2009年2月17日

MLL1の結晶構造、GSK3阻害薬でのMLL阻害、新規p53標的遺伝子PHLDA3の同定(Cell)

(1)MLL1の結晶構造、(2)GSK3阻害薬でのMLL阻害、(3)堤先生らのCell掲載論文を紹介します。

(1)Structural basis for the requirement of additional factors for MLL1 SET domain activity and recognition of epigenetic marks.
Southall SM, Wong PS, Odho Z, Roe SM, Wilson JR.
Mol Cell. 2009 Jan 30;33(2):181-91. (先週の記事参照)

 

(2)Nature 455, 1205-1209 (30 October 2008) | doi:10.1038/nature07284; Received 9 April 2008; Accepted 18 July 2008; Published online 17 September 2008

MLL白血病の維持と標的治療におけるグリコーゲンシンターゼキナーゼ3の役割

Zhong Wang1, Kevin S. Smith1, Mark Murphy1, Obdulio Piloto1, Tim C. P. Somervaille1 & Michael L. Cleary1

 Department of Pathology, Stanford University School of Medicine, Stanford, California 94305, USA
Correspondence to: Michael L. Cleary1 Correspondence and requests for materials should be addressed to M.L.C. (Email: mcleary@stanford.edu).

Top of pageAbstract
グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)は多機能性のセリン/トレオニンキナーゼで、さまざまな生理学的過程にかかわる多くのシグナル伝達経路で働く。これらの経路のいくつかは疾患の病因に関連しているとされており、そのため、治療応用を目指したGSK3特異的な阻害剤を開発する取り組みが進められてきた。しかしながら、悪性腫瘍でGSK3を標的にすることの十分な根拠は、これまで得られていなかった。本論文では、 MLL がん原遺伝子の変異によって遺伝学的に定義される、予後不良のヒト白血病の特定な亜型の維持において、GSK3ががん化に必要であることを示す薬理学的、生理学的、および遺伝学的な研究を報告する。これまでGSK3は腫瘍形成に関連するシグナル伝達経路を抑制する役割が示されていたが、それとは対照的に今回の結果では、サイクリン依存性キナーゼ阻害分子であるp27 Kip1 の不安定化に最終的につながる機序により、逆にGSK3が MLL 白血病細胞の増殖や形質転換を支えていることがわかった。 MLL 白血病の前臨床マウスモデルでのGSK3の阻害により有望な効果が証明されたことから、GSK3はがん治療薬標的候補であると考えられる。

(3) 新規p53標的遺伝子PHLDA3の同定(Cell)

 ゲノムサイエンス分野の堤修一助教、上村直子研究員らは国立がんセンターの大木理恵子研究員らとの共同研究において、新規p53標的遺伝子としてがん抑制機能を有するPHLDA3遺伝子を同定し、2月6日付けでCell誌に報告した。
 大木博士らはこれまでにp53標的遺伝子の同定を報告しているが、今回の共同研究ではp53蛋白のゲノムへの結合およびヒストン修飾をChIP-chipおよびChIP-seq法により解析し、新たなp53標的遺伝子PHLDA3を同定した。多くのがんではがん遺伝子Aktの活性化を伴っているが、PHLDA3タンパク質はAktタンパク質の活性を抑制することから癌抑制遺伝子p53の新たな機能として注目される。

Tatsuya Kawase, Rieko Ohki, Tatsuhiro Shibata, Johji Inazawa, Tsutomu Ohta, Hitoshi Ichikawa, Naoko Kamimura, Shuichi Tsutsumi, Hiroyuki Aburatani, Fumio Tashiro and Yoichi Taya.
PH domain-only protein PHLDA3 is a p53-regulated repressor of Akt.
Cell, Vol. 136, 2009.