同じパスウェイにのっている)

・ N結合型糖鎖を修飾する酵素群(Fig2B)のダブル変異体も同じパスウェイの遺伝子(Δdie2)の変異による影響を変化させない(Fig2C)。

・ 恒常的にフォールディングの異常を示すKWSを過剰発現させ、GFP/RFPの変化を見た。KWSはSsm4p/Doa10p(E3 ligase)やUbc7p and Cue1p(E2 ligase complex)の経路を介して分解を受ける。これらの変異体はGFP/RFPの値を大きくする。ΔHrd1やΔhrd3といった他のE3 ligase変異体は変化しない(Fig2C)

 

彼らはπスコアと呼ばれる値を算出している。この値は、ダブル変異体のGFP/RFP値が、シングル変異体のそれとどれだけ離れているかを示すものである(Fig3A)。πスコアを用いた階層的クラスタリングでは、100以上の機能既知の遺伝子が同じグループに属していた(Fig3B)。このようにダブル変異体の解析で、YOS9、DER1、USA1の機能はHRD3に依存することが明らかになった。このようにこの解析では213遺伝子の500以上の上下の関係を明らかにした。例えば、YDR161Wの機能は、新生ペプチドに結合する複合体と関連があることが示唆された。

 

この方法で、新しい機能を同定したものにYCL045C, YJR088C, YKL207W, YGL231C, KRE27, YLL014Wがある。これらは、同じクラスターを形成し(Fig4B)、免疫共沈降される(Fig4C)。彼らは、この6つの遺伝子をthe ER membrane protein complex (EMC)と名付けたが、EMC1-6は、既知の遺伝子の機能の中でもKWSやsec61-2pの強制発現で誘導されるミスフォールディングに関係する遺伝子群に近かった。Yer140wp, Slp1pといった機能未知の遺伝子もEMC1-6に関係した機能があることが示唆された。

 

Yor164c/Get4pとMdy2/Tma24/Get5pが、エキソサイトーシスに関与するSNAREタンパク質も属するTail-anchored proteinの機能(膜貫通タンパク質のC末端のトポロジーを制御)と関連があることが示唆された。このトポロジーの制御はGET1-3によるGET経路で行われているが、Yor164c/Get4pとMdy2/Tma24/Get5pもGETクラスターに所属していた。Mdy2/Tma24/Get5pの変異体は、他のGETファミリーとのダブル変異体によってGFP/RFPの値に変化はなかった。機能解析や局在解析でも、Mdy2/Tma24/Get5ptoとGet1-3の関係が明らかとなり(Fig5B-C)、Get4やMdy2/Tma24/Get5pとGet3が相互作用していることが認められた(Fig5D)。

(渡辺亮)