2009年2月10日

ヒストン脱メチル酵素JMJD(JHDM)とH4K4メチル化のMLL

文献1

Role of Jhdm2a in regulating metabolic gene expression and obesity resistance.
Tateishi K, Okada Y, Kallin EM, Zhang Y.

文献2
Structural basis for the requirement of additional factors for MLL1 SET domain activity and recognition of epigenetic marks.
Southall SM, Wong PS, Odho Z, Roe SM, Wilson JR.
Mol Cell. 2009 Jan 30;33(2):181-91

MLL1のエピゲノムマークの認識とSETドメイン活性への補足的因子の結合性の構造的基礎
Molecular cell  33, 181-191 S M Southall et al.構造生物学部門、 がん研究所 ロンドン

MLL1(リンパ性および骨髄性の混合系譜型白血病タンパク)は、早期発生と血球形成に重要な転写因子である。MLL1の生物学的機能は、C端側のSETドメインのH3K4メチレース活性が担う。MLL1のSETドメインのAdoHcy(アドホモシステイン)とヒストンH3ペプチドとの複合体の結晶構造を解明した。   H3ペプチド+ AdoMet → メチル化H3ペプチド+AdoHcy
活性型を作るには、可変性の高いSETドメインのコンポーネントが再構成される必要があると考えられた。 この可能性を確認するため、MLL複合体のRbBP5とAsh2Lという2つのタンパクは活性を促進したが、Wdrは促進しなかった。さらにH3K4の手前と後のH3T3のリン酸化と、H3K9のアセチル化が活性を制御することを発見した。

イントロダクション
エピジェネティックは制御はヒストンのリジンおよびアルギニンのメチル化で転写制御がになわれる。MLLファミリーの生物学的機能はC端側のSETドメインのもつH3K4にモノ、ジ、トリメチルを付加するメチレースによりになわれる。H3K4メチル化はプロモーターの活性化をもたらす。

グローバル解析の進歩からH3K4メチル化は単なる活性化遺伝子のマーキングだけでなく、複雑な機能を担う。早期発生、成人では血球系、細胞周期の維持にかかわる。その多くの機能はメチレース活性が重要である。

MLL1は、ホメオボックスの制御にかかわり早期発生を制御する。また、リンパ性および骨髄性白血病の発がん性の転座のおこる原因遺伝子である。これによりMLLのアミノ端側1400アミノ酸と、50種類以上のパートナー遺伝子との融合タンパクが発がん性の原因となる。MLL1の転座は、小児白血病の、治療依存的におこり、難治性である。

SETドメインはメチレースに共通のドメインであり、第一に、AdoMetのメチル供与のS−C結合部分と、ε--アミンのメチル受容グループが、メチル基転移において適切な距離と位置関係をとることが大事である。第二に、活性化サイト提供する、リジンのアミノ基とAdoMetのメチル基のSN2の求核置換メカニズムに適した化学的環境が、重要である。

活性化にあたってSETドメインの、基質とコファクター結合面とを結びつけ、ターゲットのリジンのアルキル鎖を保持する疎水性チャンネル(または穴)が構造上の鍵である。MLL1はモノ、ジ、トリの多段階メチル化をになうとされているが、SET7/9またはPR−SET7(SETD8)で保存されているモノメチル化に必須のアミノ酸が維持されている。

メチル化の特異性に加えて、標的選択の問題もある。Set7/9とMLL1はH3K4のメチル化を触媒するが、基質となるペプチドと相互作用する共通の配列はない。むしろ多数のタンパクと複合体を作り標的を決定していると思われる。Wdr5、RbBP5、Ash2L、Dpy30がMLL1と複合体を作る。この複合体は、進化上保存され、酵母のSet1複合体COMPASSはメチル化酵素複合体研究の基礎となっている。Wdr5、RbBP5、Ash2L、のいずれかがなくなるとメチレース活性はなくなる。

今回、MLL1のAdoHcyとペプチドある場合とない場合の構造をといた。MLL1は他のタンパクをAsh2LとRbBP5は活性を著しく向上させることがわかった。

図1A MLL1の構造と、今回用いたSETドメインの構造
C。漫画的な2方向の表示。 典型的なSETドメインはSET−I、SET−C、postSETからなる穴がコファクター結合面と基質結合面の間にあることである。しかしMLL1ではSET−IとpostSETが別々のところにある。
B MLL1、Dim5、Suv39h2、Set7/9、とPR−Set7の構造類似性。
重要なアミノ酸、Tyr3942,Tyr3944,Phe3946は保存されており、4アミノ酸の主な鎖であるCys3882からPhe3885も保存されている。

図2A 上記のアミノ酸の作る環境がメチル転移を助ける。
B モノ、ジ、トリメチル活性のY3858またはY3942アミノ酸変異での影響 一番左側の野生型に比べて、モノが非常に落ちやすい。Y3858の影響が大きい。

図3 B MLL1にDim−5を相互作用させるとチャンネルの4アミノ酸の移動がおこる。
C MLL1のSETI領域(緑)のDim−5との2つの相互作用
D 複合体のモデル図
E タンパクの補充によるメチルトランスフェラーゼ活性の変化
図4 A 赤が陰性荷電、青が陽性荷電 
B H3ペプチドの野生型と変異型MLL1での複合体の活性変化
図5 基質結合
A 基質ペプチドの結合、水素結合が灰色の点線で示してある。
B 基質ペプチドのT3リン酸化が抑制し、K9アセチル化が促進する。
図6 C端近傍にあるシステイン(亜鉛)ケージ
B 基質結合溝とコファクター結合ポケット

ディスカッション
複合体の必要性 ふたのあいた構造
エピゲノム環境に敏感 H3K9アセチル化との相乗作用