2009年2月17日

MLLの神経作用(追加解説)

MLLの勉強会 ヒトにおけるトライソラックスの重要性。MLLは1−5まである。分子量50万の巨大タンパクでH3K4メチレースと考えられるが不明の点も多い。今回の論文では、MLL1欠損でH3K4me3は変化なくH3K27が変わるとしている。神経の細胞でもLSBMのデータベースでみるとMLL5が多量にでている。リダンンダンシーの問題もある。南、和田、井原先生らのTNF解析で刺激1時間後にMLL5とJMJD3のmRNAが顕著に誘導される。複合体作用が考えられる。

Nature 論文
クロマチンリモデリング因子のMLL1は出生後の神経幹細胞からの神経形成に必須である

 脳室下帯と海馬の歯状回では生涯にわたり幹細胞が存在し、神経細胞の形成が続く
 ポリコームグループタンパクPCGのBim1は出生後の神経幹細胞の自己複製に必須であることがしられるが、トライソラックスの役割は不明である。
 MLL1欠損の脳室下帯(subventricular zone;SVZ)の神経幹細胞は、生存し、グリア細胞に分化するが、神経系の細胞への分化は高度に障害されている。
 MLl1欠損細胞ではMash1(前神経細胞)とOlig2(グリア細胞)発現は保存されているが、Dlx2発現が抑制されている。
 普通の脳室下帯の幹細胞ではMash1,Oligo2, Dlx2が高度にH3K4Me3修飾されているが、MLL1欠損細胞ではDlx2がH3K3me3とH3K27Me3で標識されている。
 これらの結果は、MLL1が出生後の神経細胞分化のダイバレント領域の神経細胞分化に必須だが、グリア細胞分化にはそうでないことを示している。

実験方法 MLL1欠損マウスは血球系の異常により胎生10−12.5で死亡する。胎生13.5日ではGFAPは海馬の歯状回、大脳の顆粒細胞、SVZの神経幹細胞に発現する。そこでGFAP-creとかけあわせた。うまれたあと成長遅延、失調がみられ、生後23−25日で死亡する。

図1 ニューロンが少ない
a.神経細胞の解剖図
b.コントロールと比べて嗅球でのニューロン数が少ない
c.神経幹細胞は存在する
d.神経細胞マーカーdoublecortin(DCX)陽性細胞のBrDU取り込みは少ない。
DCX陽性、Tuj1の神経プロジェニター細胞は存在するが、神経細胞の移動距離は40%減少している。

図2 嗅球でのニューロン減少とグリア不変
a. アストロサイトのマーカーのGFAP陽性細胞は増えている
b. SVZの上衣層(S100陽性)は正常
c. グリアマーカーのOLIG2は正常 ミエリンベーシックプロテインも正常
d. SVZ細胞の単層培養系 Tuj1陽性の細胞への分化は1/20
 
図3。出生後のSVZにおけるDlx2の発現
このためにCre組み替えがおこるとGFPを発現するZEGレポーターをもつ神経幹細胞を培養を出生後6−7日のSVZから培養した。Creアデノをかけたあと、48-72時間後に組み替えのおこっているGFP+細胞をFACSで回収する。コントロールと組み替え細胞はBrDU取り込みは同じ率でおこるので、増殖スピードは同じである。
A,b 欠損細胞ではTuj1陽性(赤)が少ない
C--F. エピゲノムの変化は多数の転写因子を変える可能性があるのでいろいろな遺伝子発現を調べてみた。Casp3は少なくアポトーシスは少ない。オリゴデンドロサイトマーカーのO4やアストロサイトマーカーのGFAPは多い。神経細胞発生の初期のMASH1は変わらないが、分化神経細胞のDlx2は減少している。
G.H doublecortin(DCX、赤)と、DLX2緑の比較を正常マウスと欠損マウスで比べるとin vivoでもDLX2が顕著の低下している。
I,J,K 欠損マウス由来のSVZ細胞にpCAG-Dlx2をトランスフェクトすると、Tuj1が発現する。Tuj1欠損はDlx2欠損のためであるのがわかる。

図4 そこでDlx2プロモーターへのMLL1の結合と、H3K4,H3K27のメチル化をみた。
A. MLL1の結合はDlx2プロモーターに多い
B. Rt-PCRでみるとDlx2の発現だけがこの細胞でおちている。
C. H3K4me3は正常とMLL1欠損で変わらないが、Dlx2ではプロモーターと1kb上流サイトでH3K27が増えている。

これらの結果は、MLL1の作用はH3k4メチル化よりも、H3k27脱メチル化に作用している可能性がある。